人形 (デュ・モーリア傑作集) (創元推理文庫)

  • 東京創元社
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  • Amazon.co.jp ・本 (332ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488206055

作品紹介・あらすじ

島から一歩も出ることなく、判で押したような平穏な毎日を送る人々を突然襲った狂乱の嵐「東風」。海辺で発見された謎の手記に記された、異常な愛の物語「人形」。独善的で被害妄想の女の半生を独白形式で綴る「笠貝」など、短編14編を収録。平凡な人々の心に潜む狂気を白日の下にさらし、人間の秘めた暗部を情け容赦なく目の前に突きつける。『レベッカ』『鳥』で知られるサスペンスの名手、デュ・モーリアの幻の初期短編傑作集。

感想・レビュー・書評

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  • 正直、時間に追われて読んだのでこの評価。図書館で借りたため、次に借りたい人が待っているので。そんなに読みたいんなら買えば~ってことだね。うん、もう一度ゆっくり読みたい。

    初期短編集。以下収録作。
    「東風」
    平穏な毎日を送る島民。突然の嵐で漂着した船に乗っていた異国の男たちによって島民はどんどん変わっていき…男たちが去ってももう元には戻れない。
    「人形」
    岸壁の割れ目に押し込まれていた謎の手記。手記の主はある女と運命的な出会いを果たすが、彼女には秘密があり…江戸川乱歩みたいな話がまさかここで読めるとは。
    「いざ、父なる神に」
    これぞデュ・モーリアの真骨頂って感じの作品。上流階級の人々にのみ存在価値を置く牧師、ジェイムズ・ホラウェイ。彼は哀れなメアリーがどうなろうと関係ないのだ。正反対の副牧師が対応していたらどうしただろう。それを書かないのもデュ・モーリア。
    「性格の不一致」
    笑えないかもしれない、結婚すると特によくわかる。しょせん相手は他人なんだと。
    「満たされぬ欲求」
    考えの浅い無職の若者が、同じく幼い妻と新婚旅行に。これはちょっと笑えた。最後も皮肉だけどお互い仕事見つかったし。
    「ピカデリー」
    悪い男につかまって、雪崩式に落ちぶれた道へ進んでいった女の話。ラストの『赤いライトに従って進め』が痛烈に皮肉。
    「飼い猫」
    おそらく姉妹みたいといわれていた母娘が、ひさしぶりに会うと、娘は当然若く美しい少女になっていて。母の恋人の馬鹿な勘違いも笑えるけれど、新年のパーティの場面で娘が全てを理解するのがよかった。
    「メイジー」
    「ピカデリー」の続き。さらに悲惨な感じ。
    「痛みはいつか消える」
    友人の離婚話を哀れみ、自分は帰国する夫の帰りを楽しみに待っていると……これも痛烈。こういうのデュ・モーリア節と呼んでいいだろうか(勝手に)。
    「天使ら、大天使らとともに」
    「いざ、父なる~」の続き。ホラウェイが療養中を任された副牧師が、貧しき人々のために祈り、いつしか美しかったホラウェイの教会が貧民窟に変わってしまう。これは…真の牧師とは副牧師のような人を言うのだろうが、そうは終わらないのが……ホラウェイみたいな男、きっと本当にいたんだろうな。
    「ウィークエンド」
    ラブラブだったバカップルが、ボートの故障(?)で一気に冷める(笑。
    「幸福の谷」
    これは長編「レベッカ」にも通じているらしいが、どちらかと言うと私は「モンテ・ヴェリタ」を思い出した。ラストが暗示的で幸せと言うよりもなんだか不安になる。
    「そして手紙は冷たくなる」
    いわゆる押せ押せだった男の手紙が相手の女性と通じたとたん、だんだん冷たくなっていく…典型的といえば典型的。
    「笠貝」
    この主役の女性、怖い! 相手のため、相手のためって言いながら、全部自分の思う方へ進ませようとしているじゃない。そして彼女に関わった者たちはみんな不幸に…主役の一人称なのに、この女の怖さがものすごく伝わってくる(笑。いや、笑い事じゃない。側にいてほしくないタイプ。

  • デュ・モーリアは多分10代の頃に『レベッカ』上下巻を新潮文庫で読んで以来。表題作に惹かれたのだけど、どちらかというと他の短編のほうが面白かった。

    表題作「人形」は、語り手の死後発見された不穏な内容の手記という乱歩や久作の好きそうな導入部はワクワクするのだけど、内容がそれほどでもないというか(タイトルでオチの予想もつくし)、その程度のことでそんなにショックを受けなくても・・・と思ってしまったので。好きになった女性に妙な性癖がありました、という点よりむしろ、手記を書いた男自身の、思い込みの激しさや恋愛依存体質のほうが、異常な感じがしてしまった。

