アサイラム・ピース (ちくま文庫)

  • 筑摩書房
4.10
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感想 : 33
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  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480436030

作品紹介・あらすじ

出口なしの閉塞感と絶対の孤独、謎と不条理に満ちた世界を先鋭的スタイルで描き、作家アンナ・カヴァンの誕生を告げた最初の傑作。解説 皆川博子

感想・レビュー・書評

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  • 13の短編と表題作。表題作のみ70ページ超だが、これも病院収容にまつわる連作八編で構成され、それぞれが独立したエピソードとして読めるため、実質は21の短編。ボリュームとしては一話平均で10ページを切る短さ。

    全体に強い閉塞感と孤独を漂わせる夢のような物語が集められている。主人公の被害妄想じみた内面を描いた作品も少なくない。表題作に限らず、全編を通して「アサイラム・ピース」をテーマに創作したと言われても違和感はない。やや寓話的で不条理な作風からは、カフカの小説も連想させられる。それぞれが自立した作品として完成しているというより、アイデアにある程度肉付けをした、構想の過程のようにも受け取れる。

    第一篇の短編「母斑(アザ)」は、岸本佐知子編訳のアンソロジー『居心地の悪い部屋』にも収められている。ここで本書訳である山田和子氏以外の訳者を持ち出すのも失礼かもしれないが、岸本氏の作品のチョイスがお好みの読者に合う可能性は高い。

  • 静かに傷の中に入り込んで
    不安にじわじわ包まれるような本

    体調の悪い時に読んではいけない。
    ましてや会社を早退して、吐き気を紛らわす為に
    電車の中で読んではいけない
    精神を追い込まれた人の書いた文章に
    追い込まれて囲まれる。

    閉塞感があって終わり。
    突き放されるのに、遠くに行かないので
    消えない。

    この本を可愛い文字のポップで宣伝してた本屋は、一体なんだったのか…悪魔か?

  • まさかの文庫化に、ありがとうちくま文庫!とウキウキにこにこ読み始めたのだけど、しまった、そもそもアンナ・カヴァン自体はそういうテンションで読む作家じゃなかった・・・。元気のある時に読むと入り込めずに空回り、元気のないときに読むと引きずられてさらに地獄という、読むタイミングと心の準備が難しい1冊。

    できるだけ心を静かに平らかに、そして邪念も期待もなく「無」にして読むよう心がけました。それでもやっぱり全14篇読み終わる頃にふと鏡を見ると自分の顔から表情が消え目が死んでいるという・・・。恐るべしアンナ・カヴァン。おかげでまともな感想が書けそうにもない。

    基本的にはどれも悪夢と不条理と被害妄想で自らがんじがらめになってるメンタル病んだ女性のお話。常に見えない敵がいて監視されており、裁判で争っているかのように、突然拘束されたり死の判決をつきつけられたりする。

    表題作と、病んでいるのが自身ではない「母斑」(アンソロジーで既読だった)は、やや客観性があり比較的読み易かった。アサイラム・ピースはタイトル通り、アサイラム=保護施設(作中では精神科のクリニック)のピース=断片、つまり8つの短い物語(というより8人の患者の話か)になっているので、語弊はあるがバリエーション豊富。

    けして読後にハッピーな気持ちにはなれないけれど、それでももっと読みたいと思ってしまうのがアンナ・カヴァンの文体の魔力。

    ※収録
    母斑/上の世界へ/敵/変容する家/鳥/不満の表明/いまひとつの失敗/召喚/夜に/不愉快な警告/頭の中の機械/アサイラム・ピース/終わりはもうそこに/終わりはない
    解説:皆川博子

  • 「痛んでいるのは脳そのものなのだ」

    優しい光が病棟を包む。

    鈍く唸る頭の中の機械。

    キリキリとーー
    不安と絶望で押し潰す。

    悶え苦しむ、静謐。

    「この世界のどこかに敵がいる。執念深く容赦のない敵が。でも、私はその名を知らない」

    /////

    終生ヘロインを常用し、不安と狂気の泥水の中でもう一つのペルソナを文学に掻き付けたアンナ・カヴァンの切実で苦しい、痛みを伴う幻想短編集。

    極限の断崖に立ち尽くし、しかしなぜこれがこんなにも美しく惹きつけるのだろう?と困惑する。

  • いきなり連れ去られて、走っている車からポイと棄てられたかのような読後感。

  • 時折、大型書店に行く。
    新宿、池袋、八重洲口、神保町など。
    新宿の大型書店で、新刊で平積みになっているのを見て、気になって購入した。
    奥付は2019年7月10日。
    半年以上積読されていて、三日で読了した。
    何の予備知識もない作家で、いわばタイトル買い。
    レコードのジャケ買いに近かった。
    そして、今回は大当たり。(僕にとっては)
    収録二編目の「上の世界へ」はカフカの「城」や「審判」を彷彿させる。
    不条理とも違う、ハッピーエンドのない世界。
    時間を置いて、時々読み返したい。
    そして、次には同じ著者の「氷」も読みたい。

  • ヘロインを常用し、書くことしかできなかったカヴァンの短編集。
    苦しかった。読んでいてもう途中で投げ出そうかと思うほど、苦しかった。それでも最後まで読み切ってみると、苦しい中に見えてきた。カヴァンが描いたのは、実は人間誰しもが持つ心の闇なんじゃないかと。普通の人なら表出させない心の闇。それをカヴァンはなんの躊躇もなく描いた、と言うか、描かずにはいられなかった。凄みさえ漂う心の叫びが、鋭い鋒をもって迫ってくる。

  • 鬱々としているけれど、なんだろうなあ、生きていくために書かれた絶望っていうか、書くことで生き延びてる感じというか、なんかね、暗く追い込まれるだけではない感じが、わたしはした。でもまあとても鬱々ですけど。休み休み読んだ。

  • とても心が痛くなりました。
    ギリギリの精神状態がずっと続きます。
    少しの刺激であちら側に崩れていきそうな。
    「敵」「いまひとつの失敗」「召喚」「不愉快な警告」など、周りが敵だらけでいつも何かに脅かされている、という精神は崩壊しそうなところで辛うじて踏み留まっていますが、そんな心持ちの人が「母斑」で幽閉されていた人なのか…?とか思ってしまいます。
    この苦しみから逃れるには、生を終えるしかないのか。
    皆川博子さんの解説もとても良かったです。解説の一節を載せた帯も美しいです。
    わたしも確かに、アンナ・カヴァンを「読む」ことを必要としています。
    作品リストにあった「カウントダウンの五日間」も好きだったな。

  • 短い中でも閉塞感や絶望が伝わってくる。
    全て同じ行先になるあみだくじを選ばされている感じ。

    なぜそうなってしまうのか書かれていないのが良い。

    人生は良いことをすれば良いことが起こるって訳でもないし、良い人が安らかな死を迎えられる訳でもない。

    生きてるって本当に不条理。

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著者プロフィール

1901年フランス生まれ。不安と幻想に満ちた作品を数多く遺した英語作家。邦訳に、『氷』(ちくま文庫)、『アサイラム・ピース』(国書刊行会)などがある。

「2015年 『居心地の悪い部屋』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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