理想だらけの戦時下日本 (ちくま新書 1002)

著者 :
  • 筑摩書房
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感想 : 20
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  • Amazon.co.jp ・本 (263ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480067111

作品紹介・あらすじ

日中戦争中、格差の是正・政治への不信・共同体志向などが大衆の間に広がっていた。その様相はまさに現在の日本と重なる。そういったなか、戦争勝利へ向けて国民を一致団結させるために国民精神総動員運動が開始される。「日の丸を敬う」「節約した生活」「前線と心を共にする」など上からの国民運動が巻き起こった。果たしてこの運動は当時の国民の期待に沿うものだったのか。その実態はどのようなものだったのか。いままで見逃されてきた戦時下の日本社会を克明に描く。

感想・レビュー・書評

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  • 「日本を取り戻す」って「どの日本を取り戻すの?」というツッコミはナイス。「そんなアンタの理想の日本なんてどこにもないのでは?」という問題提起から戦時下の日本人の生態を検証。当時既に家族共同体や地域共同体もなくなっているようだし、皆それなりに自由気ままに暮らしてしたらしい。「国民精神総動員運動」があまり機能しなかったのは、日米開戦前だし、当時の人々にもあまり危機感とか切迫感もなく、モノや娯楽を追い求めたんじゃないのかなあという印象。
    資料として読む分にはそれなりに参考になるのだが、少々引っかかるのは著者が現代との類似性からいろいろと提言している点。経済成長して上方平準化ってのは現実的には無理だろうし、する必要もあるのかと。もうこれだけモノが溢れている現代においては大衆消費社会は終わってるし、格差社会といいつつ、モノには十分満たされているし(世代格差はなくすべきとは思うが)。逆に言えば、モノより心(精神)に向かい易くなっているとも言えなくもなく、その風潮を都合よく利用しようとする政治・宗教・企業・その他勢力が増大する事は危惧しなきゃいけないとは思うが。

  • ≪目次≫
    はじめに
    第1章  「体を鍛えよ」といわれても
    第2章  形から入る愛国
    第3章  戦前昭和のメディア戦略
    第4章  気分だけは戦争中
    第5章  節約生活で本当に国を守れるのか?
    第6章  戦争の大義はどこへいった?
    第7章  ファシズム国家になれなかった日本

    ≪内容≫
    日中戦争時の国内の社会の様子がよくわかる本。
    さまざまな事例を詳らかに並べてあるので、読むのにはややかったるいですが、今まで「一億総戦争」だったのかな?と思ったが、とんでもなく普通の(現代のような)生活をしていたんだな、とわかりました。
    もうちょっと現代と対比して、今が昭和10年代に逆コース状態、と指摘するのか思ったら、そうでもなかったですが、よ~く考えてみると、似てるよね、と。政治家をあまりのさばらせていると、結局自分たちの首を絞めるのかな…

  • 国民精神総動員運動がいかに推進され、形骸化・衰退化していったかをエピソード的に論じた一冊。「おわりに」で言及している、下方平準化社会を志向すると社会に暗い情念が渦巻く、というまとめは示唆に富んでいる。

  • 日中戦争当時の「国民精神総動員運動」がいかに「失敗」したかを論じた本。
    1931年 満州事変
    1932年 5・15事件
    1933年 国際連盟脱退
    1935年 天皇機関説事件
    1937年 盧溝橋事件、日独伊防共協定、南京攻略戦
    ときて、国民精神総動員運動(精動運動)とくれば、暗黒時代の始まりかと思いきや、実はそうではなかった。
    お上が乱発するスローガンや◯◯運動は食傷気味、贅沢撲滅運動は抜け穴だらけ、国威発揚映画にはからっきし人気がなく洋画は超満員、肉体労働ばかりの勤労奉仕は評判が悪く、国防婦人会と愛国婦人会は内輪もめ、挙句、戦争の大義名分であるはずの「肇国の大理想」だの「日本精神」だのの中身も一向に定まらない。
    そんな様子を、マスコミは好き勝手に批判したり揶揄したりする。
    結構、グダグダなのだ。

    なぜグダグダになったかというと、国威掲揚のための「日の丸展覧会」だの銃後の守りの「家庭報国展覧会」だのがデパートの催物場で行われていたというエピソードが象徴的なのだけれども、昭和初期には既に大量消費社会が到来していたから。さらに、都市部にあっては地域の共同体ももう崩壊していた。
    上から押し付けようが、下から盛り上げようとしようが、擦れっ枯らしで飽きっぽい臣民の精神は、並大抵のことでは総動員されなかった。

