晩餐後の物語―アイリッシュ短編集 (1) (創元推理文庫)

  • 東京創元社
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  • Amazon.co.jp ・本 (355ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488120030

感想・レビュー・書評

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  • 「遺贈」(Bequest)
    途中でなんとなく遺贈の中身が想像つくが、そうはうまくはゆきません。ドラマにしたらおもしろそう。

    道路で男の乗ってきた車を乗っ取った2人組みの男達。運転の男はお金はやるから降ろしてくれというが、二人組は「この車もろとも”遺贈”ってのはどうかい?」と運転の男を殺してしまう。メキシコに逃れようとした二人組、魚のすえたような匂いに気が付くが・・ それが彼ら二人にとっての本当の遺贈物だった。

    「金髪ごろし」(Blonde Beauty Slain)
    金髪の女性はたくさんいて、たくさん殺される?
    爪にちょっと傷が、男はさらりと最後に言う・・ 

    「盛装した死体」(The Body of a Well-Dressed Woman)
    刑事のカンが冴えて御用だ。
    支払いに窮した男、ちょっと当てがあるから待ってと離婚した妻ともう一度会い食事をしようと誘う。妻は服に気を配る女性で、この服装にはキツネのケープをするはずだ・・


    「ヨシワラ殺人事件」(The Hunted)
    アイリッシュは日本に来たことがあるのだろうか。朝鮮戦争が・・と出てくるので1950年あたり、そうなるとヨシワラ廃止直前の話か。紙と木でできた家、というのは興味をそそるのか。場所はヨシワラだが、逃げる男女はアメリカ人。

    発表年をつけて欲しかった。

    他に、
    「晩餐後の物語」(After Dinner Stories)(コーネル・ウールリッチ短編集2 に所収)
    「階下で待ってて!」(Finger of Doom 改題:wait for Me Downstairs)(コーネル・ウールリッチ短編集3)
    「射的の名手」 (Dead Shot)(コーネル・ウールリッチ短編集5)
    「三文作家」 (Pennie-a- Wonder)("パルプマガジン作家"で コーネル・ウールリッチ短編集5)


    1972.3.10初版 1975.4.25第8版 図書館

  • アイリッシュの経歴によれば、当初は普通小説の作家から短編作家へ転身しており、彼の本質は短編にあるとの見方もある。実際、諸々の長編の中には短編で扱った題材を焼き直ししたものも多くないという。
    そんな前知識を与えられていた上で臨んだ初の短編集は、とりあえず水準をクリアしているとの印象を得た。

    アイリッシュと云えば叙情溢れる文体と読んだことのないようなシチュエーションというイメージが強いが、本作品集においてもそれは発揮されている。8作品のうち平凡な設定であるのは「盛装した死体」と「ヨシワラ殺人事件」の2作品のみ。
    前者はアイリッシュには珍しい本格ミステリで借金の返済に困った男が仕掛ける完全犯罪を扱っている。倒叙物で刑事が執拗に犯人を追い詰めるさまはアイリッシュの長編にも通ずるものがある。
    後者は日本に停泊中に吉原を訪れた水兵が巻き込まれる殺人事件。恐らく作者が日本を訪れたときに強く印象が残ったのであろう、なかなかに細かく日本が描写されている。しかしところどころ勘違いしている内容もある(番犬の代わりにコオロギを買っているなんていうのは聞いたことが無いし、結末の切腹も西洋人にとってやっぱり日本といえばこれになるのかとがっかりした)。
    その他6編ではやはりアイリッシュならではの魅力的な導入部を用意してくれている。
    表題作「晩餐後の物語」は7人の男が乗り合わせたエレベーターが事故で地下まで墜落し、その中で起きた殺人事件についての復讐譚という内容。最後のどんでん返しもなかなかなのだが、エレベーターが落ちるときはバウンドするというのと乗客は即死しないという点が引っかかった。

    次の「遺贈」は夜、疾走するスポーツカーのカージャックという内容。展開が読めたが、死体が何者かを明らかにしないのが逆に新鮮。

    「階下で待ってて」はいつも階下で待っている男という設定が都会の一シーンを切り取る彼らしい作品。
    次の「金髪ごろし」の地下鉄の入り口にある新聞売り場を中心に繰り広げられる形もその例に漏れない。

    「射撃の名手」の詐欺師が陥る犯罪事件も短編にしては濃厚な内容である。アイリッシュらしい強引な設定ながらも最後の一行にも気を配るあたり、余裕が感じられた。

    「三文作家」は原稿を落とした作家の代わりに作品を仕上げることになった作家の話。これははっきり云って最後のオチからしてミステリではない。恐らく作者自身の経験から生まれた作品だろう。

    今回の中でのベストは「金髪ごろし」に尽きる。それぞれの客に金髪美女殺されるという見出しの新聞に対するそれぞれの事情。最後に出てくる実業家が洩らす一言は果たして真実なのか?
    都会派小説というか、群衆小説というか都会の一角で新聞売り場を中心に描いた小説はアイリッシュの洒落た感覚で物語を紡ぎだす。新聞を買うそれぞれの客のドラマが描かれる。
    題名の金髪ごろしはこれらの人間たちを描写する1つの因子に過ぎないところがいい。だからこそ逆に最後の言葉が余韻を残す。事件は解決されないながらも最も印象の残る作品となった。

    次点では「階下で待ってて」か。
    純な日常の出来事がやがて国際的スパイ組織の陰謀と繋がっていくというのは派手派手しいが、短編でここまで読ませることに賛辞を送りたい。題名もなかなかである。

    長編では復讐譚がほとんどだが、短編ではヴァリエーション豊かな物語があり、愉しませてくれた。一気に読むのが勿体ない、そんな気にさせてくれる。
    昔の作品なのに訳も違和感なく、むしろ風格さえ漂っている。
    評価は3ツ星だが限りなく4ツ星に近い。それは単純にアイリッシュに対する要求が高いゆえなのだ。

  • 短編もスリリングで面白い。自分の意思とは関係なく、事件に巻き込まれて行く主人公の恐怖感を描かせたら、彼の右に出るものはいません。

  • 40年代、本格物の行き詰まりが叫ばれ始めた頃に登場したアイリッシュは、いわゆるサスペンスもので一躍脚光を浴びたようだ。短編作品を多く残しいて本書はその第一集。タイトル作の「晩餐後の物語」が収録された作品の中では最も出来がよいが、『エドガー賞全集』(ハヤカワ文庫)に収録されていて、既読。★数人を乗せたエレベーターが十一階付近で制御不能になり、自由落下。エレベーターの箱に設置されているバネのおかげで地面への激突、大破は免れるが、救助隊の到着まで乗員は箱の中に閉じこめられる。だが救助員が天井をバーナーで焼き切っている間に何者かがピストルを発砲。資産家の息子が命を失う。この事件を警察は本人の混乱による自殺と判定するが、納得のいかぬ被害者の父は一計を案じる…★エレベーターって怖いですよね。もし、乗降用のワイアーが切れたら、って僕もよくエレベーター乗っているとき考えます。映画でも『死刑台のエレベーター』、『殺しのドレス』と、エレベーターものの傑作がありますね。

  • アイリッシュの作品は主人公の孤独感、焦燥感がひしひしと伝わってきて、どの作品も大好き。

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