- Amazon.co.jp ・本 (254ページ)
- / ISBN・EAN: 9784480059185
作品紹介・あらすじ
中国大陸の東南、東北アジアの西南、東南アジアの東北に位置するこの島は、いわば海のアジアと陸のアジアの「気圧の谷」。アジア史の大きなうねりの中でその歴史を刻んできた。20世紀後半、経済発展と政治的民主化を得た台湾は、いま、どこへ行こうとしているのか-中国との平和的共存は可能なのか。東アジアにおける国際的役割とはなにか。日・米との関係は-緊張続く台湾の現在と未来を、濃密な歴史を掘り起こし、現代アジア史に位置づけ直すことによって解き明かしてゆく。
感想・レビュー・書評
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台湾の民主化の過程で、李登輝の果たした役割が本当に大きかったのだと改めて実感しました。世界的に見ても、これだけ、骨太で信念を持った政治家はいないのではと思います。複雑な台湾のことを描いた良書であると思います。
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2001年出版、17世紀以降のコンパクトな通史。蒋経国・李登輝時代の変化がやはり面白い。蒋経国は、万年国会の部分改選や本省人青年エリートの登用、戒厳令解除、大陸里帰り解禁。今日の台湾の「中華民国」のあり方はこの蒋経国の舵取りを抜きにしては考えられない、とされている。
そして、「蒋経国が恐る恐る開けたパンドラの箱を、李登輝はいっそう大胆に開け続け」た、と本書で評される。李登輝は当初は「本省人に人気の安全パイ」扱いだったという。それが蒋経国の死後、自らのラインに不満を持つ「非主流派」を脱落させていく。90年総統選後は、党内保守派と民進党のバランスを取った中道改革路線から開始。郝柏村行政院長は民進党議員から攻撃されただけでなく、その軍内影響力を削ごうとする李登輝からも追い込まれていた。こういう経緯を見ると、李登輝の政治的手腕や96年総統選の顔ぶれの「因縁」ぶりがよく分かる。
副題の「アイデンティティ」。国民党版の中国ナショナリズムは大きく減退したが、台湾ナショナリズムが支配的になったとも言えないことを指して「変容し躊躇する」としている。本書出版から20年弱。台湾アイデンティティは高まってきたのだろうが、それで固定されたのか。それともまだ変容と躊躇の最中なのだろうか。 -
入門的には良い、この後も激動なので後半は不満だけど
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本書は台湾のナショナリズム、エスニシティーの相克を国際関係史の中で位置付けようとしている。また本書の叙述の大半は第3章以降、つまり1945年以降の台湾の「近現代史」に焦点が当てられ、民主進歩党の陳水扁が国家主席になったところで筆が擱かれている。若林氏はそれを「中華民国第二共和制」と表現する。同時に「変容し躊躇するアイデンティティー」という本書の副題は台湾の現在をうまく言い当てているように思う。台湾の現在を理解するための基本的文献の1つであろう。
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台湾の歴史をオランダによる支配から順を追って描いていくが、重点は現代の民主化の展開に置かれ、そこに多くの頁がさかれている。現代台湾の政治勢力・政治状況を知るのに有用である。
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「台湾アイデンティティ」という映画を見て、台湾の歴史に興味をもちました。また「台湾海峡一九四九」という本も読んでみたくなったのですが、何故台湾について基礎知識もない為、本書を読むことにしました。
本省人/外省人
福ろう人/客家/新住民/原住民
との区分から
オランダ統治→鄭氏統治→清朝統治→日本統治→中華民国統治
といった流れ
特に戦後の中華民国統治の蒋介石→蒋経国→李登輝を中心にまとめられています。
李登輝は素晴らしいリーダーシップのある方だったのだと思いました。台湾は猛スピードで経済成長し、民主的になったと思います。
冷戦時の米ソのように台湾と中国の関係がハッキリしている時は、わかりやすかった問題も、経済において中国との関係が深くなる程ことで、より複雑な状況に陥っていくのかなと思いました。
様々な立場を内包する複雑な台湾ですが、わかりやすくまとめられた本だと思いました。 -
副題が台湾の歴史をよくあらわしている。若林先生は台湾史研究の大家だけあって、通史を描くにしても一本筋の通った通史を書く。台湾史研究の入門書としてオススメ。
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台湾がどのように形成され、今があるのかを学ぶのに必携の一冊。現在の台湾が実はとてつもなく波乱万丈な歴史を歩んできていたということが、この本から勉強できた。今後注目すべき日台関係における基礎を習得するにはオススメの一冊です。
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台湾、この地域は、未承認国家の最古参と位置づけられる事が多いが、その実、共産党と中国の正統な権威を争う国民党の一党独裁が長い間続き、現地住民(本省人)は、外省人に抑圧されてきた。国民党が対立を違法な政権と考え、自らが大陸の正統な統治者であると認識している以上、台湾は、独立国家では当然ない。他方で、現実問題として台湾は、中華民国として存在し、この権威は台湾島に限られており、しかも、この「国」は、ある時期まで国連に加盟し、国家として承認されていた。
台湾「国家」をめぐる興味深い点は、台湾が国家の要件を必ずしも満たしていなかった時に、分裂国家としてではあったが、国際社会で広くその独立性を承認されていた一方、李登輝政権の誕生と民主改革、そして本省人による統治、台湾と中国は別の国であるという主張などによって台湾が国家性を強く帯びた時代には、台湾は「未承認国家」として国際社会からの承認を失っていたという事実である。
本書は、台湾政治史の入門的な知識を提供してくれる。未承認国家や台湾の問題に一定の関心がある評者としては、基礎的な知識を提供して来る入門の新書として本書はお手軽で良かった。 -
台湾が清朝の統治下に置かれた17Cから陳水扁が政権を握るまでの台湾の歴史を順に追っていく著書。
日本による植民地化、その後の国民党との確執、国共内戦後の本省人と外省人との省籍矛盾など複雑な問題を抱える台湾では、当初は中華民国としてのアイデンティティーを国民党が醸成しようとしていたが、次第に蒋経国や李登輝によって台湾の「台湾化」が進められていった。しかし、共産党中国との関係性の中で国民レベルでも政治家レベルでも台独を声高に叫べないという実情があり、台湾を語る上では特別な想像力が必要となる。その想像力を養うためには、台湾をその400年の歴史の直線的な文脈の中で理解しなければならない。李登輝の人生が体現するような戦後の台湾の国内事情や分裂する国民感情を解きほぐし、反中の裏返しとしての親日に素直に喜んだりそのはっきりとしない対中政策に首を傾げるだけではなく台湾理解により深みを持たせることが何よりも大事なのだろう。本著はただ歴史的事象を羅列するだけではなく、その本質へのヒントを読者に与え台湾理解への重要な足がかりを提供してくれる。