    そんな精動運動は、戦争の大義名分を確立して国威掲揚を図るという(失敗したけど)側面の他に、国民生活の平準化・平等化をも志向していたという点は興味深い。
    贅沢は敵だ的な国民生活の平準化・平等化には、都市のリベラル層は白けていたとしても、労働組合や農村部は精動運動にノリノリだった。
    この辺り、当時の無産政党は軍部に協調的だったことや、2・26事件の青年将校に農村部出身者が多かったことと考え合わせるとちょっと面白い。

    そして結局、大量消費社会もその大量消費社会へのアンチテーゼにして戦争の大義名分たる八紘一宇の精神も日本精神も、大日本帝国まるごとアメリカの圧倒的な物量にまとめて押しつぶされてしまうというのは結構な皮肉だ。

    精動運動とその失敗を受けて始まった大政翼賛会(の失敗)を議会制民主主義、わけても政党政治との関係に求める著者の筆の運びには、え?と思った。ちょっと説明が足りない印象。

  • 朝ドラで’’戦時下の庶民生活’’がえがかれていたので手に取った。この本は戦時下といっても、太平洋戦争に突入する前の日中戦争時代の、国民精神総動員運動に端を発した、ラジオや映画・体育・日の丸と君が代などに絞っており、アメリカから経済封鎖されて太平洋戦争に突入した後の極端な窮乏は示されていないので、全く物足りなかった。いつ日中戦争が終わるかわからない、いったい日中戦争は何の目的で続けてるのかぴんと来ない厭戦気分の蔓延は感じられたが。とにかく本のタイトルに偽りアリ。唯一、上流階級で構成されている愛国婦人会と、庶民階級で構成されている国防婦人会の、お互いをけなす面は、戦時下だろうといつの世も女性グループてこうなっちゃうのね、という現象を垣間見れたが。

  • 東2法経図・6F指定:B1/7/Inoue

  •  対象は1937-40年。社会の様々な側面を国民精神総動員運動=精動運動を軸に見る、との内容だ。体育、日の丸と君が代、ラジオと映画、愛国/国防婦人会、隣組、節約奨励など。しかし息詰まる統制というイメージからは遠い。同時期の大衆消費社会に戦争景気、物資主義。39年夏以降に米による対日経済制裁が本格化するまでは物資もそこそこ豊富。精動運動が目指した社会の平準化には限界があったようだ。詰まるところ、上からの国民運動は浸透しにくかったということだろう。
     39年夏以降は様相が異なってくる。物資耐乏と厭戦気分が広がる中、上から「日本精神」と言われても、その理念と現実は乖離していく。そして新体制運動の中、精動運動は解消される。著者によれば、精動運動の理念は政党政治と結びつかなくては実現しなかったとのこと。精動運動は消滅し、代わる大政翼賛会も国民を統合し得なかった。

  • 歴史
    政治
    社会

  • テーマは、国民精神総動員運動。
    (戦前日本史の3部作)
    戦前昭和の社会 7FS210.7イ 市立210.7イ
    戦前日本の「グローバリズム」 県立 8F社会科学319.1イ 市立319イ
    戦前昭和の国家構想 講談社選書メチエ 県立 8F社会科学311.2イ 市立311イ 大学文庫311.21I57

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著者プロフィール

井上寿一
1956年(昭和31)東京都生まれ。86年一橋大学大学院法学研究科博士課程単位取得。法学博士。同助手を経て、89年より学習院大学法学部助教授。93年より学習院大学法学部政治学科教授。2014~20年学習院大学学長。専攻・日本政治外交史、歴史政策論。
著書に『危機のなかの協調外交』(山川出版社、1994年。第25回吉田茂賞受賞)、『戦前日本の「グローバリズム」』(新潮選書、2011年)、『戦前昭和の国家構想』(講談社選書メチエ、2012年)、『政友会と民政党』(中公新書、2012年)、『戦争調査会』(講談社現代新書、2017年)、『機密費外交』(講談社現代新書、2018年)、『日中戦争』(『日中戦争下の日本』改訂版、講談社学術文庫、2018年)、『広田弘毅』(ミネルヴァ書房、2021年)他多数

「2022年 『矢部貞治 知識人と政治』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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