伊勢神宮と古代王権: 神宮・斎宮・天皇がおりなした六百年 (筑摩選書 36)

著者 :
  • 筑摩書房
3.60
  • (1)
  • (1)
  • (3)
  • (0)
  • (0)
本棚登録 : 35
感想 : 4
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (318ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480015389

作品紹介・あらすじ

伊勢神宮には二つの顔がある。一つは、伊勢地域に実際に存在する地域神社としての顔。もうひとつは、中央政権が構想した、天照大神がいるとされる国家的存在としての顔だ。両者をつなぐ存在が天皇の代わりに神宮を奉斎する斎王であった。伊勢と天皇はなぜ、いかにして結びついたか。中央政府にはどんな思惑があったのか。政治の変動に翻弄され斎宮が衰えゆくなか、神宮はいかなる変容を遂げ、現在に至るのか-。王権・神官・斎王という三者の関係から、伊勢神宮とは何かを問いなおす。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 2012年刊。著者は斎宮歴史博物館学芸普及課長。

     ①7世紀以降、中でも奈良・平安時代における、伊勢神宮と、天皇その他国家機構との関係を、神宮へ派遣された皇女・斎宮の属性の変遷と、その斎宮の神宮内における制度を軸に解説していく。
     ②一部、中世にも筆が及ぶ一方、③貧弱な文献史料が災いして解読困難な大化前に関して、著者の厳密な史料批判の一端が開陳される。

     斎宮といえば、源氏物語の六畳御息所とその息女秋好中宮を想起してしまうが、本書はかような個々人的な評伝ではない。
     すなわち、元来は特定・属人的選抜であった斎宮職が、時代を経るにつれて法制度化される一方、内実は形骸化していく。
     そして、これは律令の解体と荘園制の進展・伊勢神宮の荘園領主化と軌を一にしたもの。すなわち国家による神宮の制御と、それが解体していく様を、文献や法制変遷で読み取っていくのだ。

     先の③のために、仏教に関する鎮護国家確立へ邁進したような明快な論は展開し得ない。
     つまり、そもそも伊勢の地域宗教だった伊勢神宮が如何に国家宗教へ変貌し、その後、古代後期に国家から伊勢神宮が自立していったか。つまり国家からの支援枠組から除外させられていき、一荘園領主へ進んでいったか。
     国家と関わりの深い大規模宗教団体における、古代から中世への胎動の典型的実例が叙述されるのだ。
     つまり、東大寺などと同じく、古代後期の伊勢神宮もまた権門・大荘園領主の道を歩んでいった模様が導き出せる。

     そもそも本書の叙述には、神道を過剰に持ち上げたりするような下手なバイアスが懸っておらず、逆に言うと、良い意味でも悪い意味でも派手さはなく、堅実に論を運んでいく。
     そういう意味でも、本書は納得させれるものであり、その印象は、個人的には悪くない。
     もっとも、下世話な興味を惹くとまでは言い難いかもしれないが…。

     ちなみに、かかる制度面での解読が中心であるため、伊勢神道の教義というような、宗教の内実、信仰のあり方は余り語られないのは、当然の仕儀か。

  • 地域的存在としての伊勢神宮、国家的存在としての伊勢神宮という2つの視点から古代史における伊勢神宮について探求している。
    日本史の大きな流れにも影響され、時代とともに伊勢神宮の位置づけ、あり方もかなり変遷してきたということがよくわかった。また、国家機構としての伊勢神宮という観点は新鮮だった。古代において、伊勢神宮についての行政的統制は行われていたが、天照大神とはどういう存在かといった伊勢神宮の本質に関わることについては、朝廷としての明確な共通見解が示されておらず、古代末から中世にかけて、いろいろなアマテラス解釈が行われるようになるが、それに対しての弾圧等は何もなかったという事実が興味深かった。
    ただ、結局、古代において伊勢神宮とはどういう存在だったのか、ということについては、本書を読んでもよくわからなかったというのが正直なところだ。やはり伊勢神宮は一筋縄ではいかない存在ということはよく理解できた。

  • 支配者が正統性の根拠を獲得するためにいかに宗教を利用するか、宗教が正統性の根拠を獲得するためにいかに支配者を利用するかを考えさせられた。

  • 伊勢神宮の古代史がわかる本。

    ブログはこちら。
    http://blog.livedoor.jp/oda1979/archives/4193075.html

全4件中 1 - 4件を表示

著者プロフィール

榎村寛之(えむら・ひろゆき)
1959年大阪府生まれ。
関西大学大学院文学研究科後期博士課程単位取得修了。
博士(文学)。
1997年より三重県立斎宮歴史博物館の建設及び研究・運営に関わる。
著書に『律令天皇制祭祀の研究』『伊勢斎宮と斎王』『伊勢斎宮の歴史と文化』『伊勢斎宮の祭祀と制度』など。

「2020年 『律令天皇制祭祀と古代王権』 で使われていた紹介文から引用しています。」

榎村寛之の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×