吸血鬼カーミラ (創元推理文庫 506-1)

  • 東京創元社
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  • Amazon.co.jp ・本 (386ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488506018

感想・レビュー・書評

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  • フランス系アイルランド人で、
    英国ヴィクトリア期に人気を博した怪奇作家
    レ・ファニュ(1814-1873)の短編集。
    久っ々~の再読。
    昔読んだときより面白かったのはこちらの年の功ってか(笑)
    女吸血鬼カーミラの言動がエロティックでゾクゾク。
    ちなみに「吸血鬼カーミラ」の発表は1871-1872年で、
    ブラム・ストーカー『吸血鬼ドラキュラ』(1897年)に先行。
    そういえばストーカーもアイルランドの人だったっけ。

    【おまけ】カーミラ名言集

     p.289 あなたはわたしのものよ。きっとわたしのものにしてよ。
        わたしとあなたは、いつまでもいつまでも一つのものよ。

     p.299 女の子というものは、この世に生きているうちは芋虫なのよ。
        そうしてね、夏がくるとそれが蝶になるのよ。
        それまでは、それぞれみんなおたがいに性向と必然性と形をもった幼虫なのよ。

     p.309 あなたはわたくしを愛しながら、 わたくしといっしょにきっと死ぬのよ。

     p.310 恋には犠牲がつきものなのね。犠牲には血がつきものだわ。

     p.316 夢は悪霊がつくるものなのよ。

  •  平井呈一さんは文人の系譜に属する方で、さすがに訳文も格調高い。
     比較的昔の翻訳ですが、特に古臭さを感じさせません。
     ネットを検索すると平井呈一訳版が古臭いという意見が目立ちます。私は特に違和感なく読んでいたので、頭の中がかなり年寄り化しているのかもしれません。私は平井版の文体は好きです。特に、流しの芸人に関するくだりは今では読めない文体だと思います。私はこんな文体で文章を書きたいので何度も読んでマスターしたく思います。
     例えば、主人公ローラの父親やスピエルドルフ将軍といったお年寄りのセリフや流しの芸人に関する描写の節回しに古き良き味わいがあって良い。
    「とにかく、お母さまから指示がなくてもだ、ここを去るなんちゅうことを考えちゃならんことだけは、たしかじゃ。わしのほうだって、あなたと別れるについてはいろいろこれで心配もあるんじゃから、そうやすやすと承知はできんよ」
    「こりゃまあ、名前もろくすっぽ知らんで若い女をあずかるなんて、とんだヘマなことをしたわいと、改めて自分のドジさかげんを思い知らされたわけだが」
    ……なんて、微妙に古さを感じるお爺ちゃん言葉に味わいがあります。
     また、ローラの語る地の文にも
    「スピエルズベルヒ先生は、そこから馬にのって暇を告げると、そのまま森のなかを東のほうへと、パカパカ行ってしまいました」
    なんて表現が出てきます。

     創元推理文庫版は字が細かくて読みにくいことは読みにくいのですが、本書は他にも短編が6編も収録されているのでお得ではあります。

    20世紀少年少女SFクラブ
     12年前の悪夢に出てきたお姉様と運命の再会!【吸血鬼カーミラ】
      https://sfklubo.net/carmilla/
       https://sfkid.seesaa.net/article/487799744.html

  • レ・ファニュの短編小説集。本書は「吸血鬼カーミラ」となっていますが、「In a Glass Darkly」に収録された短編です。この「カーミラ」がブラム・ストーカーの「ドラキュラ(1897年)」を始め、多くの吸血鬼作品に影響を与えたことが知られてます。詳細な描写や謎解きがあるわけはなく、なにか得体のしれない分からないものへの恐怖が全体に漂います。平井訳も古典的で雰囲気が良いので好きですが、新訳が立て続けに発売され読みやすくなり、敷居が低くなりました。この流れは百合小説の流行とも関係するのかな。

