鳥の歌いまは絶え (創元SF文庫)

  • 東京創元社
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  • Amazon.co.jp ・本 (448ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488783013

作品紹介・あらすじ

放射能汚染によって、生殖能力が極端に低くなった地球上の生物群は、緩やかな滅びへと向かっていた。その中で豊かな渓谷の一族が研究所を創り上げ、クローン繁殖の技術によって滅亡を回避しようと試みる。だが誕生したクローンたちは個々の自意識が薄く、今までの人類の文化と異なる無個性の王国を築き上げようとしていた……ティプトリー、ル=グィンに並び称されたSF作家を代表する傑作長編。ヒューゴー賞、ローカス賞受賞作。

感想・レビュー・書評

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  • 個性や多様性が否定される世界では、個人の考えや意見は必要ない。仲間内だけやリーダーへの共感、それだけで成立した社会に適応すれば、個人が受ける間違いや苦痛はほとんどないに等しいだろう。世界が破滅へと進もうと誰ひとり疑問を抱くこともない。ぞっとするけれど、何も考えないことは、ある意味幸せなことなのかもしれない。

    人間の本質とはなんだろう。
    そんなことを考える小説だった。
    いろんな答えがあるだろうけど、そのひとつに「自分の頭で考えるということ」があると思う。それを放棄したとき、人間は人間でなくなるのではと思考をめぐらす。それならば「自分の頭で考える」ことが出来る「クローン人間」は、「人間」として生きていることになるのだろうか。

    核実験による放射能汚染などによって環境破壊が進み、人類が滅亡へと向かいはじめた世界から物語は始まる。
    第一部では、自分たちの遺伝子を持ったクローンによって排除される人間。第二部では、共感能力で結びついていた兄弟姉妹から離れ、個の「私」としての生き方を模索したクローン。そして第三部では、クローンの母親から誕生した個性を持つ少年が登場するのだが、「自分」を持つ彼の存在や行動は、無個性の王国では理解されるものではなく異分子として疎まれる。

    本を読み、自分の頭で考え、ひとりで行動できる少年。彼が選んだ未来は、生きることの本質へと迫るものだったと思う。生きることへの貪欲さ、逞しさ、そして尊さは、他人任せでは生まれない。
    ただ、それでもいつの日か世界は終わる。
    未来はすぐそこで途絶えているのかもしれない。
    それでもきっと。
    少年は最後まで人間の本質を捨てることなく生きていくのだろう。

    • いるかさん
      地球っこさん こんにちは。

      レビューを見てとても興味が出ました。
      是非私も読んでみたいと思います。
      いつも地球っこさんのレビューが...
      地球っこさん こんにちは。

      レビューを見てとても興味が出ました。
      是非私も読んでみたいと思います。
      いつも地球っこさんのレビューが楽しみです。
      これからもよろしくお願いいたします。。
      2020/05/17
    • 地球っこさん
      いるかさん、こんにちは。
      コメントありがとうございます☆

      『鳥の歌 いまは絶え』は1982年にサンリオSF文庫から刊行されており、
      ...
      いるかさん、こんにちは。
      コメントありがとうございます☆

      『鳥の歌 いまは絶え』は1982年にサンリオSF文庫から刊行されており、
      このたび創元SF文庫から復活したそうです。
      タイトルの儚さと、表紙のイラストが魅惑的ながら何とも物憂げで、つい表紙買いしてしまいました 笑

      壮大な時の流れのなかで、旧人類(わたしたち)、クローン、そして新しい人類と三世代に渡るSF小説です。
      機会がありましたら、ぜひ読んでみてくださいね(*^^*)

      2020/05/17
  • 海外文学はあまり読まないのですが、ブクログでフォローしている方のレビューを見て、どうしても読みたくなった一冊。

    とっても面白かった。
    日本語訳なので、最初は少し読み慣れないところもあったけれど、物語の面白さにどんどん引き込まれていってしまった。

    3部からなる物語。
    第一部は核実験などによる放射線障害で人間が住めなくなる環境で、なんとか人間が生き延びるために実験室でクローンを作り出そうとする。
    第二部は、統一されたクローンたちの中で、個人として生きることに気づいた一人。
    第三部ではその子供がさらに個として生き、統一された集団から離れていく。

