シスターズ・ブラザーズ (創元推理文庫)

  • 東京創元社
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  • Amazon.co.jp ・本 (445ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488180027

作品紹介・あらすじ

悪名とどろく凄腕の殺し屋シスターズ兄弟。ゴールドラッシュに沸く狂乱のアメリカ西海岸でのブラック&ブラッドな旅路。各種ミステリ・ベスト10入りを果たした傑作が文庫化。

感想・レビュー・書評

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  • ブラックコネディのようなタッチで描かれた、殺し屋兄弟のシビアな旅。
    血生臭さとむなしさの詰まった世界へ引き込んでゆく。
    出会った人々は、示唆めいていて、それぞれに計り知れないようなものがまだありそうである。
    そして彼らの中で何かが変わる。

    好きかと聞かれると迷うところだけれど、軽さと痛さ、ユーモアと切なさの両方が感じられて何かがツンと心に来る作品だった。
    タブの姿が胸に残る。

  • ゴールドラッシュ時代のアメリカ、オレゴン。チャーリーとイーライの殺し屋兄弟は、雇い主の提督に命じられ、ウォームという男を殺すためサンフランシスコへ向かっていた。魔女に呪われたり赤毛の熊を狩ったり、道中なんやかんやのピンチをくぐり抜けて目的地へ到着すると、同じく提督の手下でウォームを見張っていたはずのモリスが姿を消していた。モリスが残した日記から一攫千金のチャンスを嗅ぎ取った兄弟は、砂金が取れる川の上流へ向かうが……。19世紀末アメリカを舞台に、ヤクザ者たちの倫理もへったくれもない血と暴力の旅をコメディタッチで情けなく描いたオフビートなギャング小説。


    ま〜た可哀想かわいいチンピラを描いた名作に出会ってしまった。金・権力・女と世俗的なことにしか興味がなく、弟には常に威圧的な兄チャーリーと、こんな仕事はやめて服屋でも開きたいと思いを馳せながら、自分の頭ではロクなことを考えつかない弟のイーライ。二人の苗字がシスターズだからタイトルは「シスターズ・ブラザーズ」。このペナペナ感がたまらない。
    物語は弟イーライの一人称で語られていくのだが、この人、カタギに戻りたがってるわりに芯からヤクザ者なため、心が通いかけた人をうっかりした一言でドン引きさせては、その理由が自分ではわからず傷ついている。話す内容は人殺しにまつわる恐ろしいことばかりなのに、常識とのギャップが激しすぎて思わず笑ってしまう。いわゆる気が優しくて力持ちタイプで、普通のギャングものなら「あいつは何も考えてない」と言われてそうなキャラクター。彼を語り手に選んだことで人殺しのペーソスになんとも言えない奥行きが生まれている。
    私は一人っ子なので兄弟姉妹にはかなりロマンを抱いていると思うけれど、本書の兄弟の関係性は(キャラクター自体はデフォルメが効いているにも関わらず)かなりリアルなように感じた。終始悪態を吐き、相手にほとほとうんざりしているのだが、結局は信頼できる人間がお互いしかいない、最低最悪の運命共同体。そんな関係になっている人たちを時たま見かけるからだ(ギャラガー兄弟とか)。なかでもこのシスターズ兄弟はとびきりの運命共同体だ。父殺しに始まって、地元で喧嘩を繰り返すうち二人揃って殺し屋になってしまったのだから。
    第1〜2章はこの兄弟の珍道中がひたすら楽しい。ヤブ歯科医、魔女(?)の老婆、イーライが惚れたホテルの受付嬢、父親に棄てられた少年、真っ赤な毛皮の熊と狩人たち、成金男、娼婦たち、そして砂金採りをするうちに頭がおかしくなった山師たち。名前すらわからないキャラクターもいるが、全員が兄弟に負けず劣らず強烈な個性を放つ。このキャラの濃さとオフビートな笑いのセンス、そして容赦ない暴力表現はタランティーノ映画にも近い。"パルプ"なリズム感とでも言えばいいのだろうか。
    第3章になってウォームとモリスが登場すると、話の雰囲気は変わる。この二人はおそらく兄弟それぞれにとって"友人になり得た人"として描かれていると思う。イーライは発明を成し遂げたウォームに尊敬の念を抱くし、チャーリーはいつのまにかモリスと仲良くなっている。イーライは最後までこの関係を兄の打算と思っているようだけど、作中でチャーリーが「親友」という言葉に返した反応から察するに、そして事故後の消沈ぶりを見ても、チャーリーとモリスには本物の友情が芽生えかけていたのかもしれない。
    だが、幸せな時間は一瞬で終わる。この一瞬の幻想的な美しさ。ゴールドラッシュが人びとに齎した〈陽〉の側面をギュッと絞ってエッセンスにしたかのような月下のシーンが終わると同時に、今度は〈陰〉の側面が鉄砲水のように4人とビーバーたちに襲いかかる。
    この小説の一番の美点は、暴力をカッコよく描かないことだと思う。兄弟は早撃ちで名が知れたガンマンで、卑劣な手を使いながらも作中負けなしなのだが、どんなにキマったガンアクションでもイーライの語りを通すと気が抜けた、そしてどことなくみじめなものになってしまう。同じ場面でも、映像にしたらカッコよくなってしまうだろう。けれど、繰り返される殺戮のカッコ悪さ、カッコ悪いのに屍が積み重なっていく不気味さが、この作品の根底には暴力の否定があると感じさせる。
    二人は最後に聖域のような場所へたどり着くが、暴力の連鎖はおそらくこの先も止まらないだろう。ちょっぴり弱くなり、ちょっぴり互いを労わることができるようになった兄弟に、しばしの休憩時間が与えられたにすぎないのだと思う。彼らの体から血と硝煙の匂いが消え去ることはないけれど、すべてを失って地獄に堕ちても最後にはきっとお互いの顔を見て笑いあう。"兄弟"だから。そんなお話。

