- Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
- / ISBN・EAN: 9784408553139
感想・レビュー・書評
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章ごとに視点が変わる短編連作で、誰かひとりの人物について描く…という小説は前にも読んだことがあるけれど、こういう感覚は初めてだ。
感動というか、凄い、と唸る感じ。
奔放な実母・咲子とも、2度目の結婚で自分が産んだ娘とも生き別れた塚本千春という女。
ひとつの関係に囚われず北の大地をさすらう千春の、数奇な性と生、そして彼女と関わる人々の、光と闇の物語。
桜木紫乃さんと言えば、幸薄い北海道の女を描かせたら天下一品、というイメージ。
南国ではなく北国だからこその厳しさや寒さ、乾いた空気が、物語全体をモノクロの風景に変えているように感じる。
1冊通して塚本千春という女を描いている。そのはずなのに、最後まで千春が本当はどんな女なのか分からないままの不穏さ。
どんな経過を辿ったのかは描かれているけれど、千春が何を思いどんな風に考えてその道を辿ったのか、そして後悔や悲しみ等はあったのか、というのがまったく分からないところが、独特ですごく良かった。
ひとりの人をただの人として見つめるとき、実際こんなものなのかもしれない、と思ったりした。
言葉で語ったとしても感情の全ては分からないのだから、語られないところにその人の真実を見つけるのは不可能に等しい。「こう思う」「こうだったのではないか」というのは、ただの想像に過ぎない。
北海道のなかで土地は転々と変わるものの、千春と関わった人たちは皆、北の大地でつましく暮らしている。
安定した職に就く人、金に困っている人、夜の世界に生きる人、夫婦で静かに暮らしている人…実際そこらに生きているような人々の、悲しみや小さな幸せや日々の暮らし。
小さく光りながらやがて消滅してゆく命たち。
ドラマチックではないけれど、それぞれに生きた分のドラマがある。
全ての人が共通して語る千春の像は、細い身体にそぐわぬ大きな胸、美人ではないが妙に惹き付けられるような雰囲気、無表情で無口、何を考えているか分からない…。
客観的に見れば明らかに不幸な生い立ちと理不尽な人生。それなのにただの不幸な女とは片付けられない不穏な魅力。
千春もまた、小さく光っていつかは消える“星々”のひとつなのだ。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
咲子、千春、やや子三世代のそれぞれのお話。それぞれ独立はしているんだけれど底辺で繋がっている。決して幸福な親子関係ではないけれど、親を恨むでもなく三人三様、それを受け入れ生きているのが似ている点なのか。咲子も千春も何を夢に生きていたんだろう。その時々で精一杯だったのかな。咲かない咲子はそれでも最期、信頼できる相手に看取られた分少し幸せだったかな。北海道の漁村という荒寥とした寂しい土地だからこそ、この女性たちの行き方に共感できる点も生まれてくる。土地の勝利な気がする。東京が舞台だったら埋もれてしまうだろう。
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9編から成る連作短編小説。久し振りに桜木紫乃という小説家の凄味を感じる作品だった。ここまで、女性を描写出来る小説家は居るだろうか。
北海道をまるで浮き草のように漂う母・咲子と娘の千春、千春の娘のやや子の三代に亘る儚く、哀しい物語。短編毎に次々と語り手の視点が変わるのだが、主人公はあくまでも咲子、千春、やや子の3人の女性である。どれも救いを感じることの出来ない、重苦しさを感じる短編ばかりなのだが、最後の最後に奇跡のような微かな光を見せてくれた。
『ひとりワルツ』『渚のひと』『隠れ家』『月見坂』『トリコロール』『逃げてきました』『冬向日葵』『案山子』『やや子』を収録。 -
久々に良い女流作家に出会えました
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北海道、小樽、札幌、旭川、帯広、釧路、根室など北の大地を舞台に、過酷な運命に翻弄される母娘三代の女性、咲子、塚本千春、田上やや子の物語。「星々たち」(2016.10)、連作9話。何とも心にずしりと重くのしかかる桜木紫乃の世界です。客観的には苦労の連続に見える3人、特に咲子と千春、でも、それぞれが生を全うし、むしろ幸せに生きているかに思えるのが不思議です。著者の「力」と思います。彼女たちの辛い人生をなぞっているのに、心はなぜか暖かくなってきます!
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「星々たち」というタイトルがぴったり。登場人物それぞれが、きらきら美しく輝く、というのではなく、自分の命を少しずつ燃やして、ちかちかと光っているようなイメージ。桜木紫乃さんの静かな文章が大好きです。言葉にしづらい感情や、もやもやして言い表せない気持ちをさらっと表現していて、それが心に沁みたり刺さったり。作家さんて本当にすごいなあと思います。
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塚本千春という、男女の愛も家族の絆も求めず求められない女性が歩んだ数奇な人生を、彼女と関わる人々の視点から描く連作小説。
人物設定が秀逸すぎる。何を考えているのか分からない千春の存在を、人生を投げたような人々が語ることで不思議な輝きを与えている。一方で、冴えない生活を送る人々も千春が側にいる時は輝きを見せる。一瞬の相乗作用の後の虚無感が何とも言えない。 -
言葉が鮮やかで引き込まれる。
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生き辛そうな母娘孫3世代の物語。
でも、当人たちは淡々と逞しく生きて生ききったように思った。
桜木紫乃さんの本は、どんな人をも肯定してくれていて、重苦しい話も不思議と心穏やかに読める。
心に残った一文-------
『優しく捨て合う関係や、愛情という呪いのような押し付けを欲しないことを、わかってくれるだろうか。声に出さず問うてみる。いつものように「わからなくてもいいのだ」という思いが気持ちの曇りをさらっていった。』
誰かに理解されなくても、存分に生きていいと、読み取りました。