    物語 本編の最後 バリーの一言「なにもかも、そのためだった。」 が衝撃的。
    全然違うけれど、映画「カサブランカ」の警部を思い出してしまった。

    読み応え抜群。
    本当に読んで良かったと思いました。

    • 地球っこさん
      いるかさん、こんにちは。

      「読んで良かった」と思われたこと、わたしも同じ本を読んだお仲間として、とても嬉しいです(*^^*)
      いるかさん、こんにちは。

      「読んで良かった」と思われたこと、わたしも同じ本を読んだお仲間として、とても嬉しいです(*^^*)
      2020/06/14
    • いるかさん
      地球っこさん ありがとうございます。
      地球っこさんのレビューを見て、是非読んでみたいと思いました。
      良い本に出会うと幸せになりますね。
      ...
      地球っこさん ありがとうございます。
      地球っこさんのレビューを見て、是非読んでみたいと思いました。
      良い本に出会うと幸せになりますね。
      ありがとうございました。
      これからもよろしくお願いいたします。。
      2020/06/14
  • 物語の背景に、今回の疫病騒ぎが重なる。
    かつて、恐竜達が滅んだように、人類もいつか終わりを迎えるのだろう。
    その中で足掻く人々。その遺産を食い潰す新人類。そしてまた、彼らにとっては異端と思える新しい人類が誕生し、彼が成長した時に破綻は訪れる。

    誰が正しいのか、何が正しいのか、それは読んだ人間か判断することだろう。

    ただ、私は自らの生き方に責任を持って、顔をあげて生きたい。

    そう強く思える作品だった。
    流石、名作である。

  • 戦争と気候変動に加え、世界人類は放射能汚染により生殖能力を失ないつつあり、滅亡に瀕していた。
    シェナンドア一族は、人類の生き延びる道をクローン技術に求め、汚染を免れた清浄な水を得られる谷の上流に密かに研究所を建設する。

    一族の一員で、生物学者を目指す青年デイヴィッドは、有性生殖を数世代経ることにより再び生殖能力を取り戻す可能性があるという研究により、未来に望みを託して一族のクローンたちを生み出すが…


    面白かった!
    しかも、ものすごく格調高い解説で知った、この作品が1976年の作品で、1982年にサンリオSF文庫から刊行されたものの復刊だということ。
    それを知ると、今読んでもストーリーの瑞々しさ、荒廃した都市の描写の生々しさに、再び驚かされた。
    東逸子さんのイラストも、その頃のものなのですね!またまた嬉しい驚き。

    デイヴィッドと、彼らの世代が生み出したクローンたち、そしてさらに数世代を経たクローンたち。
    第一部では、こりゃ完全にディストピアSFだと思ったけれど、第二部のモリーは、想像力/創造力の大切さを問い、第三部ではモリーの子・マークが新たな道を切り拓く。
    ディストピア…で終わらなかったのが、いい。

    より優位な種族による、旧種族の淘汰。
    ヒトは遺伝子であらゆる事を決定づけられてしまうのか、それとも後天的な要素や学習で変化し得るのか。
    何度も繰り返し取り上げられているテーマだけれど…この作品は、クローン技術のごく初期に書かれたものだけれど、まだこれからも通用しそう。
    たぶんまだ、もうしばらくは…


    フォロー中のいるかさんのレビューのおかげで、読むことができました。
    そして、ネタバレ注意で読了するまで我慢していた地球っこさんのレビューも、すごく良かった。
    おふたりとも、どうもありがとうございました!

    • 地球っこさん
      yo-5h1nさん、はじめまして!

      素敵なレビューのおかげで、わたしも読んだときの衝撃?興奮?そういったものが鮮明に蘇ってきましたo(...
      yo-5h1nさん、はじめまして!