  • 粗野で狡賢い、冷血漢の兄・チャーリー。ふだんは心優しいけれど、切れると大変なことになる弟・イーライ。悪名轟く凄腕の殺し屋シスターズ兄弟は、雇い主の“提督”に命じられ、ある山師を消しにサンフランシスコへと旅立つ―理由はよくわからぬまま。兄弟は何に出遭い、何を得て、そして何か失うのか?ゴールドラッシュに沸くアメリカ西海岸、名高き殺し屋シスターズ兄弟の、目も当てられないダメな旅路。総督文学賞など4冠制覇、ブッカー賞最終候補作。

  • 2018年?読了
    映画の前に読んだ。映画と比べると、兄弟の兄と弟が逆になっている、ウォームの年齢やモリスとの関係性などの部分か違う。こちらは弟(映画では兄でジョン・C・ライリー演)の視点で描かれていて、内面の暴力衝動や、川での一件後のそれぞれの怪我の描写も生々しく残酷だ。
    映画版の「ゴールデン・リバー(原題は "Sisters Brothers")」ではロードムービー色がより強くキャラクター同士の人間ドラマに対して暴力的な要素は軽くなっている。兄弟二人の心情の変化を映す事がメインになっていて、ウォームとモリスの最期の場面も呆気ないが、あの場面はあちらの方が好きだ。
    合間に挿入される白昼夢の場面と合わせて、最後のボスの屋敷に単身突撃をかけ帰って来るという顛末は、本当は上手く行かなかったのではないかという気にもさせられるし、ハードボイルドでありながら、夢を見ていた様な切なさも感じる。
    映画ではこの辺りも変更されていて、生死が曖昧な感じはしないので、より穏やかな結末になっていると思う。

  • 雇い主からの殺しの依頼のために、オレゴンからゴールドラッシュに沸くカリフォルニアへ向かう悪名高き殺し屋兄弟の旅物語。残酷な道中で、最後には切なさや哀愁までもが押し寄せてくる。登場人物たちも癖がある人ばかりで面白かった。

  • 面白かった。提督なる人物の指示で殺し屋やってるシスターズ兄弟。アル中で狡猾な兄チャーリーに呆れながらもお人好しだが切れたら手に負えない弟のイーライ視点で物語が進む。イーライが駄馬のタブを何かと気遣ってたりするのが優しい。そして女に優しいが女はイーライに同じ想いは返さない。底辺な兄弟のどうしようもない家族という絆が、これでもかってダメダメに描かれているけど、何かこういいなあ、なんだろうこの雰囲気、いつまでも兄といたら兄の下で惨めなんだけど、兄だって今じゃ尊敬できるわけでもない惨めな野郎だってわかってて、でも守るし、いると安心する、全然綺麗じゃないけど惰性だけと家族っていう、そういう絆。
    砂埃舞う空気を行間から吸いながら、楽しく読んだ。

  • シスターズという姓の兄弟の殺し屋の物語。時代は1851年位。旅道中って感じ。「仕事だからやらなくちゃ」という感じで、オラオラ俺達は殺し屋なんだからひれ伏せ、という感じもなく。結構非道なことやってても、作風のせいか、やーな感じにならない不思議な上品さというか。1人1人人間味がある感じでユーモアもあるけど。その可笑しさの種類がドリフの志村けんっぽいなと思いました。なんか現代人が忘れてる大事なもんが書かれてる気がする。それは夕日とか月をきれいだとか。「今」を生きる大事さが書かれてるんじゃないだろうかね。

  • タブ(太めで大人しい馬)にはイーライに懐いていたかは別として幸せになった欲しかった…。イーライが黒毛の馬(俊足)に一時的に乗り換えたとき、眼を怪我しているのに必死についていくシーンは思い出しただけで泣ける!

    そして読了後に映画化の話を知りトレーラーをみましたところ、タブっぽい馬が倒れるシーンが…泣けるじゃないですか…。

  • 19世紀のアメリカを舞台にした、西部劇。殺し屋を生業とする荒くれ兄弟が、オレゴンから殺しのターゲットがいるカリフォルニアまで馬で旅をする。当時、カリフォルニアは金発掘が大ブームのゴールドラッシュ。兄弟も翻弄される。
    というのが、ざっくりとしたストーリーだが、なかなか面白かった。どういう意味で面白いかというと、アメリカやイギリスの小説によくあるように、ストーリー展開の予想がつかないというところ。
    人の命を何とも思っていないしょうもない兄弟だが、意外に純情だったり、素直だったり、怖がりだったりする。ちょっとグロテスクな描写もあるが、耐えられる。過酷な旅を経て、兄弟が最後にたどりついた境地とは?テンポがいい会話が心地いい。

  • 暫く読書から遠ざかってた自分がいきなり読むには適さなかったのかも。
    殺しの描写が思ったよりグロかった。
    キャラは皆面白いけど兄の言動とだらしなさに読んでてウンザリ。旅が長く感じられ途中からパラパラ読みになってしまった。
    そこもしっかり読んでれば結末に感動したかも。
    兄弟萌えはよく分からなかった

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