- Amazon.co.jp ・本 (216ページ)
- / ISBN・EAN: 9784478022870
感想・レビュー・書評
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良書。
人生や無常な現実に対する為末さんの考え方を記した本。
一流のアスリートの思慮深く老成した価値観からは学べる事が多いと思う。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
為末さんはたまにツイートがタイムラインに流れているのを見たことがあるけど、どういう人なのかこの本を通して知れてよかった。アスリートの人生観だとか、プライドやメンツ、勝ち負けについて、そういったものに対する考え方。
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Twitterで為末選手の発言を何回か拝見する機会があり、興味を持っていました。
確信をつきながらも、刺激の強い発言は、ともすると話題性だけを狙った空虚なものになりそうですが、本でまとめて読むと、「自分の経験から得た言葉の重み」を強く感じます。
以前、podcastで、様々な自転車選手のインタビューを聞く機会があり、それぞれの選手の言葉の深みがとても印象的でした。
本文でも語られているのですが、アスリートは一般人の数倍の速さで人生を生きています。なので、より内省的になるし、タフな決断の連続で、経験値も蓄積されるのでしょう。
面白いのは、スポーツの種目によって、自分の思いを言葉に変換出来る度合いが違う事です。
個人的な感想ですが、相撲、野球、サッカーの選手はあまり上手ではない気がします。
陸上、自転車、テニス、モトGPの選手は、自己表現がとてもすぐれた選手が多い印象です。
理由をいろいろ考えてみたのですが、競技マーケットが巨大で、組織化されていればいるほど、自己表現の能力は落ちていくのかもしれません。
大規模で組織化された競技では、分業化が進み、アスリートは競技にだけ集中できるような仕組みが出来上がります。
人間の思考が飛躍的に拡大するのは、「固定観念(メンタル・モデル)」が崩れた時です。
メンタル・モデルは日常のルーティンの中では崩す事は難しく、多くは非日常の体験からの気づきによってもたらされます。
僕は個人での移動が多い、あるいは個人での「雑用」が多いアスリートが、この「気付き」の体験が多いのではないか?と思っています。
出張でも旅行でも、移動というのは、目標と効率、そしてハプニングと停滞、静と動の連続です。
移動によって、人は様々に内省して、成長するのかもしれません。
実体験からの本だけに、とてもコンテキストの豊富な、カラフルな文章ではあるのですが、それゆえに、コーヴィー博士の「The 7 Habits..」のような普遍的な洗練はありません。
だけど、その洗練の無さがもつ、独特の熱が、読んでいてとても刺激的です。
コーヴィー博士も、ドラッカーも、為末さんも、突き詰めていくと、言い方は違いますが、同じ結論に達しているのも面白い。
・等身大の今の自分を知ること。
・目標(北極)ではなく、目的(北極星)を持つ事。
・死という時間的制約を意識する事
・自分の固定観念(メンタルモデル)は何かを知る事
本編中、もっとも印象的だった箇所の引用
<blockquote>「思いは叶う」、そしてそれ以上に「叶わないこと」がある。
それでもなお、いかに自分の中の気持ちを奮い立たせるのかは、知恵しかない。
それはどこか、「人間は必ず死ぬのになぜ生きなければいけないのか」という矛盾にも似ている。
おそらく、そのあたりの苦しさを納得させるために、宗教が様々に解いたのだと思う。
自分ではどうしようもない現実を見たり、仕方のない事に出会い、人は傷つく。努力は無駄になったと思う。
でも、振り返ってみて「あれは本当にムダだったのだろうか」と自分に尋ねると、そうとは言い切れない。
夢を見ているその瞬間、人は確かに輝いているからだ。
(中略)
自分は何か意味のあることをやっていて、これをやり続ければ「社会に驚きを与えられる」と信じていられたその毎日こそが、今振り返ると自分への報酬だったのだと思う。
走っている最中は気が付かなかったけど、夢を叶えるために懸命に努力していた毎日は本当にキラキラと輝いていた。
結局のところ、幸福は「今」にしかない。
僕らはつい、未来を見ながら今を置き去りにし、過去に縛られて今を忘れてしまう。
夢はその「今」を輝かせるためにあると僕は思う。そしてその輝き自体は、夢が叶う、叶わないなんて関係がない。
夢は持ったほうがいい。
たぶん叶わないけど。
</blockquote> -
本文より
?夢はその今を輝かせっるためにあると思う。
そしてその輝き自体は、その夢がかなう、かなわないなんて関係ない
?批判は攻撃だから反撃しやすいけれど、期待は応援だから無視しにくい
?起こった出来事は同じでも、自分がする解釈、自分が付ける意味によって物事の見え方やありさまが
変わることはとても多い。 -
・恥ずかしいという気持ちが成長を止める
・立ち上がった瞬間が自信になる
・自分で選んだものは、失敗は反省も含め濃い
