叫びと祈り (ミステリ・フロンティア) (ミステリ・フロンティア 60)
- 東京創元社 (2010年2月24日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
- / ISBN・EAN: 9784488017590
作品紹介・あらすじ
砂漠を行くキャラバンを襲った連続殺人、スペインの風車の丘で繰り広げられる推理合戦、ロシアの修道院で勃発した列聖を巡る悲劇…ひとりの青年が世界各国で遭遇する、数々の異様な謎。選考委員を驚嘆させた第五回ミステリーズ!新人賞受賞作「砂漠を走る船の道」を巻頭に据え、美しいラストまで一瀉千里に突き進む驚異の連作推理誕生。大型新人の鮮烈なデビュー作。
感想・レビュー・書評
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漫画家浦沢直樹の傑作『MASTERキートン』が本格ミステリになったらこんな感じ。わくわくする面白さ。
異文化圏だからこそ成り立つ、強烈なWhydunit (なぜそのような犯行に至ったのか)の連続。
サハラ砂漠を行くキャラバン、中部スペインの風車の丘、凍てつくロシアの修道院、先住民族が暮らす南米アマゾン盆地、そして......
世界を股にかける探偵が織りなす、目くるめく謎解きの物語。
「世界を股にかける探偵」なんて書き方をしてしまったので荒唐無稽な冒険譚を想像する方もいるかもしれない。
しかし冒頭で『MASTERキートン』を引き合いに出したように、照りつける太陽や風の匂いを感じさせる地に足のついた描写と、脳みそから快楽物質が出まくるような展開に満ちた極上のミステリ短篇集。
斉木の勤める会社は、海外の動向を分析する雑誌を発行している。
NPOや政府関係機関も一目置く情報誌の質を維持するためには相応の取材が必要になり、入社三年目の斉木もまた頻繁に海外に駆り出される。
年間百日以上を海外で過ごす彼は、ときに不可解な事件に巻き込まれることもあり、謎を解かなければならない状況に陥るのだった。
五篇収録。
『砂漠を走る船の道』
サハラ砂漠にて塩を交易する商隊に同行取材する斉木。
そのキャンプ中に遭遇する殺人事件。
砂漠があまりにも広大すぎて密室と同じ状況になっているという面白さ。
また少人数のキャラバンという犯人を特定されやすい状況でなぜ犯行に及んだのか。そしてそれでも深まる「犯人は誰か」という謎。
犯人側のWhydunitもさることながら、斉木がなぜ探偵をやるのかというWhydunitもいい。
夢の啓示により解決の糸口を得るというのもエキゾチックな雰囲気を醸し出して素晴らしいが、もちろん謎解きはロジカル。流麗な文章に紛れ込ませた憎い伏線の数々。
そして真相解明からのダイナミックで疾走感のあるクライマックスが最高。あらためてタイトルが活きてくる。
なお、この短篇では「あるトリック」がとてもユニークな使われ方をしていてそこも読みどころ。ラストの盛り上がりにも一役買っている。
第5回ミステリーズ!新人賞受賞作品。
デビュー作がこのクオリティというのは凄い。
『白い巨人(ギガンテ・ブランコ)』
巨大な風車群がひしめくスペイン郊外、レエンクエントロの街。学生時代の友人たちと旅行で訪れた斉木。
一転して歴史ミステリ。
イスラム教勢力とキリスト教勢力がスペイン全土で争っていた時代。
イスラム軍に追われていたキリスト教側の若き兵士が、逃げ込んだレエンクエントロの風車小屋で消失したという伝説。
友人たちとの多重解決風の推理合戦から、終盤のぞっとする展開に思わず「うわっ」と声が出た。そして見事な着地。
『凍れるルーシー』
ウクライナに隣接する南ロシア丘陵地帯に位置する女子修道院。
そこに安置されているという、修道女リザヴェータの不朽体(生前の姿を留める遺体)の聖人認定の調査に同行する斉木。そこで遭遇する異様な謎。
2014年版の本格短編ベスト・セレクション(http://booklog.jp/item/1/406277755X)にも選出された傑作。
一番のお気に入り。
実はこれを読みたくて積読の山から引っ張りだしてきたのです。
『叫び』
アマゾンの先住民族「デムニ」の村。
そこで発生したエボラ出血熱。
全滅に瀕した村で起こった連続殺人。
放っておいても死に逝く運命にあり、しかも血液感染の恐れのある村人たちをなぜ無惨にも斬りつけていくのか。
『祈り』
旅人の運命とは。
文庫版(http://booklog.jp/item/1/4488432115)の瀧井朝世さんの解説も良かった。
実は文庫化されるまで単行本を放置してしまっていたのだが(それもどうかと思うが)、もっと早く読めば良かった。
すべて素晴らしいが『砂漠を走る船の道』と『凍れるルーシー』が際立っている。
梓崎優の作品をもっと読みたい。
(余談だが『放課後探偵団』http://booklog.jp/item/1/4488400558 収録の、梓崎優「スプリング・ハズ・カム」は学園ミステリの隠れた傑作だと思っているので、ご興味のある方は是非。) -
雑誌発行会社に勤める斉木は、語学に堪能なことから取材のため世界各地を飛び回る。サハラ砂漠、南ロシア、アマゾン奥地等、訪れた先で不可解な事件に巻き込まれる…
全5話からなる連作短編集。著者デビュー作にして「ミステリーズ!新人賞」を受賞した巻頭の「砂漠を走る船の道」が出色の出来。砂漠のど真ん中で起こる殺人事件という、クローズドサークルの造形が異色。異文化ならではの倫理観に基づくホワイダニットは深みがあり、ミスリードを誘う仕掛けも上手い。「凍えるルーシー」の“凍える”ラストの切れ味も鋭い。
