シェイクスピア全集27 ヴェローナの二紳士 (ちくま文庫 し 10-27)

  • 筑摩書房
3.31
  • (1)
  • (5)
  • (8)
  • (2)
  • (0)
本棚登録 : 70
感想 : 9
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (192ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480045270

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 『ヴェローナの二紳士』
    作:ウィリアム・シェイクスピア
    訳:松岡和子(ちくま文庫)
    執筆年:1594年

    「誓いを立てさせたのは恋、誓いを破らせるのも恋。」

    二人の紳士・ヴァレンタインとプローティアスの恋物語を軸に展開していく、シェイクスピア初期のドタバタ劇。
    結婚という祝宴で幕が閉じるので、一応この時代のジャンル分けでは「喜劇」という分類になっている様子。
    なのだけれど、「これをめでたしめでたしで締めていいのか?」という空気感も漂う作品。

    ミラノから見聞を広めるためにヴェローナに旅立つヴァレンタインは、恋に夢中の友人プローティアスの気持ちが理解出来ない。
    が、ヴェローナに到着するなり、お姫様のシルヴィアと熱烈な恋に落ちる。
    プローティアスも父にヴェローナ留学を強制され旅に出るやいやなシルヴィアに一目惚れ。
    プローティアスはどんな手を使ってでもシルヴィアの愛をヴァレンタインから自分に向けさせる事を決意し…。

    というのが物語の大筋。
    プローティアスがシルヴィア略奪を決意する独白には後年のシェイクスピア悲劇を思わせる力強さがあり、
    プローティアスの裏切りに会いヴェローナから追放されるヴァレンタインの嘆きには後の『ロミオとジュリエット』に現れる名台詞の原型が見て取れる。

    形としてはこの時代の喜劇のオーソドックスな形ではあるけれど、色んな出来事が置きすぎてガチャガチャしているのが面白い。
    ちくま文庫のあとがきによれば、「シェイクスピアがやりたい事を全部詰め込んだ、若手作家のエネルギー溢れる作」とのこと。

    色んなシェイクスピア劇に触れて、再度戻ってきたい一作でありました。
    登場人物表の中に「犬」がいるのも面白い。
    制御不能の動物のエネルギーさえ舞台に乗せる、若きシェイクスピアの貪欲さ。


    【収録】
    『ヴェローナの二紳士』
    訳:松岡和子
    2015年 ちくま文庫

    【書籍情報はこちら】


    第一幕

    第一場 ヴェローナ
    ヴァレンタインはまだ見ぬ経験を求めてミラノからヴェローナへと旅立つ。ジュリアという女性への恋に夢中な友人プローティアスは 彼を見送る。
    ヴァレンタインの召使い・スピード(頭の回転が速く道化的)が主人を追いかけてくる。彼はプローティアスの手紙をジュリアに渡す役も務めていたらしく、プローティアスは首尾を聞くが、結果はよくないらしい。
    スピードはヴァレンタインを追って去る。

    第二場 ヴェローナ、ジュリアの家
    プローティアスの想い人ジュリアと侍女のルーセッタ。ジュリアはルーセッタに、恋人にするなら誰がいいかと問い、ルーセッタは迷わずプローティアスと答える。ルーセッタはプローティアスからの手紙を出すが、ジュリアは恥じらってそれを読まない。
    ふたたびルーセッタが勧めるとついに読む。
    もう夢中である。

    第三場 ヴェローナ、アントーニオ邸の一室
    プローティアスの父アントーニオは召使いのパンシーノと、息子を海外留学させる話をしている。パンシーノは、ヴァレンタインのいるミラノが良いと薦める。
    そこへジュリアから良い手紙を貰ったプローティアスが浮かれて入ってくる。父は何の手紙だと尋ねるが、プローティアスは恋の邪魔をされるのを恐れ、ミラノのヴァレンタインからの手紙で羨ましいのだ、と答える。
    するとアントーニオはすぐにミラノに行けと旅の準備をさせる。困るプローティアス。

