言葉人形 (ジェフリー・フォード短篇傑作選) (海外文学セレクション)

  • 東京創元社
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  • Amazon.co.jp ・本 (334ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488016678

作品紹介・あらすじ

かつて野良仕事に駆り出された子どもたちの為に用意された架空の友人、言葉人形。それはある恐ろしい出来事から廃れ、今ではこの博物館の片隅にその名残を留めている――表題作ほか、光と星の秘密を追う研究者の実験台となった無垢な娘の運命を綴る残酷な幻想譚「理性の夢」、世界から見捨てられた者たちが身を寄せる幻影の王国が、少女王妃の死から儚く崩壊してゆく「レパラータ宮殿にて」など、世界幻想文学大賞、シャーリイ・ジャクスン賞、ネビュラ賞、MWAなど、数々の賞の受賞歴を誇る、現代幻想小説の巨匠の真骨頂ともいうべき13篇を収録。

感想・レビュー・書評

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  • 短編集。安定の面白さ。訳者解説によると構成として現実的なもの→幻想的なものの順番になっているそうで、個人的には後半のほうが圧倒的に好きでした。いちばん好きだったのはラストの「レパラータ宮殿にて」でこれは泣けた。あと「夢見る風」もお気に入り。以下ざっくりあらすじなど個別に。


    ■創造:森の中で、木の枝や木の実を並べて、オリジナルの生き物を「創造」した少年。置き去りにしたその生き物が、立ち上がって命を持ち徘徊していると彼は思いこむが…。

    ■ファンタジー作家の助手:偏屈で変わり者の超有名ファンタジー作家の助手として採用された17歳の女の子。だがスランプに陥った作家が、自分の代わりにラストシーンを考えてくれと言ったことから…。実はファンタジー作家めっちゃ良い人でした。

    ■<熱帯>の一夜:熱帯という名のバーの壁画を眺めるのが好きだった子供時代。やがて大人になった男は再びその店を訪れ、バーテンダーとなっていた旧知の男と再会する。バーテンダーは子供の頃から不良だったが、語り手の父親に親切にされた恩返しに、語り手のことだけはいつも守ってくれたのだった。そんなバーテンダーがかつて裕福な老人から黄金のチェスを盗んだことからある不幸に巻き込まれた顛末を語り始め…。呪いのチェス!

    ■光の巨匠:光の巨匠と呼ばれるアーティストにインタビューに行った若い記者。そこで彼が聞かされた話は…。それが誰の脳内の話なのか大混乱して入れ子のどこにいるのかわからなくなる複雑怪奇なお話でした。

    ■湖底の下で:これも光の巨匠と同じジャンルかもしれない。

    ■私の分身の分身は私の分身ではありません:主人公はあるとき自分の分身(ドッペルゲンガー的なやつ)と遭遇。その分身は分身仲間と一緒に暮らしている。主人公は妻にその話をするがカウンセラーを紹介され、以来妻にその話はしていないが時々分身と会っている。ある日、分身がさらに自分の分身が現れたと言い出し…。分身が分身として堂々と生きてる世界。

    ■言葉人形:田舎で暮らす語り手は、ある日いつも通る道に「言葉人形博物館」という看板が出ているのをみつける。館長はかつて文化人類学を学んでいた女性で、彼女が調査した「言葉人形」についての資料が集められていた。それはかつて農村で子供たちを辛い野良仕事に連れ出すために考え出された儀式の一種で、言葉で作った労働するイマジナリーフレンドのようなものを子供に与えることで彼らの労働意欲を高めるという。しかしある嫌われ者の少年に与えられた言葉人形は…。「言葉人形」とはいったいどんなものかと思いきや、まさか人工的に他人に与えられたイマジナリーフレンドのようなものだったとは。その暗示を言葉だけで与えるから言葉人形。着想がすごい。

    ■理性の夢:光の物質化について研究している博士は、ある人体実験をおこない…。

    ■夢見る風:その街では夏から秋への季節の代わり目に毎年「夢見る風」が吹く。この風は人体や物質を奇想天外に変形させたり天候すら色彩や質感がめちゃめちゃになり前衛アートみたいなことにしてしまう。だが風が去るとすべて元に戻る。ある年、風が吹かず、以来人々は夢を見なくなってしまった(見るのは現実的な夢ばかり)。しかし亡くなった最高齢のおばあさんが可愛がっていた鳥と子供たちはがある計画を企て…。まさかのオチは良い話。鳥と子供たちは風の由来譚を芝居にして上演、これがきっと真実だと思わせる内容がいい。風によって人々が変形させられることを「風に夢見られている」と表現するのも詩的だった。

