大本営発表 改竄・隠蔽・捏造の太平洋戦争 (幻冬舎新書)

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  • 幻冬舎
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  • Amazon.co.jp ・本 (281ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784344984257

感想・レビュー・書評

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  • 政治と報道の一体化に注意しましょう。大本営発表がフクシマ原発事故で再現?歴史は繰り返すという著者の警告。マスコミ批判もよろしいですが、マスコミに政治介入する安倍政権にも気をつけましょう。との事
    「歴史の知識をただの消費対象としてとどめるのではなく、現在の社会問題と結びつけ、あるべき社会状態の維持発展のために役立たせたい」という著者の真摯な態度と細かな調査には信用がおける。
    本書の最大の疑問は高松宮はなぜ大本営の「デタラメ・捏造」を止めなかったのだろうという点。著者には調査を継続してどこかで発表して欲しい。

    <以下、新たに気づきとなった点>
    ・TVでよく出る12月8日の決然とした放送は後から取り直したもの。実際の生放送は「お通夜」のようだった。(アナウンサー本人回想)
    ・高松宮は大本営発表を「デタラメ・捏造」と批判していた。(本人日記)
    ・国民の三重目隠し「日本軍の情報軽視による戦果の誇張」「軍部の組織的不和対立による損害の隠蔽」「軍部と報道機関の一体化による機能不全」結果、「デタラメ・捏造」となる。(著者考察)
    ・1943年の攻守逆転で「撤退」→「転進」、「全滅」→「玉砕」の言い換えが始まり、国民も大本営発表を疑い始めた(特高内部資料)
    ・1944年末には大本営の脚色に効果はなく国民の戦意は急速に低下(戦後の米調査)

  • この本は以下のようにして筆を擱いている。
    「大本営発表はメディア史の反面教師として、今なお色あせていないのである。」
    これは報道をするマスコミ側の問題だけでは無く、報道を受ける我々一般市民が注意しておかなければいけない内容である。必読。

    「大本営発表」という響きには「大上段からの大嘘」というイメージが付いて回るのだが、そのイメージは誤っていないことが分かる。ただし当初(日中戦争時、及び太平洋戦争開戦後しばらく)はまだ正確な報道であったとのこと。
    そして、なぜ「大本営発表」が捏造だらけの発表になったのか、なのだが、現在の日本国政府と同じく「情報の軽視」が大きいようだ。相手の損害状況は攻撃隊からの報告に依存するわけだが、その報告の正確度よりも「命を賭して闘ってきた兵士の報告は絶対」との感情論が先行していたため、必然的に成果が大きくなった。そして損害は小さく表現される。
    また、作戦部と情報部との間の不仲など縦割りの影響を受けるため、大本営発表の内容は妥協的な内容に落ち着くことになることが多かった。
    さらには、ラジオというメディアを利用するために、発表に修飾語がたくさん付くようになったことも、状況悪化を誤魔化す要因となった。
    「大本営発表」が官僚の作文になっていき、撤退が「転進」、全滅が「玉砕」と美化されていく。本土空襲では、焼け野原になっても「相当の被害」が最大限の表現であり、「被害に関しては目下尚調査中」としたまま結果が公表されないことも増えた。
    終戦直前、すでにポツダム宣言の受諾が決定された後の1945年8月12日、陸軍の戦争継続派がニセの大本営発表で徹底抗戦を訴えようとした。のだが、記者たちが「いつもの大本営発表と違う」ことに気付いて、政府筋に確認した。捏造であると判明したため、この大本営発表は全国には発表されずに済んだ。
    この最後だけは報道機関のチェックが働いたわけだが、通常は発表がそのまま報道される、つまり軍部と報道とが一体となっていたため、軍部は思い通りに報道させることが出来ていた。
    翻って現代の政府発表と報道機関との関係はどうか。情報が制限されていた福島第一原発に関する報道、放送法の公正中立規定を努力義務から法規として解釈し停波がありうると発言した総務大臣、安倍政権の言うことに反することは出来ないという現NHK会長(ただし来年1月には退任決定)。
    政府と報道が癒着して、健全な報道が出来るわけがない。報道そのままを鵜呑みにするのでは無く、その背景を考えつつ報道を聞く必要がある、そのことに改めて気付かされる本であった。

