養鶏場の殺人/火口箱 (創元推理文庫)

  • 東京創元社
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  • Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488187118

感想・レビュー・書評

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  • 中編2編。私には初めてのウォルターズ。
    読みやすく面白い。スピード感も毒気も切れ味もある。
    古き良き時代の英国ミステリではなく、現在社会のミステリ。
    大矢博子の解説も普通で良い。(筆の力に同感)

  • イギリスの作家「ミネット・ウォルターズ」の中篇ミステリ作品集『養鶏場の殺人/火口箱(原題:Innocent Victims: Two Novellas)』を読みました。

    「P・D・ジェイムズ」、「アリ・ランド」、「コリン・ワトスン」に続き、イギリス作家の作品です… 「ミネット・ウォルターズ」作品は『遮断地区』以来なので、約2年振りですね。

    -----story-------------
    1920年冬、「エルシー」は教会で純朴な青年に声をかけた。
    恋人となった彼が4年後に彼女を切り刻むなどと、だれに予想できただろう──。
    英国で実際に起きた殺人事件をもとにした『養鶏場の殺人』と、強盗殺害事件を通して、小さなコミュニティーにおける偏見がいかにして悲惨な出来事を招いたかを描く『火口箱』を収録。
    現代英国ミステリの女王が実力を遺憾なく発揮した傑作中編集。
    解説=「大矢博子」

    *第4位『ミステリが読みたい!2015年版』海外篇
    *第6位『週刊文春 2014ミステリーベスト10』海外部門
    *第6位『2015本格ミステリ・ベスト10』海外ランキング
    *第8位『このミステリーがすごい!2015年版』海外編
    -----------------------

    読みやすさを念頭に置いて描かれた2篇が収録されています… 『養鶏場の殺人』は普段本を読まない大人に読書に馴染んでもらう企画で、『火口箱』は読書好きの人に普段読まないジャンルを読んでもらうという振興の目的で、それぞれ出版された作品です、、、

    実際に読みやすかったし、それでいてしっかり読み応えのある内容で愉しめましたね。

     ■はじめに
     ■養鶏場の殺人(原題:Chickenfeed)
     ■火口箱(ほくちばこ)(原題:The Tinder Box)
     ■解説 大矢博子

    『養鶏場の殺人』は、1924年(大正13年)にイングランド南東部・サセックス州で実際に起きた「エルシー・カメロン」殺害事件を、経緯も人名もそのままに小説に仕上げ、末尾に「ミネット・ウォルターズ」の推理を述べた作品… 犯人とされた「ノーマン・ソーン」は絞首刑となったが、最後まで「エルシー」の自殺であると訴えていたそうです、、、

    真実は藪の中ですが、美人ではなく、華やかな恋愛経験もなく、でも、プライドは異様に高く、自分の理想通りに物事が進まないと腹を立て、冷たくなった恋人に結婚を迫るために妊娠したと嘘をつく… そんな人格として描かれた「エルシー」には感情移入できず、常に「ノーマン」の立場で読み進めましたね。

    直接的な事件の原因を作ったのは「エルシー」の性格や行動なんでしょうが… それを許してしまっていた「ノーマン」の優柔不断な態度にも、問題はありますよね、、、

    顛末だけみれば、現代の日本でも、色んなところで同じようなことが起きているんでしょうけど、本書では「エルシー」を掘り下げて丹念に描くことで、実録物でありながら、恋愛ホラーのような印象の作品に仕上がっていましたね… 肥大したエゴが倒錯する様を、畳みかけるように描写する迫力が強い印象として残りました。


    『火口箱』は、イギリスの片田舎を舞台に、老女二人の強盗殺害事件を通して、小さなコミュニティーにおける偏見がいかにして悲惨な出来事を引き起こしたかを描いた作品、、、

    アイルランド人の男性「パトリック・オライアダン」が村内の老女と住み込みの看護師を殺したとして逮捕された… それから8ヵ月後、同じ村に住むアイルランド出身の女性「シヴォーン」は、「パトリック」の両親が村から排斥され、脅迫や嫌がらせを受けて危険な状態であると警察に訴える。

    しかし、話を聞いた警部は夫妻の自作自演を仄めかした… そして翌月、「オライアダン家」が火災に見舞われ、焼け跡から一人の焼死体が発見される、、、

    小さな共同体の中の差別や偏見意識を主題とした作品なのですが、その差別や偏見意識から生じる思い込みを逆手に取ったトリックが隠されており、意外な結末が愉しめる作品でしたね… 真相がわかると登場人物の印象が一変して見えるのが素晴らしいですね。


    あることが原因で登場人物たちの間には共同体が崩壊すれすれになるほどの緊張が高まる。そうした事態は本筋の事件捜査からは副次的な要素に見えるが、実はそうではなく、全体を構成する不可欠のピースであることが最後には判る趣向なのである。どこにも無駄がなく、箱根名物のからくり細工のようにすべての部品が利用されている。その徹底ぶりが素晴らしいのである。

