- Amazon.co.jp ・本 (263ページ)
- / ISBN・EAN: 9784396635336
感想・レビュー・書評
-
手習所は、年齢も、職業も違う子供たちを
萌先生が、子供一人ひとりに目を向けて教える姿が
眩しく、美しく、これが本来の教育と思えてなりません。
江戸は小日向水道町で一軒家を借りて、手習所銀杏(ぎんなん)堂を営む師匠・嶋村萌23才の奮闘の物語です。
【銀杏(ぎんなん)手ならい】
嶋村萌は、1年前に婚家である御家人の琴平家から戻って来た。それは、嫁いできっかり3年で、突然に離縁を申し渡されて嶋村家に帰された。理由は、萌には子供が授からなかった。そして家業の銀杏堂を手伝いだした。1年経ったときに義父・承仙は、萌に銀杏堂を任せて旅に出て行った。萌の筆子14人は、百姓、商人、職人、武家の男女を6才から11歳まで預かって、子供一人ひとりの習熟度にあわせて教えている。10才をこえる女の子5人への作法や茶道、生け花は、義母・美津が担当している。あわせて銀杏堂へは19人が通っている。承仙から萌に変わったときに6人がやめていった。
【捨てる神 拾う神】
頑固な萌は、早朝に銀杏堂の門前にある銀杏の大木の前に捨てられていた生後半年くらいの女の子をしっかり抱いていた。そして美津にこの子は、私が育てますと宣言する。名を美弥とつける。美津は、23年前の自分を見ている様であった。美津と承仙の間には、子が授からず。門前に捨てられていた萌をお不動様の授かりものとして大切に育ててきた。
【呑んべ師匠】
手習所「椎塾」の椎葉は、常に酒を飲んでいる。萌は父・承仙が、旅に出る時に困ったことが起きた時は、椎葉先生に頼ってみてはと言っていたことを思い出し、椎塾に行ってみると。4人の子供が行儀も悪く、寝たり、立ったりととても手習所とは思えない。よく見ると、絵を描いたり、彫刻したりと様々だか。どれも子供の作とはとてもおもえない良いできだ。椎葉は、この子たちは、他の手習所からぼろくずのようにはじき出された子だと。私は、この子たちに自信をつけさせて、己の長所を伸ばしたいと。
【春の声】
手習所では、学問を教えるとともに行儀作法をも教える。それは、子供たちが手習所を出て奉公にあがった先でまず見られるのは、行儀作法だからです。家では、どうしてもできないことを手習所で躾けられることを親が期待して手習所を選ぶ。手習所は、子供のことを思って教えるより、親の意向を踏まえて教育する事の方が多い。萌は、そんな中でより子供たちに寄り添った教育を志したいとおもっている。
【五十(いそ)の手習い】
萌の筆子・信平は、父を流行風邪で亡くし、母と幼い弟妹を食べさせるために働かなければならなかった。萌は、学問がないのは、大海で板切れもなく漂っているだけだ。家計を助けながら、学問を続けることが出来ないかと模索する。信平が好きな型彫職人の五十蔵に相談すると。五十蔵も小さいときに父を亡くして手習所にもいけづに働いたために字も書けずバカにされて苦労した。萌の思いが、五十蔵を動かして頑固に弟子を取らなかった五十蔵が信平を弟子として。二人で月に何回か萌の手習所に通うこととなる。
【目白坂の難】
萌の筆子・桃助は、姉の咳止めの薬を求めて薬種問屋へ行くがとても高くて買うことが出来ない。手代から薬草のソウマオウを持ってきたら代わりに咳止め薬をくれると聞き。ソウマオウを探しに幼い弟と行く、そのことを知った筆子で御家人の倅・増之介、百姓の倅角太郎が一緒になって昔薬草園があった目白坂の大名屋敷に向かったが。あまりにも広大な屋敷で迷い何十匹もの野犬に囲まれた時に増之介と角太郎が、幼い子を庇って動き、無事に野犬を撃退する。その話を聞いた萌は、感激し二人を褒める。
【親ふたり】
萌がちょっと仕事仲間と話している間に、2才の美弥が攫われる。萌は、半狂乱に。そんな時に美弥の生みの親が銀杏堂を訪ねてきた。萌が、半狂乱から立ち直り、自分も捨て子であったがこの銀杏堂で両親に大切に育てられたことを思い。美弥の生みの親から里子に出した先を聞き。駆けつけます。そこに居た美弥を抱きしめた時のぬくもりに、萌は、まことの母になったと。
【読後】
読みやすく、展開が早く、次へ次へとページをめくる手が止まりません。手習所は、年齢も、職業も違う子供たちを萌先生が、子供一人ひとりに目を向けて教える姿を見て。ふと自分を振り返るといろんなことがあり、小さな時に自分の長所、短所を知っていたらもう少し違った人生があったように思えてきます。なお、この本を読む前日に舌を噛んだために読み終るのに時間がかかりました。