  • マスコミと権力の愈着。現代の写し絵を見ている感じ。

  • 読書会課題本。先月、今月と戦争シリーズだ。
    課題本じゃなければきっと読むことなかったと思うけど、読んで良かった。
    ほとんどが大本営発表を辿った戦争の回顧録の感じがするので太平洋戦争の一連の流れを学びながら読むにも良かった。
    政治側と民衆?、両方の視点が途中から入って来ていてわかりやすかった。
    そして、最後に現在の状況と比較して考えさせる終わり方。
    全てのことを鵜呑みにしてはいけなくて、自分で事実確認をすることができれば一番いい。
    ただ自分の身体は一つだし、時間にも限りがある。
    そして全てがウソなわけでもない。
    明日の読書会が楽しみ。
    私はその中で、信頼できる情報を見つけて行く能力を高めることが必要なんだと考えた。

  • 著者の言いたいことは”はじめに”と”おわりに”に
    凝縮されていると思う。

  • ○大本営発表を4期に分けて意味付けをして、それぞれの期においてどういう役割を果たしたのかが分かる。

    ○報道内容は独立した担当者の判断によるものではなく、現場(現地で戦闘をしている部隊等)、統帥系の高級将校、陸海軍の対立等によって事実上は制限を受けていた。

    ○広義の大本営発表、狭義の大本営発表、軍部の下請けと化したマスコミの報道と捉えて、一部の軍人が恣意的に大本営発表という構造を作り出したのではなく、軍部とマスコミの一体化があったこと。

  • 【版元】
     信用できない情報の代名詞とされる「大本営発表」。その由来は、日本軍の最高司令部「大本営」にある。その公式発表によれば、日本軍は、太平洋戦争で連合軍の戦艦を四十三隻、空母を八十四隻沈めた。だが実際は、戦艦四隻、空母十一隻にすぎなかった。誤魔化しは、数字だけに留まらない。守備隊の撤退は、「転進」と言い換えられ、全滅は、「玉砕」と美化された。戦局の悪化とともに軍官僚の作文と化した大本営発表は、組織間の不和と政治と報道の一体化にその破綻の原因があった。今なお続く日本の病理。悲劇の歴史を繙く。

    書籍分類: 新書
    価格: 860円(税別)
    ISBN: 9784344984257
    判型: 新書Cコード: 0295
    発売日: 2016/07/29
    http://www.gentosha.co.jp/book/b10169.html


    【目次】
    はじめに

    第一章 日中戦争と大本営発表の誕生(一九三七年十一月~一九四一年十二月) 
    忘れられた太平洋戦争以前の大本営発表
    大本営報道部は陸海軍でバラバラ
    世論対策に熱心な陸軍と冷淡な海軍
    地味だった最初の大本営発表
    大本営発表は作戦報道の最高権威
    国民に届くまでの三つの関門
    悩ましい南京攻略戦の報道合戦
    新聞暴走の背景に熾烈な競争
    広東・武漢作戦で試行錯誤
    三年間鳴りを潜めた大本営発表
    情報局の発足と忖度する報道機関
    記者を軍属として徴用する報道班員制度
    平出英夫の着任と海軍報道部の躍進
    宣伝報道の専門家が集まる陸軍報道部
    馬淵逸雄の更迭と陸軍報道部の凋落
    準備万全で迎えた十二月八日の開戦

    第二章 緒戦の快勝と海軍報道部の全盛(一九四一年十二月~一九四二年四月) 
    大本営発表は「読む」から「聴く」へ
    大本営報道部と癒着する記者クラブ
    驚異的な戦果をあげた真珠湾攻撃
    正確な報道をめざして戦果を修正
    マレー沖海戦と物語調の発表文
    焦る陸軍報道部は修飾語を乱用
    「大本営発表」ブランドの確立
    落下傘作戦で露見した陸海軍の対抗意識
    シンガポール攻略と相変わらず冴えない陸軍報道部
    谷萩那華雄の着任と陸軍報道部の盛り返し
    特殊潜航艇の戦果をめぐる駆け引き
    「特別攻撃隊」は虚偽と隠蔽により生み出された
    本土空襲の衝撃と架空の撃墜
    「信頼性の高い大本営発表」と「信頼性のない敵国の発表」