    イギリスにおける、イングランド人とアイルランド人の関係性について、改めて気付かされる作品でした… そりゃ、ラグビーの試合でも熱くなるよなぁ。


    読みやすくて愉しめる作品でした… 甲乙付け難いですが、個人的には『養鶏場の殺人』の方が好みでしたね。

  • やってしまった。以前読んでたのにブックオフで買ってしまったー。
    内容覚えてなかったから普通に楽しめたからいいのだけど。

    養鶏場の殺人は、実際の事件が元になっている。犯人の青年が少しずつ追い詰められて、劇的なことは起こらないのに徐々にどうしようもなくなっていくのが怖い。その過程の描写がさすが。

    火口箱はこの作家らしい偏見とか差別意識がつよくはびこっている村の話で、真実が見方によって本当に正反対の方向に見えてしまうのが面白かった。視点をひっくり返される。そして偏見あるが故に、人の話の真髄が見えなくなり、自分が損する恐ろしさ。

  • 「養鶏場の殺人」と「火口箱」の2編が収録されている。

    「養鶏場の殺人」は、イギリスの「クイック・リード・シリーズ」の一冊。本をあまり読みつけていない大人に向けて、平易な言葉で書かれた本を読むことによって読書になじみ、読む力を高めてもらうという計画の一環で刊行された。
    実際に起きた殺人事件を、経緯も人名もそのままに、作者の推理を展開した作品。犯人は絞首刑になるのだけれど、被害者でもあったのでは?と考えさせられる。

    「火口箱」は時系列が入れ替わり、お話が進んでいく。
    イングランド人とアイルランド人の偏見や差別意識が犯罪を大きくしていくというお話。
    読了した時に「なんでこんなことになったんだろ?」とクエスチョンマークが沢山。結局、結末がわかっている段階で、もう一度読み返し、「なるほどね~」と納得。
    時系列に沿って書かれていないことで面白さが増す。

  • 珍しい中編集。 サラ・ウォーターズと混合してて未読だったけど、英国女流作家の容赦なさが随所に効いてていい感じ(*^◯^*)

  • 彼女の作品としては珍しい中編集。とは言っても読み応えは十分。養鶏場の殺人はワタシ的には今ひとつでしたが、火口箱の方は良かったです。思い込みってだめですね。色々見えなくなってしまう。面白かった。

  • 中編2本。1本目は実際の殺人事件がもとになってるそうだが、一体どちら側が狂気なのか?楽しめた。2本目は登場人物が入り乱れてちょっと混乱。海外小説は名前がすんなり入ってこないと楽しめないこともある。

  • 初読みのウォルターズ。まずは中編で探りを入れる。読みやすかった。実際の事件を元に書かれた養鶏場の殺人はドラマを見るようにすんなりと内容が入る。最後の作者の考察に何となく心が騒つく。こういう背中をツーっとされるような作品は短くても読み応えがある。

  • 「火口箱」は人生ベスト級の中編。素晴らしい!!読みやすさを意識して書かれているので、初心者にもオススメ。オチを知って再読すると、この中編の凄さがよりわかった。

  • 私の評価基準
    ☆☆☆☆☆ 最高 すごくおもしろい ぜひおすすめ 保存版
    ☆☆☆☆ すごくおもしろい おすすめ 再読するかも
    ☆☆☆ おもしろい 気が向いたらどうぞ
    ☆☆ 普通 時間があれば
    ☆ つまらない もしくは趣味が合わない

    2015.10.24読了

    養鶏場の殺人と火口箱の二つの中編。二篇とも、日ごろ、小説を読んでいない人向けに書かれたものらしく、読みやすい

    養鶏場の殺人
    実際にあった事件を書いているとのことで、最後に作者の推理というか、事件に対する考えが書かれている。

    物語としては何ということはないが、作者の筆力や構成力によって面白い読み物に仕上げられている。結末は大体、予想出来そうなものだが、どんな展開をするのかと、どんどん読み進めてしまう。

    現代であっても、この事件はなかなか真相究明は難しそうだ。
    だから、事件の最初の報道は死体損壊遺棄になるんだな。

    火口箱
    これは最近のミネットウォルターズらしい小説です。
    犯人も、ミステリーを読み慣れている読者は最初から斜めに読むので、大体検討がつくが、そうでない読者は惑わされて面白いんじゃないかと思う。
    まあ、ひねた読者はもう少し捻りがあってもいいんじゃないかとか、いやらしい見方をしたりするわけですが。

    でも、この読む楽しさとか、最近感じられることの多い、集団の偏見や差別意識とか、集団心理における正義とか、ものすごく大事なことがスムースに頭の中に入ってくるので、物語の力を感じさせる作品になっているなあと強く思うのであります。

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