社会思想史を学ぶ (ちくま新書 819)

著者 :
  • 筑摩書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (220ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480065261

作品紹介・あらすじ

いま社会思想史を学ぶ意義はどこにあるのか?九〇年代以降、世界そして日本社会のありようは激しく揺れ動いてきた。明日への不透明感は増す一方であり、人びとの抱く閉塞感も高まるばかりだ。そうした時代だからこそ「いま、ここ」をとらえるための揺るぎない視座を手に入れる必要がある。社会思想史を学ぶとは、まさに、過去の思想との対話を通じて現代世界を眺める座標軸を獲得することだ。近代啓蒙からポストモダンまで、重要思想の核心をクリアに一望する入門書決定版。

感想・レビュー・書評

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  • なぜか積読になっていた一冊。同じく積読になっている、ちくまの「名著30」シリーズを片付けるのに合わせて読み終えた。

    まず、本書は2009年にリリースされた点を考えて読む必要がある。その10年近いズレが気になり、それほど期待しているわけでもなかった。

    だが読み始めてしばらくして、ハンチントン、ウォルフレンをばっさりと片付けたあたりで「おや?」となる。S・J・グールドの科学と道徳性の関係についての記述のあたりからはもう読むのが止まらなくなる。

    読み終えていろいろとおもうことは山ほどある。ちょっと場面転換が早い気もする。
    たとえるなら、バイク仲間に「ざっと流そうか?」と誘われてついて行ったら、知ってる道なのに全く追いつけない、という感じか。新書とはいえ、かなり集中して読まないとあっという間に置いていかれる。

    アマルティア・センも、ディルタイもたしかに読んで「知っている」はずなのだが、理解したことを本書のように言葉にできないのは諦めるほかないのか。

    金曜の夜とか疲れた状況でなければもっといろいろ書けたとおもうのだけど。

  • この先生は我が国の80年代ニューアカがどうも好きでないらしく嘲笑気味の短文が載るばかりだが、そのあおりかどうかデリダ、ドゥルーズを抜きに現代思想を語ろうという試みは野心的かもしれないが少々無理があるのは否めない。ハーバーマスの「支配関係のない理想的発話状況」やギアツの「対話的相互理解」あたりではやはりポストモダンの相対主義は収斂しきれない。それよりもカントが永久平和論で唱えた商業精神推奨が経済原理として自己目的化した非をたしなめるインド人経済学者につながる系譜をたどってみた方がアンチ資本主義史の学習としてはおもしろそうだ。ディルタイ~ハイデッガー~ガダマー~リクールと続く解釈学はオートポイエーシス理論に低通する感じと、音楽に転用してみたいという欲求を目覚めさせる。発見はあるものだ。

  • 本当に軽い書物。
    これでもかというくらいの人数の学者を盛り込みながら、近代後の社会思想の見取り図を示してくれる。最後の参考文献の量は圧巻である。この薄さであの量の思想を紹介するのだから、一人一人の記述は本当にごくあっさりしている。
    これから入学する大学一年生などに勧めたい。

  • 「社会思想」といっても何のことか僕にはピンとこないのですが、この本における「社会思想」というのは、ざっくりいえば、高校の倫理で習うことそのものです。つまり、高校で倫理をやった人にオススメの1冊。一応、「大概のヨーロッパの啓蒙思想=ヨーロッパ至上主義な社会進化論っぽい」という前提のもと、現代の日本の(世界の?)ヨーロッパの思想を重視する傾向を批判する、というテーマに沿って展開されるのですが、正直、そんなテーマはどうでもよくて、倫理で出てきた有名人を、これでもかというくらいに網羅してくれているところが、懐かしくて楽しくなります。この手の本だと、岩波ジュニア新書の『ヨーロッパ思想入門』がポピュラーな気がしますが、出来不出来はわからんけど、個人的にはこっちのほうが面白かったです(というか、読みやすい)。

  • 社会思想についての入門としては非常にいいと思いますが、これもある程度予備知識がないとついていけない部分がある。
    新書なので、紙数に限りがあるためかなり駆け足。
    わかりやすく書こうとしているのだろうが、思想史に詳しくない私などは、何度も読み返してしまった。

    また、歴史的事実と、思想の発達を力説しながらも、間違った歴史認識が随所にみられたため、偏ったイデオロギーを基に書かれているのが残念。
    もっと客観的な視点で書いて欲しかった。

    近代の思想をコンパクトにまとめているため、思想史の入門編としては評価できるかなといった感じ。

  • ・「「この現代社会が、過去とどのような意味で連続してあり、また、いかなる意味で断絶してあるのか」といった歴史的な視座から問うたとき、私たちはどのよう答えを示すことができるでしょうか」」

    ・「社会思想」とは・・・中略・・・政治、経済、文化、宗教、歴史、自然などの多種多様な局面が織りなす社会のあり方と、それに対する人間の関わり方について考える思想」」

    ・「社会思想史とは、歴史的に形成された現代社会を思想というフィルターをとおしてとらえ、未来社会を構想するための、過去の思想の蓄積との対話である」

    ・社会思想の変遷をコンパクトに圧縮してあるのだけど、人物と社会思想に関する知識がまったくない状態でいきなり「最初の一冊」として読んでも、まったく内容がわからないだろうな。

