- Amazon.co.jp ・本 (461ページ)
- / ISBN・EAN: 9784488028039
作品紹介・あらすじ
終戦から復興を遂げつつある古書の街・神田神保町の一隅で、ひとりの古書店主が人知れずこの世を去った。古書の山に圧し潰される皮肉な最期を遂げた商売敵を悼み、同じく古書店を営む琴岡庄治は後処理を申し出るが、彼の周囲では次第に奇妙な出来事が起こり始める。行方を眩ませる被害者の妻、注文帳に残された謎の名前、暗躍するGHQ――名もなき古書店主の死を巡る探偵行は、やがて戦後最大級の“計画”を炙りだす。直木賞受賞作家の真骨頂と言うべきミステリ長編。
感想・レビュー・書評
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タイトルの「定価のない本」とは古書のこと。
『新刊本は定価にしばられるが、古本はしばられない』
主人公の琴岡庄治が専門として扱っているのは、古書の中でも古典籍と呼ばれる貴重な書籍。
庄治の弟分でやはり古書店を営む芳松が倉庫で古書に埋もれるようにして死んでいるのが発見される。
その後、芳松の妻が失踪したり、庄治がなぜかGHQに芳松の死について調査を命じられたりと不穏な空気になっていく。
この芳松の死の真相を追求すると同時に、庄治とGHQとの闘いも描いているのだが、どちらかというとその闘いの行方の方が気になって読み進めた。
プロローグで庄治の息子・浩一が孫娘に日本の古典が安く(あるいは教科書などでタダで)読めることが当たり前ではない、『それどころか、日本人は日本の古典をあやうく全部なくしてしまうところだった』と、とても気になることを突きつける。
その意味が本編を読むと分かってきた。
実際にこのような計画がGHQの中で行われていたのかどうかは分からない。しかし当時の財閥解体や預金封鎖を始めとした様々な締め付けや、ただですら終戦直後の混乱期で誰もが現金を必要としていた時代、手っ取り早く現金を手にするために人々が行ったことは想像出来る。
白洲次郎は政治的にGHQと様々な闘いをしたが、こうした文化面での闘いもあったとしたら…という興味は湧いた。
庄治を始めとする古書店主たちの団結やその意気は気持ちよかった。ある有名作家もちょっと活躍してくれた。
今でも学校での現代史はサラッと流す程度だし、私が学生時代の頃ですら愛国心という言葉はイコール軍国主義のように結び付けられて使えなかった。それもその奥にこういう事情があったのだとしたら。なんてことを考えてしまう。
歴史を守ることは過去を振り返るという意味でも必要だし、確かにプロローグとエピローグで浩一が言うように『古典が読めるのは当たり前』ではなくて、そうなるように必死で努力してきた人たちがいるということに感謝しなければならないなと思った。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
レビューを拝見して知った本です。
確かな読み応えのある一冊でした。
文句なしの星5つ。
明治生まれの琴岡庄治と神田の古本屋街の書店主たちとの物語。神保町の「本の街」としての歴史が引き起こした事件。
昭和21年(1946年)8月15日の1年後、古典籍(維新以前の和綴じの本)を扱う琴岡玄武道の店主、琴岡庄治は若い頃、立声堂という古書店で一緒に働いていた弟分の三輪芳松が、本の下敷きになって倉庫で亡くなっているのが発見され、不信感を覚えます。芳松の妻タカが姿を消し、犯人かと疑われますが、タカは「ひとりで犯人をみつけるつもりだった」と庄治に告白した後、タカもまた、自殺にみせかけて殺されてしまいます。
そして、庄治はGHQのファイファー少佐にとある事を要求され苦悩しながら日本の歴史の為に戦おうと心の中で一人決意します。妻と四人の子供のたちの身の安全の為に、GHQの狗となり、日本の歴史を売らなければならなかった庄治の苦悩は計り知れないものがありました。
でも庄治は負けなかった。事情は、反転につぐ反転で、真相が明らかになります。芳松の死の真相も解き明かします。
