複合戦争と総力戦の断層: 日本にとっての第一次世界大戦 (レクチャー第一次世界大戦を考える)

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  • Amazon.co.jp ・本 (174ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784409511138

作品紹介・あらすじ

青島で太平洋で地中海で戦い、さらには氷雪のシベリア、樺太へ。中国問題を軸として展開する熾烈なる三つの外交戦。これら五つの複合戦争の実相とそこに萌した次なる戦争の意義を問う!遠き戦火、認識の空白をいま解き明かす。

感想・レビュー・書評

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  • 京大人文研の共同研究「第一次世界大戦の総合的研究」の成果。「レクチャー 第一次世界大戦を考える」シリーズとして人文書院から複数冊が刊行されている。これはシリーズ全体を俯瞰する位置付けで、山室先生のご執筆。

    複合戦争という意味は、実際の戦闘があったという意味での青島、太平洋、地中海での対独戦争、シベリア、樺太へのいわゆる「シベリア出兵」、中国をめぐる対英米中との外交戦を5つの複合戦争として位置付ける。この5つの戦争の基底にあったのは日本の中国権益という問題であった。

    このような第一世界大戦観に基づき、最終的には「第一次世界大戦の世界史的重要性については戦争形態が総力戦へと転換していったことに求められてきたが、日本ではそれをいかに意識して対応し、それは日本社会をどのように変容させていくことになったのか——その問いに答えるための歩みをここから踏み出してみたい」(p.14)というのが本書の目的である。

    個人的な関心から言えば、最後の「おわりに」でも指摘されているように大半の国民に意識されていなかった第一次世界大戦の世界史的意義(総力戦)について、日本社会の基層において次の世界大戦に向けての準備がどのようになされていたのか、またそれとは逆に新しい国際関係のなかでの外交努力がどのようになされていったのかという点に尽きる。そこがまさに現代社会と地続きな部分であろう。

  • w

  • 日本人:精神的影響受けることが少なかった
    戦争の存在さえ意識しなかった
    →認識の空白

    戦闘期間・被害が相対的に少ない

    意識的に世界戦争から切り離していたのか?

    シベリア出兵も長く歴史から隠されてきた

    →戦勝によって世界の「五大強国」の一つ
    特需景気によって戦争成金

    日本の第一次世界大戦(1914・8~1925・5)=
    ・山東半島・南洋諸島の戦闘
    ・対華二一カ条要求
    ・シベリア出兵
    日本の中国権益中心

    アメリカ政府の意向重視

    対独戦争・シベリア戦争
    日英・日中・日米の外交戦
    →複合戦争

    日本が1番最初に「世界大戦」の概念を用いた

    「日本がアジアのみならず世界の強国としての責務を負っているとの自負が・・・戦争を契機として出現していた」

    米が独側で参戦し、日米戦争の危険性があることを想定していた

    日清・日露戦争と違い、敵国となったドイツに敵愾心を抱く動機も少なくなかった
    限られた政治家や軍人の判断ではじめられた戦争

    加藤外相は参戦に積極的
    ・返還が予定されている旅順・大連などの租借権の永続化
    ・山東半島におけるドイツ軍=軍事的脅威・経済進出の阻害
    →日英同盟の利用

    元老等が戦後の欧米の東アジア対策との衝突を恐れて反対
    加藤外相は元老を中心に進めない新しい外交政策システムを目指す

    イギリス人の日本に対する警戒感

    第一次世界大戦を短期的と予測

    日露戦争以来陸海軍権威失墜
    →参戦で回復はかる

    日本が中立を宣言していた中国を攻めることは、独がベルギーを攻めたことと同じであるという批判
    →米参戦の危険性
    中立であった中国から、兵士や武器を手に入れる

