- Amazon.co.jp ・本 (221ページ)
- / ISBN・EAN: 9784480822697
感想・レビュー・書評
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国語辞典編纂者の書いた『ことばハンター』
(https://booklog.jp/users/junsuido/archives/1/4591160726)
に出てきた見坊豪紀の『ことばのくずかご』の89年版を読んでみた。
『ことばハンター』では、本やテレビ、自分で町にでて言葉を探す「ワードハンティング」を行っていることが書かれていたが、こちらの『ことばのくずかご』は国語学者・辞書編纂者が、目に留まった誤字・言葉遊び・新語・流行語などを集めて紹介したものなのでまさに「ワードハンティング」で集まった言葉たちをまとめた本になっている。
面白い言葉を集めた本は色々あるけれど、これは国語学者が集めたのでかなり面白いくて大笑いしながら読めた。
そして1989年とは和暦では昭和64年であり平成元年にあたる。年号変更という特殊なこのときならではの言葉も出てくる。
まだワープロが普及した頃なので、出版物による誤植誤変換だけでなく、一般人がワープロで誤変換して新しい言葉の変化が見られるようになった。そして人々の書く文字も「ワープロっぽい文字」が増えてきたという感想も出ている。現在ネット用語として一部で使われている言葉がこの頃に出てきたんだと分かったことも。
【洒落とか語源とか】
●江戸時代の文献では徳川将軍の駄洒落も書き留められている!
●「プロポーズの意味で球根(求婚)を送った」という投稿があったらしい。この後どうなったんだ!?
●「色物(イロモノ)」とは、寄席の噺家は黒で書かれ、漫才やコント師などは朱色で書いたことから。
●野球の呂選手を応援するのに「かっとばせー呂!」では迫力ないので「ラリルレ呂ーー!」など遊んでいた 笑
●和田勉が「20代で『人生の節目が』って言う人がいるけれど、あれは90歳くらいになって出るもんなんだよ」
【間違い】
●航空会社の「全便座席指定」が「全便座/席指定」って見えてぎょっとした!
⇒ꉂꉂ(๑˃▽˂๑)
このような大笑いする言葉の話もたくさんあります。
●アナウンサーが「〇〇”のし”は〇〇」と言っている。おそらく原稿には「乃至は」と書いてあったんだろう^^;
●大学入試試験監督の大学教授が試験開始時間に「やめ!」と叫んでしまった!しかし偉大なるシェイクスピア学者である教授は落ち着き払って「…と、90分後に言います」と続けた。
⇒現在なら大炎上しそうだが、これを笑い事として流せたおおらかさ。
●東京の地名「秋葉原」は、下町の人は「あきばはら」、それ以外の人は「あきはばら」と発音する。ワープロでは「あきはばら」と入力しないと出てこない。
⇒電気街、エンタメ街の秋葉原が「以前は『あきばはら』だったが今では『あきはばら』」とは聞いたことあるれど、このころは「両方言う人がいた」だったのか。
●「訃」一文字で死亡通知の意味があるのだから本来は「訃報」はおかしいんだけど、「ふ」一文字だと不安定だからか「訃報」で定着しちゃった。
●「唎酒」は「ききしゅ」であって「ききざけ」ではない!?
⇒でも検索しても「ききざけ」しか出てこない!言葉が変わったのか?
【日本語外国語】
●パッション・フルーツは「情熱の果実」ではなくて「受難華(じゅなんげ)の果実」だから受難のパッションですよ!