    第二幕

    第一場 ミラノの街路
    ヴァレンタインと召使いのスピードはヴァレンタインの想い人・シルヴィアについて話している。
    と、そこへシルヴィア。ヴァレンタインは彼女に「恋人宛の手紙を書くように」と頼まれていた。
    シルヴィアはそれに目を通すとヴァレンタインに返し、去る。ヴァレンタインはがっかりするが、スピードは「それは旦那様宛だってこと」と謎を解く。

    第二場 ヴェローナ、ジュリアの家の近く
    プローティアスはジュリアと指輪を交換し、変わらぬ愛を誓い、ミラノへ旅立つ。

    第三場 前場に同じ
    犬のクラブを連れたプローティアスの召使いラーンスは出発を嘆いているが、アントーニオの召使いパンシーノーに急かされ出発する。

    第四場 ミラノ、大公の宮殿
    ミラノ大公の娘・シルヴィア、ヴァレンタイン、シルヴィアに求婚する男シューリオ。
    ヴァレンタインとシューリオはシルヴィアを巡り言い争っている。
    ところへミラノ大公は、プローティアスがミラノへ来るとの知らせを持ってくる。プローティアスを呼びに行く大公。
    やってきたプローティアス。シルヴィアとシューリオ去る。
    ヴァレンタインはプローティアスにシルヴィアへの恋を打ち明ける。だが、求婚者シューリオは金があるからミラノ大公に気に入られているので、シルヴィアと自分は駆け落ちするのだ、と。その手伝いを頼むヴァレンタイン。プローティアスは船から荷物を降ろしたら手伝うと約束。ヴァレンタイン去る。
    プローティアスは一人残り独白。その口からは、シルヴィアを一目見るなり恋に落ちた事を、それを成就させるためなら手段を選ばない覚悟を漏らす。

    第五場 波止場近くの街路
    ヴァレンタインの召使いスピードと、プローティアスの召使いラーンスと、その犬のクラブ。スピードはラーンスに、主人とジュリアの仲を聞き、その後飲みに行く。

    第六場 ミラノ
    プローティアスの独白。彼は自分の恋に正直になる事を言葉にし、今夜のヴァレンタインとシルヴィアの密会を父親に告げ口することを決意。そうなればヴァレンタインは追放、後に自分が求婚者となればよい。

    第七場 ヴェローナ、ジュリアの家
    ジュリアはプローティアスへの想いが高まりすぎて、ミラノまで彼に会いに行くことにする。小姓らしい男の身なりに身を包み、あとのことは侍女のルーセッタに任せ出発!
    シェイクスピアお得意の変身プロットスタート。


    第三幕

    第一場 ミラノ、大公の宮殿の前
    大公とプローティアス、求婚者シューリオがいるが、シューリオは「外してくれ」と大公に頼まれ出ていく。
    プローティアスはヴァレンタインの駆け落ち計画を暴露し退場、大公は縄ばしごを持って通りかかるヴァレンタインを呼び止める。
    大公は「娘のわがままにはうんざり、どこへなりと嫁にやる」と言い出し、ヴァレンタインは大公に良く思われようと「何をすればいいか?」と尋ねる。
    大公は「恋をしている女の所へ忍び込みたいのだが…」とヴァレンタインにアドバイスを求め、ヴァレンタインは「それなら縄ばしご」と助言。大公はヴァレンタインが今持っている縄ばしごとシルヴィアへの手紙を見つけ激怒、ヴァレンタインに追放を言い渡す。
    ヴァレンタインは一人、追放なら死刑になるほうがましだ、と悲嘆。
    そこへプローティアスとラーンス。プローティアスはヴァレンタインの追放を嘆き、自分に手紙を出せばすぐにシルヴィアに届けると約束し、彼を連れ出す。
    ラーンスは独白で自分も恋をしていることを観客に告げる。
    そこへヴァレンタインの召使い・スピードが来る。ラーンスの恋人について記した手紙をめぐるギャグシーン。のちラーンスはヴァレンタインが門のところでスピードを待っていることを告げる。