一方で、全般的に誰視点なのかわかりにくい場面が多々あり、また異文化特有のワードも出てくるので、読みにくさは感じる。連作短編集では、一見独立した各話が最終話で全て繋がって絡まった紐が解けるのがセオリーだが、本書はそれを狙ったけどジャストミートしなかった印象。本書がデビュー作とのことで今後に期待だが、寡作家なのかな?「リバーサイド・チルドレン」も読んでみたい。
週刊文春ミステリーベスト10 2位
このミステリーがすごい! 3位
本格ミステリ・ベスト10 2位
本屋大賞 6位
ミステリが読みたい! 5位
ミステリーズ!新人賞受賞(2008年)(※)
(※)受賞作「砂漠を走る船の道」 -
砂漠で起こる殺人事件など、今までにない切り口の作品で楽しく読めました。
他の作品も読んでみようと思います。 -
ミステリーズ!新人賞受賞作である
「砂漠を走る船の道」から始まる5編の連作短編集。
おそらく本書を読むポイントは2つあって、
1つはミステリーに付き物の「人はなぜ人を殺すのか?」
というカインとアベルから始まる究極の問いに対する考え方。
日本では愛と憎しみ、お金、理想のため、あるいは虐待
ということに殺人の理由を求めてきた感があるけど、
民族・歴史・環境・信念が変われば思いもかけない理由で
人は人を殺しうるのだということに改めて気づかせてくれた。
2つ目は、異国情緒あふれる流麗で情緒的な文章と
ミステリーの融合ということになるのだと思う。
いわゆるサクサク読める系の描写が少ない文章全盛の中で
じっくり雰囲気に浸りながら文章を味わうような
ミステリーをどう評価するかということで、
小説としての楽しみを味わいながら
じっくり読める人は高評価だけど
そうじゃないひとにとっては本書は
あまり楽しめないものになるのかもしれない。 -
これは久々のヒット!!
他サイトのレビューを見ると、どうやら賛否両論あるようですね…
ちょっと毛色の違うミステリを求めていた私には、好みど真ん中でした。
ある青年が世界各国で遭遇した様々な事件を描いた、連作短編集。
◆「砂漠を走る船の道」サハラ砂漠のキャラバン隊で起こる連続殺人。
◆「白い巨人」スペインの風車の中で消えた兵士の伝説と、ある女性の謎。
◆「凍れるルーシー」ロシアの修道院に祀られた腐敗しない聖人の謎。
◆「叫び」アマゾンの奥地、少数民族を襲った恐ろしい疫病。
◆「祈り」主人公・斉木を待ち受けていた運命とは…?
文章の質が高く、どの短編もレベルが高いですね。
個人的には「砂漠を走る船の道」と「叫び」が、特にお気に入り。
最後の「祈り」は、何とも言えぬもやっとした読後感でした(笑)
この作品がデビュー作との事で驚きです。
歳も近い作家さんなので、これから応援していきたいですね^^ -
主人公と世界を旅した気分になるロマンスミステリー。
サハラ砂漠、スペインの風車、ロシアの修道院、アマゾンの先住民、そして…閉ざされた心の城。
著者のデビュー作ということで、やや粗削りな文章がある…という部分もおこがましいが感じてしまった。
しかしミステリー作品には珍しいロマン溢れる作風と、連鎖する物語構成には心惹かれてしまう。
国の情景を1つの言葉選びだけで映し出す文章能力に心地好い溜め息が出てしまった。
この物語の主人公である斉木の続編だけでもあれば、また読んでみたいと素直に思えました。
白い巨人で表れた言葉。
『歴史とは勝者が作る物語だという。』
ならば、何が真実で何が誤りなのか…目を凝らして読む必要があるミステリー小説。 -
エジプトの砂漠を舞台にした不可思議な連続殺人事件を鮮やかに解き明かす「砂漠を走る船の道」からつらなる、「旅人」たる斉木の目を通して描かれた異国で起こる謎が満ちた物語たち。それぞれ少しずつ異なるトーンで描かれていますが、ミステリとしての鮮やかさでいえば新人賞を受賞した「砂漠…」がダントツに印象的でした。ほかにも、逆のベクトルに突き落とされる感じで後を引くのが「叫び」、不可思議な余韻が味わい深いのが「凍れるルーシー」と、それぞれインパクトある作品ばかりですごく楽しめました。
あとの二つに対しては、謎の解明が行われてもなお、それがまったく救いになっていないという無慈悲感を強く感じました。論理が彼らの非常識な常識のまえにはまったく歯が立たない。その冷徹なスタンスをあまりに強く感じるので、「祈り」がまたかえって心に響く。届かなくても祈り続けていたい。わかる日を夢見ていたい。そんな甘えにも通じる希望を持ち続けたい、そう感じたのでした。 -
巻頭の「砂漠を走る船の道」はかなり良く出来ていて、さすがミステリーズ!で新人賞受賞しただけあります。しかし、それに比べると他四作はちょっと質が下がった印象を受けました(好みの問題かもしれませんが…)。とは言っても、これからが期待できる作家さんですね!個人的に「凍えるルーシー」であの後斉木さんがどうなってしまったのか気になります…。
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世界各地で起こる事件の謎が解き明かされる、連作ミステリ。どれをとっても、真相にいたる道筋はいたってシンプルだという気がしました。事件を起こした犯人にとっては、当たり前のことだったんですね。だけどありきたりの固定観念に捉われていて、まるで解けない謎です。
お気に入りは「凍れるルーシー」。これも「普通」に考えると、まるで理解できない謎と動機。でも伏線はきちんとあって。ラストに残る不気味さが、とても印象に残りました。
kwosaさん、お久しぶりです!
