歴史人口学事始め (ちくま新書)

著者 :
  • 筑摩書房
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感想 : 11
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  • Amazon.co.jp ・本 (336ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480072993

作品紹介・あらすじ

2019年に逝去した歴史人口学の泰斗・速水融の遺著。欧州で歴史人口学と出会い、日本近世経済史の知られざる姿を明らかにした碩学が激動の時代を振り返る。

感想・レビュー・書評

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  • 歴史人口学の権威で、文化勲章受章者である著者の伝記。著者は1929年生まれであるが、特に戦前、戦中、戦後まもなくの記述が面白い。著者が歴史人口学の第一人者となったのは、偶然の出会いがきっかけであったと書いているが、実際、多くの成功は偶然から始まることが多いのだと思う。要は、それをものにできるかどうかだ。それが認識できたことが一番の収穫であった。
    「ナポレオン、アインシュタイン、それにドストエフスキーといった超有名人もてんかんだったと、何かの本で読んだ記憶がある。私はこれを、てんかん持ちの中にもそういう偉人がいるのだという心の拠りどころにしている」p38
    「中学での成績が受験校の判断材料となることは必至なので高望みはできず、府立一中生としては控えめに、慶應義塾大学を受けることにした」p83
    「戦後、航空自衛隊の創設に寄与したという理由でカーチス・ルメイに勲章が与えられたが、このような大都市焼夷弾攻撃を指揮した彼に勲章を与えることは簡単には割り切れない気がする」p88
    「(フランクリン・ルーズベルト大統領の急死)朝日新聞の論調は、敵国の最高指導者の死に際して、それを喜ぶべきとする記事はなく、むしろルーズベルトの行った失業問題解消政策、ニューディール政策を評価するような論調さえ見られた。使者に鞭打つことを否定し、その功を認めている。「一億玉砕」を叫んでいた政府のもとではおかしいな、という気もしたが、朝日新聞欧米部長 福井文雄氏が書いている一文「ルーズベルト」などは、ルーズベルトを、交戦中の敵国の大統領としてではなく、一人の偉大な政治家として取り扱っている。極端に言えば、これは和平への一つのシグナルとさえ読める。後で知ったことだが、ルーズベルトの死に対して日本の首相が弔電を打ったことを、存命中のトーマス・マンが「日本の武士道」として讃えた。その一方で、大統領の死に対して、極端に言えば「ざまあみろ」の論調だったナチス・ドイツの態度に鈴木首相は、怒りを表明していたらしい」p90
    「数少ない小学校時代の同級生として俊次君はかけがえのない友人である。私が歩行困難になり外出が困難となってからも、拙宅まで来ていただき、大いに昔を思い出し、久しぶりに愉快な数時間を過ごすことが私にとってはこの上ない喜びである。こういうのを「久闊を叙する(きゅうかつをじょする)」と言うのだろう」p144
    「人生を振り返ると、いくつかの事柄と偶然に出会っているが、この出会いほど大きな意味を持つ偶然はない」p228

  • 日本の歴史人口学の権威 速水融 による自伝「歴史人口学事始め」 


    著者は、歴史人口学を 日本に初めて導入し、江戸時代の人口動態分析から 勤勉革命や日本複合民族国家説を提唱した経済学者。歴史人口学は 歴史学に近いと思うが、経済史の一分野という位置づけらしい。


    日本の歴史人口学は 先進国に共通する人口減少と経済停滞の問題に関する処方箋を出してくれそうな気がする


    学校と本の違いについての名言「学校において、先生や同級生との付き合いから 生きている社会を学び〜常識を作る。本からは 常識以外の知識を得る〜読書は探究に似た面白さに満ちた行為」


    太平洋戦争における外交の失敗(ポツダム宣言の黙殺)
    三木清獄死事件における治安維持法の拡張解釈 については、著者は 当事者であり 憤りを表している。この歴史から何を学ぶのか、読み手に問いかけている










  • 『大正デモグラフィ』を以前、興味深く読んだ。
    そこで歴史人口学という学問のあることも知った。
    その著者の一人、速水融(はやみあきら)さんの著作と聞いて、読んでみたいと思った。
    速水さんは19年に亡くなったばかりだということもある。

    当初、歴史人口学の入門書かと思っていたので、ちょっとびっくりした。
    というのは、これは速水さんの自伝だから。

    幼時から筋金入りの鉄道マニア。
    時刻表からヒントを得て、宗門改帳のデータを整理するBDSというシステムを考案することにつながる。
    こんなところが愉快。

    歴史人口学は経済学をベースとしている学問かと思っていたが、速水さんは歴史学をからこの分野に入った人。

    一方では、戦争でキャリアを積むのに支障があったことも生々しく書かれている。
    1929年生まれで、学生時代は戦争の混乱期。
    勤労動員やら、繰り上げ卒業やら、学制改革やらで、本来の就学期間より五年半短かったと聞くとびっくりする。
    結果的にこの人は大学者になったので良かったのだが、それでも、他の年度の人より基礎がないと思い続けてこられたという。
    たしかに、日本史専攻で、大卒で「乍」が読めなかったというのだから、どれだけ影響が大きかったかわかる。

    両親の出身が三重県だったとのことで、1946年の東南海地震も経験したとある。
    記録があまり残っていない地震なので、当時の状況が知ることができたのもよかった。

    この本をほぼ書き終えたところで、急逝されたという。
    90歳に近い年齢でこれを書いていたということだ。
    大局的な社会の動きと、ご自身の体験が関連付けられ、こういう点がさすが歴史学者だなあ、と感動する。

