蝦蟇倉市事件2 (ミステリ・フロンティア) (ミステリ・フロンティア 51)
- 東京創元社 (2010年2月24日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (328ページ)
- / ISBN・EAN: 9784488017620
感想・レビュー・書評
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架空の街“蝦蟇倉市”を舞台にした推理小説アンソロジー第2集。
図書館本。
前巻以上に、蝦蟇倉市である必然性が減っている。米澤氏の作品に至っては、もう鎌倉市にしか見えない(笑)。
相変わらず他作品との絡みがちょこちょこあるので、ここまで読んでくると多少の愛着も出てくる。
◇北山猛邦「さくら炎上」
孤立しがちな女子高校生の“私”は、唯一の友人である陽子が同級生を殺すのを目撃する。犯行を隠そうと、死体を埋める“私”。だが、なぜか元の場所に戻っていた死体が発見され、事件は明るみに出てしまう。
ん~、何が起こっているかは予想がつくかと。問題は動機……なんだけど、こりゃ私には想像つかんわ。私には完全無縁。少女漫画などにありそうではある。
◇桜坂洋「毒入りローストビーフ事件」
大学時代の友人4人の会食中、1人が死んだ。持病のあった被害者は薬を常用しており、それと飲み合わせの悪いものが食事に入っていたのでは?残った3人は殺害方法や動機を推理する。
色々とパロディが入っているようなのだけど、残念ながらタイトルの元ネタは読んだことがなく……。ずいぶんと回りくどい文体も関係あるのだろうか? 元ネタを読んでから再チャレンジしたい。
◇村崎友「密室の本-真知博士 五十番目の事件」
大学の先輩が稀覯書を入手し、ちょっとした謎を解いたらその本をくれるという。張りきって先輩の部屋を訪れると、密室と化した部屋に先輩の死体が。
密室殺人のトリックは、押し入れから消えた本の行方は? 不可能犯罪研究会の大学生2人が謎に挑むが……。
1巻でも登場した真知博士が再登場。なんだか前作よりも品が良くなったような? 紅茶のご趣味がよろしいようで。偏屈なタイプかと思ってた。
短編で文章量が限られてしまうためか、さほど頭を悩ませることなくあれこれ透けて見えてしまう。
推理よりも、本に関する話の方が楽しかった。
◇越谷オサム「観客席からの眺め」
吹奏楽部の顧問が殺された。僕は智代と一緒に無人の市営球場に忍び込み、顧問の事件の概要を語って聞かせる。こんな場所を選ぶのは、人目を避けるため。十王還命会の信者である僕と一緒にいることで、彼女に変な噂が立つのを避けるため……。
これは推理小説というより……何か別物だった。大きく分ければミステリーに分類されるのだろうけど。まあ「陽だまりの彼女」の人だしなあ。小説としては悪くないのだけど、こういうの読みたくて手に取ったわけじゃないんだよ……。
◇秋月涼介「消えた左腕事件」
美術館で起きた奇妙な殺人事件。絵の中の人物の左腕が切り取られ、被害者の左腕も同様に消失していた。その左腕は未だに発見されていない。
真知博士をはじめ中国茶の店に集った面々に店主も加わり、夕食を賭けた推理合戦が繰り広げられる。
紅茶の次は中国茶。真知博士の趣味がどんどん拡張されて行く(笑)。
肝心の謎解きは、これまた念が入り過ぎというか。「なぜこんな書き方?」と、逆に目を引く原因になっていそう。ロジカルな推理が苦手でも、文章の裏を読めばいける。
◇米澤穂信「ナイフを失われた思い出の中に」
ルポライターの太刀洗万智に会うため、モンテネグロからやって来たヨヴァノヴィチ。彼女の人となりを知ろうと、太刀洗が現在追っている事件の取材に同行する。
蝦蟇倉市で起きたその事件は、16歳の少年が姪に当たる3歳の少女を殺害したというもの。配慮の無い取材手法にヨヴァノヴィチは失望を覚えるが……。
残念ながら、蝦蟇倉市を舞台にする意義が一切無い作品。そして、ルポライターは別シリーズのキャラクターなのだそうで。
真相が明らかになる際の解説、私はこの方のこういうところが好きじゃないんだよなあ……実に米澤氏らしい作風。
