- Amazon.co.jp ・本 (318ページ)
- / ISBN・EAN: 9784393611128
感想・レビュー・書評
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ロールズ批判者たちは大きく分けて、7つのグループに分類することができる。
①功利主義原理(最大多数の最大幸福)をベースにした経済・社会政策を構想する厚生経済学者たち
②国家が財の再分配を行うことに反対するリバタリアンたち
③普遍的正義の存在を否定し、共同体ごとの価値(善)をより重視するコミュニタリアン(共同体主義者)たち
④ロールズの平等論は資本主義社会の構造的不平等を正当化するものだと批判するマルクス主義左派
⑤ロールズの平等論はジェンダー的不平等を隠蔽していると批判するラディカル・フェミニスト
⑥ロールズの正義論は西欧的な自由や平等を普遍的なものとみなす西欧中心主義の発想に基づいていると批判するポストモダン左派
⑦ロールズの正義論を、アメリカの古き良き伝統を破壊する左派思想の表面上は穏健な偽装形態と見て攻撃する保守主義者たち
「正義の二原理」とは
第一原理は、実践(ゲーム)に参加している各人には、自由に活動する権利が平等に認められている。
第二原理は、すべての不平等が許容されないわけではなく、不平等があることで、みんなの利益になるのであれば、不平等が許容されることもある。
ロールズは「善」や「正」についてメタ倫理学的考察を続ける哲学者ではなく当事者たちが決めるための合理的なやり方を探究しようとした。
「善」=特定の宗教や世界観と強く結びついたもの
「正義」=複数の人々の間の議論によって決定されるもの
ロールズの分配的正義論は、最も不運な人の利益が最大化されることが期待される制度を構築し、それが政府によって公正に運営され、何世代にも渡って維持されることを要請するが、その制度の下で最終的にどのような分配状態が生じるかまでは保証するものではない。
効率性、社会的福祉など、経験的要素を考慮しながら、自らにとっての「善」を最大化するように働きかける「経験的実践理性」
個別の善の増減をめぐる損得計算のようなものを超えて、「公正さ」という意味での「正義」に従うよう働きかける「純粋実践理性」
「経験的実践理性」が全面的に「純粋実践理性」に従属する形で「実践理性」の統一性が具現することになる
「実践理性の統一性」というのは、個人の便益を志向する経験的実践理性の判断と、公正さを志向する純粋実践理性の判断の間に齟齬がなく、調和が取れていることである。
正義の公共的構想は形而上学的ではなく、政治的でなければならない。
「形而上学的」=深い価値観での一致
「政治的」=民主主義的な一致
「政治的リベラリズム」=前提の共有は目指さず、結論の部分だけの合意を目指す詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
仲正昌樹
いまこそ ロールズ に学べ
ロールズの思想体系をわかりやすく説明した本。とても面白かった。リベラル(弱者に優しい政治姿勢)というものを理解できた。
ロールズの思想概要
*自由主義の枠内で、社会・経済的平等を保障するため 公正な方法を探す
*公正としての正義=無知のヴェールという仮想の情報遮断装置を働かせ、正義感覚を公正に向かわせる
驚いたのは
*正義論の正義(justice)と 正義の味方の正義は違う
*功利主義(最大多数の最大幸福)は少数を切り捨てる
*正義の第二原理=不平等の許容=不平等があることで、みんなの利益になるならば不平等は許容される
*社会主義体制下でも正義の二原理を基礎とする制度を採用できる
ロールズ(もしくは訳者)は 言葉がうまい
*格差原理=社会的、経済的に最も不遇な人たちの福利の向上が見込まれるかぎり許容される格差
*原初状態=不公平で偏った判断をしないように、無知のヴェールに覆われた状態
*反省的均衡=理論と実践的反省を往復することで、より良い到達点へ
マクシミンルール(最悪の結果が最もましなものを選ぶ)はいろいろ活用できる
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「無知のヴェール」による正義の追求。
178ページの「合理的になる能力」と「道理(良識)的になる能力」は心に残る。 -
【目次】
目次 [003-009]
序論 「正義」と〈Justice〉――似て非なるもの 013
正義をめぐる勘違い/「正義」と〈Justice〉、その違い/「正義論」はなにをめざすのか/ロールズ『正義論』のインパクト/本書の構成
第1章 なぜ「正義」を問題にしたのか 025
1 メタ倫理学からはなれて 026
メタ倫理学とはなにか/「善」から「正義」へ/正義の原理の探求へ
2 功利主義の検討 032