「定価のない本」日本の歴史は確かに守られました。
庄治や古書店主らの働きは、すばらしい叡智のある賞賛されるべきものでした。
作家の太宰治も、鍵を握る人物として登場しています。-
やまさん♪おはようございます。
こちらこそ、いいね!ありがとうございます♪
『定価のない本』は字の大きさは一般的な単行本の大きさで、やや...やまさん♪おはようございます。
こちらこそ、いいね!ありがとうございます♪
『定価のない本』は字の大きさは一般的な単行本の大きさで、やや小さいかもしれません。
とても、面白い本でしたので、もしよければ是非、ご一読ください(*^^*)2019/11/03 -
まことさん、こんにちは。
文字の大きさが、「一般的な単行本の大きさ」だと、私は、ちょっと読めないと思います。
まことさんのレビューを見て...まことさん、こんにちは。
文字の大きさが、「一般的な単行本の大きさ」だと、私は、ちょっと読めないと思います。
まことさんのレビューを見て、図書館で「キャベツ炒めに捧ぐ」の単行本、文庫本を見たのですが、字が小さくて読めませんでした。
2019/11/03 -
やまさん♪こんばんは。
そうでしたか。それは残念ですね。
やや大きめの字ならお読みになれるのでしょうか。いつも、大きめの字の本を探してい...やまさん♪こんばんは。
そうでしたか。それは残念ですね。
やや大きめの字ならお読みになれるのでしょうか。いつも、大きめの字の本を探していらっしゃるのでしょうか。2019/11/03
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終戦から一年が経ち復興を遂げつつある古書の街・神田神保町の一隅で、ある日ひとりの古書店主が人知れずこの世を去る。古書の山に圧し潰され皮肉な最期を迎えた商売敵を悼み、同じく古書店主である琴岡庄治は事後処理を引き受けるが、事故現場からは不可解な点が。次第に彼の周囲でも奇怪な事件が起こり始める――。古書店主の死をめぐる探偵行が歴史の闇に隠された陰謀を炙りだす
事件が無事に解決し物語の最期の章は平成時代。そこで庄治の曾孫・玲奈が祖父に諭される言葉がある。「今の日本人は水がただで飲めるように古典が読めるのは当たり前だと思っているが、古典は水とは違う。水のようにもともと『そこにある』ものではなく、明確な意思と知識を以って、いくらかの偶然の力も借りて、努力しなければ『そこにある』ことは不可能。つまり、古典は『残る』ものじゃない、誰かが『残す』もの」
読み終えて同意に至った。古典好きな私でさえ、古典を学習する時間があったら英語を勉強する方が今の世では合理的なのにと思いがち。でも、それは根本的に間違っているのかもしれないとよくよく反省させられ、残してくれた人々に深い敬意を払わねばならない。
本書では、GHQが「ダスト・クリーナー計画」として、日本の古文書・古典籍をすべてアメリカが買い上げ本国で保管するという壮大な計画を打ち出す。日本が戦争を起こした原因をたどれば不可解な天皇制、そこに至ったのは神話から始まる長い日本の歴史にほかならない、そういう偏った歴史観を一掃するために日本の古書をなきものにするということだ。GHQ本部の言い分にすべて賛同はできないが、特攻隊や「神風が吹く」という非科学的な思想体系に対しては含蓄に富む文章が多々あり興味深い。
不利な形勢から、庄治を中心に書物を守る古書店の人々は『文化の爆弾』を放つ。GHQ占領下の神田古書店主たちが古書を守ろうと団結する熱い思いに心打たれます。-
しずくさん
こんにちは。
フォローの登録ありがとうございます。
今後とも宜しくお願い致します。
やま
しずくさん
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やま
2019/12/24 -
2019/12/27
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倉庫で古書につぶされて亡くなった、古書店主の芳松。
地震でもないのに、なぜ大量の本は落ちてきたのか?
