- Amazon.co.jp ・本 (238ページ)
- / ISBN・EAN: 9784480437907
作品紹介・あらすじ
17世紀パリ、リシュリュー枢機卿の企てを阻止するために運命により選ばれたのは、一人の町の床屋だった! 稀代の物語作家による伝奇歴史小説。
感想・レビュー・書評
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ちくま文庫から三冊目のレオ・ペルッツ。舞台は1642年11月のフランス。捨て子だったテュルリュパンは、今は未亡人サボー夫人の床屋に住み込みで働いている。夫人は親切だし、今の生活に不平不満があるわけではないけれど、テュルリュパンは夢見がちで思い込みの激しい性格から、意図せずとある事件に巻き込まれてしまうことに。
信心深い(?)テュルリュパンは、路上の物乞いに必ずお金を与えなければ「神様に告げ口される=地獄に落とされる」と思い込んでおり、それがきっかけで思いがけない方向へ彼の運命は転がりだしていく。ちょっとした偶然の積み重ねで、気づいたときにはテュルリュパンはさる貴族になりすまして、ラヴァン公爵邸での秘密の会合に出席することに。そしてさらにテュルリュパンは、このラヴァン公爵夫人を自分の実の母(つまり自分は貴族の落とし子)だと思い込む。
貴族になりすまそうと頑張ってるテュルリュパンがとんちきな発言をするも、善意の解釈で会話がなりたってしまう場面などはかなりコミカル。テュルリュパンは愚かだけれど憎めない素朴さがある。庶民代表のような彼が、貴族たちの革命計画に巻き込まれ、まったくの勘違いからあることをして、革命を阻止してしまう結果は運命のいたずらとしか言いようがない。
リシュリュー枢機卿はもちろん実在の人物ながら、「サン-シェロンの羽根つき大会」がどこまで史実なのか浅学な私は存じませんが、フランス革命が起こる100年以上前に、起こりかけた革命を一人の男が阻止していた…と思うと大変ドラマチックでもあり、しかしテュルリュパン自身はそんなことを微塵も考えていなかったという部分では滑稽でもあり。
フランス語でテュルリュパンは道化の意味があるそうで、神様は信心深いテュルリュパンを利用して、気まぐれに気晴らしをしただけだったのかも、と思わされるラストがとても鮮やか。 -
20世紀前半にウィーンで活躍したユダヤ系作家
レオ・ペルッツ(1882-1957)の(わりと短い)長編小説。
舞台は17世紀のフランス、
目障りな貴族を一掃しようと目論んだリシュリュー公爵こと
ルイ13世の宰相アルマン・ジャン・デュ・プレシーの企てを
阻止せんとした(?)謎の人物を巡る物語。
空想癖のある理髪師の青年タンクレッド・テュルリュパンは
実の親を知らないが故に、
本来歩むはずだった道をあれこれ思い描きながら暮らしていた。
そんな自分の行いを神様が見ているから……と、
顔見知りの葬儀に参列しようとした彼は、
てっきり宿なしの物乞いとばかり思っていた死者が
イル・ド・フランス世襲知事のラヴァン公
ジャン・ジェデオンと聞いて驚くも、
喪に服す公爵未亡人の態度から、
彼女こそ我が母に違いないと考えて――
頓珍漢な冒険の幕が上がるのだった。
タイトル=主人公のファミリーネームを最初に見たとき
「アルルカン(arlequin)」と通じ合う響きだな、
と思ったのだが、
訳者あとがきに「turlupin《古》大道道化役者[後略]」
とあって、満更ハズレでもなかったとほくそ笑んだ。
彼は歴史の流れを制御しようとした――但し気紛れに、
単なる暇潰しとして――〈神〉が放った
ジョーカーの札だったのかもしれない。
一読者としては、
投獄→解放→理髪店主(未亡人)の娘ニコルと再会、
結婚して店を切り盛り、あるいは、
ラヴァン公爵邸の小間使いジャヌトンと駆け落ちして、
つまり、いずれかの女性とペアになって
幸せになってほしかったけれど……残念。 -
こういう妙な思い込みの激しい人、いるよなぁと思いながら読みました。嘘がばれるのを恐れながらも、気が大きくなったり女の子を口説いてみたり感情の振り幅の大きさも、滑稽でありつつ人間臭さを感じさせます。