      素敵なレビューのおかげで、わたしも読んだときの衝撃?興奮?そういったものが鮮明に蘇ってきましたo(>∀<*)o

      それにわたしの拙いレビューも読んでくださったとのこと、とても嬉しいです。
      ありがとうございました。

      yo-5h1nさんの本棚は、まだ読んだことのない本がたくさんあって(とくにミステリ!)、とてもワクワクします。
      素敵な本棚にフォローさせていただきました♪

      よろしくお願いします。、
      2020/11/30
    • yo-5h1nさん
      地球っこさん、嬉しいコメントをありがとうございます。

      思うことをうまく書けずにレビューが追いつかないこともしばしば、
      ブクログを始める前に...
      地球っこさん、嬉しいコメントをありがとうございます。

      思うことをうまく書けずにレビューが追いつかないこともしばしば、
      ブクログを始める前に読了していた本は登録のみ、
      ジャンルも雑食な本棚ですが…

      新しい出会いがあって、地球っこさんのレビューでまた誰かがワクワクして同じ本を手に取って下さったら、とてもとても嬉しいです。

      こちらこそ、どうぞよろしくお願いします♫
      2020/11/30
  • 1976年のSF作品。人類滅亡の危機(第一世代)を描いた「鳥の歌いまは絶え」、成熟したクローン・コミュニティ(第二世代)を描いた「シェナンドア」、クローン・コミュニティの衰退(第三世代)を描いた「静止点にて」の三部構成になっている。

    放射能に汚染され、人類を含む生物の生殖能力が衰えてしまった終末世界。ヴァージニア州に住む科学者のデイヴィッドは、親族と共にクローン技術を完成させ、生殖に寄らずに人類を維持することに成功する。

    クローンたちは精神的に深く結びつき、テレパシーでお互いを関知できるが、独立心に乏しく独創性や想像力が欠如していた。彼らは自我を捨て、個人より共同体を優先させる独特な社会を完成させた。「われわれ兄弟姉妹は独立して生きる必要がなく、かわりに単一の意識が形成されている」。

    廃墟となったワシントンに遠征を試みたクローン達だったが、仲間から離れ、厳しい試練に直面したモリーには自我が目覚め、仲間の元に戻っても以前のように仲間と共感し合えなくなリ、追放され、洗脳され、と散々な扱いを受ける。

    モリーの子マークは、モリーの意志を受け継ぐ異端児として、クローン・コミュニティに反発。その行く末を覚り、有性生殖による新たな(原始的な)コミュニティを打ち立てるために旅立った。

    同じ遺伝子を持つグループが精神的に深く繋がって相互依存する,というクローン・コミュニティのアイデアはなかなか面白かった。

    原因はは違うんだろうけど、先進国を中心として出生率は低下し続けており、男性の精子濃度も低下傾向にあると聞く。本作が描き出したような人類存亡の危機も、絵空事でないのかも知れない。

    シェナンドー川は、ワシントンを流れるポトマック川の支流。ジョン・デンバーの名曲「カントリー・ロード」の歌詞を思い出すなあ。

  • この作品は1976年に書かれているが、この作品の中の世界では、放射能によって大気が汚染され、旱魃と洪水が起こり、飢饉と感染症がひろがり、地球上の生物が生殖機能を失っていく、とある。
    今、この作品をSF小説、ファンタジー小説、と簡単に思えない複雑な心境だ。

    ある谷に住む一族は研究所を作り、クローン技術によって人類を存続させようとする。
    クローンを生み出すディヴィッドたち人類の章。
    クローンたちがその独自の性質で作り出した世界の中で、自己を見つけ出し出産したモリーの章。
    モリーの子として生まれ、クローン社会の中で孤独に生きるマークの章。
    この中で特に、モリーの章は印象的だった。

    クローンと人類との対比となっているが、今の人間社会の中でも似たような問題はあるように思う。
    物語としては、もっと一つの話として引き込まれたかった感じはあるが、抒情詩のような美しい文章とタイトルもあり満足です。