    第二場 大公の宮殿
    大公、プローティアス、シューリオはシルヴィアの気持ちをヴァレンタインから離させる計画を立てる。プローティアスから彼女にヴァレンタインの悪口を言わせ、シューリオを褒めさせるというもの。これでプローティアスはシルヴィアと二人きりになれる。


    第四幕

    第一場 ミラノとヴェローナの間の森
    ヴァレンタインとスピードは山賊に襲われるが、ヴァレンタインが「人殺しの罪でミラノから追放された」と嘘の告白をすると、山賊たちは「自分たちも追放された」と身の上を語り、ヴァレンタインを頭として迎えたいと告げる。申し出を受けるヴァレンタイン。

    第二場 ミラノ、大公の宮殿の外
    シューリオとプローティアスはシルヴィアの庭にいる。そこへ男の身なりのジュリア(プローティアスの恋人)も通りかかり、彼女はプローティアスが歌う恋の歌を耳にする。ここまで連れてきてくれた宿屋の亭主にプローティアスの恋の情報やそれを詳しく知るラーンスの居場所を問うジュリア。
    プローティアスは姿を見せたシルヴィアに愛の言葉を送るが、シルヴィアは冷たい対応。これ以前にも何度も言い寄っていたらしい。プローティアスはジュリアは死んだのだと言い、ジュリアはその嘘を聞きショック。
    プローティアスはせめてあなたの肖像画を下さいと食い下がり、シルヴィアも明日の朝送らせることにする。
    ジュリアはプローティアスの宿を宿屋の亭主から聞き出す。

    第三場 前場に同じ
    シルヴィアは信頼できる紳士・エグラモーを呼び出し、ヴァレンタインに会いに行きたい、今夜神父への懺悔を済ませた後に向かう、ボディガードをと頼む。力になるとエグラモー。

    第四場 前場に同じ
    ラーンスは犬のクラブの粗相のせいであくせくしている。
    プローティアスはセバスチャン(実は男装したジュリア)を気に入り大事な用を任そうとする。ラーンスはシルヴィアにかわいい犬を届ける予定だったが、その犬は盗まれたので代わりにクラブをシルヴィアにやろうとしたが断られた旨をプローティアスに告げる。
    早く元のプレゼント犬を探すように言いつけるプローティアス。
    プローティアスはセバスチャンにジュリアからの指輪を渡し、それをシルヴィアに送り絵姿を貰ってくるよう言いつけ去る。
    ジュリアは悲しみに暮れつつ使いに出かける。
    シルヴィアに使いとして会うジュリアはプローティアスからの贈り物を差し出すが、シルヴィアはジュリアの事を思い受け取らない。ジュリアは密かに感謝し、絵姿を受け取る。


    第五幕

    第一場 ミラノ近くの修道院
    シルヴィアは修道院裏でエグラモーと合流。

    第二場 ミラノ、大公の宮殿
    ジューリオはプローティアスに、使いの結果を聞く。独白でそれに合いの手を入れるセバスチャンことジュリア。
    そこへ大公。シルヴィアが逃げたのを目撃したという情報を聞いたと告げ、一同はマントヴァに向かう。

    第三場 森の道
    シルヴィアは山賊に捕まってしまう。山賊たちは彼女を頭(ヴァレンタイン)の元へ連れて行こうとする。

    第四場 森の別の場所
    プローティアスとジュリアはシルヴィアを救ってやってくる。一人森にいたヴァレンタインは隠れて様子を伺う。
    プローティアスはシルヴィアになおも愛を告げるがシルヴィアは拒否。ならばとプローティアスが力に訴えた所でヴァレンタインが現れる。
    プローティアスは深く悔い、プローティアスも許す。ジュリアは正体を明らかにする。プローティアスはジュリアと結ばれる。
    そこへ大公とシューリオがやってくる。シューリオはヴァレンタインに一喝されるとすぐにシルヴィアを諦め、彼に失望した大公はヴァレンタインをシルヴィアの夫として迎える。
    なんだかんだでめでたしめでたしなムードが醸される。