  • 私の血を飲んだ者は永遠の命が与えられる、最後の日にその者は復活するというキリストの言葉のネガたるアンチキリストの王、吸血鬼伝説。英国怪奇小説の祖レファニュの短編の中で言うまでもなく語られるべき名作のひとつはこの「カーミラ」だ。非常に悪魔的でレズビアンの匂い漂う吸血鬼ホラーの傑作である。貴族の娘、私と父が暮らす古城に偶然やって来た高貴な母娘。縁あって娘カーミラを城で預かることになったが、村には若い娘が急逝する奇病が流行っていた。カーミラの奇妙な態度を訝る私も奇病にかかってしまう。カーミラの蠱惑的な態度やその正体が暴かれていく過程の面白さは、いや木杭を打ち込んで滅ぼすラストまでカーミラの正体を知らずに読んだら心打ち震えたはずだ。カーミラは…吸血鬼だったのか!これまた英国怪奇小説翻訳の祖平井呈一がタイトルを「吸血鬼カーミラ」にしてしまったのだ。原題「カーミラ」だけではホラーファンが購入しないのは確かだ、しかし読む前に正体を明かしてしまった平井翁の罪は大きい。

  • 一種独特な雰囲気漂う吸血鬼の怪異譚。ですが,本書には表題作以外に6つの怪奇小説が収められていて,あまり触れる機会のないレ・ファニュの作品を楽しむことができます。
    一番分量が少ない「白い手の怪」は洋館に現れる正体の知れない「手」を不気味に描いており,導入としてはぴったりという感じがしました。続く「墓掘りクルックの死」は,舞台となる田舎町ののどかさとそこで起きる事件とのかい離が大きく,「風光明媚」という言葉が似合いそうな情景描写が逆に怖さを引き立てているようです。「シャルケン画伯」は私のお気に入りの1篇で,シャルケンの師のもとを訪れる客人の異様さの描写が秀逸で,本書の中で最も恐怖を満喫(?)することができました。「大地主トビーの遺言」「仇魔」「判事ハーボットル氏」の3篇はどことなくプロットが似ている物語ですが,霊に憑かれた人々が恐れ,おののき,日常を壊されていくさまが実に丁寧に描かれています。そして最後の「カーミラ」は,語り手は事件の当事者である女性という点が前6篇と大きく異なっています。ご存じの通りこの作品はレズビアンの描写が目立つものですが,解説にもあるようにこの語り手の存在によって決して下品とは感じないものでした。またストーリーは少しサスペンス的な風味も添えられていて,そこもまた面白さを増しているように思えました。
    訳が少し硬いためか,あるいは原文のせいか,少々読み進めるのに難があるようなきらいもありますが,作品自体は非常に面白く,また怪異の描写はとても巧みで,久しぶりに怪奇小説を楽しむことができました。平井呈一訳。

    (2011年3月入手・2012年2月読了)

  • 短編6作と中編のカーミラの物語。

    ::白い手の怪
    王道なホラー。
    館のあちこちで手だけの幽霊を見かける。使用人たちが騒ぎ出し、さらには館の主の子供までそれに怯えるように……という話。
    その手が誰のモノかは書かれていないし、『手』だけしか見えないのだけど恐怖の伝染のようなものがいい。
    ラストの2文がスキ。
    もしかしてあの手は語り手の老婆のものだろうか?と暗に匂わせているように私には感じた。老婆もまた幽霊かもしれない。

    手の幽霊は『若い女の手のようだ』



    ::墓掘りクルックの死
    墓掘りクルックが死んだ。その死体を得体の知れない人物が引き取りに来て……という話。
    その得体の知れない人物は悪魔だったと最後にしっかり明かされていて、墓掘りクルックが実は盗みを働いたのではないかという事も書かれている。つまり、悪人を悪魔が迎えに来たという話。

    わかり易いキリスト教的(?)なお話しで、悪魔のよく分からない不気味さもいい。



    ::シャルケン画伯
    シャルケン画伯が若い頃に師匠の娘に恋をした。しかし、その娘をくれととある金持ちが話を持ち掛けてきて……。金に目がくらんで娘を差し出す父親の話。というと、身も蓋もない。
    若い画家と娘の恋は結ばれず、恐怖で逃げかえってきた娘は死んでしまう。
    お金持ちの気味悪さがこれでもかと書かれている。一瞬、主人公の画家がもっと活躍するのではと期待してしまったが、思ったほどの活躍はなかった。