    ■珊瑚の心臓:メドゥーサの血に浸かったという伝説があり柄が珊瑚で出来た剣「珊瑚の心臓(コーラル・ハート)」、この剣で斬られた者は珊瑚になってしまう。何代目かの持ち主である剣士は、旅の途次である城に泊まることに。城主は空飛ぶ椅子で移動する美女。剣士は美女に恋し、ついにその想いを果たさんとするが…。実は女性側の復讐譚。壮大なファンタジーの一部のような設定が良い。

    ■マンティコアの魔法:マンティコアという人を食う魔法の猛獣退治を命じられた魔法使いとその弟子。しかし師匠の魔法使いは退治するどころかマンティコアに寿命を全うさせてやろうとする。その理由とは…。

    ■巨人国:突然巨人にさらわれた人間の男女(男二人、女一人)巨人は彼らを鳥かごに閉じ込め太らせてから食べようとしている。男たちは共謀し、女と結婚させてやるから自分たちだけは助けろと巨人に提案。女を説得するが彼女は従わず、怒った巨人は男二人を食べてしまう。女は機転を利かせて脱走するが…。その後の女の不思議な変遷が描かれる。結局なにがテーマだったのかよくわからないのに面白い。

    ■レパラータ宮殿にて:最愛の王妃を亡くした王インバスは、その日から抜け殻のようになってしまう。レパラータ宮殿の家臣たちは皆、もとは詐欺師や殺人犯、娼婦や道化師などの貧しい人々だったが(王妃も旅芸人に捨てられた孤児だった)、王は彼らを受け入れ役職を与える不思議な度量の持主。王を助けるため家臣たちは知恵を絞り、ある治療師を見つけ出す。彼は王から憂鬱を取り除くことに成功するが、王の中から出てきた謎の白い物体が繭となり羽化した巨大な蛾が、城の中の家具や衣類のみならず黄金や宝石、あげくは城そのものまで食い荒らしてしまい…。王がとにかく素敵な人なので、家臣たちが王のためにならなんでも頑張ろうとしちゃうところがとても健気。宮殿は失われるけれど、彼らの忠誠心、王との絆は失われない。良いハッピーエンドだった。

  • 「白い果実」のジェフリー・フォード。なので、短編とはいえ、重層的で目の眩む、読み応えある物語たち。読み始め、あれ?ジェフリー・フォード?と思ったけれど、あ、やっぱりジェフリー・フォード、になっていく、グラデーションある物語の並び。足元がぐらぐらするところに立つような不穏な感じ。熱があるときに見る夢だ。

  • 「白い果実」から始まる三部作で知られるジェフリー・フォードの短篇集。噂に違わぬ面白さで、ファンタジーよりは幻想文学の方が好きという人なら必読の書。個人的にはフォードらしいと言われる多重構造で目眩くような作品よりは、どちらかというとストーリー自体は単純な方が好みで、お気に入りは「夢見る風」。三部作の方もいずれ。

  • 短編集13篇
    幻想妄想、夢といった世界が短編の中にギュッと凝縮され鮮やかな世界を表している。「創造」「熱帯の一夜」の少し不思議な物語や「光の巨匠」「巨人国」の入れ子細工的なこんがらがった面白さ、「夢見る風」「珊瑚の心臓」のどこか教訓めいた物語それぞれ違った味わいがあってジェフリーフォードの世界に堪能した。

