障害者の経済学

著者 :
  • 東洋経済新報社
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  • Amazon.co.jp ・本 (248ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784492314166

作品紹介・あらすじ

弱者として遠ざけるのか、読んで一歩近づくのか?新たな現場取材により障害者就労の章を書き下ろし、制度改正も反映した待望の増補改訂版。第49回日経・経済図書文化賞受賞。

感想・レビュー・書評

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  • 生徒1.6人につき先生1人、生徒1人あたり年間予算930万円の養護学校。
    生徒16人につき先生1人、生徒1人あたり年間予算90万円の普通校。
     
    表紙カバーに載ったこの2つの数字の比較から本書は始まる。

    同和や障害者問題は論評が難しい。同情や善悪論が固定化されている上に、ちょっとした言葉遣いの行き違いが(ときにはそれが枝葉末節にしかならないことでも)、本論での論争を超えて炎上することがあるからだ。

    この本では、「勿体ない」「節約しろ」「無駄遣いだ」と批判しているのではない。

    これらの多額の資金の投入が、本当に役立っているのだろうか、却って障害者やその家族の「自立」を妨げているのだと問題を投げかけている。

    ある意味では公立の普通高校でもいえることだが、養護学校が託児所化しているのではないかとも指摘する。障害者の療育が専ら家族に委ねられすぎている現在、その負担を軽減するために外部の施設を活用するのは仕方のないことだが、それを教育施設に求めるべきなのかと。

    障害者の「福祉」と「教育」を考え直すには最適な本だ。

    ただ、「生徒1.6人につき先生1人」という数字は「先生」の中に介助員という補助的な仕事をする職員をも含めた数字だと思う。

     読み始めは、健常者が冷たい視線で障害者の福祉を切り捨てるために書いた本のような印象を受けるが、筆者も障害者の親であることが巻尾の後書きで明かされる。巻頭からされを錦の御旗のように振りかざさない点に作者の冷静な姿勢を伺うことができる。

  • 本書は障害者をめぐるさまざまな問題を経済学という分析道具で串刺しにし、読者にできる限りわかりやすい形で解説したものである(p.2)。

    中島隆信氏は計量経済学を専門とする経済学者で、「大相撲の経済学」、「お寺の経済学」、「オバサンの経済学」といった斬新なテーマの本を数々執筆している。そんな著者が今回テーマにしたのは「障害者」である。障害者をめぐる法制度や置かれている現状や課題を丁寧に解説し、経済学的視点からの解決策を述べている。

    丁寧な取材にもとづいて執筆されたということがよくわかる本だった。ETV特集『生きづらさに向き合って~ある精神科クリニックの挑戦~』(NHK、2014/11/15日 初回放送)内で取り上げられた「浦河べてるの家」や、「バリバラ ~障害者情報バラエティー~」(NHK)も本書で取り上げられており、著者の本テーマの関心の高さが垣間見えた。経済学を学んだ私にとっては物足りなかったが、経済学手法で障害者問題を考えるというのは新鮮で、ためになる内容だった。

    本書に書かれていることは障害者問題に限らず、社会に存在するあらゆる差別・不条理を考える際にも参考になる内容だと感じた。また経済学の知識が無くても十分理解できる内容であり、入門知識があればさらに内容の理解が深まるだろう。

    社会問題に関心のあるすべての人にぜひ読んでほしい本。

    • くうさん
      本書では物足りない人向けに、同氏の論文を紹介する。
      中島隆信・中野諭・今田俊輔(2005). 「わが国の障害者雇用納付金制度の経済分析-障...
      本書では物足りない人向けに、同氏の論文を紹介する。
      中島隆信・中野諭・今田俊輔(2005). 「わが国の障害者雇用納付金制度の経済分析-障害者雇用の促進に向けて-」 『ディスカッション・ペーパー』財務総合政策研究所、No.05A-23. http://www.mof.go.jp/pri/research/discussion_paper/ron131.pdf
      2014/11/23
    • くうさん
      本書に書かれていることとほぼ同じ内容の記事があったので紹介する。
      【変わる障害者雇用】第1回:経済的視点から差別について考える~障がい者ダ...
      本書に書かれていることとほぼ同じ内容の記事があったので紹介する。
      【変わる障害者雇用】第1回:経済的視点から差別について考える~障がい者ダイバーシティ研究会より~ | ハートなブログ | ハートネットTVブログ:NHK
      http://www.nhk.or.jp/hearttv-blog/700/202616.html
      2014/12/20
  • 障害施策を若干でも知っている人にとっては、あまり得るもののない本。経済学、といっても、そうしたアプローチはあまりない感じが…
    ニッチなテーマであることぐらいか。