    第三章 「でたらめ」「ねつぞう」への転落(一九四二年五月~一九四三年一月) 
    高松宮の大本営発表批判
    水増しされた珊瑚海海戦の戦果
    戦果誇張の原因は情報の軽視
    ミッドウェー海戦でまさかの敗北
    「自然の成り行き」で損害隠蔽に
    大敗に意気消沈する平出英夫
    減少する大本営発表と軍神加藤建夫の創出
    ガダルカナル島をめぐる攻防戦
    第一次ソロモン海戦と高松宮の批判
    存在を抹消されたサボ島沖海戦
    辻褄が合わなくなった南太平洋海戦
    戦艦の喪失を誤魔化した第三次ソロモン海戦
    白々しい陸海軍報道部対談会
    国民は三重に目隠しされた

    第四章 「転進」「玉砕」で敗退を糊塗(一九四三年二月~一九四三年十二月)  
    「転進」と「玉砕」が生まれた理由
    ガダルカナル島からの「転進」
    大本営発表を疑いはじめた国民
    「宴会疲れ」の海軍報道部に山本五十六長官戦死の衝撃
    全滅を誤魔化したアッツ島の「玉砕」
    戦艦「陸奥」の爆沈とその隠蔽
    平出英夫、体調不良で海軍報道部を去る
    中南部太平洋の航空戦で架空の戦果を積み上げる
    陸海軍の対抗意識で発表されたタラワ・マキンの「玉砕」
    開戦二周年の総合戦果
    戦局の悪化で性格を変えた大本営発表

    第五章 片言隻句で言い争う陸海軍(一九四四年一月~一九四四年十月) 
    トラック空襲の損害は「甚大」から「若干」に
    竹槍事件と陸海軍の駒と化した新聞
    クェゼリン、ルオット島守備隊の全員戦死
    古賀峯一殉職と国民の疑念
    尻すぼみに終わったインパール作戦
    一号作戦で再び脚光を浴びた中国戦線
    すぐに発表された本土空襲のはじまり
    サイパン島「二回撃退」をめぐって陸海軍が対立
    マリアナ沖海戦の発表でまた陸海軍が衝突
    サイパン陥落と「官僚の作文」
    世紀の大誤報、台湾沖航空戦
    台湾沖航空戦のデタラメ発表の背景
    台湾沖航空戦の勅語発表をめぐってまた陸海軍衝突
    神風特別攻撃隊の出撃
    無視された「決戦輿論指導方策要綱」

    第六章 埋め尽くす「特攻」「敵機来襲」(一九四四年十一月~一九四五年八月) 
    最後に急増した大本営発表
    特攻に隠されたフィリピンの地上戦
    海軍に対抗した陸軍報道部の特攻発表
    あらゆる表現を駆使した本土空襲の報道
    曖昧模糊とした沖縄戦の最後
    遅すぎた大本営報道部の統合
    対応が分かれた原爆投下の発表
    戦争継続に利用されそうになった大本営発表
    八月十五日の大本営報道部
    大本営報道部員たちの戦後

    第七章 政治と報道の一体化がもたらした悲劇 
    大本営発表は戦争中盤に破綻していた
    数字で振り返る大本営発表のデタラメぶり
    大本営発表の破綻の内的原因
      1 組織間の不和対立
      2 情報の軽視
    大本営発表の破綻の外的原因
      3 戦局の悪化
      4 軍部と報道機関の一体化
    大本営発表とは一体なんだったのか
    福島第一原発事故と報道機関の独立性
    安倍政権と報道に介入する政治権力
    いまこそ大本営発表の歴史を学ぶ好機

    おわりに
    参考文献

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著者プロフィール

辻田真佐憲(つじた・まさのり)
1984年大阪府生まれ。文筆家、近現代史研究者。慶應義塾大学文学部卒業。同大学大学院文学研究科中退。
2011年より執筆活動を開始し、現在、政治・戦争と文化芸術の関わりを研究テーマとしている。著書に『日本の軍歌 国民的音楽の歴史』、『ふしぎな君が代』『大本営発表』『天皇のお言葉 明治・大正・昭和・平成』(以上、幻冬舎新書)、『空気の検閲~大日本帝国の表現規制~』(光文社新書)『愛国とレコード 幻の大名古屋軍歌とアサヒ蓄音器商会』(えにし書房)、『たのしいプロパガンダ』(イースト新書Q)などがある。歴史資料の復刻にも取り組んでおり、監修CDに『日本の軍歌アーカイブス』(ビクターエンタテインメント)、『出征兵士を送る歌 これが軍歌だ!』(キングレコード)、『日本の軍歌・軍国歌謡全集』(ぐらもくらぶ)、『古関裕而の昭和史 国民を背負った作曲家』 (文春新書) などがある。

「2021年 『新プロパガンダ論』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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