  • 〈白い果実〉三部作の著者による、めくるめく奇想とイマジネールに彩られた短篇集。


    ジェフリー・フォードの幻想小説はやっぱり唯一無二のヴィジュアルイメージの強さがある。「創造」の冒頭、どんなに注いでもジョッキから溢れないビールのネオンサインと生命のメタファーにはじまり、「光の巨匠」の首だけが浮かんでいる男の額に嵌め込まれたエメラルドの栓だの、「私の分身の分身は私の分身ではありません」のホワイトチョコに漬けられて姿を表す透明ドッペルゲンガーだの、「レパラータ宮殿にて」の小さな雲が浮かびグラスのなかに天気雨が降る〈プリンセス・チャンの涙〉という名のカクテルだの。緻密で妄執的なリチャード・ダッドの妖精画を思わせる読書体験。
    『白い果実』のクレイもそうだけど、フォードは医者が嫌いだとしか思えない医者キャラをよくだしてくる。医者のことを絶対に"医術と称して他人に取り返しのつかない傷を残していく奴ら"だと思ってる。作中で科学者キャラが振りかざす似非理論の"オメーは何を言ってんだ"感も読みどころで、「光の巨匠」の心的光学の話は特に印象に残った。
    男たちが創造主の真似事をしてさまざまなやらかしをする一方、女たちは男主体の物語に抗い、ともすると小説という構造からすら逃げようとする。「巨人国」は読んでて頭がクラクラした。訳者あとがきで言われているけど、唐突な場面転換が実は同一モチーフの反復になるというフラクタル構造の小説になっている。どこへつれていかれるのか最後までわからない。
    ハイファンタジーと騎士道物語を掛け合わせた「珊瑚の心臓」もフェミニズム的に読めて面白かった。半身不随で空飛ぶ椅子生活を強いられている女の創りだした思念体がめちゃくちゃ強いのカッコ良すぎる。美文調の訳文もいい。
    最後に置かれた「レパラータ宮殿にて」は、海賊の孫が築いたはぐれ者だけのユートピアが崩壊していく物語。本書で一番ウェットな感じの作品だが、これにも人の耳から芋虫をつっこんで悲しみを食わせるヤバ医者がでてくる。悲しみの繭から生まれた巨大な蛾というモチーフは目新しくないが、道化師や泥棒や娼婦だったアウトサイダーたちが実のない肩書を与えられて平和に暮らしていた王国のイメージは懐かしい人形劇のようで静かな余韻を残す。
    どの短篇にも豊富なアイデアが惜しげもなくドバドバと盛り込まれている満足度の高い作品集。パラレルワールドの宇宙物理学を描いた「理性の夢」も面白かったので、SF系の作品も訳されてほしいなぁ。

  • ジェフリー・フォードの短編を読むのは初めてのはず(長編は『シャルビューク夫人の肖像』を読んだが例によって何も憶えていない)。訳者があとがきに書いているように《現実的なものから幻想的なものへ》と配列された作品のうち、後のほうの「珊瑚の心臓(コーラル・ハート)」や「巨人国」「レパラータ宮殿にて」などが面白かった。より奇想小説ふうの作品群からはエリック・マコーマックを思い出した。いずれにしても、物語は忘れても、特徴あるイメージがきれぎれのままおそらく長く私の頭に残ってときどきよみがえったりするだろう。一冊通して読んで、なんとなくこの著者らしい世界の感じはつかめたと思う。そのうえで、名高い長編三部作などは自分にはおそらく重すぎてしんどいだろうなという気がする。『シャルビューク夫人…』はどんなだったかしら、若くて気力体力のある時分に読んだから…

  • 海外文学の幻想小説ってやっぱり土地勘??とか文化歴史??に弱いからやっぱり難しい…うううん、まだ早いか…

  • 数年前に何冊か読んでとても引き込まれ、SFに触れたいと思ったきっかけになった気がする。その後ディックなど手に取るが実はサッパリ。今回はファンタジーが強く、ほぼSF色は見当たらす、とてもディープな世界に連れていかれた。幾度か寝落ちしながら読み、また再開。ほんとうに夢を見てるような、何か山の一軒家で木の椅子に座らされて、お爺さんがしみじみ本を読んでくれてるような、懐かしいような静かで不思議で美しい時間を過ごした。お爺さんはその後、猟銃で捕らえた動物のシチューを振る舞ってくれるのだった。肉は残すよ。

  • 『白い果実』は震災前に、『記憶の書』と『緑のヴェール』は震災後図書館再開後に読んだのを思い出した。そういう意味でも忘れ難い作家。
    山尾悠子さんや中野善夫さんが翻訳を手がける作家だもの、好きになるに決まってる。
    ドッペルゲンガーの扱いが面白い。
    語り手の一人称表記が<わたし>だと女性、<私>だと男性という風に訳者の方は分けているのだろうか?
    「珊瑚の心臓」はこの短編集随一の悲恋。

  • 深緑野分さんが面白かったと
    読解力がなくよくわからなかった残念

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