・残念ながらほとんどの人生は負けで終わる
・勝ちやすい場を探すのも手だ
・一番を目指している。そのこと自体が幸せなのだ
・自分の限界を感じることは、清々しいことでもある
・とにかく物理的に変えてしまおう -
陸上という個人競技で、現役生活をタイトル通り「走りながら考え抜いた」からこそ編まれる言葉と思考は至極深遠。ご自分の言葉で綴られているからこそ飾り気がなく、端々に思考の跡が滲む。彼の思考を読んでいるだけで、質の高い内省に触れることが出来、そこのみにおいても有益だと思う。
また、世界の一流選手と比較すると決して身体的な才能に恵まれているわけではなかったからこそ、「努力と限界」との関係性の論にも重みがあるし、その限界を知った上でも尚思考し、努力し、戦い続けるそのプロセスは、ビジネスとフィールドは違えど学びが多い。
以下、特に印象に残った記述を。先日読んだ「エッセンシャル思考」とも相まって、刺さりました。
「あきらめたものが多いほうが、ひとつのことに集中投下できる。それゆえ成功しやすい。」
「有限の中で何に努力と時間を割り振るのか。有限の概念がないところに選択はなく、選択がないところに集中もない。」
「レベルが上がれば上がるほど、目標が高ければ高いほど、人は一人になっていく。どんどん孤独になっていく。そして、たくさんのものを、ひとつずつそいでいくと、目指すものがより明確に見えてくる。」 -
同じ日常を過ごすということは、違う日常を諦める選択をしているということ
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ちきりん氏が薦めていた本。どのように自分と向き合って行くかを自己の経験を元に書かれており、共感がもてる。特に最初の恥と失敗に関しての記述は自分の事を言われているようでガツンときた。がんばるという事を否定している訳ではなく、自己の限界や目標を自らが見出し、それに向かっていく生き方もありだと思う。
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競技レベルも競技(陸上と競泳)も違うが同じ個人種目の選手として共感できる部分が多い。
2001年エドモントンの世界陸上で銅メダルを取ったとき偶然TVで見ていた。
その時は「メダルが期待できる」と言っても日本特有の超贔屓目実況だろうと思っていたが
そこで銅メダルを取ったので、「日本でも世界で実力を発揮できる人が出てきたのか」と
感心していた。
その彼が現役を引退してから書いた本なので、非常に俯瞰的な視点で書かれていて納得度が高い。。
何度も出ているエピソードで初めて出場したオリンピックで彼は転倒してその後流してゴールした。
そのことを非常に後悔していたらしい。そして代表になれなければ引退すると宣言して挑んだオリンピック選考のレースで彼は転倒してしまった。
しかしその時彼は立ち上がり、その後全力で走った。そして結果は最下位だった。
この話を聞いて、ちょっとジーンとした。
本の中に失敗についての考え方や捉え方について何度も書かれている。
・転倒=恥と感じる人、失敗=胸を張れない事と感じる人も多いかもしれないが、胸を張れない事=転倒する事ではない
・失敗を「すべて」ではなく、長い成功への道のりの「一部」として捉えられるかどうか。
・振り返ってみると勝利そのものは自信にならない
・「あきらめているほかの人生」の存在に気が付くことかどうかが、人生を広げるカギだと思う
・純粋に伸びが止まっている選手は思いのほか少なく、多くはどうでもいいことが捨てたれなくて成長が止まる
・残念ながら「やればできる」は幻。しかし「頑張ってもどうせかなわないからやらなくていいよ」という都合のよい逃げ道を提示しているのではなく、叶わなくてもそれは自分の責任ではないことまで責任を負う必要はない。
・挫折は早いうちに味わったほうがいい。勿論誰でも傷つきたくないから失敗や挫折をしないように無茶を避けて生きている。しかし慎重に生きていけば何かを達成することが人生の目的なのか、挫折しないように生きることが目的なのかと混乱し苦しくなる
・結局のところ、幸福は「今」にしかない。
・短距離選手はみなボルトに勝ちたいと思って追従するが、ボルトは「伝説を作る」ために走っている。
・「一番になる」ではなく「一番を目指す」と言う方がしっくりくる。
・努力したらうまくいったという成功体験を持つ人は「努力はうまくいくためのプロセスである」と確信を持っている
・苦労もあるし重圧もある。でも根本のところで「面白い」と思ってやっている人に「大変だけどやるべきだから」と思ってやっている人は長期戦になると絶対に敵わない。
・高みを「目指した」からこそ見える風景がある
・何かを選択したとき、英断なのか逃げなのか、その時は当事者にもわからない。
・世の中は不条理で頑張ってもうまくいかないことがあり、いい人が長生きするわけでもない -
理屈っぽい気もするけど、正論のような気がする。
走りながらいっぱい考えてたんでしょうね。
自分と対話するというのはアスリートならではでしょうね。
アスリートでない僕もしますがね。
いや、僕もアスリートなのかもしてないね。