湖の男

  • 東京創元社
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  • Amazon.co.jp ・本 (426ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488010706

作品紹介・あらすじ

干上がった湖の底で発見された白骨。頭蓋骨には穴があき、壊れたソ連製の盗聴器が体に結びつけられている。エーレンデュルらは、丹念な調査の末、ひとつの失踪事件に行き当たった。農機具のセールスマンが、婚約者を残し消息を絶ったのだ。男は偽名を使っていた。男は何者で、何故消されたのか? 過去に遡るエーレンデュルの捜査が浮かびあがらせたのは、時代に翻弄された哀しい人々の真実だった。北欧ミステリの巨人渾身の大作。

感想・レビュー・書評

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  • シリーズ第4弾。干上がった湖で発見された遺体と冷戦時代の話とが並行して描かれる。エーレンデュルの息子が登場するが娘との関係や恋愛、シグルデュル=オーリの父親の話やベルクソラの妊娠など次回までお預けの話が多くややモヤモヤ。

  • 重要なのはこの物語がアイスランド人に向けて書かれた物語だということです
    当たり前だ
    当たり前だけど重要なことだと思う

    では作者はアイスランド人にどんなメッセージを届けたかったのだろうか

    それはアイスランドという国について考えてほしいということではなかったか

    事件は東西冷戦下の東ドイツに渡った社会主義者のアイスランド人留学生たちの生活、心情に端を発する
    米ソの睨み合いの中で地理的にも重要拠点であったアイスランドの歴史、成り立ちにも触れながら物語は進む

    この生真面目な捜査官エーレンデュルのシリーズを読むとき、安易にアイスランドらしいという表現を使ってこの陰鬱な雰囲気を持つシリーズを説明しようとするが、果たしてアイスランドらしいということを本当に理解してるんだろうかと考えてしまう

    アイスランドという国が非常に稀有な風土、文化、政治体制を持っていることは間違いない
    例えば極夜であったり、火山であったり、森林がほとんどないことであったり
    軍事同盟であるNATOの加盟国でありながら軍隊を持っていなかったり

    どういう国なん?陰鬱って合ってるん?

    例えば北海道と四国を合わせた面積に33万人しかいないということなので、この国だけを市場とした小説は商業的に成立しないだろうなって考えたとき、込められたメッセージってアイスランド人だけが対象違うんじゃない?とか

    小さな小さな国のことがスタートだったのになんだか思考は四方八方に広がって全然まとまらない

    アイスランドって結局どんな国なん?

    実はこれを世界中の人々に考えてもらうことがアーナルデュル・インドリダソンの狙いなんじゃないかと、そんなことを思いました

  • 水位低下した湖の湖底から現れた、頭に陥没跡があり体にソ連製の通信機を巻き付けられた骸骨。一方、海辺の家でただひとり若き日のライプツィヒ大学への留学時代を回想する初老の男。いつかこのニュースが現れるのを待っていた気がする、と。

    物語は、エーレンデュルたちの捜査と、この初老の男のライプティヒの大学での回想が交互に描かれる。なんとなく最初からこの冷戦時代のことと骸骨は関係があるのだろう、というのは想像がつくが、この男トーマスの回想が静かだ。そして1950年代の東西陣営の緊張の中の東ドイツとアイスランドの状況を想像する。大戦終了後、若者たちは純粋な気持ちで、幸福に暮らせる社会を作りたいという気概に満ちていた。が、青々しい学生時代のあと、その進む道はそれぞれだった、という感慨。

    インドリダソンは「湿地」「緑衣の女」「声」に続いて4作目だが、この「湖の男」が一番よかった。

    骸骨の上がったクレイヴァルヴァトン湖をグーグルで見ながら読む。そして弟の遭難から失踪者にこだわるエーレンデュルの私生活がまた描かれるが、それが事件捜査で、無くなったタイヤのホイール探し、とリンクさせているのが秀逸。

    トーマスは1954あたりにライプツィヒ大学に留学しているようだが、トーマスの家庭は駐留するアメリカ軍に対して卑屈になるアイスランド人を激しく批判する家庭として描かれる。・・そこら辺のアイスランドの歴史を知らなかったのでググってみると、13世紀のノルウェー、14世紀からのデンマーク支配だったが、1940.6にデンマークがナチスドイツに占領されると、イギリスが先手を打って上陸、41年にはアメリカ軍が上陸した。1944.6にデンマークから独立。1949年にアイスランド議会はNATO加盟を決定した。その後アメリカ軍基地が設置され、雇用などでアイスランド経済にとって大きな恩恵とされた。・・のがわかった。こういう事を知ったこともよかった。・・でもライプティヒ大学へのアイスランド人留学はよくわからなかった。

    京都産業大学のページでは、
    ライプチヒ大学は、1409年に設立された歴史と伝統を持つ大学で、1951年ライプチヒ大学に初めて留学生が入学し、ドイツ語と他の科目を勉強した。1956年、外国人留学生学会(IFS)を創設し、1961年にIFSの名前をHerder Institutに変更。とある。

    物語ではハンガリーやチェコなどソ連圏からの留学生たちとの交流が描かれている。

    クレイヴァルヴァトン湖
    https://www.google.co.jp/maps/place/%E3%82%AF%E3%83%AC%E3%82%A4%E3%83%B4%E3%82%A1%E3%83%AB%E3%83%B4%E3%82%A1%E3%83%88%E3%83%B3%E6%B9%96/@63.9251848,-22.0228189,13z/data=!3m1!4b1!4m6!3m5!1s0x48d6113e0935446d:0x653546f8345a1509!8m2!3d63.9257301!4d-21.9715926!16zL20vMDMydG10


