死刑 その哲学的考察 (ちくま新書)

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著者 : 萱野稔人
  • 筑摩書房 (2017年10月5日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (318ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480069870

死刑 その哲学的考察 (ちくま新書)の感想・レビュー・書評

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  • 基本的にはとても良かった。私は死刑反対派だが、賛成にしろ反対にしろ一分の理以上のものがあるので、どちらの意見に与するにしても難しい。日本では賛成派が圧倒的なので、反対派としてはどう反対するのか、はかなり理論武装しないといけない。本書は著者が反対派寄りとはいえ、結論ありきではないので、賛成派にも自分の意見を確認し、改めて正しいと思えるかどうか考える良い機会になるのではないか。反対派にとって最も困るのは「じゃあお前の家族が殺されてもいいっていうのかよ!」という感情論で、それは家族が殺されたらそりゃ殺したいわ、と思うし、最高刑が死刑な現実の中で、最高刑しか妥当じゃないという判断は当然あるわけで…。また反対派としても「冤罪の可能性があるから」は、「冤罪の可能性が絶対無い事件」の前には論として弱い。当然宗教を絡ませてはいけない。いつだったか、私があるクリスチャン上司に死刑反対を語った所、「お、キリスト教でもないのに珍しいね」と言われ、あぁ通じないなあと感じたことがあったが、そう、宗教的背景を基に論じたって、それを共有していなきゃ何の意味もない。精神科医としての私にとっての死刑反対のための論は、「犯罪志向の高い方向に向かう脳を持ったのは誰の責任なのか」「一定の生物学的条件がある中に環境が整ってしまえば重大犯罪傾向が育つのを本人のみの責任に帰するのはフェアではないのではないか」という疑念から成り立つ。つまり生物学的要因x環境の掛け算が人を犯罪方向に向かわせてしまうので、そういった不幸を死刑という形で本人に一切の責を負わせてはいけないのではということだ。2011年ノルウエーでブレイビクという青年が起こした銃による大量殺人で彼の刑はたった11年だった。遺族の判決自体は受け入れているコメントを聞くと、北欧では殺人者にさせてしまった社会の責任という概念が共有されているようには感じた(正しいのかな?)。そういった側面に対する議論が本書には薄いのは残念だった。

  • 政治や国家といったプラグマティックな問題についての論考で知られる哲学・社会理論研究者の著者による死刑論。

    本書の前半は、カントの思想をベースにしながら、道徳的な観点から死刑の是非を考えるところからスタートする。そうした議論の中で、道徳とは普遍的なものではなく、状況により変化するものであること、道徳の根源とは人間の”応報論”、つまり「やられたらやり返す」という極めてプリミティブな心情にあることを明確化した上で、そうである以上、重度の犯罪に対して、死刑により天秤が釣り合うと考える人もいれば、死刑では釣り合わないと考える人もおり、必然的にどちらかに決まるということはあり得ないということが見えてくる。このような”価値の天秤”を前にしては、論理的に死刑賛成もしくは反対という結論を出すことはできない、となる。

    続く後半では政治哲学の観点から、死刑の是非が論じられる。ここでのポイントは、死刑と切り離すことができない冤罪の問題をどう考えるかである。政治哲学の観点から考えるということは、言い換えれば国家による権力執行の1手段として死刑を考えるということであるが、そうすると「公権力の自己防衛」、つまり公権力は自らの無謬性を常に完璧に証明しなければいけないがために、冤罪は必然的に生まれてしまうのではないか、という疑念が提示される。我々がよく想起しがちなように、冤罪とは決して人為的なミスにより発生するのではない。公権力は常に自らの力を国民に対して示す必要性がある以上、一度誤った判決を下してしまった後にそれを認めるということは極めて困難であり、だからこそ冤罪が発生する、ということである。

    よって、後半の議論を受けた本書での結論は、死刑における冤罪の問題は公権力のメカニズム的に不可避である以上、死刑は廃止すべき、となる。ただし、前半の議論を受けて、応報論という道徳的感情も関係する以上、現在のような釈放の可能性がある無期懲役ではなく、その代わりに実質的な終身刑の導入を提案する。

    本書は死刑の問題を道徳と政治哲学の観点から考えるという一見まどろっこしいように見える議論を踏まえた上で、提示される結論は極めて現実的、プラグマティックなものである。本書では、ジャック・デリダのように「死刑に対して無条件の赦しを与えるべき」という考え方がいかに現実的にはバカらしく、デリダをありがたがる日本の現代思想家をコケにするような箇所が出てくるが、そうした議論も含めて、思想の分野でありながら極めて地に足のついた論理展開がなされる点に非常に好感を持った。

  • 死刑という制度を道徳的視点と政治哲学的視点から論じた書籍。

    平易な文章かつかなり細かい部分に関しても抜けが無いように落とし込めており、決して少ないページ数ではなかったが、一気に読み通すことが出来た。

    唯一の欠点としては一度脱線するとかなり長いページ数が割かれてしまうこと。一瞬本題を忘れてしまうぐらい脱線してしまうので読む際には注意が必要。

  • 本書は、「死刑」を哲学の観点から考察する書です。まず、文化や特定の価値観から、死刑に賛成することも、反対することもできないという点を論証し、次に死刑の是非を判断する上で最も重要な点として、冤罪の存在を挙げ、結論的には死刑は廃止(し、終身刑を導入)することが適当という結論を導いています。これまで死刑には賛成の立場でしたが、再考を迫られる結果となりました。

  • 死刑について丁寧に論じており良書。自分も前々から死刑は廃止して、死への逃避を許さない、仮釈放なしの「厳しい」終身刑か超長期刑を法定すべきと思ってたので、著者に大賛成。懲役300年とか求刑したい。

  • 2017年11月19日に紹介されました!

  • 東2法経図・開架 B1/7/1281/K

  • 326.41||Ka

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