映画にまつわるXについて (実業之日本社文庫)

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  • 実業之日本社
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  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784408552477

作品紹介・あらすじ

横綱、裸、眠らぬ猫、夜の闇-気鋭監督が切り取る35の風景。主演女優とフォークリフトの免許を取り、ワンカットのためにネズミを育てる。増殖する本に苦悩し、深夜に出会った男の行方を案じ…。取材や脚本の執筆、撮影など映画制作現場でのエピソードをはじめ、影響を受けた映画や本、作家について、鋭い観察眼で描く。『ゆれる』『夢売るふたり』など、国内外で高く評価される映画監督の初エッセイ集。

感想・レビュー・書評

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  • 西川美和は、公開されたならば無条件に万難を排して観に行く監督の1人です。「ゆれる」を観た時のショックはちょっと言葉では言い表せられない。その西川美和が冒頭、朝青龍というヒールならぬヒーローの話を書いた後に、するすると30年ほど昔の『恐怖の24時間』というテレビドラマの話を書いています。

    連続殺人犯が弁護士になりすまして教誨師の家を隠れ家とする話で、その逮捕劇の顛末です。西川美和解説に耳を傾けると、その殺人犯は、若い頃の役所広司が演じていて、グレて親不孝を働いていた長男を捕まえて説教をしたり、布団を羽交い締めにして咽び泣いたり、逮捕された後も家族に屈託なく笑って去ってゆくそうです。西川美和は、役所広司に朝青龍と同じヒーローを感じて、風呂の中で泣けたそうです。映画ファン的な興味としては、この2010年の文章が、やがて監督の師匠・是枝和弘監督の『三度目の殺人』に関係している気がするし、今年の最新作『すばらしき世界』に直結している予感がする。西川美和は書く。
    「凡そ人の風上にも置けない主人公にばかり惹きつけられてきたような気がする。みんな人格も行動も間違いだらけで、賢人の忠告をはねのけ、自分の失態で人生が台無しになっている。けれど、まだ諦めきれない、もう一度闘うんだ、やりなおすんだ、と歯を食いしばっているような人物たち。そういう悔恨だらけの、黄昏の中に佇むヒーローを、心の糧にしてきた」(16p)思えば確かに、西川美和作品の主人公はみんなそうだ。美人で世界的名声をモノにしている監督は、人一倍コンプレックスの塊だった。

    読めば読むほどファンになってゆく。外見とは裏腹に、西川監督はかなり男前な性格だということもよくわかった。そう言えば、西川美和は過去直木賞にもノミネートされています。その文章力は折り紙付きです。松たか子と一緒にお忍びフォークリフト講習に行き免許を獲った顛末記などは、一篇の短編コメディのようでした。

    倉敷蟲文庫という美人の店主がいる古本屋でゲットした本でした。

    • kuma0504さん
      猫丸さん、情報ありがとうございます♪
      「誰も知らない」の北浦愛ちゃんが、こんな立派になって!
      もう親戚のおじちゃんみたいな感覚で観てしまいま...
      猫丸さん、情報ありがとうございます♪
      「誰も知らない」の北浦愛ちゃんが、こんな立派になって!
      もう親戚のおじちゃんみたいな感覚で観てしまいました。もう10数年、地道に暮らしていたんだね。すごいね。
      2021/01/14
    • 猫丸(nyancomaru)さん
      kuma0504さん
      コメント読んでニヤニヤしています、、、
      kuma0504さん
      コメント読んでニヤニヤしています、、、
      2021/01/15
    • 猫丸(nyancomaru)さん
      kuma0504さん
      西川美和監督作品『蛇イチゴ』『ゆれる』『ディア・ドクター』Blu-ray 1月27日発売! | V-STORAGE ...
      kuma0504さん
      西川美和監督作品『蛇イチゴ』『ゆれる』『ディア・ドクター』Blu-ray 1月27日発売! | V-STORAGE (ビー・ストレージ) 【公式】
      https://v-storage.bnarts.jp/bv_news/149744/
      2021/01/26
  • 自分の中にある、醜さ、いやらしさ、至らなさを露悪的に描く人なんだろうか。
    書き物に共感を覚えるけれど、実物の西川さんは、すらりと立っていて、同世代の冴えないおっさんの共感など峻拒するんだろうな。
    なんだか、太宰治の恥、みたいな感想になってしまった。
    また、この本の「足りない女」というエッセイに書かれた、西川さんが向田邦子さんに向ける思いと、自分が西川さんに感じる思いは、驚くほど相似形のものだった。
    まぁ、なんとかやってくしかないんだと思う。

