- Amazon.co.jp ・本 (237ページ)
- / ISBN・EAN: 9784344985070
作品紹介・あらすじ
人類の悲劇を巡る旅「ダークツーリズム」が世界的に人気だ。どんな地域にも戦争、災害、病気、差別、公害といった影の側面があるが、日本では、それらの舞台を気軽に観光することへの抵抗が強い。しかし、本当の悲劇は、歴史そのものが忘れ去られることなのだ。小樽、オホーツク、西表島、熊本、栃木・群馬などの代表的な日本のダークツーリズムポイントを旅のテクニックとともに紹介。未知なる旅を始めるための一冊。
感想・レビュー・書評
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井出明『ダークツーリズム 悲しみの記憶を巡る旅』幻冬舎新書。
ブクログ献本企画で久し振りに当選。
人類の悲劇の記憶を巡る旅である『ダークツーリズム』の定義と著者が実際に日本やアジアのダークサイドを巡った際のルポルタージュとポイントの紹介をまとめた作品。
旅には様々な形や目的があるが、本書では『ダークツーリズム』というある意味での特殊領域の旅だけをカテゴライズしたことに意義があると感じた。
堅苦しく述べれば、過去に起きた戦争や公害、災害、事故などの悲劇の跡をモニュメントとして遺して後世に悲劇の記憶を伝えることと、それらを学ぶことは全くの対極にありながら、両者のバランスを保つことの重要性を強く認識した。心構えとしては軽いノリの怖いもの見たさの物見遊山ではなく、過去の悲劇に真面目に正面から向かい合う真摯な姿勢が必要となるのだろう。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
よく人が集まったり(観光だったり)または実際、今現在も普通にそこに住んでいる場所
明るい観光地(と言っていいのか)の裏側の負の部分。
あぁこういうのが正にダークツーリズムなんだなと思った
自分が実際行ったことのある場所だったり観光地だったり、一見すれば分からないマイナスイメージだったり
そこにある悲しい歴史だったりを巡っている内容。
もっと読みたい!他にもぜひ!と思ってしまった。
先日東日本大震災で被害の大きかった石巻に初めて行き、現地に住んでいる友人の案内で様々な場所を巡ってきた。
仮に、では今後この本に登場するようなダークツーリズムな観光地として現地の経済を潤すこともできるのかもしれない。
だけど、実際亡くなった方や行方不明の方のことやご親族の方々を考えると
果たしてそれでいいのかとか凄く葛藤する。
非常にナイーブな題材でもあるなと考えさせられた。 -
ブクログさんより献本いただき読破。
ダークツーリズムという言葉は知っていたけれど、日本にどれくらいのダークツーリズムポイントがあるのか?なんて考えてみたこともなかった。悲しみの歴史は知識として知ってはいても、いざそこを訪れてみようと思ってもみなかった。しかしながら、今まで気になっていたり調べてみたりした史実について、実際に訪ねてみるという行為はものすごい経験と財産になるんだろう。深く学ぶために訪れてみるのでも、あくまで観光メインて訪れるのでも、感じるものはあるのだろう。旅のポイントやテクニック、アクセスについても書いてくれている本書は、読んで損はない一冊。旅に行きたくなる。 -
歴史の暗黒面を刻んだ観光地を訪れることを、「ダークツーリズム」と呼ぶのだそうです。普段、観光について取材する機会が多いにも関わらず、恥ずかしながら本書を手に取るまで知りませんでした。
もっとも、ダークツーリズムという言葉が世に出て来たのはごく最近のこと。何でも、世界的に人気になっている旅の一形態なのだそうです。本書は、日本のダークツーリズム研究の第一人者が、世界各地の「負の遺産」を訪ね、観光の新潮流の行方を展望したものです。
著者が訪れた場所を章ごとに順に紹介すると、小樽、オホーツク、西表島、熊本、長野、栃木・群馬、インドネシア、韓国・ベトナム―です。トップを飾った小樽でダークツーリズムとは意外でしたが、小林多喜二を生んだ地ということに光を当てれば、たしかに頷けます。小樽では、陸軍の特攻艇マルレが隠されていた事実も明らかになりつつあるといいます。