    倦怠期の夫婦の男女の思考回路の違いが鋭い「性格の不一致」と、対照的にラブラブの新婚なのに何もかも上手くいかない「満たされぬ欲求」、男女間の愛情が冷める瞬間描いた「痛みはいつか消える」「ウィークエンド」「そして手紙は冷たくなった」など、女性作者ならではの視点が鋭くて身につまされる。

    娼婦ものの「ピカデリー」や「メイジー」、要領よく世間を渡ってゆく牧師ホラウェイの俗物っぷりが一周まわって面白くなってしまう「いざ、父なる神に」「天使ら、大天使らとともに」など、ミステリーやサスペンスではなく人間描写の得意な作家だったのだなというのがレベッカしか読んでない読者としては意外だった。

    お気に入りは、美しく成長した娘にライバル心を抱く母親と色目を使うその彼氏である中年のおっさんがひたすら気持ち悪い「飼い猫」、短いけれどインパクト抜群の孤島で起きた惨劇「東風」、夢に見た光景に現実で紛れ込んでしまうパラレルワールドのようで幻想的な「幸福の谷」、語り手である主人公の巧妙さに寒気がする「笠貝」などでした。

    ※収録作品
    東風/人形/いざ、父なる神に/性格の不一致/満たされぬ欲求/ピカデリー/飼い猫/メイジー/痛みはいつか消える/天使ら、大天使らとともに/ウィークエンド/幸福の谷/そして手紙は冷たくなった/笠貝

  • その銀色の瞳に何が映る?君に僕が映っているのかい?
    美しい髪と、この世のものとは思えぬ赤い唇。その赤一直線に裂けるように僕を嘲笑うんだ。少年のような身体が何を表しているのか、本当は知っていた筈なのに。なのに僕は、僕は...君に愛と幻想を描き、妄執し胸を掻きむしり続けた。
    バイオリンの音色から私には湖が見えました。彼女の周りには目一杯の花が降り注ぐ。美しい。なのにどうして貴方はもう1回を強請るの?素敵なことは一瞬だから美しいの。だから貴方にはきっと、沼の底で朽ちてくおぞましき何かが見えたのでしょう。ああ、息が出来ないわ!
    だから、黙って頂戴。動かないで頂戴。
    何も言わないで頂戴。会いに来ないで頂戴!
    そしたら私は、この白く細い指で貴方を魅了し、何度も何度もしてあげるわ。
    その甘く哀れな悪夢に、キスを。
    The Doll.

  • 何とはなしに不安になるというか、読んでよかったのかどうだったのかわからない気にさせられる。

  • 独占欲の強い独りよがりな人間より人形の方がいいよね。実はこの話、しつこい男を追い払うために彼女が一芝居打っただけだったらなお面白い。

  • 21.05.2021 読了

  • 『鳥』も面白かったが、これもなかなか。
    全編楽しめた。

  • デュ・モーリアの短編集2冊目。
    これを書いたのが21歳って!

  • ■「東風」
    数十人しか住民がいない万代不易の絶海の孤島。外界から帆船が一艘漂着して、異邦人たちが放出される。この未曽有の出来事に島民の胸はかき乱されて………。よくあるパターンのやつ。
    ■「人形」
    こんなレベッカ、ぼくなら全然O.K.♡
    ■「性格の不一致」
    まじめで滑稽でちょっと悲しいラブソング。ダフネ・デュ・モーリアらしい。とってもいい。
    ■「満たされぬ欲求」
    新婚カップルのシット・コム。
    ■「ピカデリー」
    これもダフネ・デュ・モーリアらしい。人の心の動きがほんとにきれいに書けている。最後もキマって。いいなぁ。
    ■「天使ら、大天使らとともに」
    ここにはひとりの悪党が出てくる。ぼくは今までの長い人生の中で、悲しいかなこんなヤカラに2回、出あってしまったことがある。みなさんも、気・を・付・け・な・は・れ・や!

  • 「レベッカ」のデュ・モーリアによる初期短編集。この頃から既にクレイジーな人を描くのが天才的に上手い。デビュー前の21歳で書いたというから驚き。見事に全部バッドエンド笑。別にホラーじゃないのに怖い。
    「笠貝」が好き。

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