  • 「役者がこんなことを言うのはおかしい。俺だっていつもなら脚本に、監督の演出にすべて従うことにしている
    。けれど、もしも一生の内、役者が脚本に対して意見することが許されるカードが、仮に三枚だけ与えられているものだとしたら、俺は迷わずその一枚を今ここで使うよ。・・・・・」
    以上が、映画『ゆれる』での香川照之氏と監督とのやり取り
     
     『夢売るふたり』ヒロインを演じた松たか子さんが、役柄でフォークリフトを運転するシーンで、実際に監督と共に免許を取得する話など、興味深く堪能できた。

  • 『蛇イチゴ』『ゆれる』『ディア・ドクター』『夢売るふたり』
    をDVD で見た。監督が 西川美和だった。

    濃密な人間関係をえぐり出す西川美和が、書いたエッセイ。
    どんな感じの文を書くか と思って読み始めたら、
    朝青龍の ヒールについて、なんで ヒールにされるの?
    ヒールがヒールと思っていないけど、ヒールにされてしまう。
    そのことについて、愛着を持って、濃密に綴る。
    なるほど、この感性は、どこかで、ねじ曲げられて、
    屈折して、自分の体内に、なにものかを押さえ込んでいる と思わせた。
    その得体の知れないものに、いらだったり、ひりひりしたり、
    独特の こころの中の揺らぎが、「ヒール」や「女子重量挙げ選手」に
    共鳴 共振したりするのだろう。

    裸のエッセイもいい感じだ。
    きれいな裸でなく 正直に 生活の陰をひきづっている裸に注目する。
    裸って、やはり、正体 つまり人生をあらわすんだよね。
    それを描いていく筆致が なんともいえず 鋭い。
    谷ナオミの今のこだわりも、「裸」を売り物にした生業を心得ている。

    オーディションでみえた 少女の ニンゲンへの洞察が、
    きちんと生きてきた 証しが 見え隠れする。
    そういう 中にあるものを 的確に つかみ出そうとする。
    西川美和の したたかな 観察眼に 驚く。

    映画 ではなく、フィルムに 想いがあり、
    デジタルの安易さが 好きになれない。

    途中に 気の緩んだような 昔のエッセイがあり
    それが 刺身のつまみたいで 軽く読める。

    ゆれるの 脚本から キャスティング そして
    香川照之との出会い 鬼が来た。
    オダギリジョーの なんともいえない 風情を
    きちんと 文字の中に 閉じ込めていく手腕。

    こういう したたかな 感性があるから、
    ちょっと、質感の違う 映画が きちんと生まれるのか
    と 納得した。

  • 「夢売るふたり」を撮り終えた後に纏められたエッセイ集。
    ゆれるは小説を読んで、まだ映画は観れてないけど、香川照之、オダギリジョーに真木よう子の3人の役者について、この本で描かれていて、より一層観たくなった。
    夢売るふたりのオーディション、免許取得の裏話は面白かった。
    映画はスクリーンに映し出された向こう側の世界だったけど、この本を読んで少し身近にも思えたし、奥深さも感じられた。

