地球幼年期の終わり【新版】 (創元SF文庫)

制作 : 渡邊 利道 
  • 東京創元社
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感想 : 53
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  • Amazon.co.jp ・本 (368ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488611040

作品紹介・あらすじ

宇宙に進出しようとした人類の前に、突如として未知の大宇宙船団が主要都市の上空に下りてきた。彼らは他の太陽系から来た生命体で、人類とは比較にならない高度な知能と科学力をもつ全能者だった。彼らは地球を全面的に管理し、ここに理想社会が出現したが、その姿を人類の前に現すことはなかった。この全能者の真意は? SF史上にその名を残す不朽の傑作。

感想・レビュー・書評

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  • 物語は、人知を超えた存在「上主(オーバーロード)」が突如地球に現れるところから始まる。
    上主は人類の技術力・科学力を凌駕する力で人類を支配していくが、その態度は高圧的なものではなく人類にとって友好的にも見える。それでも地球来訪の目的も明らかにされないまま支配されることをよく思わない人類は彼らに反発する。

    そんなおり、とある世代の子供たちが突如として不思議な力を使い始める。この力は人類が次のステージへと駒を進め進化に到達したことの証明であった。上主の目的はこの進化を見守り、観察することであったのである!
    しかしながら、進化を遂げた子供たちはその親と見ている世界が全く異なり、理解のレベルが異なっていた。
    やがて子供たちは上主よりさらに上位である「主上心(オーバーマインド)」へのつながりを深めていくのであるが、その中で地球を吸収する決定がなされる。
    なすすべのない人類、さらには上主はそれをただ観察するだけであった。。。

    物語の序盤は、上主の正体・地球に来た目的が謎に包まれており、ミステリーチックな様相が強い。実際、正体や目的に引きずられるようにしてすらすら読めた。
    後半に入り、上主の目的が明らかになった後は、SFというよりも哲学的な要素を強く感じた。
    当小説では子供が人類(ホモサピエンス)とは全く別の種へと進化を遂げ、親の理解が及ばないところへ到達するという極限的な状況が描かれているが、子供が親の理解を超えた行動をしたり考えをもったりすることは往往にしてあることであるように思う。特に移り変わりの激しい現代において、自分に子供ができたとき彼(ら)をちゃんと理解できるかは甚だ疑問である。
    しかしながら、当小説と異なり実際には子供たちと直接的に関わって生きて行かねばならない。そうなった時、自分は親としてどういう理解をしめせるのか、どのようにして受けいるれるのかをきちんと考えておかねばならないと感じた。

    いつの時代でも程度の差はあれど、人類は進化の歩みを続けているのだと思う。その歩みの幅は半歩なのか1歩なのかそれとももっとなのかわからないが、どんな状況でも受け入れる覚悟を持たねばならないと思う。現代はそれだけ目まぐるしく変化しているのだから。

  • 異星人とのコンタクト物語ではあるけども……。

    アーサー・C・クラークのこの小説は1953年刊行とずいぶん古いもので、作品としては最近読んだ『2001年宇宙の旅』よりも前のものとなる。
    メディアはラジオ主流でテレビは出始めたばかり、もちろん人類は月どころか宇宙へも飛び出してはないころにつくられたお話。

    時は米ソ対立のさなか、いよいよ「宇宙開発」の第一歩が記される直前に目の前に異星人があらわれる。
    特に異星人たちが何かするわけでもないのに、人類はその絶対的な技術力と知性の前で自分たちとの格差に愕然とし、以降は文明の衰退が始まる。

    なぜ、異星人は“その”タイミングであらわれたのか。
    文明が成熟するということは何を意味することなのか。

    終盤では、少し判りづらいが、未来を左右するのは「個」ではなく「全体」の力と示すが、あえてその是非を明らかにしていない。

    「滅ぶ」ということと「継ながる」ということ……。
    「進化」とは前形態の「絶滅」を意味する。
    「さだめ」「運命」とは、いったい何の力によって存在するのか……。

    原題「CHILDHHOOD’S END」
    ちょっと難しい解釈へと、入り込んでしまうような物語でした。

  • 人類の進化として個の消滅、全体への統合が示される。これを上位の存在への進化としながらも、悲劇的に描く。これは個人の独立を失うことになる。アニメ『新世紀エヴァンゲリオン』では人類補完計画が提示されたが、主人公らは人類補完計画を拒絶した。上からの目線では進歩であっても、当事者意識があれば受け入れ難いものである。

  • しばらく前に買ったまま積ん読だった一冊。
    積ん読って数年後、何でもないときに「時は満ちた」状態になって、すっと読めてしまうから不思議よな。
    買ったからってすぐに読まなくてもええんやで。

  • 『星を継ぐもの』に続くSF2作目でした。
    「地球人を優に超越する科学力を持つ宇宙人が地球を統治する理由」という謎が、著者の圧倒的な想像力によって解明される点が面白かった。
    人間の進化の到達点は「科学」であることが多いけれど、この本では「心」であった点も自分の想像を超えてきて面白かった。

  • 人類への愛と、それゆえの憐憫。子供を生み次世代を育てる意味。この二つをこの小説からは読み取れた。
    SFは普段あまり読まないけれど、これの前に読んだ三谷さん著の戦略読書という本で、SFがこれでもかというほど勧められていたので読んでみた。

