実務家必読 判決・裁決に学ぶ税務通達の読み方

  • 清文社
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  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784433630980

感想・レビュー・書評

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  • 本書は、通達の意義、法的性格、限界等を概観した上で「通達」をキーワードに厳選された最高裁判例等26事例を中心に裁判所及び不服審判所の考える通達の理解とその解釈手順を解説している。取り扱われている判例等は有名なものばかりだが、通達という切り口から、どういう通達の解釈方法で納税者勝訴に至ったかが解説されており、参考になった。
    P52
    通達は法令ではなく、税理士あるいは納税者がこれに拘束されるもの ではない。そうとはいえ、我々税理士は、通達の解釈が法令解釈の範囲内である限り、これに反する安易な見通しや自己の見解に基づく独自の解釈に対しては、損害賠償責任が厳しく追及される震があることを肝に銘じておく必要がある。同時に、通達と異なる取扱いをする必要があるケースであっても、依頼者にその理由とリスクを十分に説明し、納得を得ることが重要である。
    P56
    税理士が、実務の現場に通達を適用する場合には、その通達が、いつ、どのような時代を背景に、どのような理由で制定されたのか等を確認したうえで適用しなければならない。そして、もしその解釈が、時代に合っていないと考えるのであれば、法令の趣旨に立ち返り、自ら法令を解釈すべきである。国税庁もまた、所得税基本通達及び法人税基本通達の前文において、「したがって、この通達の具体的な運用に当たっては、法令の規定の趣旨、制度の背景のみならず条理、社会通念をも勘案しつつ、個々の具体的事案に妥当する処理を図るように努められたい。」と、同様の理解を示す。
    あるいは、その解釈により、納税者の税額が増えることになる場合があるかもしれない。また、「国税庁の法解釈に従って処理をすることに何の問題があるのか」、「仮に通達が租税回避スキームに利用されたとしても、その責任はそのような解釈を示した国税庁にある」といった批判を受けるかもしれない。
    しかし、法人税基本通達の前文は、通達の形式的な解釈、法の趣旨から逸脱した運用等を厳に慎むよう、以下のように述べる。
    「いやしくも、通達の規定中の部分的字句について形式的解釈に固執し、全体の趣旨から逸脱した運用を行ったり、通達中に例示がないとか通達に規定されていないとかの理由だけで法令の規定の趣旨や社会通念等に即しない解釈におちいったりすることのないように留意されたい。」
    この考え方は、法人税のみならず、すべての通達に共通する理念であって、税務職員だけでなく、税理士も肝に銘じておくべきである。
    さらに、わが国唯一の税務の専門家である税理士には、独立した公正な立場において、申告納税制度の理念にそって、納税義務者の信頼にこたえ、租税に関する法令に規定された納税義務の適正な実現を図るという使命がある。その使命を果たすために、我々は、常に適正な通達の適用を意識しなければならない。
    ただ、自らの解釈で通達とは異なる判断をする場合には、①その判断の理由、その解釈が認められない場合のリスク等を納税者に説明し、依頼者の承諾を得る必要があること、また、②通達の解釈が法令解釈の範囲内である限り、これに反する安易な見通しや自己の見解に基づく独自の解釈は慎重であるべきであることには注意を要する。
    P264
    本判決から、同族株主以外の株主が取得した株式を評価する場合、さらには売買取引価額を算定する場合の、同通達取扱いの重要なポイントを以下にまとめる。
    ① 同族株主以外の株主等が取得した株式の評価は、原則として配当還元方式によること。
    ② 単に他に高額の取引事例が存在することだけでは、配当還元方式を採用しない正当な理由にはならないこと。
    ③②において評価通達の定めとは異なる評価が許される場合とは、当該取引事例が、取引相場による取引に匹敵する程度の客観性を備えたものである場合等に限られること。
    ① 売買取引の売買価額を、配当還元方式を基準に決定したとしても、当該方式が原則的な評価方法である以上、不合理な価額決定の方法ではないこと。

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著者プロフィール

近藤雅人(こんどうまさと)

税理士。
日本税理士会連合会常務理事・同広報部長・同税制審議会専門副委員。
同志社大学法学研究科非常勤講師。

「2020年 『知ったかぶり厳禁 税金のホント』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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