⇒えええΣ(・ω・*ノ)ノ 恥ずかしながらなんとなく「熱いところに生るからパッション」かと思ってたわーーー。そして受難華って初めて知った。ネットで確認したら花の形が「Passion of Jesus Chris(キリストの受難)」のようだ、ということで着けられた名前らしい。種目としては「トケイソウ科」だった。
●「アボガードはアボガドではない」と書かれているんだが、今では「アボカド」だよね^^;
●イギリスの新聞では「整備新幹線」を「ニューシンカンセン」と出ていた。「ニュー・新」…^^;
●日本語から英語の誤変換。アメリカの本では「日本では『Mickey Mouse』は『MIKI KUCHI』と呼ばれている」と書かれている。…ミキ・クチ(ーー??) おそらくアメリカ人から「マウス(MOUSE・鼠)を日本語ではなんて言うんだ?」と聞かれた日本人が「マウス(MOUTH・口)ならクチですよ」と応えたんだろうという推測(^▽^)
●ウィスキーについて。スコッチウィスキー(カナディアンウィスキー)は「whisky」、バーボンウィスキー(アイリッシュ、アメリカンウィスキー)は「whiskey」とスペルが違うんだそうだ!検索したら各お酒メーカーも解説していた。日本はスコッチをもとにしているので「whisky」表記が多いとのこと。
●芥川龍之介『藪の中』を黒澤明が映画化した『羅生門』が世界的に評判となり、ひとつの事件についてアプローチの仕方によって異なる解釈の生ずることを"Rashomon approachi"と言うようになったんだそうだ。
それまではこの表現方法ってなかったの??すごいな芥川龍之介と黒澤明。
【表記、文体】
●判決文にも流行りや書き癖がある。
●最近の若い学生や研究者は、文学的ムードを思わせる曖昧で難しそうで抽象的な漢字を多用したり、専門用語を機械的に並べただけのものが増えた。「凋落」「憧憬」「無根拠性」「構築的」などといったもの。
⇒私もレビューで良い言葉が出てこないと「〇〇的」とか並べちゃってるわーー、反省。
【本を作る】
●<「広辞苑」をめくって頁風をたてるたびに2,320の全頁から立ち上ってくるのは、われわれは日本語を使って生きる民族であるという誇りと覚悟だった。(P40)>井上ひさしの「ベストセラーの戦後史」で書かれているそうです。
⇒私も今後分厚い本を手に取ったら「日本語で書かれた頁風を感じる」ことにしようw((´ω`))w
●『フィネガンズ・ウェイク』の翻訳者は「辞典に載っている女編の漢字は全て使おうと思っている」と言った。
⇒フィネガンズ・ウェイクは読んだことないんだが、翻訳者の意気込みは十分感じました!
●「馬鹿」は不適切用語に引っかかるので「莫迦」なら良いと言われた。
…いいの?
●絵本「ちびくろサンボ」が絶版になったのもこの頃。もともと南米インディオと黒人混血の呼び名の「サンボ」がアメリカでは黒人への別称として広まっているので。
⇒スペイン語には混血を表す言葉が30以上あるらしい。インディオと白人の「メソティソ」、白人と黒人の「ムラート」、インディオと黒人の「サンボ」。白人でも新大陸生まれだとクリオーニョ白人と言われる。
このなかで「サンボ」がアメリカでは侮蔑として使われたことから、本来の「インディオと黒人の混血」の意味から逸脱してしまった。
●本の装丁で「困ったときの赤一色」と言われているので本当はやりたくなかったんだけど、やったら当たっちゃったんだよね…、といわれているのは『ノルウェイの森』の表紙 笑
●英語では小説を意味する「ノベルズ」が、日本では「新書版の小説」を意味するようになりました。
⇒そうなの?
