サクソンの司教冠 (創元推理文庫)

  • 東京創元社
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  • Amazon.co.jp ・本 (558ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488218164

作品紹介・あらすじ

フィデルマはローマにいた。幸い、ウィトビアの事件を共に解決したエイダルフが加わっている、カンタベリー大司教指名者の一行と同行することができた。ところが、肝心の大司教指名者がローマで殺されてしまったのだ。犯人はどうやらアイルランド人修道士らしい。フィデルマとエイダルフは再び事件の調査にあたるのだが…。美貌の修道女フィデルマが縺れた謎を解く。長編第二作。

感想・レビュー・書評

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  • 修道女フィデルマ・シリーズ第2弾。今回はミステリに冒険活劇?の要素も若干加わって躍動感と推理を見事に融合させた作品となっています。
    第1作のウィトビア教会会議から舞台をローマ教皇庁へ移し、カンタベリー大司教の任命にまつわる事件から物語が始まります。第1作目もそうですが、えっ!この人が最初に殺されちゃうの?と思わせるのはさすがなところ。(笑)ローマの地下墓地を始め、都市ローマを縦横に駆け巡るのもこの作品の大きな魅力になっています。本格ミステリの常道として、関係者への次々の質問、そして、残った関係者を集めての謎明かしと、定番を踏んでいるのも大変に好感が持てます。(笑)
    前作では例の「修道女で法廷弁護士にして・・・」のフレーズに「王女」の肩書が抜けていたのですが、本作では高ピーなキャラが何人も出ていて、これは・・・!と思っていたら、案の定、フィデルマの肩書に追加されて安心しました。(笑)今回のフィデルマは、相棒で好意を寄せる?エイダルフのボケが強過ぎたせいか、少しツンツンする場面も多かったのですが(笑)、フィデルマの過去恋愛話もあったり、エイダルフとの言い合いもあったりとなかなか楽しめました。おっと、もう1人の相棒、衛兵隊小隊長のリキニウスの献身ぶりも忘れることができません。たびたびフィルデマに繰り出す教皇伝奏官の仕草と反応には笑ってしまいました。
    構成の面についていえば、1つ1つの不審な出来事に後から1つ1つ説明が加えられるのは、サスペンス劇場よろしく少し冗長な気がしました。さらに言えば本当は星5つでも良いのですが、実は、盗難事件の全貌が明らかになった直後に、次に誰が殺害されて動機はあれで犯人はこの人でというのが比較的簡単にわかってしまうので、驚き感が減じた故に星4つにしました・・・。
    余談ですが、本作はアレクサンドリア図書館が重要な背景になっていましたが、偶然ながら、訳註で触れられているヒュパティアの悲劇を題材にした映画「アレクサンドリア」(主役のヒュパティア役は、レイチェル・ワイズ)を先日観たばっかりでしたので、その辺りの視覚イメージが増幅理解できて個人的にタイムリーで良かったです。

  • 7世紀アイルランドの修道女フィデルマが活躍するミステリ。

    初めてローマを訪れたフィデルマ。
    所属する修道院の目録をローマ法教皇に認めて貰うためという使命をになっての訪問です。
    フィデルマは20代後半で、弁護士資格も持つ、さわやかな美女。
    前作で出会ったエイダルフ修道士の一行と共に、ここまで無事に旅をすることが出来ました。

    ところが、ローマの地で、事件が勃発。
    カンタベリー司教に決まっていた人物が、殺されたのです。
    ローマに奉納するはずの宝物が、盗まれていました。
    アイルランド人の修道士が不審な行動をしていて、すぐに逮捕されましたが、事実関係が確かでないと、アイルランドとサクソンの間に戦いが起こりかねない事態に。
    フィデルマはエイダルフと共に、捜査に当たることになります。

    ローマには、各国からの訪問者が滞在していて、国際色豊かな場となっていました。
    次期カンタベリー司教の座を待ち望む野心家の修道院長や、そのまた後を狙う修道士。
    ケント王妃の妹で権高な尼僧院院長など。
    それぞれの下で働く修道士にも個性があります。

    フィデルマとエイダルフは互いにほのかな好意と強い信頼を抱いていますが、今回の事件は犯人は自明だろうと考えるエイダルフ。
    その思いこみにやや苛立ちながら、正確に一歩ずつ進めようとするフィデルマ。
    言い争いになると~いたずらっぽい笑顔で空気を変えようとするフィデルマは、ちょっとツンデレ?
    フィデルマの方が正しいとわかったときに、エイダルフが怒らずにむしろ嬉しそうなのが印象的です。

    エイダルフはサクソンの修道士で、ケルト系のアイルランドとは修道院のやり方にも違う部分があります。
    サクソンというのは、当時のイングランドの支配階級といった感じでしょうか。後にノルマンに征服されますが。
    どこの教会もローマに発しているので、ローマの権威は認めていますが、各地の風習と融合して独自に展開した部分もあるのですね。