  • 面白すぎる。素晴らしかったです。
    そしてタイトル邦訳があまりにも美しい。

    三代にわたるSF年代記。
    核によって生殖能力を失い滅びゆく人類のうち、サムナー一族だけがクローン技術という慧眼によって生き延びます。
    しかし、クローンたちは旧人類にはない共感能力を有しており、やがて旧人類を排除するようになりました。
    クローンの中でも孤独を経験することで「私」を獲得した女性による第二部、谷で唯一クローンの兄弟を持たない少年による第三部。

    共感能力に優れたクローンたちが、やがて創造性を失っていく展開に圧倒されました。
    芸術とは、表現とは、共感によってのみ評価されるのでも理解されるのでもないんだと思います。

  • 「共感」と「自我」は相対するものなのか……。

    1976年のSF小説
    出だしは“ある田舎の集落”で育った少年の成長が描かれている。
    でもその陰には伝染病、不妊、飢饉、戦争などで人類の終焉が忍び寄っている。
    成長した少年とその一族は、人類維持のための医療・研究とともにひそかにクローン研究を始める。
    生存率、生殖率が「劣化する」というクローン技術の研究は、当初人間(原種)が行っていたが、次第に「クローン」自身の手で行われることになる。

    クローンには従来の人間とは別の特徴があった。
    同じ元からクローン培養された子供たちは「兄弟」「姉妹」として、同じ外見のみならず互いに共感しあうことで精神の安定を図り、社会を形成する。そこには利己的で「何を考えているかわからない」人間(原種)は、次第に隅に追いやられていく。

    二部以降では、人間(原種)はもう存在せず、クローンたちの「兄弟」「姉妹」での社会が形成されているが、問題は解決されていないどころか、元の科学技術を発展させることも次第に廃れていく。
    そこに登場したのが、クローンの中で異質な経験をもとに自然出産で生まれた、「兄弟」を持たない少年。
    彼がクローン社会に巻きおこすものは、人類の未来にとって光明か弊害か……。

    作者は当時の思想である「社会主義」「全体主義」から「個性と集団社会」をテーマにSF小説として描いている。
    現代、「教育の画一性」と「共感力を求める社会風潮」が、SNSの発展とともに問題化している。
    今、我々は、この物語のクローンたちの社会と同様に破滅に向かっているのか……。

  • 図書館の新着コーナーにあり、いくつか賞も受賞しているようなので読んでみました。著者の作品は初読です。クローン技術で人が増えるということがどういうことか、倫理的な側面からではなくて生物学的?に起こり得る現象が描かれており興味深く読みました。物語の設定・展開に説得力・納得感があります。後半は冒険譚の要素もあって荒涼としながらも美しいイメージに引き込まれました。

  • 人間がいた時代、その後のクローンの時代、またその後のクローンと有性生殖者たちの対立の時代。この三部構成はとても壮大かつ野心的な設定ではあるのですが、なぜか盛り上がりには欠ける作品。

    もちろん、その盛り上がりのなさを、時代の推移を叙事詩のように描いていると捉えれば、それは本作の魅力となるのでしょう。しかし、そのドラマ性の無さにどうしても気持ちがついていかなかったというのが実情です。ただ、くり返すと、読む人が読めば、きっと面白いからこその復刊なのでしょう。

    一つだけすごいと思えたのは、人間がいなくなるという、まさしくポストヒューマンな世界を幻視したことです。本書の発表が1970年代であったことを考えれば、慧眼であったと言ってよいでしょう。

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著者プロフィール

1928年、オハイオ州に生まれる。1956年のデビュー以来、SFを中心に、ファンタジー、ミステリなどを数多く発表。1977年、長篇『鳥の歌いまは絶え』でヒューゴー賞、ローカス賞を共に受賞。『カインの市』『クルーイストン実験』『杜松の時』(以上、サンリオSF文庫)などの長篇のほか、短篇も数多く邦訳され、本書表題作「翼のジェニー」はことに高く評価されている。創作活動のほか、小説家志望者のためのワークショップの運営もしている。

「2016年 『翼のジェニー ウィルヘルム初期傑作選』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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