日本の人類学 (ちくま新書)

  • 筑摩書房
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感想 : 9
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  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480071002

感想・レビュー・書評

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  • 適度な歯応えの良書。

    オビには東大(遺伝人類学)vs東大(霊長類学)とあるけれど、東大のアンチテーゼとしての京大のスタンスがありつつ、自然人類学と文化人類学の知が交わっていけば良いと、両者が切望する。
    知識だけでなく感じる所のある一冊だった。

    さて、人類学と言うと、類人猿の研究かな、とかサルがホモ・サピエンスになった話かな、という遠い遠い昔を連想させる。
    けれど、ゴリラやチンパンジー、オランウータンがどのように分岐し、どのような特徴を有するか。
    それは、ヒトとどのような関係があるのか。
    こういった視点は、今、ここにいる私たちの生活の何かを解き明かすかもしれない。

    個人的には、金髪碧眼はどのようにして生まれたかの項目が面白かった!

    「文化というのは普通、目に見えない。目に見えるものは行為であったり、ものであったりするわけです。一方でものをつくらない動物にとっての文化とは、ある新しい行動様式が遺伝によらず、他の個体に伝播していくことです。」

    「武器を使って組織的な争いをするのが戦争で、狩猟採集民にはありません。」

    「狩猟採集民というのは男が主導するから、男が権力を持つ社会だと誤解されている節があるんだけど、実はそうではなくて女性もすごく強いんですよね。先ほど武力について少し触れましたけど、農耕社会になれば男系社会に移行する。」

    「その通りです。戦争をやるから男が威張りだす。」

    「農耕民は土地に投資をし、栽培したものを守らなければならない。狩猟採集民が森の友と思っていたものを、農耕民は畑を荒らす害獣として排除しなければならない。」

    「自分が(コミュニケーション、集団に対して)犠牲を払うことによって喜びを得るという精神構造がある。これはつい最近まで日本人が持っていた精神構造なんですが、今ではどんどん失われつつある。」

    「初めはむずがる赤ちゃんに対して発せられていた音声が大人の間に広がり、心を同一化させるようなファンクションを持って普及した。お母さんが言葉のわからない赤ちゃんに音声で働きかけ、安心感を与えるような作用が大人同士でも芽生え、それが人々につなぐ接着剤になっていったのではないか。」

  • いやあ、おもしろい。おもしろすぎる。おもしろすぎる話題を1つ。「人間が裸になったのは120万年ほど前という説があります。陰毛に住み着くケジラミと頭髪に住み着くアタマジラミでは種が異なり、彼らはいずれも毛がないところを渡っていけない。毛があるところが2つに分かれたとき、人間は裸になった。DNAをたどっていくと、それは約120万年前に起きたというデータが出てきた。」電車の中で読んでいて、思わず吹き出しそうになった。すごいことを調べている人がいるもんだ。思春期スパートについて話している件で山極先生がいう。「・・・好奇心がぐっと広がる時期でもある。ですからこの時期にどういう人が先導し、支えるかが重要になってきます。人間は一人では生きられず、そこにはいろんな人がモデルとして登場してこなければならない。そのとき、思春期の子どもたちをどのような人的環境が支えるか。これは人格形成にとって重要な時期で、・・・。」そういう重要な時期の子どもたちを預かっているのだという自覚が我々には必要だと改めて思った。自然人類学と文化人類学が上手に手を結ばれることを期待しています。

  • h10-忠生図書館2018.1.25 期限2/9 読了1/27  返却1/28

  • 人類学にも自然人類学と文化人類学等の種類に分けられているみたいなのですが、本書は自然人類学についての対談がメインでした。確かに人類学というものは馴染みが薄く、あまり意識したこともなかったのでしたが、 人間の本質を知るのに人類学という分野は非常に大事だと思いました。勢いが弱まりつつある人類学ですが、本書を読んだのを機にもっと知っていこうという思いが芽生えました。

  • 2000万年前、類人猿は何十種類もいたが、サルは少なかった。サルは、サバンナに出て多産になると、森に戻ってきてから栄え、類人猿を追い詰めた。人類もサバンナに進出して多産になった。

    デニソワ人は、64万年前にネアンデルタール人から分岐した。現在のメラネシア人やオーストラリア原住民、フィリピンのネグリト人のゲノムには、デニソワ人のDNAが数%含まれている。インドや東南アジアの人たちのDNAには、デニソワ人の痕跡は全くない。

    単独生活やペア社会の動物は、雌雄の体格差がない。規模の大きな群れ生活をする動物では、オスがメスより大きくなる。複数のオスが共存する群れ社会では、厳格な優劣の順位ができる。母系社会では、ニホンザルのような階層性を持つが、父系社会の類人猿は、平等な関係を保とうとする。