  • 狙ってるな、というのが分かりやすい喜劇。これが果たしてばハッピーエンドなのかは疑問。ラストに付け加えるなら『結婚は人生の墓場』だろうか。シェイクスピア初期の作なので、その後の作品の元ネタがちらほら見られる。当時犬は本物の犬を使ったんでしょうかね?人間がやってたらシュールで笑えそう。

  • 「サイテー」な男たちによる「サイテー」な話(笑)

    確かに当時の観客は驚いただろうし、
    後世の人たちは苦労しただろう。

    問題の箇所、シェイクスピアが書き間違えたか、
    相当深淵な意味が含まれているか、
    どちらにせよ扱いに困る。
    演出家の腕が試されそうな脚本。

    後半は特に唐突な話が次々出てきて、
    展開は速くなるのに読む速度は遅くなった。

    手紙や指輪、男装、山賊といった
    見かけたことのあるモチーフが出てくるものの、
    本作ではどれも中途半端でヤキモキ。
    他の作品を読んでスッキリしたいくらい。

  • 福田恒存氏以外のシェイクスピア訳は『十二夜』以来である。それぞれの訳者や出版社の狙ひが現れてゐるやうな気がする。
    ちくま書房のものは欄外の注が置かれてをり、都度、説明が成されてゐる。その良し惡しはともかく、これまで日本語で読んできたシェイクスピアの訳を、福田恒存氏がどれだけ工夫を重ねて仕上げたものか改めて感じられた。キャロルにも通じる独特のナンセンス、当時の何気ない物への携はり方は、今回初めて気づかされた。
    構成や筋としては非常に粗削りである。わずかに掛け違つた釦が、パズルのピースがぴたりとはまるやうな喜劇と悲劇の表裏一体性は正直あまり感じられなかつた。
    どの時期にどういつた中でこの作品が書かれたかはわからない。ただ、下地となつた物語の存在がその類似性から示されるだけである。当時この作品がどのやうに上演され、どのやうに受け止められたかもわからない。脚本以上に、この作品をどのやうに演じたかが気になるところである。
    おそらく、脚本を読んでゐると気づく矛盾点や行動の不可解さも、舞台で演じられ、「みられるもの」から「聞かれる」ものに変はつた途端、全く気づかれないものになつたに違ひない。どちらかと言へば、シェイクスピアは目の作家ではなく、耳の作家ではないか。そんな気がしてきてならない。

  • Original title:The Two Gentlemen of Verona.
    Author:William Shakespeare.
    友情と信義について考えさせられる物語です。
    最後の場面で挙式を行う様は、
    "A Midsummer Night's Dream."に似ています。

    Juliaが恋人の前で男装から元の姿に戻った時、
    彼女の容姿が一層際立った様に感じました。
    Silviva姫は、姫らしく終始一貫して品が有り、
    ValentineとProteusの友情は再び結ばれて安堵しました。
    あれだけ憎みあっていたのに、あっさりと友情を取り戻すなんて…彼等は単純なのでしょうか?
    Thurioも愛するSilvivaがValentineと挙式を行うと知った途端に、
    あっさりと引き下がって、もっと男気が欲しいものです。

  • 最初期の作品だが、全体的に楽しく読んだ。
    が、後半の強引なストーリー展開は。。
    強引すぎる杜撰なまとめ方がイマイチだった。

  • プローティアスに喝だ~!!欲望のためなら友情も愛も捨てて がっつりよろめくなんて 喝だ!!でも 一番人間臭く 正直かも・・ いや!喝だ!!

  • ヴェローナの青年紳士プローティアスは、親友 ヴァレンタインとミラノで再会する。ヴァレンタ インはミラノ大公の娘シルヴィアと相思相愛の仲 になっていた。ところが、プローティアスも彼女 に会った途端に一目惚れ。一方、プローティアス の恋人ジュリアは、小姓に変装してミラノにやっ てくるが―。シェイクスピア初期の恋愛喜劇。

全9件中 1 - 9件を表示

W.シェイクスピアの作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×