佳代のキッチン ラストツアー

著者 :
  • 祥伝社
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感想 : 32
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  • Amazon.co.jp ・本 (301ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784396636166

作品紹介・あらすじ

会いにいこう。
味の思い出でつながっている、なつかしいあの人に。

コロナ禍で、みんな苦しい。
でも、おいしい料理は人をきっと笑顔にさせる。
キッチンカーで北へ南へ、調理屋佳代のおもてなしの旅!

「食事って、生きる糧だけじゃなく、心の糧でもあるものね」
厨房車に手書きの木札一枚下げて、日本全国ふらりふらりと、移動調理屋“佳代のキッチン”を営む佳代。
ところが新型コロナウイルスの蔓延で、営業休止を余儀なくされた。
そんな折、佳代は函館の食堂『自由海亭』閉店の報を耳にする。調理屋名物“魚介めし”に深いゆかりがある食堂だ。
佳代が探し続けている両親との懸け橋になってくれた恩もある。居ても立ってもいられなくなった佳代は、厨房車に飛び乗って函館へ。こうして、コロナに喘ぐ人々を訪ねる、佳代の長い旅が始まった――。

感想・レビュー・書評

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  • 『お客さんが持参した食材でどんな料理でも作る』『調理屋』を営みながらキッチンカーで日本全国を回っている佳代。そのシリーズもついに完結。

    元々佳代がそういう商売を始めたのは失踪した両親を捜すためだった。しかしその話は前作で一区切りついた(正確にはついていないのだが)筈。だが佳代は再び旅に出る。それはこれまで出会い、佳代がおせっかいを焼いたり逆にお世話になったりした人たちとの再会のため。

    久しぶりに会う懐かしい人々の生活は、コロナもあって厳しいもの。また長い年月のうちに亡くなっている人がいたり、お店を閉めている人もいる。
    もちろん頑張っている人もいるし、壁にぶち当たっている人もいる。
    当然佳代のお節介の心が疼かない筈はない。

    まずは函館の入船漁港にて。
    佳代の両親から<魚介めし>のレシピを教えてもらい商売にしてきたタエさんが亡くなっていたことに驚く佳代だが、それ以上に驚いたのは一人息子の海星が荒れ果てていたこと。

    群馬県大泉市にて。
    以前佳代が滞在したときはブラジル人が多かった地域だが、今ではアジア系の様々な国の人々が住んでいるらしい。しかも彼らはそれぞれコミュニティを作っていて、それぞれの関係がぎくしゃくしているとのこと。

    大阪・十三にて
    こちらはちょっと寄り道。酒場で出会ったマサという芸人になれなかった男と、実家の酒屋を繋ぐお節介をすることになった佳代。だがマサは実家に戻るどころか、家の金を盗んで…。

    長崎県福江島にて。
    シングルファザーの父を健気に助けていた沙良に八年ぶりに会いに来てみれば、高校一年生になったはずの沙良は学校を辞めて行方不明。辛うじて父親とスマホは繋がっているが、行方を捜したり警察に届けたりすれば着信拒否すると脅しているらしい。

    久しぶりにシリーズ作品を読むので、佳代ってこんなにおせっかいで感情的だっただろうかと戸惑った。シリーズのレビューを読み返すと佳代は惚れっぽいし直ぐにのめり込む質のようだ。
    お節介に夢中になっているときは周りが見えず、失敗して初めて気付いている。
    泣いている場面も多いし、この作品ではこの生き方について自分自身考え込んでいる。

    そんな時に冷静にさせてくれるのが弟の和馬。新聞記者という仕事柄か、佳代とは違って物事を俯瞰した上で温かくも落ち着いたアドバイスをしてくれている。
    そんな和馬がいてくれるからこそ佳代は安心して放浪できるのかも知れない。