  • <目次>
    第1部  誕生から中学まで~1929から1945
    第2部  終戦~1945から1948
    第3部  大学入学から常民研まで~1948から1953
    第4部  歴史人口学との出会い~1953から1964
    第5部  宗門改帳との出会いと「BDS」の考案~1964から1989
    第6部  人口減少社会における研究の展開~1989から2019

    <内容>
    2019年末に亡くなられた速水融先生の自叙伝のようなもの。脱稿前に亡くなられたようで、解説の部分を読むと、最後の頃はもう執筆もできなかったようで、第5部辺りは他の論文やエッセイを再編集したものらしい。弟子の磯田道史さんの本を読んで、速水氏の「歴史人口学」を学びたいとも思ったが、文春新書(『歴史人口学から見た日本』)は、絶版になっているようだ。伝記からは本人の筆だからこそか、かなり恵まれた人生だったように思った。学者らしい、でも結構無鉄砲な部分もあるひとだったんだな、と。 

  • 2020年6月読了。
    あることがキッカケで歴史人口学に関する図書を読もうと思いAmazonで調べて購入した。
    内容は歴史人口学の泰斗の自叙伝的な内容で、如何なる経緯で歴史人口学が日本に持ってこられたのか、その周辺知識を得るには良い本だが歴史人口学とはそもそもどのような問いに対してどういった識見を提示しているのかまでは本書では分からなかった。
    ネット検索だけで図書を探す精度を高めることが必要だと感じた。

  • 日本の歴史人口学を切り開いてきた著者による自叙伝。著者の逝去により、肝心の歴史人口学に関する研究者人生に関する部分があまり書かれずに終わってしまったことが、大変残念である。それでも、新しい研究分野に向かう契機や新しい分析手法の開拓に関する箇所等は、興味深いものがある。

  • 新聞の書評欄の紹介が面白かったので読みたくなった本。書評の影響は大きい。そもそもぼくにとって「人口学」などということばは聞いたこともなかったからだ。速水さんは日本における人口学の創始者であるだけでなく、欧米の研究者たちとネットワークをつくり、その発展に貢献した人であるらしい。最後には文化勲章ももらっている。本書は事始めとはいうものの半分以上は速水さんの自伝である(これは他の本でもふれている)。それを読むと、速水さんは若い時代に慶応大学の副手に採用されるが、そこまではそれほどぱっとしない人生である。そんな速水さんの人生を変えたのは、慶応時代に留学の機会を与えられ、そこで出会った2冊の人口学の本であった。それも自分がつきたい先生につけず、くさっていたときに仲間から紹介された本である。それはキリスト教社会にはどこにでも存在する「教区簿冊」の研究で、「教区簿冊」には教区民の出生、結婚、死亡が記録されているのである。一方、日本には「宗門改帳」というものが大量に存在する。といっても、これは記帳方式が「教区簿冊」とは違い不統一である。しかし、これを系統的に並べれば人口学の貴重な資料となる。速水さんはそう考え帰国後その研究に没頭した。それは手作業を主とするとても機械的なたいへんな作業であったが、速水さんはその整理法も開発し、それはヨーロッパでも採用するところとなったという。人間というのは、こういった出会いが大事である。最初はいやだとか、なんだこんなことかと思ってもそれが自分にとって大きな転換点になることがあるのである。『幕末外交儀礼の研究』(思文閣出版 2016)を書いた佐野真由子さんが、日文研で、自分の研究領域である対欧米外交からはずれた朝鮮使節の発表をしろといわれ、そこから自分の研究領域を広げたことを書いておられたが、これも同じことである。先にも書いたように、速水さんは慶応時代までは鳴かず飛ばずの研究生活をしてきたが、この人口学に目覚めて以降多くの著書と国際的な活動をしてこられた。そういう意味では本書が氏の後半の活動が薄いというのは編者のいうとおりであろう。

  • 東2法経図・6F開架:B1/7/1475/K

  • あきらでは検索しても出てきませんよね。やはり、とおるですね。お名前についての説明もちゃんと本書にありました。著者の本は、岩波の「歴史人口学の世界」を前に大変興味深く読ませていただきました。こういう学問もあるのか、という感じでした。で、今回は自伝ということで、早速読ませていただきました。歴史家が書かれているからでしょう。後の研究者のためにか、戦時中の話など、事細かに書かれており、感銘を受けました。お亡くなりになる直前まで書かれていたようで、後半の章は他で書かれたものをもってきたとのこと。梅原先生との絡みがもっと詳しく書かれているかと思ったのですが、わりとあっさりでした。一番気になったのは奥様のこと。たしか、戦争がひどくなったころに三重まで会いに行かれています。そして、戦後結婚されているはずですが、その後の様子が皆目わかりません。留学中に、少しの間奥様も来られていたというような記述があったと思いますが。あとは、文化勲章を受けられたときの記念写真があるだけ。昭和一桁生まれですから、そんな恋愛話など、はしたないということでしょうか。実は、昨年亡くなった私の両親は、速水先生と同い年になります。私が小さい頃、米軍の飛行機の中にいるパイロットの目が見えて、ぎくりとした、などと言う母の話を聞かされた覚えがあります。本当だろうかと思いますが、もっともっといろいろと聞いておくべきだったのかもしれません。

  • 289.1||Ha

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著者プロフィール

慶應義塾大学・国際日本文化研究センター・駒澤大学名誉教授

「2014年 『西欧世界の勃興[新装版]』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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