冬期限定ボンボンショコラ事件 (創元推理文庫)

著者 :
  • 東京創元社
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感想 : 76
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  • Amazon.co.jp ・本 (416ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488451127

感想・レビュー・書評

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  • 超★5 小鳩君と小山内さんが小市民を決めた苦い思い出、二人の未来は #冬期限定ボンボンショコラ事件

    ■あらすじ
    高校三年生の冬、小鳩君と小山内さんが帰宅途中にひき逃げにあってしまう。小山内さんに怪我はなかったが、小鳩君は病院に搬送され、入院生活を送ることになってしまったのだ。小山内さんは犯人を捜すべく奔走する。
    一方入院中の小鳩君は、中学時代に同じ場所でおきた同級生のひき逃げ事件を回想していて…

    ■きっと読みたくなるレビュー
    本作単品で超★5、小市民シリーズ全部とおして鬼★5
    青春ミステリーの完全体ですね、参りました… もうすごかった。

    ●はじめに
    青春ミステリーっていうと、未成年の学生が事件の捜査に関わる物語なんてリアリティがないよ、という批判を言われることがある。個人的には所詮エンタメでしょ、楽しければいいじゃんと思っているのですが、人によっては受け入れがたいんです。お子様も読む本だし。

    たしかに現実の世界であれば、捜査を妨害してしまったり、犯人から害悪を受けたり、関係者に様々悪影響がでる可能性が高い。そもそも個人が警察組織よりも先に事件解決できるはずもなく、リスクを取るだけとって手間と時間を無駄にするのが関の山。

    このアンチテーゼを背景に描かれるのが、一連の小市民シリーズなんです。最終話を迎えた本作で、どういった結末を迎え、どんな回答を提示してくれるのでしょうか…

    ●ほろ苦い青春小説
    本作では二つのひき逃げ事件についてストーリーが展開される。まず小鳩君のひき逃げ事件は、復讐心に燃える小山内さんが捜査を進め、小鳩君へのメッセージという形で導かれてゆく。それに並行して、三年前の中学時代日坂君に起こった事件を回想していく流れ。

    中学時代の事件が物語の主軸なんですが、彼らがその後小市民として生きていくことになったきっかけがありました。まだ幼い二人は真面目で可愛いんだけど、やっぱりまだ子供。何が正しいのか、そしてそれは誰のための意思なのか。幼稚な正義は、他人を追い込み、傷つけ、そして自分自身にも不幸をもたらしてしまう。読めば読むほどビタ―なチョコレートを食べているようで、ほろ苦さが広がってくるんです。

    でも、多少行き過ぎた行動はあったかもしれないけど、みんな一生懸命で気持ちわかるじゃん… 若いときはどうしても視野が狭くなるもので、これらの経験を学びにして明るいこれからを歩いてほしいと願ったのです。

    ●練りに練られた謎解き
    中学時代のひき逃げ事件は、少年少女の冒険小説ともいえる内容でエンタメ要素がしっかりしてる。多少長めの筋運びなんですが、プロットが理解しやすく、読み手に負担をかけさせません。後半、切り口が変わってくるのですが、事件の背景や犯人は全く煙に巻かれる。私の想像力では見抜けませんでしたね。

    そして小鳩君の事件、もうあまりページもないけどもと思っていたら…驚きの急転直下。あっという間に思いもよらない真相が明るみになり、しかもこれまでの事柄が収束していくんですよ。

    明かされてみると、どちらの事件もなるべくしてなった事件。ストーリーの組み立てのうまさには圧巻でしたね。

    ●小市民たちのこれから
    シリーズものって、基本同じパッケージで新しい事件に取り組むのが一般的です。そこに時折キャラを追加したり、関係性を変化させたりする程度ではないでしょうか。

    本シリーズの恐ろしいのは、全巻同じテーマにも関わらず、アプローチや人間関係の深度が全然違うんです。

    春:連作短編、小市民たちの日常
    マカロン短編:短編、新キャラ後輩ちゃん
    夏:連作短編、二人のXX(※ネタバレ懸念のため伏字)
    秋:長編、二人のXX(※ネタバレ懸念のため伏字)
    冬:長編、中学時代の出会い回想、そして未来へ…

