英国怪談の巨匠による普遍的で色あせないクラシックな雰囲気の古典怪奇怪談集。日常にすっと差し込まれる怪異の絶妙なさじ加減と無駄のない組み立て。ちょっとしたユーモア、時にはサスペンス的な要素もあり、怪異を如何に魅せて読者にどんな印象を残すか入念な意識を割きながらも、ストーリーをしっかり読ませる内容となっており面白い。
『好古家の怪談集』
アルベリックの貼雑帳
手に入れた稀覯本に挟まれた絵。持ち主は、これが原因で本を手放したいようであるが。持ち主の元を訪れる魔物の存在。
消えた心臓
両親を亡くした少年が、親戚の家に暖かく迎え入れられるが、過去にはこの家で同年代の少年少女が失踪していた。短いが、着々と静かに進む陰謀の気配がよい雰囲気。
銅版画
美術館の収集委員を務め、勧められた銅版画はありきたりなものかと思えばある恐怖が隠されていた。銅版画の中で目を離すと動く人影。友人らと銅版画を観察するのが面白い。
秦皮の樹
屋敷の特定の部屋で人が死亡し、その窓の外にはトネリコの木が。淡々と進行する怪異に対して、魔女狩りにあった魔女の怨念が何十年も祟っていたということがクライマックスで明らかになるのだ。
十三号室
存在しないはずの部屋が二つの部屋の間にある。今となってはよくあるネタかもしれませんが、テンポよいストーリーで読ませる。
マグナス伯爵
悪名高いマグナス伯爵の霊廟。なぜこんな場所でそんなことを呟いてしまったんだろう。ふとした呟きが怪物を起こす。
笛吹かば現れん
遺跡で拾った笛を吹いてしまったために。徐々に近づいてくる得体の知れないものの怖さ。
トマス僧院長の宝
宝探しのわくわく感。守護者はパンチが弱いけれど、家までつき待ってくるのは怖いですね。このアイデアつかって和の雰囲気でも何か聞いてみたいね。
『続 ・好古家の怪談集』
学校綺譚
二人の男が学校の怪談について語り合い、片方が体験談を語り出す。なかなかに気味が悪い話。犯罪に対する霊の報復と読めるが、真実は語られず、心に不気味な印象を残す。
薔薇園
薔薇園を作ろうとした土地は曰く付きの土地で。過去の怨念に感応し幻視するものは。
聖典注解書
図書館員が巻き込まれた怪異と冒険。遺言探しという要素があり、ストーリーに動きを加えており、エンターテイメント性が高く面白い。
人を呪わば
呪詛返しの話。誰が呪っているのか、呪いのタイムリミット、どうやって呪いを返すのか、無駄がなくハラハラするサスペンスに仕上がっていて、これもエンターテイメント性が高い。傑作では。
バーチェスター聖堂の大助祭席
手記をたどり、亡くなった大助祭の死の真相を語っていく。大助祭が次第に狂気に飲み込まれていく様がおどろおどろしい。
マーチンの墓
囲われた一角はマーチンの墓と呼ばれる。犯罪者マーチンの裁判は、不思議な裁判だったという。裁判の速記記録に書かれた当時の不思議な記録を掘り起こす。方言や誇張された言い回しなど、本国の感覚ではコメディタッチというかシュール系のユーモアのある作品なのかもしれませんね。
ハンフリーズ氏とその遺産
顔も知らぬ叔父から相続された屋敷には庭園に迷路があった。地図を作ろうとも複数人ではなぜか中央に辿り着けぬ不可思議。迷路にはどんな恐ろしい秘密があったのか。
序文から。「また 〈オカルティズム 〉というものも 、慎重に扱わないと単なる怪談 (私の書こうとしているのはそれなのだ )を擬似科学の俎上に載せてしまい 、想像文学以上の作用を要求することになろう 。」という作者の言は示唆に富んでいる。現代のホラー小説においても重要な要素であると思う。