エコツーリズムの聖地として知られる西表島は、実は「疫病と搾取」という悲しい歴史を持つ島でもす。詐欺同然で集められた炭鉱労働者が島から逃走しないよう、地域通貨で賃金が支払われていたという事実には衝撃を受けました。
熊本では、水俣病やハンセン病、炭鉱労働の記憶、栃木・群馬の旅では、日本初の公害事件と呼ばれる足尾鉱毒事件の跡をたどります。
インドネシアではバンダアチェを訪ね、WHOのまとめで22万4千人もの人が亡くなったというインド洋津波の現場を見ることで災害復興について考えました。
いずれも物見遊山では得られない価値のある旅でしょう。ただし、ダークツーリズムの旗色は、必ずしも良いというわけではないようです。足尾鉱毒事件の現場となった渡良瀬川を含む一帯は現在、ラムサール条約にも登録された湿地となっていますが、ダークサイドから掘り下げる紹介は、市の当局から拒まれたといいます。観光の持つ明るさを強調したい観光学系の学会からも煙たがられているそうです。
しかし、歴史に負の部分はつきものです。悲しみの記憶をしっかりと受け継ぐことが、明るい未来を築くことにもつながるのではないでしょうか。本書でも触れられていますが、多喜二は愛する田口タキに送った恋文で、「闇があるから光がある」と書きました。秋の行楽シーズンには、ダークツーリズムで歴史の暗部に目を凝らしたいものです。 -
観光学者 井出明氏によるダークツーリズムの解説書。第1章と第10章ではダークツーリズムについて学問の基礎的な説明や展望について展開し、第2章から第9章までは著者が実際に歩いた各地のダークツーリズムの実際をまとめてあります。紀行文みたいなので読みやすいです。まずは実践してみて、どういうものかを体感してみようということかな。日本には、ここで紹介されているような場所を観光で訪れようとすること「不謹慎」という言葉ですべて否定したがる風潮がありますが、やはり光と闇をきちんと知ることが重要だと思いました。
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「ダークツーリズム」とは何かという解説から筆者の実際に体験した旅の様子まで掲載されているので、ダークツーリズムについて未知の私にもよく分かった一冊でした。本書を通じてもっと興味が出てきたのでダークツーリズムについて調べてみたいです。
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旅人目線、というよりは、観光地目線で読むと面白いなと思いました。
ダークツーリズムという言葉に興味を持ち、思わず読み始めましたが、学術としてのツーリズムを過去の悲しい事実と組み合わせる考え方は新しいようで昔からあるものなのだなと思いました。 -
★3.5
ブクログ献本。"ダークツーリズム"という言葉を本書で初めて知ったけれど、著者の言いたいことやその意義はとてもよく分かる。災害、病気、差別、公害等に見舞われたことは不幸なことではあるものの、その全てを忘れて次に進むのは少し違う気がする。例え痛みが伴っても、負の記憶を継承していくことは大切なことだと思った。ただ、それは部外者だから言えること、と言われてしまうと返す言葉がないのだけれど。本書に紹介された小樽に数年前に行った時、運河と食ばかりを楽しんでしまったので、勿体無いことをしてしまったな、という気持ちになった。 -
日本におけるダークツーリズムのポイントを、エッセンスを押さえながら紹介してくれる。
そもそもダークツーリズム対象が観光地として整備されているケースが稀である(例外は網走刑務所)。
なぜかというと体制がつくりたい町のイメージとあわないからだ、
など心理的社会的理由によるものだとの考察がなされ、内省を促される。
我々はもっと、負の記憶と向き合い教訓を汲み取っていくべきなのかもしれない。