    春、夏、秋、マカロン短編、冬、それぞれの話で小市民メソッドへの強弱が違うし、二人の距離感も変化していく。時系が経過するごとに、この二人にしか理解できない価値観も深まっていくんですよね。

    さて、これから二人はどうなるのだろうか…

    どこか遠くの街の喫茶店、大学生の男女が向き合って座っている。小山内さんは甘味に浸っていて、小鳩君は甘味以外の別のことを考えながらケーキをつついている。未来の二人の姿が、目に浮かんできたのです。

    ■ぜっさん推しポイント
    悩み多き若者たちの成長の姿が眩しすぎる。コレ。

    失敗して、反省して、努力して、その経過の中でお互いの良いところも悪いところも理解して… そして感謝の気持ちを持ち続けられる関係性を築いてゆく。

    自分の考えや欲望があるのはわかるけど、その人がいるから自分が救われることもある。人が幸せになるって、こういうことだと思うわ。

  • 遂に終わってしまった寂しさ。
    相変わらず、学園探偵ものだと油断していたら最後の最後で思ったより重い話が待っていた。

    今作、小鳩くんはずっと入院中。
    入院生活である現在と、入院のきっかけとなった事故に似ている3年前の事件当時のやりとりとを、いったりきたりする。
    3年前の事件こそ、小鳩くんと小佐内さんが知り合うきっかけとなった事件であり、過去作で小鳩くんが後悔してずっと根に持っていると語る事件であり、小市民を目指すきっかけとなった事件である。
    堂島の出番が少なかったのが残念。

    小佐内さんの見舞いに持ってきたものが、狼のぬいぐるみ、ボンボンショコラ、薔薇の花などで、小市民シリーズを知る人間に対して同じことを私もいつかしてみたい。

  • 小市民シリーズ完結。
    前作から1作スピンオフは挟んだが、「秋季限定くりきんとん事件」からは、すでに13年経っているとのこと。
    でも、今作は何と小鳩君が小山内さんと下校途中にひき逃げにあってしまう。
    小鳩君は重体。
    全編を通して、病院のベッドの上。
    小鳩君がひき逃げにあったことで、小山内さんとの出会いのきっかけになった中3の時にも起きた、同じ場所でのひき逃げ事件を思い出す。
    まだ小市民ではなかった二人は、ひき逃げ犯を探そうとするが、悉く周囲の反対にあり、真実にたどり着くことはなかった。
    一方、小山内さんは小山内さんのやり方で、小鳩君を気遣い、小鳩君のひき逃げ犯を探そうとする。
    ラストの真相解明では、高校生相手にそんなことする?と思う場面もあるけど、離れていても小山内さんと小鳩君のコンビネーションは読んでいて、心地いい。
    高校3年生と言うことで、小市民シリーズは一旦ここで終了。
    小鳩君は残念ながら、浪人することになってしまったが、いつか大学生になった二人の作品も読んでみたい。
    長い間、いつ出るか?と楽しみさせていただいて、本当にありがとうございました。

  • 小市民を目指す小鳩くんに降りかかる事件を描いた本。テンポ良く話が進んでいくので、非常に読みやすかった。
     夏からテレビアニメ化もするらしいので、そちらも楽しみです。
     本屋特典でイラストカードが挟まっていたのが嬉しかった。栞として使っていきたい。

  • 小市民 春夏秋冬シリーズのラスト

    ブクログのお勧めで購入しましたが、
    シリーズものと知り1作目から読まなければと
    しばらくお預け状態でしたが、
    ようやく本書まで辿り着きました。