    2004発表 アイスランド
    2017.9.22初版 図書館

  • 政治的背景、歴史的背景を書き込む北欧ミステリー好きの自分としては、共産主義の国において、自由な発言や行動を監視されていた留学生の経験がストーリーとなる「湖の男」は、インドリダスンの作品の中でも、特に好きな一冊となった。訳者あとがきで、「為政者が都合の悪いことは伏せ、あったことをなかったことにして恣意的に民を管理することは、自国が民主的で自由な社会であると多くの人が信じている21世紀のいまのほうが、むしろやりやすいのではあるまいか。」と記していたが、全くもってその通りである。
    密告と現在の言葉狩り。本質的には何も変わらない。なぜなら、その根底にあるのは暴力革命からフラントフルト学派に形を変えた主義主張だから。社会や歴史を深く考えさせられる北欧ミステリーが好きだ。

  • シリーズ邦訳4作目(本国では6作目)。構成は事件発覚と捜査状況を追う現在のタイムラインと、事件の発端となった過去を振り返る時代の異なるタイムラインが交差して進む形に戻っていました。このシリーズとしては前作よりもこの構成の方が馴染みがあり読みやすいです。これまでは小国であるアイスランドならではの規模と人間関係の範囲で起こることを書いた作品でしたが、今回は冷戦時代の東西情勢におけるアイスランドの立ち位置など、時代と世界の政治勢力地図という具合に背景が広がりを持っており、その分、ひとりひとりの個人が時代と政治情勢に翻弄される様はやりきれなかったです。エーレンデュルと他の家族との不毛な関係は相変わらずですが初めて息子が登場、エーレンデュルと相対するときは悪態をついてばかりのエヴァ⁼リンドが、離れて暮らしていた間ずっと母親に反抗しエーレンデュルのことを想い心情的に頼り気にかけていたと聞かされます。前作で出会ったヴァルゲルデュルも今後のシリーズを通じて出てきそうだし、アメリカかぶれで頭でっかちの若者というイメージだったシグルデュル⁼オーリにも、共産主義者だったという父親との確執があるような記述もあり、今後の人間関係がどうなっていくのか、楽しみです。

  • シリーズ最初の作品「湿地」の解説者が、これは「灰色の物語(グレイ・サーガ)」だと書いていたが、本書ではますますその陰翳が濃くなっているような気がする。犯罪の関係者はもとより、捜査にあたるエーレンデュル警部たちも、取り戻しようのない過去の影のなか、重苦しい現実を生きている。

    愛する者が突然行方知れずになり、どうなったのかわからない。これ以上の苦しみはあまりないのではないか。その痛苦がエーレンデュルの人生を支配しており、シリーズの基調ともなっている。本書では、恋人が突然失踪した女性の孤独が、強く心に残って忘れがたい。

    不思議なのは、その陰鬱な雰囲気にもかかわらず、読後感が悪くないことだ。「地の果て」の小国アイスランドが舞台となっているためだろうか。寂寥感はあるが、荒んだ感じがしない。深い余韻を残す佳品だと思う。

  • 遂に謎の息子が登場。少しずつ主人公の過去が明らかにされていく。しかしまだまだ謎が多い。

  • エーレンデュル捜査官シリーズ第4弾。
    ハマると同じ作者の、同じシリーズものを、順番に読みたくなるタイプです。笑
    その方が登場人物の心情や状況の変化がわかるし、愛着も湧くから。

    エヴァやシンドリとのやりとりや、ヴァルゲルデュルとの微妙な関係など、まさにそれが感じられる1冊だった。
    読み終わる頃には、エーレンデュルの周りを覆っていた暗く陰湿な空気の中に、少しだけ暖かい光が差し込んだように感じられて、またエーレンデュルという人間が愛おしく思える。

    シリーズ4作どれも面白いが、今回の「湖の男」が最も引き込まれた。
    第二次世界大戦後の共産主義の国における、支配と抑圧と恐怖。
    こんな時代があったのかと、恐ろしく感じる。
    (あとがきの”為政者が都合の悪いことは伏せ、あったことをなかったことにして恣意的に民を管理することは、自国が民主的で自由な社会であると多くの人が信じている21世紀のいまのほうが、むしろやりやすいのではあるまいか”という指摘にどきっとした。)
    それに立ち向かい、イローナを想い続けたトーマスの愛が深いが故に、切ない。
    苦しい時代を乗り越えて、アイスランドは一貫して平和外交を築き、世界初の女性大統領が「小さな国にも平和のためにできることがある」との言葉を残したことは、知っておかなければならないことだと思う。

    それにしても柳沢氏の訳は、政治的思想や、アイスランドだけではなく冷戦時代の周辺国を扱っているのに読みやすい。
    あとがきによると、エーレンデュル捜査官シリーズはすでに15作発表されているらしい。
    次作も楽しみ。

  • 大国が冷戦時代にあった頃の自国の地政学的関わり(?)を物語に映している(織りこんでいる)。正直アイスランドの近代史に無知なのであるけれど、《ベルリンの壁》を象徴とする世界情勢のありようから、物語背景にある悲劇性は想像するに難くない。本シリーズはどれも謎めいた事件のその奥行を探るとともに、物語として同等の比重で現在主人公を苛む深刻な家族関係(父娘・本作では父息子も)が濃密に絡んでくる。しかしその状況は易く解決に向かわない。そんな困難に試されているような、耐える主人公の屈強なさま(人間臭さ)に強く惹かれる。

  • 21世紀のアイスランドとWW2直後のアイスランドが交錯する。欧の国のどこも少なからずナチの影響があるけど、その後の欧はソ連にも振り回されたんだなと実感。
    「人は皆その時の状況で最善を尽くす」世が世ならこの言葉を言った人も二重スパイになんてならなかったろう。

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