古典籍や古本屋のうんちく、注文帳の謎などが、興味深かった。
敗者であっても文化は残すべきだし、現代まで残っている古典は残された物だけだ、というのも同感。
ただ、愛国心や日本人意識につなげられると、ちょっと共感しづらい。
ミステリ的にはややもやもや。 -
東京の神田神保町。今も昔も多くの古書店が立ち並ぶ古本の町。戦後すぐの頃、そんな神保町で書店経営者が大量の本の下敷きになって死亡する。近所に住む同業者の琴岡庄治は事故ではないと直感し、犯人探しに奮闘する。やがて、事件の裏にはGHQが存在していることが明るみになる。
「本」にはその国の歴史や文化を後世に伝える役割がある。それを知る神田の古書店は、関東大震災や空襲に負けることなく、日本人のために本を守ろうとした。が、彼らにも生活がある。いくら自分の国のためといえど、ボランティアで本を守ることはできない。そこで古書店は古本に適正な価格を付けて、市場に流通させて、利益を得る。そんな資本主義ルールによる流通過程の中で貴重な本は生き残ったのだ。
結果的に、古本市場は日本人のアイデンティティを残す役割を果たした。しかし、敗戦をきっかけに日本人を変えてしまいたい米国にとって、古本市場の存在は都合が悪い。かくして、神保町古書店たちとGHQとの日本文化をめぐる争いが開戦する。
そんな社会派ミステリー歴史小説だが、ミステリー部分がパッとしない。徳富蘇峰や太宰治、主人公の息子など、意味ありげに登場する割には活躍しない人物たちが展開を邪魔しているのが残念。 -
定価のない本 古書、中でも明治維新以前の和綴じ本専門の店舗を持たない琴岡玄武堂を立ち上げた琴岡庄治。丁稚奉公の末に才覚を発揮して独立した彼を慕っていた 古書店主になっていた5歳下の三輪芳松が終戦記念日の翌年 昭和21年8月15日に古書で圧死したとの知らせを受けたのが物語の始まり。世界に稀な悠久1400年の歴史を有する日本を更生する密策と思惑を有するGHQに期せずして対峙することになる庄治だが、さて如何なる手立てで圧倒的力量を誇るGHQに立ち向かうのか 立ち向かえるのか? 地味な古書の世界が思わぬ壮大な展開に繋がって行くので快哉を叫びたくなるほどでした♪ 作中で徳富蘇峰や太宰治などにもいい仕事させています(笑)。ちょっと小気味良く、とても面白くて そして良かった。
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終戦から1年、活気を取り戻した神田・神保町。古書の街の片隅で一人の古書店主が崩落した古書の山に圧し潰されて死んだ。事故処理を買って出た仲間の古書店主・琴岡庄司は、現場の店に不可解な細工を発見する。行方を眩ました被害者の妻、注文帳に残された謎の名前そしてGHQの影。やがて、戦後日本の文化の存続に関わる恐ろしい陰謀が明らかになる。古書店主たちは日本の文化を、歴史を自分たちの手に取り戻せるのか・・・
門井さん初読みは、戦後、GHQ占領時代の古書店街を舞台とするミステリ。肝腎の事件は刺身のツマのような扱いで、ラストの謎解きを聞いたときもスッキリ!とはならなかった。むしろそこをとっかかりとして、GHQの陰謀から日本の文化の危機を取り戻しすという古書店主の奮闘が物語のメインテーマ。駆け出し作家の太宰治や徳冨蘇峰も登場して時代を感じさせる。
GHQのこんな陰謀が本当にあったのかどうかは不勉強で知らないし、作中で感じられる作者の歴史観という微妙な問題はさておいても、「古典は『のこる』ものじゃない、誰かが『のこす』ものなんだ」という言葉には深く感じ入った。
この「古典」は「ことば」にも置き換えられるかもしれない。言葉は文化であり、その国そのものである。言葉をないがしろにし、本を読まず、省略語や絵文字だけで感じ取るようなことを続けていけば、日本語はどうなっていくのか。その時「日本人」としてのアイデンティティはどこにあるのか。なんて、色々と考えてしまった読後でした。 -
古典籍だけを扱う古書店の庄治。
親しい同業者の芳松が本で圧死したとき
事故ではなく他殺を疑う。
その途中でアメリカ軍に連行され
芳松はソ連のスパイで
その妻が彼を殺したと明かされるのだが。
真相を探れと米軍に言われて
妻を東北まで追いかけた庄司でしたが
結局、妻も死んでしまって
そちらは明らかに他殺だったから
結局ふたつの事件を解くはめに。
うーん、戦後混乱期の古本の話も興味深いし
謎解きでトリッキーな部分もあって
とてもおもしろく読み進めたのですが。
どうもこの著者の「落としかた」が
毎回私の好みには合わないのが難点だ〜。
あつかうネタが好きなのと
途中がおもしろかったから良しとするか。 -
占領軍の「ダスト・クリーナー計画」実際にあったと思わせる筆力。歴史とそれを源泉とする肥大化した日本人の自尊心奪うため歴史を、古典籍を奪う。「古典は『のこる』ものじゃない、誰かが『のこす』もの」いろいろ考えさせられる。門井さんらしい歴史ミステリー。