    ・他の社会学入門本にもダーウィニズムのことが書かれていて、19世紀にダーウィニズムがデカルト以降の人間中心、人間優位の考え方に変更を迫ったというのが後の思想に多大な影響を与えたというのは、あらためて近代社会への衝撃として重要なトピックだったんだなと。

    ・リンク
    https://booklog.jp/users/takeshimouri?keyword=%E7%A8%AE%E3%81%AE%E8%B5%B7%E6%BA%90&display=front

  • ハンティントンが文明の衝突を言う時、そこには非西欧文明に対する警戒が色濃く現れていた。東西冷戦が終結した1990年代以降に注目された社会思想は、80年代の思想と大きく異なるものだった。

  • [ 内容 ]
    いま社会思想史を学ぶ意義はどこにあるのか?
    九〇年代以降、世界そして日本社会のありようは激しく揺れ動いてきた。
    明日への不透明感は増す一方であり、人びとの抱く閉塞感も高まるばかりだ。
    そうした時代だからこそ「いま、ここ」をとらえるための揺るぎない視座を手に入れる必要がある。
    社会思想史を学ぶとは、まさに、過去の思想との対話を通じて現代世界を眺める座標軸を獲得することだ。
    近代啓蒙からポストモダンまで、重要思想の核心をクリアに一望する入門書決定版。

    [ 目次 ]
    第1章 現代思想批判から近代啓蒙思想の見直しへ(一九八〇年代の社会思想とは何であったか;世界史の転換と社会思想の転換―一九九〇年代以降 ほか)
    第2章 社会思想史は何を軽んじてきたか―自然・宗教・悪(進化論の社会観―進歩史観から偶然史観へ?;近代啓蒙思想と宗教 ほか)
    第3章 近代啓蒙思想をきたえなおす―立憲国家・市民社会・超国家組織(コスモポリタニズム、ナショナリズム、インターナショナリズム;市民社会論と福祉国家論 ほか)
    第4章 分断された社会をつなぐ思想―歴史・文化・対話(欧米中心的進歩史観からの脱却と相対主義の罠;「解釈学的理解」とは何か―批判的で対話的な歴史・文化理解のために ほか)

    [ 問題提起 ]


    [ 結論 ]


    [ コメント ]


    [ 読了した日 ]

  • 途中まで頑張ってノートにまとめたが、最後に力尽きた。

  • 現代社会を捉え、未来社会を構想するための社会思想史という学問。欧米中心的な進歩史観からの脱却を目指し、多元的な社会を生きていくための社会思想を探る。
    あまりにさらさらとした語り口調なので、引っかかりにくいかなあと思いつつ、扱っている主題からするとこのくらいの距離がちょうど良いのだと思います。

    本書で紹介されている社会思想について、印象に残ったものを。

    ・集団的権利と集団に属する個人の基本権を共に保障する政策によって、文化の多様性と文化横断的価値(人権)の両立を目指す、多文化主義。これを唱えるキムリッカは、1948年の世界人権宣言を人権革命とし、その延長上に多文化主義を捉えている。
    このキムリッカを、本書は「人権以外の諸価値についての関心に乏しい」と批判しているのが印象的だった。内田樹っぽいなと思った。

    ・そしてキムリッカより評価されているのがテイラー。個人の権利や自律性に基礎を置くリベラリズムには、一つの価値を絶対化する危険性が付随していると考え、個人の権利を多様な諸価値の中の一つとみなし、異なる価値や宗教間の対話の中で、重なり合う合意を見出していくことを提唱している。

    ・社会思想史における三木清の立ち位置。当時の極めて限界づけられた歴史状況の中で、彼が中国と日本の比較文化史的な研究を行い、三民主義を唱えた孫文を評価しながらも民族主義を超えようとしたこと。白人の帝国主義的侵略に対抗しながら、自らも中国へ侵略している日本の矛盾を告発したこと。彼が生きた時代の酷薄さと偏狭さを考え合わせると、信じられないほど先見の明に満ちたトランスナショナルな思想である。こんなにも賢い知識人を有しながらも開戦に踏み切り、さらに治安維持法によってこの知識人を投獄し、獄死させた日本という国を想うと本当にやりきれない。

    ・日本の「和」は比較社会思想の素材として世界に誇れるものである。「和して同ぜず」というように、和は、どこまでも文化や歴史の多様性や違いを承認したうえで、調和や平和を保つことを意味する概念といえる。

    本書は、ユネスコ憲章の序文、「戦争は人の心の中で生まれるものであるから、人の心の中に平和の砦を築かなければならない」を念頭におきながら、人類レベルでの公共的な価値に寄与する学問としての社会思想史の可能性を示唆する。社会思想史という学問の入門書として最適でした。

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著者プロフィール

東京大学名誉教授
1949年青森県生まれ.
一橋大学経済学部卒業、上智大学大学院哲学研究科を経て、1982年ミュンヘン大学にて哲学博士号を取得。1988年4月から1993年3月まで東京大学教養学部助教授、1993年4月から2013年3月まで同教授および1996年4月以降東京大学大学院総合文化研究科国際社会科学専攻教授。2013年退官。2013年星槎大学教授、2019-2023年まで同学長。
現在は、東日本国際大学客員教授、星槎大学特任教授、朝日カルチャーセンター講師。

「2024年 『分断された世界をつなぐ思想』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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