    この作品では嬉しいサプライズもあった。『ヤッさん』シリーズのあんな人こんな人が会話の中だけだが登場する。あの人のお母さんがこんなところにいたなんて。そして『走ってきた白髪まじりの角刈り頭のおじさん』ってもしかして…。

    今回の旅で再会した人々に背中を押され、佳代はついに自分自身のために動く。それは佳代が一番忘れられない人との再会のため。こんな再会があるのかと思うものの、まぁ小説なのだからそういう出来過ぎなことがあっても良いだろうと元も子もないことを考えたりもする。
    タイトルは『ラストツアー』だが、佳代の人生の旅はまだまだ続きそうだ。

    ヤッさんが誇り高き宿無しなら、佳代は『誇り高き放浪者』の道を行く。
    皆が何かしら苦労し行き詰っているのを見れば手を貸さずにいられない。それがとても困難なことで佳代一人の手に負えないことであっても、これまでの佳代が築いてきた人たちとの輪でできることから少しずつやっていけば良い。
    お節介も悪いことばかりではない。
    辛いことも悲しいこともあったが、上手くまとまった完結編だった。

    ※シリーズ作品
    (★はレビュー登録あり)
    ①「佳代のキッチン」
    ②「女神めし 佳代のキッチン2」★
    ③「踊れぬ天使 佳代のキッチン3」★
    ④ 本作 ★

  • 過去の関係した人達に逢いに回る。
    シリーズ最後なんですね。
    寂しさを感じます。
    ラストはこうなって欲しいと思っていた通りになってますね。

  • なんと、前作の出版から5年も経っていた。
    その間に、世の中にはコロナ禍という大きな出来事があり、物語の中の佳代も影響を受けた。
    飲食店全てが打撃を受ける中、更に、佳代のように、持ち込まれた食材を使って調理を請け負うという商売は、人と人の間を食材が行ったり来たりするということで敬遠され、しばらくは営業を中止。
    この先の人生をどうするのか、向き合わざるを得ない。
    「不要不急の」という言葉がクローズアップされ、『自分にとって本当に大切なものはなんだろう?』ということを考えた人も多かったのではないか。
    規制が緩和されたのを機会に、佳代は今までの旅先で縁を持った人たちを訪ねて回ることにした。

    ということで始まった今回の旅だが、以前、佳代がお節介をして問題の解決を見た町や家族に新たな懸念が持ち上がっていて、再びお節介を焼くことになる。

    でも、今までとちょっと違うのは、佳代がふと、「流れ者の疎外感」のようなものを感じてしまった事。
    これまでそんなことはなかったと思うけれど・・・
    そして、旅の間に間に思い出されてならないのは、或る人。

    「潮時」という言葉がある。
    引き際、やめ時、のように捉える人もいるけれど、本来は良い意味なのだ。
    良い潮が来ているということ。
    「〜潮もかなひぬ 今は漕ぎ出でな」と、額田王も詠んだように。
    佳代の新しい船出に、ボン・ボヤージュ!!という言葉を贈りたい。

    小豆島の一面のオリーブ畑、行ってみたいです。

    第一話 漁火(いさりび)とダルバート
    第二話 ご近所の国境
    第三話 せんべろのマサ
    第四話 ざんぎり娘
    最終話 トンボロの島

    「せんべろのマサ」が一番良かった。重要な出会いでもあったし。
    ★5つは御祝儀込み。

  • キッチンカーで調理屋として日本中も渡り歩いてきたかよ。今回がラストツアー。
    過去に出会った人々を巡りながら、最後には過去プロポーズされたアランを探しに旅立つ。
    佳代らしい納得のエンディングだった。

  • コロナ禍も踏まえた物語。
    佳代は佳代なりに人との関わり方に悩み、弟はうまい具合に助言していたが、ここまで読んで、ちょっとお腹一杯になって来た感じ。
    小豆島での急展開のエピソードにちょっとびっくり。

