雲と鉛筆 (ちくまプリマー新書)

著者 :
  • 筑摩書房
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感想 : 57
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  • Amazon.co.jp ・本 (128ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480683250

感想・レビュー・書評

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  • 屋根裏部屋、路地…
    吉田さんの世界〜やはり好きです!

    文中「雲は昼であっても夜であっても、そこに無限と云いたくなるあわいがある」という一文があって「あわい」って何だろ?知らない言葉、と気になりました。調べてみると「あわい、あはひ=間」で物と物とのあいだ、事と事との時間的なあいだ、という意味。

    あぁ!そういうことか、と全体が繋がりました。
    「君はたぶん、何かと何かのあいだにあるものが好きなんだよ」「白と黒のあいだには百通りの鼠色を育んだ豊かな可能性があった」
    これが吉田さんの魅力なんだなぁと思います。

  • 屋根裏部屋で暮らすぼくは、「時間」や「思い」やさまざまなことを考え、何か思いつくことをノートに書いている。
    鉛筆工場で働き、時々遠い街へ本を買いに行く。
    その街の方角にある立派な時計塔から、望遠鏡で外を眺める。
    「人生」というあだ名の友人と、コーヒーを飲む。

    どこか空想の世界をさまよっているような雰囲気で、時間がゆったりと流れていて、雲のようにふんわりと味わい深い物語。
    「答えなんて見つけない方がいいんだよ」
    白と黒の間にある百通りの鼠色とか、三という数字の捉え方についても、発想が豊かで、読むと心が軽くなります。
    幸せって、こういうことをいうのかなとしみじみ思います。

  • 登場人物のそれぞれの人生観が、自分の中で新しい考え方として学べた。
    哲学的な話から主人公の平凡な暮らしの話まで、この一冊に著者の伝えたいことが詰め込まれている。字が細かくなく間隔も空いているので読みやすい。

    読書に対する考え方や、雲をスケッチすること、第三者が加わることによる影響など、一つ一つの話が面白かった。エッセイのようでした。

  • 鉛筆工場で働く”ぼく”の物語。
    ”ぼく”は休日になると屋根裏部屋で思いつくまま青いノートに書き連ねる。
    「本当のこと」だったり、「時間」についてだったり、「思い」を人に託すことだったり、知り合いの人生論だったり。
    そんなどこかマイペースな”ぼく”も、ようやく飛び立つ準備を始めたみたい。
    春に向けてのわくわく感そのままに読了。

    そんな”ぼく”の青いノートより。
    とかく「白黒はっきりしない」と揶揄され、「グレー・ゾーン」と云えば、曖昧であったり、疑わしいときに用いれられるのが常だが、白黒はっきりしない美しさもあるのだと雲を描きながらしばし考えた。

    吉田さんの物語は白黒はっきりしないものが多いように思う。
    物事の「グレー」を書くことは吉田さんの美学なのかも。

    ”ぼく”が姉にプレゼントしたジューサーミキサーが不良品だった時の、姉からの返信が良かった。
    「壊れたものには、動いているものと違う美しさがある」
    「もういちど、ありがとう。壊れてしまったものは悲しいものではないのだと、この歳になって、ようやく知りました」
    私がこの姉の立場だったとしたら、弟に向けてこんな大人の対応ができるだろうか…。しばし反省。

  • 屋根裏部屋に住んで、鉛筆工場で働いているぼく。
    ぼくは、遠い街に出かけたり苦いお茶を飲んだり、鉛筆を削って雲を描いたり、身の回りのいろんなことを考えながら姉に手紙を書いたり。

    いいなぁ、このゆったりとした感じ。
    (ハマってるんだね、吉田篤弘。)

    今回も、「ふむふむ、たしかに。」「なるほど、すごい考え方だ!」みたいな感じがたくさん。

    その中のひとつが、「人生というのは〈あいだ〉のことにほかならない」という考え方。
    〈あいだ〉のことでいうと、白と黒のあいだ(鼠色)。グレーゾーンは曖昧で疑わしいことを表しているし、「白黒はっきりしない」という言葉もある。
    でも、鼠色には百通りの色がある。たくさんの可能性がある。

    読んでいると、ひとつの物事をいろんな角度で丁寧に見て考えようという気持ちになる。


    「芸術作品に限らず、何かをつくるということはーーたとえば、料理なんかでも、その極意は手加減です。こればかりは、言葉や数値に置き換えられるものではありません。強弱がそのまま作品になるわけです。そのひとの手加減がおいしい料理をつくるんです」

  • 求めてた緩さの本だった。

    やっぱり吉田篤弘さんの本が好き。

  • 「バリカン」「ジュットク」「人生」など、登場人物の名前も面白く、文章は抽象的でワードセンスが暖かく滋味深く、飲み干すように味わった。
    定期的に摂取したくなる吉田ワールド。
    ふわふわと雲に包まれているような夢心地な気分で就寝できる一冊。

  • 屋根裏部屋、鉛筆工場、小さな本、遠い街、時計塔、コーヒーが飲める店、人生、苦いお茶、三番目、贋作、雲を描く。
    作者独特の文体から紡ぎ出される世界観に、とぷりと浸りながら読む幸せ。
    吉田篤弘作品を久々に読み、久々に感じるこの想い。幸せ。

  • ゆるやかにゆるやかに 音読をするぐらい丁寧に読むのがコツ
    秋の夜長に吉田さんの読み物はすごくよく合う
    以前読んだあの本もあの本も
    いま一度手に取って感じてみたい
    きっとあの時と違う事を感じるんだろうな
    移りゆく雲のように

  • ちくまプリマ―新書、200冊目も吉田篤弘だったけど、こちらは300冊目だそうで。相変わらず装丁がかわいらしい。前回の解説にあったように「ちくまプリマー新書」のコンセプトは「子供たちに伝えたいこと」を「原稿用紙100枚で」。ゆえに今作も30分程度で読める易しい内容。

    主人公は、すでに廃工となっている印刷工場の屋根裏に一人で暮らしながら鉛筆工場で働いている。窓から見える夜の空と雲を鉛筆で描くのが趣味。薬缶にお湯を沸かすだけでも108段の階段を降りて水を汲みにいかなくてはならないけれど、不自由は感じていない。

    友達は、いきつけの喫茶店でいつも人生を語っている眼鏡屋の息子通称「人生」や、理髪店の「バリカン」など。十徳ナイフを売り歩く「ジュットク」が平穏をちょっとかき乱してきたりするけれど、基本的には穏やかな日常。

    遠くの町に住んでいるお姉さんとは手紙をやりとり。お姉さんの文章がとてもやさしくていい。壊れたジューサーミキサーにも存在の意義はある。鉛筆だからこそ描き出せる濃淡の限りないバリエーション。グレーゾーンって、大事だよね。

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著者プロフィール

1962年、東京生まれ。小説を執筆しつつ、「クラフト・エヴィング商會」名義による著作、装丁の仕事を続けている。2001年講談社出版文化賞・ブックデザイン賞受賞。『つむじ風食堂とぼく』『雲と鉛筆』 (いずれもちくまプリマー新書)、『つむじ風食堂の夜』(ちくま文庫)、『それからはスープのことばかり考えて暮らした』『レインコートを着た犬』『モナリザの背中』(中公文庫)など著書多数。

「2022年 『物語のあるところ 月舟町ダイアローグ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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