【読むきっかけ】
この本を手に取ったのは、音読で読んだ西條奈加さんの「善人長屋」「まるまるの毬(いが)」がよくて西條奈加さんの大活字本を調べたら4冊でていました。残りの「六花落々(りっか ふるふる)」と「銀杏(ぎんなん)手ならい」と続けて読んで行きます。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
【音読】
2022年7月19日から8月1日まで、音読で西條奈加さんの「銀杏(ぎんなん)手ならい」を大活字本で読みました。この大活字本の底本は、2017年11月に祥伝社から発行された「銀杏(ぎんなん)手ならい」です。本の登録は、祥伝社で行います。大活字文化普及協会発行の大活字本は、第1巻~第3巻までの3冊からなっています。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
銀杏(ぎんなん)手ならい
2021.12大活字文化普及協会発行。字の大きさは…大活字。
2022.07.19~08.01音読で読了。★★★☆☆
銀杏(ぎんなん)手ならい、捨てる神 拾う神、呑んべ師匠、春の声、五十(いそ)の手習い、目白坂の難、親ふたり、の連載短編7話。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
これは面白いぞ。面白い本だぞ。しかし、はて?この物語に前作はあったろうか。有ったような無かったような。まあ、本作がとても面白いのでそこいらわどうでも良い。それ程に僕にとっては面白い本だぞ。
-
久しぶりの西條作品ですね。この作家さんの作品はいつ読んでもほっこりします。でも個性的な筆子たちや師匠仲間はいいんですが、肝心の萌先生のキャラがちょっと弱いような気がします。美弥との関わりも薄いというか、乳母に任せきりのように見えるというか…手習所の師匠をしながらの子育ては確かに大変かもしれないけど、専業主婦とはいえ3人の子を育てた私としては「乳母とか、羨ましーっ!」と思いましたよ(^-^; 続編を期待したいです。☆3・5
-
手習指南所「銀杏堂」を舞台に、新米“出戻り”女師匠・萌と、そこに通う筆子たちの成長と交流を描いた連作です。
江戸の人たちの識字率の高さは、こうした手習い所があちこちにあったからなのでしょうね。
“のんべ先生”の「椎塾」は今でいう、フリースクールみたいだと思いました。
西條さんの江戸モノは安心して読めるので好きです。 -
手習い所「銀杏堂」の師匠である萌。女師匠であることの引け目を感じつつ、頑張っている。そんな萌の暮らしや子供達とのやり取りを描いた作品。実は捨て子だった萌が、同じく門前に捨てられた子を我が子として育てようとするなど、様々な出来事が起きるが、持ち前の聡さで乗り越えて行く。爽やかな作品。
-
【収録作品】銀杏手ならい/捨てる神拾う神/呑んべ師匠/春の声/五十の手習い/目白坂の難/親ふたり
一人一人に目を配り、その必要に応えるという教育の原点を見る。何のための勉強か、教える者も学ぶ者もそれを自覚することの大切さが語られている。この先も彼らを見ていきたいと思わされる連作。続編あるかな。 -
子供ができず離縁され実家に帰り、父親の代わりに手習所の塾長を継ぐことになった萌。ある日、塾の前に赤子が置き去りにされているのを発見。自身も捨て子であったことや子宝に恵まれなかったこともあり、情が捨てられず養子にする決心をします。母や近所の人たちに助けられながら親として先生として成長していくというお話です。
萌や筆子たち、赤子の美弥の成長ぶりが季節の移ろいと共に描かれています。手習所にある銀杏の木がそれを見守り、時に金色の扇のように祝福しているのが素敵です。
萌が子供の個性に寄り添いながら導いていきます。昔も多動とかギフテッドとか概念や定義はないけど色々あったのだろうということが伺えます。「こどもも親の不遇をかこつことになる」親の家業を継ぐのがあたりまえだった時代、自分の特性を押し殺して大人になった子供もたくさんいたんだろうなぁ。 -
ココロにしっとり染み込む一冊だったな。
西條奈加さん、やはり好き!