    でも、得体のしれない金持ちの容貌や雰囲気からゾクリとする恐怖を感じる事が出来る。



    ::大地主トビーの遺言
    大地主トビーが死に、残された二人息子がいがみ合う話。
    家を継いだ次男が長男に悪気を感じつつも得た財産は長男には渡したくはないという何とも人間的な話だった。
    そして館で怪現象が起き、それらに使用人も主である次男も苦悩する。最後には長男も死に、次男も怪現象に殺される。

    人間的なグロテスクさと、怪現象が混ざったお話だった。4作目にもなると、ちょっと飽きてしまったのは秘密。



    ::仇魔
    足音に悩まされる男の話。
    足音ひとつから過去の話が見え隠れするのだけど、いまいちよく分からないまま物語は閉じてしまう。
    男は怪現象に悩まされて、とうとう死んでしまうからだ。

    現代的に考えれば、精神病のどれかなのでは?とも思ってしまう。小説も『症例』という説明で始まっている。

    この作品も含めて後の3作+未掲載2作は同じシリーズとしてまとまっているらしい。

    足跡一つでも恐怖で、この時代は今のように夜が明るいわけではないので、暗闇から響く足音はそれだけで恐怖だったろうと思う。

    そしてこれも、原因はうっすらと提示されるが確定されるようには書かれてないので、『何かよからぬことをした』という事までは分かるが、それが具体的に何かが分からない。モヤモヤする。



    ::判事ハーボットル氏
    ハーボットル氏が一人の人間を有罪にして、奇妙な事が起り始める話。
    こちらも前作と同じく、主人公は不可解な現象に悩まされて死んでしまう。仇魔が『声』だったのに対して、こちらはしっかりと『幽霊(人影)』で、因果関係もはっきりしていた。

    仇魔に比べるとこちらの物語は分かりやすいが、物語が仇魔と似てるので同じ作品を読んでいるような気にさせられた。



    ::吸血鬼カーミラ
    吸血鬼退治の話。
    吸血鬼カーミラが読みたくてこの本を買った。吸血鬼ドラキュラとの違いが気になったから、というのもある。

    吸血鬼ドラキュラは男だったが、カーミラは女吸血鬼で女性を襲う。その描写もやや官能的に書かれているがそれが上品で読みやすい。少女同士の戯れ感がドキドキさせてくれる。
    同時に、性的な接触に対する嫌悪も主人公はちゃんと持っていて、『その点が嫌だ』と書かれているのもいい。
    ベタベタしたくはないが、親しくしたい。そう言う境界がある普通の少女という事がわかる。



    実は『大地主トビーの遺言』から3作は、ちょっと疲れてきていた。古い言い回しと同じような物語の連続に、ウンザリしてしまった。
    けど、カーミラはウンザリさせるどころか最初の作品の『白い手の怪』以上のハラハラとドキドキを感じた。この本に収められている短編の中では一番長いけれど、一番サクサクと読めてしまった。

    最後のカーミラの事実を明かすところは意味が分からず何度か読み直してしまったけど、それ以外は物語もすっきりと入ってくる。
    ドラキュラよりも古く、ドラキュラはこちらの作品の影響もあると書かれてたけど……カーミラはカーミラで、ドラキュラはドラキュラで十分楽しめた。

  • 怪奇幻想小説短篇集。ひそやかな怪異がじわじわと迫る一冊です。
    やはり有名な「吸血鬼カーミラ」は素敵。恐ろしくはあるのですが、それ以上にやはり美しいです。もうタイトルから正体がばれてしまっている(笑)カーミラですが、わかってはいてもあまりに可憐なその様子には魅入られてしまいそうな気がしました。
    「判事ハーボットル氏」も好き。ハーボットル氏のキャラクターが全然好きになれなくて、だからこそまったく同情する気にはなれないのですが。起こる怪異の数々は恐ろしいよなあ……こんな目には遭いたくありません。

  • ずっと読んでみたかったカーミラ。
    美しく儚く物悲しい描写は期待以上でとても良かった。謎が結構残されたままなのもいい。
    表題作以外の短編も全て独特の味わい深さで、これぞゴシックホラー。
    例えるなら、モノクロ映画の趣き。
    使用人たちの話し言葉が西郷どん的な翻訳はご愛嬌。

  • 【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
    https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/765260

  • ガラスの仮面から。
    カーミラが蠱惑的でファムファタールっぽくあり、とても素敵。
    でも結局母と黒ずくめの紳士はなんやったんやという感じである。

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