  • ベラボーに面白いです。こりゃ凄い。こりゃお見事です。

    西川美和、という人は、自分の思っていること、考えていることを、自分以外の他人に伝えることが、めちゃくちゃ上手いなあ、ってね、思いました。

    映画監督としては、自分の思いを、映像情報として他者に伝えることが、ベラボーに上手い。

    小説家、エッセイストとしては、文字情報として他者に伝えることが、ベラボーに上手い。

    ということなのかな?と思うのですが、うーむ。なにしろ「わたしはこう思っています」ということを、これほどに見事に他者に伝えることができるものなのかね?と、驚嘆。つまるところ、西川美和さんは、コミュニケーション能力が途轍もなく高い人なのだろうなあ、と、思います。なんか、対人関係はめちゃ苦手そうな自分の書き方をしておられる場面は多々ありますが、「自分の思いをつたえる」というコミュニケーション能力は、ホンマに高いと思う。それがすなわち「共感力」ってことなんじゃないのかね?とかね、思う次第ですね。

    西川さん、結構「それを意見の俎上に乗せるのは、そうとうヤバい話題ではないのかね?」って事も、臆せずに、語りますよね。その勇気は、尊敬します。あたりさわりの無い事を言っておいてお茶を濁す、とか、しない。そもそも、その話題に触れないければ、なんも波風立てないで終わるからそれで良いことなのに、でも西川さんは、その話題に、触れる。その勇気。うむ。尊敬します。もう、素直に、尊敬します。

    あと「ゆれる」という映画を本当に本当に心の底から愛している自分にとっては、その「ゆれる」のプロダクション・ノーツが読めただけでも、この本読んだ甲斐あった!って感動。「夢のあとさき」と名付けられた、この一章。本当に素敵です。「映画」というものの本当に抗いがたい悪魔的な天使的な魅力を、これでもか!と語っている西川さんの姿が最高です。「ゆれる」は、ホンマになあ、、、途轍もない映画だよなあ、、、「映画は、一人で作るより、人と作った方がいい」というさりげない一言が、これはもうマジで映画の本質を言い当てまくっていて感涙。

    ま、映画監督・西川美和に、心を撃ちぬかれまくっている自分にとっては、聖典みたいな本ですね。珠玉の言葉が並んでいます。手元に大事においておいて、一生、ことあるごとに読み返したい。そんな素敵な、素晴らしすぎる一冊です。いや最高ですよコレ。

  • ドイツの混浴温泉で同郷の男性と出会ってしまった時の、素っ裸の言葉を交わさない腹のさぐりあいのエピソードが好きでした

  • たった数秒のワンシーンのために注ぐ膨大な時間と努力をこの人は「自分には才能がない、天才でないから」と言う。それこそが才能なのに。ゆれる、も夢売るふたり、も。観返したくなった。この人のこだわりの詰まった苦しみの時間を想いながら。

    『一度、何らかの深いところに潜ったのだな、』なんていう、人の胸の奥底にひっそりと横たわる感情を掘り起こすのが上手すぎる。才能だ。だからこそ彼女の作る映画も小説も、ぐっときてしまうのだ。

  • 映画「ゆれる」が印象深かったので、監督さんの頭の中を覗いてみたいと思い、かるい気持ちで手に取った。
    ら、めちゃめちゃ面白かった。

    ゆれる、のプロダクションノーツを読めたのも良かったが、冒頭の朝青龍の話から勢いがあった。

    特に感心した部分。

    「私はひどく頭を悩ませた。「困った顔」をしている人の心情は、必ずしも困っているばかりとは限らないからだ。一人の主婦がある日突然、出入りの三河屋から愛を告白されたとしたらー」
    是非ご確認を。

  • 文章は読み易い。読者を楽しませる精神も旺盛だ。そんな人が自分の作る映画について書く。中でも映画「ゆれる」の制作話は面白かった。映画もぜひ観たいな。

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著者プロフィール

1974年広島県生まれ。早稲田大学第一文学部卒。在学中から映画製作の現場に入り、是枝裕和監督などの作品にスタッフとして参加。2002年脚本・監督デビュー作『蛇イチゴ』で数々の賞を受賞し、2006年『ゆれる』で毎日映画コンクール日本映画大賞など様々の国内映画賞を受賞。2009年公開の長編第三作『ディア・ドクター』が日本アカデミー賞最優秀脚本賞、芸術選奨新人賞に選ばれ、国内外で絶賛される。2015年には小説『永い言い訳』で第28回山本周五郎賞候補、第153回直木賞候補。2016年に自身により映画化。

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