ファンならおそらく読んで損はなく、そうでない派にはイマイチ、だろうか。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
仮想の町『蝦蟇倉市』を舞台とするアンソロジーミステリーの2巻。
1巻より他作家作品のキャラクターが次々に友情出演して、小粒ではあるものの企画モノとしてはなかなか面白い内容でした。
純粋なミステリーというより、少し狂気を感じる話が多め。
中でも【さくら炎上/北山猛邦】は、女の子の未熟な価値観がうまく表現されていて、狂った中にも「あの年頃ならば、そう思うこともあるのかもな」と納得できる部分がありました。
ただ、米澤穂信の『さよなら妖精』のスピンアウトは、(米澤ファンですけど)この本の中で正直浮いているような。
ここに来て「他の町でも全く構わない」というネタは面白味に欠けますね。
いっそ1~2巻の真知博士のネタだけ集めて一冊にした方が、すっきりまとまったかもしれません。好き嫌いは出そうですが。
あと、個人的には「ミステリー」と名を冠したものに「実は犯人は私」ネタや「殺し屋」ネタがあると、がっかりしてしまいます。乱発は禁物です。
真知博士がヘッポコぶりや蝦蟇倉市の特異性の表現かもしれませんが、こういう本ならば、企画の段階で調整すべきものだったかもしれません。-
リエ@六畳和室東向きさん、フォローありがとうございます。今後ともよろしくお願いします。
おぉ!やはり「さよなら妖精」がらみだったのですね。...リエ@六畳和室東向きさん、フォローありがとうございます。今後ともよろしくお願いします。
おぉ!やはり「さよなら妖精」がらみだったのですね。「さよなら…」は未読ですが、少し聞きかじっていたのでそんな気がしてました。
個人的には…の部分、同感です。乱発は確かにいただけませんね。2010/07/12 -
フォロー返しありがとうございます(^^)
「蝦蟇倉市事件」は企画として面白かったのですが、横の連携があまりうまくいかなかったのかな、という...フォロー返しありがとうございます(^^)
「蝦蟇倉市事件」は企画として面白かったのですが、横の連携があまりうまくいかなかったのかな、という印象でした。
どんどん真知博士の真相解明率が低下していくのが笑えますが…(笑)
「さよなら妖精」は青臭さが気になりますが、学生さんにはぜひ読んで欲しい本でした。
自分の無知を自覚させられましたね……。2010/07/13
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1年に15件以上の不可能犯罪が起きるという蝦蟇倉市では、ひとたび事件が起きると、誰もが知らず知らずに「名探偵」ばりの推理を始めるという…。そしてそんな状況の中で、今日もまた事件が…。
蝦蟇倉市を舞台に、ミステリ作家たちが綴る、ちょっと贅沢なアンソロジー。
『さくら炎上』 北山猛邦
クラスで孤立していた私は、同じく休み時間を1人で過ごす陽子と親しくなる。陽子のおかげで、休み時間も話ができ、体育の時間もペアに困らないようになった私。しかし、春を迎え、クラス替えの季節となる…
そんな中、ある日私は、見知らぬ男の子と待ち合わせをする陽子の姿を発見する。よくないことと知りつつ、彼女を尾行して私が見つけたこととは…
『毒入りローストビーフ事件』 桜坂洋
学生時代の仲間4人が久々に集い、レストラン骨皮山で食事。しかし、食事の途中で猫田が突然発作を起こす。驚く友人の前で息絶えた猫田。死因は彼の常用する薬との食べ合わせかと思えたが…
残された小説家の古辺、製薬会社の葉隠、学者の麗子は、誰が猫田を殺したのか、推理を展開するが…
『密室の本 真知博士 五十番目の事件』村崎友
見た目は普通の女の子なのに、蝦蟇倉大学の不可能犯罪研究会に所属している藍は、根っからの推理オタク。なんと!趣味は、ミステリの古本集め。
ある日、2人は古本を高く売ることを趣味にしている多智花さんの家に招かれ、そこで希少価値のあるミステリを見せられる。多智花は、明日用意している謎をとけば、藍に本を譲るというのだが…翌日2人が出向くと、先輩は殺されていて…
『観客席からの眺め』 越谷オサム