功利主義の歴史/功利主義へのスタンス/功利主義の二つのルール観
3 「公正としての正義」とは 042
正義の二つの原理/正義が受け入れられる根拠とは/功利主義との対決へ
4 なにが「公正としての正義」を支えるのか 051
人格に備わった「正義感覚」/カントを発展させて/「憲法的自由」による平等/「平等な自由」がもたらすもの
5 分配的正義をめぐって 062
ロールズの経済観/格差原理の導入/政府の役割/改良を重ねて
6 市民的不服従をめぐって 073
公民権運動の盛りあがりを受けて/「無知のヴェール」の導入/立憲民主制における「市民不服従」とは/「市民的不服従」の三条件
第2章 自由と平等の両立をめざして――「正義論」の世界 083
1 『正義論』はなにをめざしたのか 084
思想史的な位置づけ/功利主義との決別
2 はじまりとしての「原初状態」 088
社会契約論を発展させて/原初状態という仮説/「無知のヴェール」の役割
3 「正義論」の仮想敵 096
「目的論」との対決――仮想敵(1)/「直観主義」との対決――仮想敵(2)
4 あらためて正義の二原理とは 105
「正義の原理」の定式化/正義の原理が採用される根拠/「マクシミン・ルール」の採用
5 「反省的均衡」とはなにか 114
修正を重ねることによって/暫定的な正義の条件として/「平均効用原理」との対決
6 正義の制度化をめぐって 122
四段階のプロセス/「政治的自由の価値」の重要性/市場を前提にした「分配的正義」/世代間の格差をめぐって/正義の原理の再定式化
7 制度における個人の役割 134
個人の「義務」と「責務」/制度を補正する手段としての「市民的不服従」
8 「正義」と「善」の関係をめぐって 141
二つの善理論/アリストテレス的原理と自尊/道徳的学習について
第3章 ロールズの変容――『正義論』への批判をうけて 147
1 マクシミン原理をめぐって 148
功利主義からの批判/アローからの批判/ハーサニからの批判/ロールズの返答――マクシミン基準の擁護/「自由で平等な人格」をもった市民による選択
2 リバタリアンの攻勢 160
ノージックからの批判/分配的正義の“恣意性”をめぐって/ロールズの返答――「基礎構造」の問題
3 「自由の優先」は自明か 170
ハートからの批判/ロールズが想定する「人間像」への懐疑/ロールズの返答(1)――二つの道徳的な力/ロールズの返答(2)――正義に適った基礎構造
4 ロールズのカント主義的転回 184
「カント的」とは/「道理的なもの」による「合理的なもの」の制約/手段としての「基本財」
5 「形而上学」から「政治」へ 194
普遍主義との決別/キャラとしての「契約当事者」/「重なり合う合意」をめざして/“政治的転回”をなぜしたのか
第4章 「正義」の射程はどこまでか――「政治的リベラリズム」の戦略 203
1 『政治的リベラリズム』の狙い 204
制度的実践をともなう思想として/非自由主義的思想といかに折り合うか
2 偏りのない政治的構想をめざして 209
あまねく受け入れられる理念として/立憲民主制における「市民」の条件とは/なにが「寛容さ」を可能にするのか/形而上学的前提からはなれて
3 安定した合意をめざして 221
「重なり合う合意」の戦略/善への対処/ガイドラインとしての「公共的理性」/制度的保証としての「最高裁判所」
4 ハーバマスとの対話 234
アメリカとドイツ、二つの戦後/二人の差異をめぐって
5 グローバルな正義をめざして 243
「政治的リベラリズム」から「万民の法」へ/原初状態の二段階化/共存できる非リベラルな民衆の条件とは/グローバルな意思決定のあり方/「無法国家」との対時
終章 「正義」のゆくえ――ロールズが切り開いた地平から 259
“第三の道”としてのリベラリズム/論争をつうじて/「リベラリズム」の未来
注 [271-303]
ロールズを中心とする思想地図 [304-305]
関連年表 [306-313]
あとがき(二〇一三年三月 金沢大学角間キャンパスにて 仲正昌樹) [314-318] -
新着図書コーナー展示は、2週間です。通常の配架場所は、3階開架 請求記号:321.1//N35
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ロールズの生涯の思想をわかりやすくまとめた本だと思った。
日本語の「正義」と英語の「Justice」の意味の違い、功利主義からロールズの2原則の説明から始まって、正議論の世界、正議論の批判に対してのロールズの変容、第二主要主著であり講義をまとめた「政治的リベラリズム」の要約をまとめている。
正議論は、政治哲学の1分野として近年ハーバード大学のサンデルの授業で注目されているが、サンデルは元々ロールズを批判していたので、その意味でも押さえておきたい本だと思う。