- Amazon.co.jp ・本 (400ページ)
- / ISBN・EAN: 9784480098771
作品紹介・あらすじ
国家の発展に必要なものとは何か――。福沢諭吉は生涯をかけてこの課題に挑んだ。今こそ振り返るべき思想を明らかにした画期的福沢伝。解説 細谷雄一
感想・レビュー・書評
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福沢諭吉の生涯の全体をたどった評伝です。
巻末に収録されている「福沢諭吉と伊藤博文」は、著者の講演内容をまとめたものですが、そのなかで著者は、思想史の研究者による従来の福沢研究では「あるときの福沢の主張が現実の政治でどういう意味を持っていたのかとか、どういう状況のなかでどう判断したのかということが、やや見えにくい」と指摘しています。そして、「長らく批判されておりました福沢の朝鮮中国に対する外交論にしても、私などから見ると、かなり自然な無理のない主張であったように思えるのです」と語っています。著者自身は、岡義武のもとで学んだ日本外交史研究の専門家であり、本書では従来の福沢研究の死角になっている論点をとりあげて、あらためて福沢の評価をおこなっています。
また著者は、これまで大学の授業でくり返し福沢の『文明論之概略』や『学問のすゝめ』をとりあげてきたといい、その理由として「維新の変革を理解するために格好の本であるからであり、また日本政治の特質を見事に描きだした本であるからであった」としつつ、「しかしそれ以外に、福沢の生き方それ自体を、学生諸君に知ってほしいと思ったからである」と述べています。
かつて丸山眞男は、「福沢惚れ」によっては福沢は理解できないという服部之総のことばを受けて、逆に「福沢惚れ」によってはじめて理解することのできるような福沢像をえがき出しました。本書もまた、一人の「福沢惚れ」によって書かれた、すぐれた評伝ではないかと思います。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/738716 -
最も興味深いのは「大君のモナルキ」とその挫折の箇所。幕臣時代の福沢は黒歴史であったという事だろう。だからこそ『福翁自伝』にも記載できなかったのだろうが、それ故人生の転換点であるとも言える。基本的にストレートな物言いを信条とし、己を包み隠さず明らかにするというイメージではあったが、長州征伐に熱心であった幕臣時代だけは触れたくなかったという事だろう。
基本的には福沢擁護本なのであまり悪いことは書かれてはいないが、幕臣時代の黒歴史に言及した事は評価できる。人物研究と思想研究のバランスも取れており、福沢の入門書としては良書であると思う。