ちくま日本文学全集 28 堀辰雄

著者 :
  • 筑摩書房
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感想 : 7
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  • Amazon.co.jp ・本 (477ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480102287

感想・レビュー・書評

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  • 図書館本。一番最初に読んだ堀辰雄だったと記憶している。主だった作品を一気に読むことが出来るので、入門には最適だったと思う。お陰で今では最愛の作家のひとりになっている。

  • ちくま日本文学全集028。

    読み終わりました。
    この人の才能はまぎれもないです。
    「麦藁帽子」とか「燃ゆる頬」とかのひとつ間違えれば鼻持ちならないナルシスティックなテーマを、ある種の感慨をもって読ませることできるのは、この人の厳しく怜悧な創作姿勢によるものだと思われます。作品のテーマからすると不思議ですが、読んでいるうちに自然と居住まいを正させられる、そういう力がこれら作品にはあります。

    そして実体験に近いところで書かれたと思われる「風立ちぬ」の冒頭部分。
    ここではひとつの情感の典型を描ききって、さらには作品全体の象徴ともなっていて、もうこんなふうには誰も書けないだろうなと思わせるぐらい見事です。


    序曲

     それらの夏の日々、一面に薄の生い茂った草原の中で、お前が立ったまま熱心に絵を描いていると、私はいつもその傍らの一本の白樺の木陰に身を横たえていたものだった。そうして夕方になって、お前が仕事をすませて私のそばに来ると、それからしばらく私達は肩に手をかけ合ったまま、遙か彼方の、縁だけ茜色を帯びた入道雲のむくむくした塊りに覆われている地平線の方を眺めやっていたものだった。ようやく暮れようとしかけているその地平線から、反対に何物かが生まれて来つつあるかのように……

     そんな日のある午後、(それはもう秋近い日だった)私達はお前の描きかけの絵を画架に立てかけたまま、その白樺の木陰に寝そべって果物を囓じっていた。砂のような雲が空をさらさら流れていた。そのとき不意に、どこからともなく風が立った。私達の頭の上では、木の葉の間からちらっと覗いている藍色が伸びたり縮んだりした。それとほとんど同時に、草むらの中に何かがばったりと倒れる物音を私達は耳にした。それは私達がそこに置きっぱなしにしてあって絵が、画架と共に、倒れた音らしかった。すぐ立ち上がっていこうとするお前を、私は、いまの一瞬の何物をも失うまいとするかのように無理に引き留めて、私のそばから離さないでいた。お前は私のするがままにさせていた。

      風立ちぬ、いざ生きめやも。

     ふと口を衝いて出て来たそんな詩句を、私は私に靠れているお前の肩に手をかけながら、口の裡で繰り返していた。それからやっとお前は私を振りほどいて立ち上がって行った。まだよく乾いてはいなかったカンヴァスは、その間に、一めんに草の葉をこびつかせてしまっていた。それを再び画架に立て直し、パレット・ナイフでそんな草の葉を除りにくそうにしながら、
    「まあ! こんなところを、もしお父様にでも見つかったら……」
     お前は私の方をふり向いて、なんだか曖昧な微笑をした。(p150-152)

         
    この部分はさらに、作品の主題の提示であり、また重要な伏線ともなっています。
    ただやはり私は、「姥捨」や「曠野」のような物語性の強い作品を好みます。そしてこれらの作品もまた見事。「幼年時代」や「花を持てる女」などのように自己の来歴をウダウダ書くより、こんなのを書けばいいのにもったいないなあと考える私は、どうもこの作者とは縁遠いようです。

    次は中勘助。中勘助といえば「銀の匙」。
    う~ん。どうなんだろ。なんだかインディ系(?)が続くなあ。

  • 鳥料理 / ルウベンスの偽画 / 麦藁帽子 / 燃ゆる頬 / 恢復期(かいふくき) / 風立ちぬ / 幼年時代 / 花を持てる女 / 姨捨 / 曠野(あらの) / 樹下

    『燃ゆる頬』目当て。
    『燃ゆる頬』は、フロイトの恋愛対象の変遷(?)をなぞったようなお話。妖しげな雰囲気が漂う文がとても良かった。私の好みでした。
    順番通りに読んだので『鳥料理』をはじめに読んだのですが、描写がきれいで「うおぉぉ……!」と勝手に感動していました。比喩が好きです。喩えに画家を持ってくるとか。

    引用文は『風立ちぬ』より。

  • やはり一番ポピュラーなのは「風立ちぬ」でしょう。
    一時期、父と二人ではまってました。
    あの頃は朝起きて顔を合わせた瞬間から「あのさー、風立ちぬがさー」と会話が始まっていました。←

  • 堀辰雄

  • ちくま日本文学全集シリーズはいいよ!! 選び方も文字の大きさも本のサイズも装丁もばっちりです、個人的に。
    ちなみにこれは「堀辰雄」の全集。個人的に好きなのは「燃ゆる頬」です。

  • 堀さんは、麦藁帽子が一番好きでした。ルウベンスの偽画や燃ゆる頬も収録されてます。
    麦藁帽子というと、なぜか寺山修司を思い出す。
    「わが夏をあこがれのみが駆け去れり 麦わら帽子被りて眠る 」
    憧れは命の源にあるものだわ。

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著者プロフィール

東京生まれ。第一高等学校時代、生涯親交の深かった神西清(ロシア文学者・小説家)と出会う。このころ、ツルゲーネフやハウプトマンの小説や戯曲、ショーペンハウアー、ニーチェなどの哲学書に接する。1923年、19歳のころに荻原朔太郎『青猫』を耽読し、大きな影響を受ける。同時期に室生犀星を知り、犀星の紹介で師・芥川龍之介と出会う。以後、軽井沢にいた芥川を訪ね、芥川の死後も度々軽井沢へ赴く。
1925年、東京帝国大学へ入学。田端にいた萩原朔太郎を訪問。翌年に中野重治、窪川鶴次郎らと雑誌『驢馬』を創刊。同誌に堀はアポリネールやコクトーの詩を訳して掲載し、自作の小品を発表。1927年に芥川が自殺し、翌年には自身も肋膜炎を患い、生死の境をさまよう。1930年、最初の作品集『不器用な天使』を改造社より刊行。同年「聖家族」を「改造」に発表。その後は病を患い入院と静養をくり返しながらも、「美しい村」「風立ちぬ」「菜穂子」と数々の名作をうみだす。その間、詩人・立原道造との出会い、また加藤多恵との結婚があった。1940年、前年に死去した立原が戯れに編んだ『堀辰雄詩集』を山本書店よりそのまま刊行し、墓前に捧げる。1953年、春先より喀血が続き、5月28日逝去。

「2022年 『木の十字架』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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