世界の混乱 (ちくま学芸文庫)

  • 筑摩書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480099358

作品紹介・あらすじ

二十一世紀は崩壊の徴候とともに始まった。国際関係、経済、環境の危機に対して、絶望するのではなく、緊急性をもって臨むことを説いた警世の書。

感想・レビュー・書評

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  • 小野正嗣の訳が上手いのか、恐ろしいくらい読みやすかったし、面白かった。

    『世界の混乱』とあるが、主としてムスリム達がどのような思いを蓄積してきたか、そしてアメリカを代表する西洋諸国はその思いにどう相対してきたか、更にその他の地域に住む人々は……と、軸をどんどん広げながら話が展開してゆく。

    ガマール・アブドゥル=ナセルがアラブを一体化させ、しかしながら敗北したこと。
    その屈辱、疎外感が更にイスラム教への結びつきの強さとして、それこそが捨てられないアイデンティティとして機能しているということ。

    私は、イスラム教そのものというより、ムスリム達が感じてきた歴史、何をもってテロのような攻撃性を掻き立てるのか、ということにずっと興味を抱いている。

    筆者は、キリスト教のような教会という権威を持つ存在のあるなしが大きいと述べる。
    つまり、急な方向性の変化、変革といった荒技に対する粛正が速やかに行われるか否かがそこに現れるということだ。

    もちろん、宗教だけが理由ではない。

    グローバル化が進む中、次に重要視されるのはローカルだと読んだことがある。
    けれど、筆者は単にローカルなコミュニティを作るだけではダメだと言う。
    どこに住んでいても、自分たちの自尊感情が満たされるような社会を作ることを説くのだが。

    さて、人間はどこまでの範囲で共生出来るんだろう。

    日本の中でも部族の争いがあり、地域の争いがあり、ようやく国というまとまりの中、安静に暮らせるようになったのは、そう遠くないことで。
    さまざまな「違い」が「優劣」をもたらしてきた中で、果たして、同じ目線を持つことが出来るのか。
    出来ないとすれば、次は何を舞台に争い合うのだろうか。

  • 愛国的正統性の力強さとあやうさ。誰も、なろうとしてナポレオンやナセルにはなれない。”人々は自分たちに叙事詩的な物語を、夢を、他社からの崇拝を、そしてわずかばかりの自負心を与えてくれたものに感謝するのです。”(p.158)/ 民意に背いても正しい道を行き、泥沼にはまったレバノン首脳部。確信犯的に、民意とともに誤った道へ舵を切ったヨルダン国王(第三次中東戦争でナセルの側にたち、湾岸戦争でサダム・フセインの側に立った)の対比。/ヨーロッパの強国の積年の失敗は、支配された人民との関係において、西洋に固有の価値を尊重することを諦めてしまったこと。人類は一つという普遍性。そして人権。ヨーロッパ用の人権などないし、アジア・アフリカ用の人権も存在しない。なによりも文化的な尊厳を尊重しあうこと。かつ、様々な悪徳や、異なる文化から来ていることを理由になされる外国人差別や人種差別に対して、理解のある態度を決してとらないこと。/そして、良薬は口に苦いが、「世界を根本から考え直さなければならないし、未来への道は私たち自身の手で描かれなければならない。たとえば、私たちのごくありきたりの何ということもない行為が、気候変動による大きな災害を引き起こしうるのであって、それは結局のところ深淵に身を投じるのと同じくらい自殺的な行為である。昔から続くアイデンティティへの執着が人類の前進を妨げてしまう」(p.277) という一節を今一度噛み締めて肚に落とすことが肝要なのだろう、と。

  • 「時効は法律家の発明でしかありません。民衆の記憶に時効はありません。」は西洋だけでなく日本もくれぐれも心しておかないといけない。

    「私たちは他者を繊細に、近くから知る必要があります。それが可能になるのは、彼らの文化を通してだけです。まずは彼らの文学を通してなのです。」

    「かつてないほど文明同士が接触しあっているのに、文明はたがいにまったく異なり、そのまま変化しないなどと言う人がいまでもいることに驚かざるをえません。(中略)世界中を駆け巡っているために、自分が目覚めたのがシカゴなのか、上海なのか、ドバイなのか、ノルウェーのベルゲンなのか、クアラルンプールなのか思い出すのも一苦労な時代となったいま、」

  • 原書名:LE DÉRÈGLEMENT DU MONDE

    1 いつわりの勝利
    2 さまよえる正統性
    3 想像力による確信
    エピローグ 長過ぎた前史

    著者:アミン・マアルーフ(1949-、レバノン、ジャーナリスト)
    訳者:小野正嗣(1970-。大分県、小説家)

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