    「日中問題の処理を誤れば日米衝突に直結する」

    山東占領は遼東半島租借権、南満州鉄道経営権、安奉鉄道経営権の三つの権益問題を解決するための取引材料

    第五号については第一・二号を得るために最終的に譲歩しようと考えていたので、各国に通知する必要ないだろうという判断

    日本は軍事行使も辞さない

    対華二一カ条要求で、中国のナショナリズムを沸騰させた

    「第一次世界大戦とは、後のアジア・太平洋戦争と同じく、まずは日中の対立であり、同時にまた中国をめぐる日米の対立であるという性格をもっていた。」

    米中との東アジアにおけるヘゲモニー競争に踏み込むこととなった

    米と以前から満州をめぐって対立
    日本人移民差別・日本の脅威
    →日米開戦現実味

    高橋是清などは、以後国際的影響力を増してくる米国と協調をはかるため、参戦慎重論をとった

    米の中国への経済目的や中国への学校・医療活動によって米中関係良好

    日米双方の協調関係を維持しようという思惑もあり、米は対華二一カ条要求に強く批判せず

    日本は米の軍需資源や資本に大きく依存していた

    日本は中国が戦勝国として講和会議に参加しないように、中国の参戦に反対した

    シベリア出兵は、ソヴィエト革命政権そのものを転覆させることが重要な目的ではなかった。

    「日本にとってのシベリア戦争はとは、出兵によって傀儡政権を立てて、東部シベリアと満蒙を一体とする地域への支配権を確立することに主眼があった。」

    開戦の宣言と真の目的異なっていた

    シベリア出兵も中・米外交戦の延長

    日露協約等によって、日露関係良好

    「陸海軍がともに出兵による勢力拡張を訴え、各国が撤兵した後も駐留にこだわり続けた背景には、自らの新たな存在意義を示し、さらに存続のための軍需資源を確保する必要に迫られていた」

    シベリア出兵に際して、日本単独出兵か、アメリカと協調して出兵するか

    陸軍参謀本部は出兵を着々と進める

    ドイツ勢力の東方進出に反対

    シベリア出兵で国民の中に軍国主義を生み出す

    日本はアメリカとの共同宣言無視→米国は日本に不審高める

    日本にとって「ロシア革命こそ満蒙統治をより安定させるために、東シベリアをも勢力範囲に置くという更なる好機をもたらした」

    日本紛糾
    ・東清鉄道をめぐる管理権問題
    ・中国の参戦軍の編成とそのシベリアへの出兵をめぐる問題

    中国と結んだ中国領土内に自由に駐兵することができるという旨の軍事協定が主権侵害であるとして批判され、反日運動がさらに高まった

    米との共同出兵で出した宣言には、チェコスロヴァキア軍救済が完了すれば撤兵としていたが、日本は一国だけ派兵を続行

    原政友会の支持母体である財界や尼港事件などで反ソ・反共感情をもった世論の影響で即座に撤退できなかった

    シベリア出兵は国民からしてみれば出兵目的もよくわからず、田中隊全滅や尼港事件によって、反ソ・反共の意識を植え付けただけ。

    資源の少ない日本にとって、戦時(特に長期戦)に資源を外国に頼ることが出来なくなることを考えると、中国と経済的に結びついていることが必要
    →西原借款

    資源少ないので、撤兵前の学生や入営後の青年に軍事知識を注入し精神鍛錬主義教育を行った

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著者プロフィール

1951年、熊本市生まれ。東京大学法学部卒。衆議院法制局、東京大学社会科学研究所、東北大学日本文化研究所などを経て、2017年に京都大学人文科学研究所を退職。主な著作に『法制官僚の時代』『近代日本の知と政治』(ともに木鐸社)、『キメラ―満洲国の肖像』(中央公論新社)、『思想課題としてのアジア』(岩波書店)、『憲法9条の思想水脈』(朝日新聞出版)、『アジアの思想史脈』『アジアびとの風姿』(ともに人文書院)がある。

「2018年 『唱歌の社会史 なつかしさとあやうさと』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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