  • 〈佳代のキッチン〉号もコロナ禍だったのか。
    そうだよね…影響ないわけ、なかったよね。
    でも佳代ちゃんは、その間もスパイスの勉強を。
    晴れて自粛ムードも明けたあとは
    北の大地から順に「再会」の旅になりました。

    弟くん言うところの
    〝おせっかい〟姉ちゃんですが
    どうしたら心を痛めた人々の力になれるか
    無力感にさいなまれることも。
    けれど、いつでも事態を動かすのは
    彼女の行動に感化された「地元」の人と
    その想いをつなぐ料理。

    本当はなんとかしないと…と思っている人たちの
    あと一押しを佳代ちゃんがしてるんだな。
    実際に問題を解決するのは
    北海道では、ずっと見守ってきた恋人。
    群馬では、いろいろ考えていたお店のオーナー。
    魚崎や熊本では、突き放さなかった家族。
    そして瀬戸内のおだやかな島で
    いよいよ佳代ちゃん自身の傷を癒す再会も。

    この世界には放浪者も必要、と締める物語。
    であるなら、これからも〈佳代のキッチン〉号は
    どこかでおいしいご飯を作っていくのでしょう。

  • 物語内の時間の流れがおかしいような気がするも(10年近く経過していないか)しっかり終わらせてくれるのは非常にありがたいです。調理屋という仕事が実際に成り立つのかはおいといて、全国津々浦々を軽の調理車で回っていくのはワクワクしますね。ずっと出来る仕事ではないと思うけれどロマンはありますね。
    しっかりした終わりらしい終わりなのですっきりしました。

  • この国を造ってきたのは、
    その時々の為政者たちだろう。
    彼ら彼女たちが目指したものが、
    僕らが知らぬうちに、
    あるいは誰もが知る通り、
    この国のあちらこちらに反映されている。
    富を蓄え、力を持ち、人々を従え、
    溢れんばかりのものを得て、
    おそらく権力の座に座る。
    原始に遡るほど、その傾向が強いのではないか。
    ひょっとしたら現代においても。

    そうした人たちにとって、
    権力は守るものであり、
    時代は維持するものかもしれない。
    もちろん世が良くなることを望んではいるだろう。
    一方で心のどこか、
    世の中の理屈が変わらないことを
    願う部分もあるのではないか。
    時代の流れをせき止めてしまう
    ボトルネックになる、
    そうした一面もあるだろう。

    軽やかに世の中を変えるのは、
    守るものを持たない者だ。
    自由を縛る「作られた常識」に
    囚われることなく、
    心の声にまっすぐ向き合って
    目の前の喜びに誠実に生きる。
    彼らの行動は大きな影響力を持つわけではない。
    半径5メートルのささやかなものに過ぎない。
    そうした小さな行動が、世界を壊していく。
    風穴を空け、蟻の穴を空け、
    ある日、ぽっかり大穴となる。
    佳代の生き方は、いろいろ考えさせられる。

  • 佳代さん苦手〜。

  • (2022/6/21読了)
    シリーズ三作目?にして多分最終章。
    それとも夫婦揃っての移動キッチンカーの旅へと続くのかしら?
    背景は、コロナ禍から少し抜け出した頃。
    内容もコロナの影響ありきの話となっている。でも、全体的に暗くなくサラッと読めました。
    主人公佳代の気持ちの揺れが、少しくどかったかなと思い、星0.5マイナスで3つ。

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著者プロフィール

1954年、長野県生まれ。早稲田大学卒。97年に作家デビュー。2007年『床下仙人』が第1回啓文堂書店おすすめ文庫大賞に選ばれるなどベストセラーに。他の著書に「佳代のキッチン」シリーズ、『天下り酒場』『ダイナマイト・ツアーズ』『東京箱庭鉄道』『ねじれびと』(以上、祥伝社文庫)、「ヤッさん」シリーズなど多数。最新作は『間借り鮨まさよ』。

「2023年 『うたかた姫』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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