元気ですかーっ!(笑)(^o^)
私事ですが、実は先週、住み慣れた大阪を離れて
花の都、大東...
kwosaさん、お久しぶりです!
元気ですかーっ!(笑)(^o^)
私事ですが、実は先週、住み慣れた大阪を離れて
花の都、大東京へ上京したので
あります(笑)
(アラフォーにして!)
ということで相変わらずバタバタとしておりますが
まだ仕事も決まってへん状況で(笑)
幸か不幸か、ひさびさに本を読む時間だけはたっぷりある状況です(汗)(‥;)
てか、この本、
自分の彼女が持ってて
つい最近発見したんですが
ちょっと気になってたんスよ(笑)
そんなときに
まさか kwosaさんの思い入れたっぷりの愛あるレビューが読めるとは、
なんというグッドタイミング!(笑)
キートンも大好きな作品やし、
もしや、コレは
神に導かれた運命の本なんかも(笑)(^^)
つか、
何を隠そう白河三兎も宮下奈都も
長沢樹も七河迦南も
犬はどこだも(笑)
すべて kwosaさんのレビューから
自分は知ったのですよ!
(いつもレビュー読ませてもらって
ビビビときた本は、読みたい本リストにちゃんと控えております)
はっはっはっはっ~、
どや、まいったか~(笑)
ということで
kwosaさんのレビューを楽しみにしてるブクログユーザーは
自分以外にも沢山おるハズなんで、
ムリなく楽しく
kwosaさんの『好き』を
また、追求していってくださいね。
なぜこの作品が好きなのかが
ちゃーんと書かれたレビューは
ホンマ貴重なんで(笑)(^^)
(あっ、テリー・ホワイトの『真夜中の相棒』と友桐夏の『春待ちの姫君たち』をまた読みたいリスト入りしました!)
あっ、あとあと、
かなり前にコメントもらった
『残酷な天使のテーゼ』のレビューに
返事返してますので、
また時間ある時にでも見てみてくださいね(^^)
オススメの音楽また紹介してます(笑)
元気です! コメント頂けてとってもうれしいです!!
ああ、なんだか環境が激変されたよう...
元気です! コメント頂けてとってもうれしいです!!
ああ、なんだか環境が激変されたようですが、いち「 円軌道の外レビュー」 ファンとしては「 また、あのレビューがたっぷり読めるのかなぁ」って無責任に喜んでいます(すみません)。
ここ半年近く本から遠ざかる生活が続き、たまに読んでもなかなかレビューが書けず、そして円軌道の外さんをはじめとする大好きなレビュアーさんたちが次第にブクログから離れてゆき、寂しい思いを抱えながら自分自身も次第にアクセスすることが少なくなってしまいました。
久しぶりにブクログを覗いてみれば「おおっ、 円軌道の外さんが『犬はどこだ』のレビューを書いてる!!」とうれしくなって、おずおずと花丸(いまは「これいいね!」なんですよね)を押した次第です。
彼女さん、『叫びと祈り』読んでるなんていい趣味してるなぁ。本読みの彼女って最高じゃないですか!!
これは是非、今夜からでも読むべきです(そして、自分のレビューでも書きましたが『放課後探偵団』に収録の短編も読むべき! アンソロジーだけに埋もれさせるにはもったいない傑作!!)
うれしくなって読書欲も再燃してきたので、また読んでレビュー書きます。
あの本は良かった、面白かったって、おたがい語り合えるのは幸せですよね。
『真夜中の相棒』をはじめとする文春文庫の復刊ラッシュは期待大ですよ。
そして、友桐夏は『春待ちの姫君たち』よりも、ミステリフロンティアの『星を撃ち落とす』のほうが断然お薦めですのでそちらを是非!!