●吉本ばなながそれまでは「使っちゃいけない言葉や表現があると思いこんでいてなんとなく避けていた言葉」を使って当たったので、先輩作家が「やっていいんだ!?」と驚いたんだそうだ。
●GHQの検閲があった頃、教科書に島崎藤村の「小諸なる古城のほとり」を載せようとして英訳したものを見せたら「『見えず/よしなし』など否定形が多すぎる。こんな建設的ではない作品を新興日本国の少年少女に与えるのはよろしくない」と叱られた、と、金田一春彦が言っていたんだそうだ。検閲の基準ってこうなのね、へーーーー
https://www.worldfolksong.com/songbook/japan/minyo/komoro-kojo.html
【真意】
●首相(竹下登のことらしい)は挨拶で「計らずも」というが、実際のところは「計って計って計り抜いて」いる。
⇒何かをやるのに知らない振りしながらも実は準備万端というのは必要でしょう。首相などの影響力の強い意思決定者が本当に「計らず」だったらむしろ怖いし嫌だし困る。
【1989年】
1989年という年が感じられる言葉。首相の竹下登、天皇崩御から年号変更による言葉が多い。
●3Kとか〇〇の三種の神器とか、数字と頭文字の組み合わせ用語が出てくるが、今では「この頃そうだったんだ!?」と思うものばかりだ。
●昭和から平成になった1989年ですからね、やりすぎた言葉の自粛やご病状報道に関する言葉が取り上げられている。私はばっちりこの時代を覚えていて「やり過ぎ自粛」が問題視されていたことは覚えているが、本書に入っているようなことまであったのねと改めてびっくり。これを思い出すと「生前譲位」は良い方法だなあとも思った。
●幼い子どもたちが、親が手書きで字を書くのを見て不思議がっていたというエピソード。このころワープロが出てきて手書きが減り始めたってことを表している。
【一般化した言葉を振り返る】
1989年には一般化している、つまり数年前から出回っていた言葉のこと。今では当たり前の言葉がこの頃出てきたんだと分かる。
●野球選手なら「バットを置く」とか和平なら「武器を置く」のような辞めるときに「〇〇を置く」という表現が「目新しい慣用句」と言われていた。今では普通に使われているよね。
●今はネットで見かけるあまりよろしくない用語が、この頃に出てきたのだと知った。その用語が「良くない意味からできた言葉」と知らずに普通に使っちゃって炎上してしまったニュースもあるそうだ。
⇒本来隠語が語源を知らずに広まってしまうって他にもありますが、その一例に思えた。
●同じ年のことを「タメ」
●一つしかなくても語尾に「とか」をつける。
●盗用を「パクり」というのは、メロディー拝借のときに使う音楽言葉だったんだって。ふーん。
●映画で落ちるだけなのが「スタンドイン」、キャラクターを持っていて落ちるまでの芝居をできるのが「スタントマン」。
⇒…そうなんだ。
●「〇〇ライター/〇〇エッセイスト」というのは「評論家ではありません。知識の無さを突っ込まないでね」という逃げなんですよ。…ふーん。
●危篤や心臓停止になりながらも生き返った人に対する「臨死体験」。病気では「習慣病」「男性不妊」もこの頃から出てきたらしい。
●マスコミが「自閉症」という言葉を「両親が離婚して自閉症になった」「自閉症に陥った日本の大衆」など軽く使って困る。「内向的。孤独」といえばいいのに、知的でかっこいいと勘違いして乱用しないで欲しい。…という苦言が載っていた。
⇒これは他の言葉でもありますよね。本来の意味がある言葉を本来は表さない事象まで使うを表すことにより、本来の意味が薄れてしまっている。
●仲間はずれを「ハブる」。この語源が「村八分⇒むらはちぶ⇒はぶ」だと初めて知ったわ。
●なんでも「かわいい」
⇒近年ならなんでも「ヤバい」など、要するになんでも一つの言葉で表現するようになったってことかな。
●「激辛」は1983年頃から商品が出始めて、1886年に流行語になった。
●最近でも見かける卑猥用語について「こんな言葉が一般化するとは」と嘆かれていた。
●作家の妹尾河童が、恩人に「河童」と書かれたから戸籍も変えたんだよ。というエピソード。
●「フリーター」という言葉が一般化。
現在でも言葉の変貌についてのおもしろ本は出ていますが、言葉には時代や地域が見えて面白いですよね。
こちらに出ているのは今から30年以上前の言葉ですが、今では当たり前の言葉がこの頃に一般化したことが見えたり、天皇崩御による行き過ぎた言葉の自粛などは当時なりの判断だったんだな(良し悪しは別として)ということは言葉により感じられました。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
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