  • 比較優位の原則を用いたユニークな提言。
    Aに比べて絶対的に能力の劣るBとCであっても、自分の中で相対的に得意な仕事に特化することで社会全体の生産量を増やすことができる。
    つまり障がい者の場合でも、自分のもっとも得意なことを見出すことで社会に貢献することができるというもの。
    能力の違いを認め受容する社会がボランティア精神を求めるものでなく理に叶ったものであると認識されるならば、ノーマライゼーションは飛躍的に進むと思います。チョークの日本理化学工業もいい例。

  • 障害者福祉と経済学(商学)という関連のない感じがする部分もあり、若干中途半端で読みづらい部分もありますが、障害者は社会を映す鏡という観点は非常によかったと思います。最後のあとがきの部分はとってもよかった。また、障害者の雇用に関する部分で比較優位の原則はとってもおもしろいと思いました。。。。

  • 社会

  • Kindle

  • 明らかな障がいをもった人を街で見かけた時、さっと視線をそらしてしまった経験はないだろうか。私には覚えがある。本書は、障がい者がより生きやすくなるために単に社会のサービスや、人々の理解を求めるものではない。障がいをもっている当事者のニーズが分かりにくく福祉は「正しい行い」であると信じられていることから、私たちが普段触れない障がい者を取り巻く現状を明らかにしている。対極にある印象を受ける経済学の視点で福祉を見てみることで、きっと障がいに対するイメージが変わるはずだ。【中央館/369.27/NA】

  • 障害があっても能力が発揮できる社会であれば、それは障害と呼ばれなくなる。バリアは常に外側に存在する。

  • NHKオイコノミアで「おばさんの経済学」というテーマの解説者として出演時はオサレな品のいいおじ様という印象だった。

    障害者問題を経済学で中立的に善悪論ではなく行動の動機づけや詳細な資料で詳細に解説。これは同業者に紹介すべき良著。

    覚書
    目の前にいる障害者に対して健常者がとる行動を席をゆずる、無視、ねたふりという反応にわけて健常者自身の壁を説明。
    転ばぬ先の杖支援よりも生むが易し支援
    障害者雇用納付金制度で障害者の7割 14万人の雇用創出効果
    施設臭として管理的指導的支援をネーミング
    社会問題全体との共通項

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著者プロフィール

慶應義塾大学商学部教授
1960年生まれ。83年慶應義塾大学経済学部卒業、88年同大大学院経済学研究科博士課程単位取得退学、商学部助手に就任。91年慶應義塾大学商学部助教授、2001年同教授。同年、博士号(商学)取得。学位請求論文『日本経済の生産性分析』(日本経済新聞社)により、義塾賞受賞。06年『障害者の経済学』(東洋経済新報社)により、日経・経済図書文化賞受賞。07年9月~09年3月まで慶應義塾大学を休職、内閣府大臣官房統計委員会担当室長。09年復職、現在に至る。
この間、慶應義塾大学産業研究所長、日本相撲協会「ガバナンス整備に関する独立委員会」委員などを歴任。
主な業績
『テキストブック入門経済学』(共著)『テキストブック経済統計』(共著)『大相撲の経済学』『お寺の経済学』『障害者の経済学』『オバサンの経済学』(以上、東洋経済新報社)、『日本経済の生産性分析』(日本経済新聞社)、『こうして組織は腐敗する』(中公新書ラクレ)、『経済学ではこう考える』(慶應義塾大学出版会)ほか多数。

「2019年 『「笑い」の解剖』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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