華麗なる交易: 貿易は世界をどう変えたか

  • 日経BPマーケティング(日本経済新聞出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (523ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784532354152

作品紹介・あらすじ

商品の流れをみれば人類の歴史がわかる。『「豊かさ」の誕生』で経済発展の必要条件を解明した著者が数千年におよぶ交易史から未来の世界像に迫る。

感想・レビュー・書評

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  • 紀元前から現代まで、貿易がどのように行われてきたか、発達してきたかを歴史的観点で概観できる本。

    結果として、比較優位な商品同士を貿易することで、世界全体としては豊かになる。ただし、比較劣位な商品、産業に従事する人々は、職を失う、賃金が減るなどの理由で不幸になる。それが歴史から学べる真理なのだと思った。
    また、ある商品、ある国が恒常的に優位を保ち続けることはなく、時代を経るにつれて変化していくため、改めて諸行無常というか、盛者必衰なのだと感じた。

  • いや、なかなかどうして面白い内容だった。歴史の裏側を覗き込んだような感じだ。
    特に古代〜中世、近世辺りの西アジアを中心とするヨーロッパ、東アジアの交易による結び付きは大変面白い内容だった。近現代はどうしても経済史みたいな感じで味気なかったな。
    この前読んだ『コンテナの歴史』のジョン?マクリーンが出て来たときはニヤリとしたけどね。
    他にも宗教と貿易の関係性も中々に面白かった。
    [more]
    バスコ?ダ?ガマのインドにおける所業には驚いたな。日本はよく大丈夫だったと思うよ。
    というか、あの時期のポルトガル、スペインが宗教で怖すぎるよ。
    面白かったのがトルデシリャス条約だったな。最初に読んだときは全然気がつかなかったけど、マゼランの下りで地球を半分に分けている事に気が付いて、反対側を計算した時は驚いたよ。
    まさか、日本の本州のど真ん中を貫いているとはね。

  • 経済の発展に伴う上で貿易が果たした役割やその過程にある社会の要請や文化、技術等の複合的な関連全般に興味を持ち手に取る。


    貿易の歴史をシュメール人の時代から現代まで紐解き、時系列で紹介し、現在のグローバル経済が抱える問題点の根底にある背景やその解決策を明示している。


    大航海時代には未知なる商品への好奇心や貿易による莫大な財を獲得する野心等から、商品の独占のための拠点をめぐる争いやその流通に必要な諸要素(航海技術や損害保険、金融システム)の発達が行われてきた。
    これらを要因として、あらゆる場所で生産が可能になり、より低価格な商品が流通することで生じるグローバリゼーションに関する問題について述べている。


    これらを通じてアヘン戦争や南北戦争など、歴史上に起こった事件の貿易との関連性が詳細に書かれており、新たに知ることが多かった。



    個人的に最も興味をもった点


    1.オランダが世界で覇権を握るにいたった金融システムの発展の諸要因

    オランダが15世紀ごろにスパイス貿易を独占できた背景には世界で当時最も優れた金融システムであると述べる。
    航海に必要な資本を投資家達から募るために株式を発行したり、船体にかけられた損害保険によるビジネスがあり、それを基に航海技術等の進展の元になった。


    その金融システムの発展の原因について関心をもった。
    前提としてある、それらをきちんと管理する安定した政治だけでない。
    オランダは、当時のヨーロッパで主流であった封建領主性ではなく、農民が自分たちで自分の土地を管理するような体制であった。
    オランダは海抜より低い土地にあるため、水害を防ぐための設備や管理をボトムアップで行う必要があった。
    そのため国や領主からの運営費を授かっており、それぞれの農民達が小富裕層であった。