    フィデルマの過去の恋愛の話なども出てきます。
    若い頃に恋人が出来たが、その別れの苦しみがいまだに完全には治っていない。
    その後も何度か短い付き合いはあったという~修道女とも思えない発展ぶり。
    優秀さが仇となって、やや恋愛経験の少ない現代のキャリアウーマンと、まったく同じ?!
    意外に近いのだと言いたい設定なのでしょうか。

    何冊も翻訳されて出ている人気シリーズですが、これ実は長編2作目。
    1作目がこの前に発行されました。
    長編の1作目、2作目は日本人にはとっつきにくいであろうと後回しにされたようです。
    1作目は有名な公会議が舞台で、欧米の人なら元々ある程度知ってはいるんでしょうね。有名といっても日本人にはねえ…

    当時の修道士や修道女は、結婚も出来るんですね。
    僧院長など高い地位の場合にだけ、独身が奨励されていた。
    最初から男女が一緒に暮らして、集団で子どもを育てるシステムになっている修道院さえある。
    しかもアイルランドでは意外に女性の地位が高く、資格を取れば同等に働くことが出来る。これはローマ人には驚きの制度のよう。
    フィデルマは弁護士資格を持ち、それが裁判官も出来る高位のもの。
    しかも実は、王家の血筋という無敵な設定。
    利発な少女は、師に可愛がられたのでしょうね~。

    でも、出向いた先ではアウェーなので、孤軍奮闘あちこちで偏見にさらされるんですよ~。
    そのへんもある意味、現代的?
    依頼に応じて、難題に立ち向かい、捜査のために馬車を走らせて危険な土地や洞窟にまで赴き、時には大立ち回り!
    偉そうにしている方々にはない能力を駆使して。
    ついには、フィデルマの裁定を認めさせるのです。
    今回も、助手を務めるローマ人の衛兵隊の小隊長が、次第に感服した様子になるのも面白い。

    癖の強い登場人物がそれぞれに欲望に負けたり、馬脚を現したりする中で、フィデルマの清新さが一筋の希望のように感じられ、さわやかな後味を残します。
    1995年の作品。
    2012年3月翻訳発行。

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      と言う訳でシリーズ第1作「蜘蛛の巣」から読んでみるコトにしました。
      「日本人には取っつきが悪いのかも?」
      キリスト教的なコトが理解し難いのか...
      と言う訳でシリーズ第1作「蜘蛛の巣」から読んでみるコトにしました。
      「日本人には取っつきが悪いのかも?」
      キリスト教的なコトが理解し難いのかな?
      八木美穂子の表紙絵が、教会の壁画のようで、とっても素敵←まだ実物見てないので、技法的には違うでしょうが、、、この絵を見るのも楽しみです。
      2012/07/30
    • sanaさん
      nyankomaruさん、
      ああっ、前のコメントでnが抜けてました~ごめんなさいっ。

      「蜘蛛の巣」からですね。
      ぜひお楽しみ下さい...
      nyankomaruさん、
      ああっ、前のコメントでnが抜けてました~ごめんなさいっ。

      「蜘蛛の巣」からですね。
      ぜひお楽しみ下さい~♪
      7世紀という珍しい時代で起きることなので、出版社も心配したみたいですね。
      ヒロインが美人で気が強くて頭が良くて王家の血筋というのも、後書きなどを見ると~日本人には出きすぎに思われることがあるらしいです。
      欧米だと気が強いのは肯定的に受け取られるし。
      日本だって、テレビの主演女優さんを思い浮かべれば別に大丈夫のような気がするんですけどね。
      2012/08/02
    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「7世紀という珍しい時代」
      日本で言うと、飛鳥時代の頃ですね、そう考えると確かに馴染みが薄い気がしますね。
      「日本人には出きすぎに思われる」...
      「7世紀という珍しい時代」
      日本で言うと、飛鳥時代の頃ですね、そう考えると確かに馴染みが薄い気がしますね。
      「日本人には出きすぎに思われる」
      変なところで奥床しさが出てるのかな?
      それは別として、読むのが愉しみです!
      2012/08/03
  • フィデルマシリーズ、2冊目。やはり地名人名が覚えられん、、、でも前作より読みやすかった。フィデルマがいまいち好きになれない感じだな。

  • フィデルマシリーズの長編。発売日では最新刊だけど書かれたの順番的には長編の2本目かな?日本では書かれた順ではなく翻訳出版されているとか。

    アイルランドの修道女フィデルマが旅先のローマで殺人事件を解決します。相棒のローマ・カトリック修道士エイダルフは今回はあんまり活躍しませんが、フィデルマとの友達以上恋人未満的な立ち位置が絶妙です。エイダルフ側のサクソン人の修道院長達の傲慢さと悪徳さは相変わらず強烈で、ヒステリックにわめく姿が目に浮かびます。