    チンパンジーは個体の利益を最大化するために連合して戦うが、人間の集団間の戦いでは、集団の利益を最大化するために個人が奉仕する。

    夜行性の原猿類は、単独で縄張りを持った生活をする。昼行性になって群れが大きくなると、食料を求めて広い範囲を探さなければならないため、縄張りを維持できない。ヒトも狩猟採集生活までは縄張りを持っていなかったが、農耕や牧畜を始めて、広い範囲を動き回らずに済むようになると、縄張りを持てるようになった。

    人間の子どもは、脳を成長させるために体脂肪率が高い。赤ちゃんは重いので、母親は抱き続けることができず、置いてしまう。母親が赤ちゃんに働きかけるために声をかける。それが大人の間に広がり、心を同一化させる機能を持って普及した。音楽の起源と考えられる。

    アフリカの野生動物は、人の活動に適応していたため、気性が荒く、一種たりとも家畜化されていない。

    religionの語源であるラテン語のreligioは、集まるという意味。

    頭髪のアタマジラミと陰毛のケジラミは種が異なり、DNAの変異から120万年前に分かれた。人間が体毛を失ったのは、その頃と考えられる。コロモジラミは、7万年前にアタマジラミから進化しており、衣服の起源がその頃と推定される。

  •  人類学は京大と東大が両輪のごとく、それぞれの特徴を生かしつつ発展してきたとのことで、京大の山極(現総長)、東大の尾本両氏の対談が実に楽しい。尾本氏からすると人類学の学者が総長になるのは、いかにも京大らしく羨ましいとのこと。東大は分子人類学、遺伝子研究に、そして一方では京大は霊長類学に特色。霊長類学は本来は人類学と動物学の狭間の領域。今西錦司氏以来の伝統で、それが日本の人類学の権威になっていることに誇りを覚える。ルワンダの山奥で26年ぶりに出会った34歳のゴリラのタイタスが、山極氏を憶えていた!近づいてきてまじまじと見つめ、子供っぽい表情になったという!34歳は老年の域になるらしい。この実話は本当に感動的だった。ゴリラとチンパンジーの性格の違いで、チンパンジーは相手を理解しても助けてやらない。ゴリラは相手を助けようとするいかに平和な動物かということが印象的。いずれもヒト科の動物で、サルよりも人間に近いらしい。確かに「彼ら」を研究することが人類の理解に役立つことは間違いない!

  • 東大人類学と京大人類学とのポジションの違い、すなわち日本の人類学の歴史がよくわかる本だ。また、最新のヒトの進化研究の到達点も知ることができる。
    「サル学」は実に面白い。
    本書は対談であるために、二人の学者の文明観や人生観もほの見えるが共感を覚える。
    小生の思想はリベラルだが、人類学者はサル学からの視点からもリベラルにならざるを得ないのではないかと思ってしまった。
    本書を高く評価したい。

    2017年12月読了。

  • 東2法経図・開架 B1/7/1291/K

  • 2014年より京大総長に就任した霊長類学(特にゴリラの研究で著名)を専門とする山極氏と、東大で長らく遺伝人類学の権威として活躍した尾本氏という2人の人類学者が、現代における人類学の意義について語った対談集。

    期待の割には東大と京大を代表する人類学者のポジショントーク的な部分が非常に多く、スリリングな知的興奮が得られる場所が少ないという印象。

    ただ、最終章の「これからの人類学」のパートだけは、純粋に面白く、ここに本書の面白さは凝集されているという印象。

    特に、
    ・インターネットの大きな特徴の一つは「何度でもやり直しが利く」という点にあり、徐々にそうした世界観が普通のものだと子供たちは考えるようになってきている。一方、自然は「二度とやり直しが利かない」という特徴を持っており、世界い対する見方が180度違う。自然との触れ合いがもっと必要ではないのか
    ・かつてのコミュニティが存在していた社会と異なり、現代では個人が孤立した存在として置かれやすくなっている。そうした社会では、独裁国家によるコントロールが容易になってしまう点に危機感を感じる
    というあたりの議論は非常に面白い。

    後者はまさにハンナ・アレントが「全体主義の起源」において述べている内容と同一のコンテクストに置かれ得るものであり、政治学と人類学という全く異なった学問的バックグラウンドを持つ両者が同じような結論を持つに至ったという点に興味を持った。

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著者プロフィール

第26代京都大学総長。専門は人類学、霊長類学。研究テーマはゴリラの社会生態学、家族の起源と進化、人間社会の未来像。

「2020年 『人のつながりと世界の行方』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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