    うん。
    春から順番に読んで正解。

    本書単独の評価ではなく、
    シリーズ最終回として⭐︎5つ

    何故、小市民を目指すことになったか
    本書で明らかに。

    また、これまでとは違い、
    本人がクルマに轢かれて入院するという
    だいぶハードな展開から始まります。

    ほぼ病院のベッドの上で話が進み、
    3年前の回想も交えて轢き逃げ犯を推理していく。

    お勧めですが、
    やはり春から順番に読んで欲しい。

    「巴里マカロン〜」という短編もあるということで
    ポチりました

  • なんとほろ苦い……。
    こんなにもほろ苦いシリーズだったっけ?
    小市民シリーズを初めて手に取ったのは2009年の2月、13時間の空の旅のお供にするためだった。
    時が流れすぎてこれまでの3作を詳細には思い出せないけれど、もう少し飄々としていた気がする。
    本作を読んで、こんなことがあったなら小市民を目指さざるを得なかったであろうと納得。
    けれどまたもう少し飄々とした二人が見たい。
    米澤先生、大学生シリーズも書いてください。

  • 小市民シリーズ最新作、一作目は何年前だったかな。前作からもだいぶ空いているんじゃないかな。
    序盤から重たい展開、もっと日常の謎的な軽い話じゃなかったっけ?
    小鳩くんの人生狂わすほどの大事件、三年前の事件とどうリンクしていくのか、中学の頃の二人の回想と交差していくのが、ややこしくならず気持ちよく進められる。
    高校生でも大人からあんなに正面から悪意をぶつけられたら怖いだろうな。トラウマ級のダメージを残しそうだ。
    非を認めるとこは認めつつも、立ち向かった小鳩くん立派です。
    春夏秋冬揃ってしまったのでこれで終わりなんだろうけど、久しぶりに二人に会ってしまったらやはり惜しく寂しいな。

  • もう店頭に並んでるという情報を受けて、急いで購入。相変わらず構成がうまい。2人の始まりのエピソードと高校時代最後となるだろう事件が同時進行していく。手のひらに乗せられるように片方の事件に目付けをしていたら、もう片方の事件が解決していて、魔法にかけられたような気分になった。当たり前のことではあるのだが、タイトルのボンボンショコラはちゃんとキーとなるスイーツなのだ。それに気付いたのは読み終わって表紙を眺めているときだったが。

  • 轢き逃げ事件をきっかけに中学時代の同様の事件を振り返り、過去と現在を行き来しつつ真相に迫っていく。高校生活の小市民時代が終わってしまうが、小山内さんの思いを受け、小鳩はどんな進路を目指すのか見てみたいと思う。

  • 『春期〜』『夏期〜』『秋期〜』『巴里〜』と随分長きにわたって小鳩くん、小佐内さんのこの小市民シリーズを楽しんできた。
    この、甘々な題名にそぐわず、ちっとも甘くない関係にずっとツンとした、でれっとした思いを抱いていた。
    ふたりの出会いのきっかけと互恵関係を結ぶ事件の記憶の中での推理。伏線回収的な今回の事件。そのふたつが繋がった時、思いがけない真相が見えてきた。
    ミステリー的にもこのふたつの事件は層が深く重なり合い小鳩くんのさり気ないけれど鋭い推理と小佐内さんのひねった簡潔なヒントの提示の仕方に相変わらず舌を巻く思い。
    これでコンビ解散となってしまうのかと思うとザンネン。
    ずっと先でも良いので一年遅れで大学生となった小鳩くんとのふたりでまた新たな謎解きをスイーティーな味付けで読んでみたい。

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著者プロフィール

1978年岐阜県生まれ。2001年『氷菓』で「角川学園小説大賞ヤングミステリー&ホラー部門奨励賞」(ヤングミステリー&ホラー部門)を受賞し、デビュー。11年『折れた竜骨』で「日本推理作家協会賞」(長編及び連作短編集部門)、14年『満願』で「山本周五郎賞」を受賞。21年『黒牢城』で「山田風太郎賞」、22年に「直木賞」を受賞する。23年『可燃物』で、「ミステリが読みたい!」「週刊文春ミステリーベスト10」「このミステリーがすごい!」でそれぞれ国内部門1位を獲得し、ミステリーランキング三冠を達成する。

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