    全章を通して緊張感があり、かつ謎解きの楽しさや科学の面白さ、そしてあっと驚かされる設定があり、それこそあっという間に読み終えた。
    人類の進化が新たなフェーズに入り、主上心に取り込まれて地球が滅亡するあたりでは寂しさが勝ったが、著者の人類への愛をそこかしこに感じたからか、そこまで絶望感を覚えずにいられた。
    また、宇宙という広い視点から人類を見ると、日々の活動のちっぽけさというものを思い知らされて、逆に安心した気持ちになったのも大きいかもしれない。
    感想がものすごぐまとまってないが、とりあえず読後感を書き留めて置きたかった。
    以下は自分の印象に残った文。

    『ときどき、人間などというものは、結局は外界の峻烈な現実から保護され、隔離された運動場で自分たちだけで楽しんでいる子供のようなものではないか』

    『あの子は玩具を置いていった、でもわれわれ二人は持っていこう 中略 われわれの宝を珍重してくれる者は、ほかにはもう二度と現れないのだ』
    →子供を持つ身としては、とても心に残る場面だった。

    『しかし彼らの存在は、けっして完全に無駄に終わったわけではない』

    『去っていった子供たちにとって代わる子供はひとりも生まれなかった 中略 ホモ・サピエンスとしての人類は絶滅したのだ』
    →子供を産み育てるということがどういうことなのか、いつも考えているが、確かに全人類の子供がいなくなったら、きっと生きていく意味を人類は失うのかもしれない。そう思うだけで、子供を育てることへ意義を見いだせた気がする。

    『いつかきっと孤独が彼を圧倒するだろう。音楽はそれへのお守りのようなものだった。』

    進化とは断絶である…他の方の抽象化

  • 個人的にSF小説に求めるものは、論理に裏打ちされたハッタリとか、度肝を抜かれるような発想とかなんだけど、「地球幼年期の終り」は、その意味では少し期待はずれだった。

    宇宙人が来襲して人間がやたらと平和になっちゃうとか、宇宙人が人間で言う悪魔の姿をしているとか、その姿を恐れる理由が未来の記憶だったのだ、というところは面白かった。あと、カレレンのスタイングレンとの友情?も。
    ただ主題というかオチがうーん。人類の進化というのが、それ進化ですか?という気がするし。人間って群体の多様性が一番の強みのような気がするんだけど(鋼鉄都市とかだとそんな話だし)。
    あとカレレン以下上主はとんでもない知性の持ち主とされているけど、作中の描写ではそう感じられない。本がたくさん読めるとか、なめらかに異星語が話せるとか、そういうものではなく、創造性が感じられるエピソードがなかった。これはカレレンたちが主上位に服従してるせいなのかも。

    解説にもあったけど、今作での進化は、現在の人間の延長線上にはなく存在そのものの変化に近くて、その意味で人類の未来はどうなる?的な思考実験にもいまいち。とりあえず宇宙人は余計なことしないで自分たちの進化を追い求めててください。

  • 宇宙船団、ユートピア、海洋探査のほか、宗教や芸術も少し絡むところが面白い。

  • 70年くらい前の小説だけど、とんでもなく面白かった。クラーク先生ありがとう...

    東西冷戦時代のある日、知能、科学のレベルが人類より圧倒的に高い存在(上主)が地球外から現れる。彼らは問題をスマートに解決し、地球の社会は徐々にユートピア化していくけれど、、という話。

    約100年をミクロ(ひとりひとりの性格や生活)から超俯瞰(太陽系外、高次の高次の存在とか)まで縦横無尽に駆け抜けるストーリーテリングが巧みすぎて一気読み。

    人類には好奇心や葛藤があって、だから歴史が進んできたんだけど、懸隔をジャンプした進化後の新たな存在には好奇心はおろか感情も個の思考もなくて、進化なのに虚無。こわかった〜

    スケールが大きすぎて面白すぎて呆然としつつ、クラーク先生の理知の光とユーモア、人類(古い方の)への愛情みたいのを感じてとても読みやすい。

    技術やマスメディアなど時代を感じる箇所もあるけど、人類の進化とは何か、ワンネス、差別や富の偏在が解消し労働から解放されたら人はどうなるか?など今も熱い話題が盛り込まれてる気がした。

    70年前より科学技術は進んでいて、小説の世界を超えている(部分もある)。でも人類は今も幼年期(Childhood)なんだろうなぁ。

  • SF作品の古典的名作。いやあ実に面白い。教養、娯楽、芸術どの要素も含まれているようで感動した。

    プロットとしては上主の正体は?目的が何なのか?といったところを軸に進んでいくミステリー的なもの。物語が進むにつれて見えて来る上主の目的と地球そして人類の未来。

    人類史を考えると、他生物から見た人類が「上主」だったときもあるし、植民地国から見た欧米列強が「上主」だったときもあるように、支配と被支配の関係はこれまでずっと繰り返されてきたと思う。まか結果的に上主は支配してるわけではなかったけど。絶対的な存在が生じることで平和や秩序が形成されるってのは面白いと思う、ただ勿論宗教的な神様と違って、物質的な充足感を与えてくれるからこそ成し遂げられたものだろうけれど。これが恐怖で支配されていたとしたらおそらくレジスタンスが台頭してきたんだろうけれど、さすがは上主、過度な干渉はせずに人間の思考をよく理解してうまく統治していますね。これは上主の圧倒的に進んだ科学力と知能のおかげって考えると、やっぱ勉強は大切だなと痛感させられる。
    一方で上主たちの絶望と人類への羨望があるってのもこの小説に深みを出しているような気がする。絶対そこには辿り着けないけれども、虎視眈々とその機会を狙っている、貴志祐介の新世界よりでのバケネズミみたいだなーって思った。時間の話は面白かった、そういう発想できる力ってのは生きていく上で役に立つだろうなー。

    果たして現実世界の人類の幼年期はいつ終わるのだろうか。あるいはもう既に幼年期が終わったのが現在なのだろうか。

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