    長編なので、一見本筋と関係なさそうな話が、終盤の解決で次々と繋がってくのは気持ちがいい。
    アイルランド人のフィデルマの属するケルト・カトリックと、サクソン人のエイダルフが属するローマ・カトリック、さらにアラビア人のイスラム教やギリシャ正教も出てきて、なかなか複雑。
    素朴で、実用的なケルト・カトリックの良さや、華々しいローマ・カトリックの様式美もわかりやすく物語の中で解説されてるので、読みながら違いはわかってきます。

    最初に紹介される人物像よりも冷徹に見えるフィデルマが、解決後のエピローグでは妙に人間味が出てくるのも面白い。理性的な人物という事なんですかね。

  • あちこちアクティブに動き回った印象の強い巻でした。
    個人的に、墓地でろうそくの火が消えてしまって、慌ててフィデルマの手をひいてくれるエイダルフがお気に入りです。

    ところで、フィデルマの印象のよくないと思ってる方が多いのですね。仕事ができて、そこそこの美人で、でも、ちょっと世間知らずで、恋愛にはトラウマがあって臆病で…って、可愛いげのある女性だと思うのですけど。(^^)

  • 今回のエイダルフは、拗ねたり小言を言ったり心配したりと可愛いなあ。前作も似たような行動してたけど、可愛さが増している。
    少しずつ読もうと思って最初は頑張っていたのだけど、中盤に差し掛かったら先が気になって、ぐいぐい読み進めてしまった。読み終わるのが勿体ない、でも続きが知りたい!という葛藤も読書の楽しみの一つですね。

  • 郷土愛溢れるフィデルマが、ローマの都を斬りまくる…というか、何を見てもアイルランドが素晴らしいと思うところが相変わらずなのだった。事件の方は、いつ、どこであっても、その職業に誠実でない野心家ばかりが出世するのねー、という印象。
    解説ではまたフィデルマの隙の無さすぎるキャラクター造形が批判されていますが、例えば神学論の名を借りてエイダルフにいちいちからまずにいられないところなど実にはた迷惑なツンデレっぷりで、読み手の方がイマジネーションを発揮すれば結構イメージが膨らんでくると思う…。あと、尋問シーンが長いという指摘もあったけど、舞台は科学鑑定の無い時代、各々の証言から真相を探るしかないのは仕方ないのであって。探偵役が弁護士という事情もありますからね。証言をこねくり回すところは法廷ものの趣もあって、わたしはちょっと好きだけどなあ。

  • フィデルマ長編第二作。
    珍しくアクションありのストーリー展開です。このシリーズの長編の中では一押しかな。
    7世紀のローマの状況も興味深いし、最後、エイダルフのだめっぷりもおもしろい。
    しかし、あとがきを読むと、また、フィデルマって人気がないんだなとつくづく思います。ツンデレじゃなく、ツンツンなのが悪いのか。

  •  キルデアのフィデルマものの2作目。今回はエイダルフとともに訪れたローマで遭遇した殺人事件を解決する。相変わらずなじみのない7世紀ヨーロッパの宗教界での出来事なので、巻末の注をひっくり返しながら読み進む。が、そのうちほとんどの注は本筋とは関係ないので理解を飛ばしても問題ないことがわかってくる。人間のすることなすことは現代だろうが古代だろうが変わらないし、捜査法が指紋やDNAなどの科学捜査がない時代なので、関係者の聞き取りにほぼ限られるという制約があるというだけで、それほど変わらないともいえる。秘められた意外な人間関係による悲劇という真相も現代ミステリにも通ずるものだ。とすれば背景や舞台装置が異色なだけで、それに慣れてしまえばふつうの謎解きミステリを読むのと違いがないし、その意味でも好作の部類だろう。

  • 664年。エイダルフの一行と共にローマを訪れたフィデルマ。だが、着くなりエイダルフの上司である次期カンタベリー司教のウィガードが殺害される事件が発生。第一容疑者は失踪中のアイルランド人修道士。サクソンとアイルランドの国際問題になりかねないこの事件を託されたフィデルマとエイダルフは調査を開始する。〈修道女フィデルマシリーズ〉長篇邦訳第5作(原著では2作目)。


    今回は中世ローマ観光の要素が色濃く、カタコンベやスラムの売春宿などの様子が知れて楽しい。イスラム勢力がイタリアへ上陸してキリスト教世界を脅かしているさまや、アラビア語訳された古代ギリシャの古典がローマで再発見される流れも謎解きに取り込まれている(7世紀だと若干早い気もするが)。
    事件の真相に隠されていたのは、西行みたいな出家エピソードを持つ次期司教が捨てた子どもに復讐される話。他にも、外国人司教の宝具を盗む修道士たち、スラムに入り浸り乱交する聖職者、権威に媚びて他者を蹴り落とすためならなんでもするゴシップ好きなど、ローマという街とカトリシズムが抱える矛盾が詰め込まれている。フィデルマを高潔に描き、当時のアイルランドを理想化するために少々ローマを悪しく書きすぎな気もするが、第一印象が最悪なゲラシウスが最終的にまともだったりするのでバランスとれてるのかな。

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