吹奏楽部の顧問勝田が、何者かに殺されて発見された。現場には多くの毛髪がばら撒かれ、謎は深まるばかり。勝田に思いを寄せていた智代を元気づけようと、あれこれ気を遣う今村だが、その思いとは裏腹に智代の心は沈んでいく…。
『消えた左腕事件』 秋月涼介
中国茶専門店「白龍(ぱいろん)」でアルバイトする柳のもとへ、今日も集まってきた常連たち。話題は、美術館で人を刺し、左腕を持ち去った男の話…。真相を見抜いた者に、真知博士がご馳走することになり、推理はますます白熱して…。
『ナイフを失われた思い出の中に』 米澤穂信
妹の日本の友人を訪ね、日本にやってきたヨヴァノヴィチ。15年前妹が世話になった相手太刀洗万智は、今やルポライターとなり、蝦蟇倉市で起きた幼女殺人事件を追っていた。人々のプライベートを暴き出すルポライターの仕事に不快感を禁じえないヨヴァノヴィチ。しかし、ともに事件を探るうちに、彼女の追い求める先が見えてきて…。
1年に不可能犯罪がおよそ15件も起きるなんて、とんでもないけど、ミステリファンには、実力作家の競演とあって、なかなか楽しめる内容です。 -
ミステリ。短編集。シリーズ二作目。
なんか、どの作品も読後感が似てる気がする。
テーマを統一してたのかな?せっかく6人集まったので、もっとバラエティ豊かなほうが良かったかも。
米澤穂信「ナイフを失われた思い出の中に」は、『さよなら妖精』のキャラクターが登場。 -
架空の街、蝦蟇倉市を舞台にしたアンソロジー第2弾。前後を知らないので、?な話しもあり…面白いのとそうでないのが。とりあえず蝦蟇倉市には住みたくないわw
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「さくら炎上」 北山猛邦
「毒入りローストビーフ事件」 桜坂洋
「密室の本-真知博士 五十番目の事件」 村崎友
「観客席からの眺め」 越谷オサム
「消えた左腕事件」 秋月涼介
「ナイフを失われた思い出の中に」 米沢穂信
かなり毒を吐きますので(昨日以上に)、楽しく読んだまたは楽しく読みたいという方は、この先は読まない方がいいと思います。
前作も道尾秀介&伊坂幸太郎と、ほかの作家の力量にずいぶん差を感じましたが、今作は米澤穂信の一人勝ちです。
つまりそういう事を計算した構成になっているんですね、きっと。
不可能犯罪という設定にとらわれ過ぎて、蝦蟇倉市だから不可能犯罪が起こるべきして起きているんだという呪いなの?
最後は「磁場」の大合唱でした。
「磁場」が事件を起こさせるんだ!と。
なんじゃそりゃ?
「シュレーディンガーの猫」が出てきたときはわくわくしました。
量子力学的犯罪解決!
「コペンハーゲン解釈」や「エヴェレット解釈」が紹介された時点で、それを超える解決法があるのかと。
まさか解釈の紹介で終わるとは…。
いくつかの作品が「解決したかに見えた事件の真相は別にある」という構成にしていましたが、作品の中に否定材料が見当たらない解決法が複数ある時点で不可能犯罪ではないと思うんですよね。
蝦蟇倉市に京極堂があったら…と、何度も思いました。
「この世には不可能犯罪なんてひとつもないのだよ」ときっと諌めてくれたと思うの。
そう、あるのは不可能犯罪ではなく、不可解な事件なんです。
不可能と不可解は違います。
無理っぽく見えるけど実際に事件は起きちゃってるんだから、不可能ではなく不可解。
それを「不可能だ!」と思うのは読者で、作家はあくまで「不可解でしょうが、こういう事件が起きたんです」という姿勢じゃなければ。
道尾秀介も伊坂幸太郎も米澤穂信も、全然不可能犯罪を書いてなんかいませんよ。
道尾秀介の作品はありふれた、でも悪質な交通事故を書いたもの。
伊坂幸太郎はありふれていない日常の不条理を書いたもの。
米沢穂信はルポライターの矜持を書いたもの。
たまたま視点を変えたら不可能な犯罪に見えただけ。
米沢穂信の作品は「さよなら妖精」とつながっている話なので、このシリーズも早く読みたいものです。(と言って、もう10年以上…)
それから、「毒入りローストビーフ事件」はタイトルが適切ではありません。
ああ、目が覚めるような不可能犯罪の小説が読みたい。
米沢穂信をもってしても、胸にくすぶるこの不満をスッキリ解消することができませんでした。