    株式のようなリスク分散を目的とした金融商品はこのような地理的、文化的要因によるものであるということに関心が湧いた。



    2.保護貿易主義vs自由貿易

    本書籍の中で特にメッセージ性の強い部分であるように感じる。
    技術の進歩によって生産性が向上し、他国で生産した商品の価格が抑えることができ、その恩恵を受けようとする自由貿易支持者と、自国の商品の価格がそういった低価格・高付加価値を有する代替商品によって国内市場を席巻されることを恐れ、関税によって被害を被るのを防ぐ人々との間の軋轢は過去の歴史(イギリスの綿貿易やアメリカのサトウキビの貿易による南北戦争等)で幾度となく繰り広げられてきたと筆者は述べる。


    どちらが自国の経済をより発展させていくのか。




    本書では国内の労働者が減ることで被る被害よりも、貿易を自由に行うことで得られる国としての利益が上回るような事例を多く紹介している。

    調査では19世紀以前の経済ではそういった保護貿易主義の立場をとった国の国内総生産と関税の高さには正の相関がある(らしい)
    しかし20世紀から現在にいたるまでにはその関係が崩れ、自由貿易の立場をとった国のGDPは比較的に高い。


    その根本的な違いは国内総生産のうち、貿易が占める割合が多くなっていることであるという。

    もともと地理的に資源等が豊かな国(アメリカ等)であれば、国内市場で経済成長が見込めるが、ほとんどの国はそうではないし、
    現在は低価格で多様な貿易財が世界中に存在するため、海外との貿易に対する依存はさけられない。

    特に発展途上の国では人口の増加により、豊かな生活水準を維持するためには経済成長をよぎなくされるだろうし
    そういった中で市場を解放することで経済が発展することは比較的自明であるように感じる。



    現代社会でも問題視されているのは国内市場に他国の商品が流通することで、国内の労働者のような立場の弱い人々へ貿易上どう対処すべきかである。


    現代の社会で極端な関税を持たない自由貿易が経済成長を促進する最良の選択肢であるとすると、
    敗者を生むことで生じる格差や不平等から政治の不安定さ→投資が減る→経済成長の鈍化
    という連鎖を避けるためにはどのようにすればいいのか。

    著者らはこの問題に対しては自由貿易を廃止するよりは敗者に直接補償をすることが最良であるとしている。


    根拠としてGDPの高い国の多くは社会福祉制度が占める割合も高く、雇用も安定しているからである。
    もちろんこれらをどう実現するのがふさわしいかを何十年と議論を続けているわけである。



    その他雑多な感想;


    興味深いのは既得権威にすがるものはいつの時代も道徳や倫理観に訴えることが多いということであった。
    国内の労働者が淘汰される、国を売った、神の教えに反する等。



    古代からあったもの:売春、手数料、既得権威を保護する動き、新しいものへの興味、ステータス

    個人的な意見では、関税が高く保護貿易主義である自給自足の経済でも、発展途上国が経済成長をしないわけではないが、経済成長貿易によって得られる別の要因によって貿易の促進自体が連鎖的に起こる



    価値のある新商品(市場)に左右されて繁栄の仕方は決まっていることが多い


    現在社会福祉政策が充実している国がなぜ成功しているかも別の側面から見ても腑に落ちた

  • 世界で文明の花が開いてから、貿易がどのように発展・拡大してきたかを本書で知ることができる。

    貿易は、まったく異なる商品の交換から始まった。経済学でいう、リカード型の貿易である。

    ただし、生産性の違いのみが、貿易を生み出していたわけではなく、奴隷も重要な貿易品であった。彼らの多くは戦争に駆り出されるために購入されたので、純粋な商品として扱われていたようだ。貿易の初期では、純粋な商品の売買ではなく、人間の取引が行われていた。この点は、非常に興味深い。

    【作成途中】

  • シュメール
    貿易の海峡
    ラクダ、香料、預言者
    バグダッド―広東急行
    貿易の味と貿易の虜
    貿易の病
    ヴァスコ・ダ・ガマの衝動
    取り囲まれた世界
    会社の誕生
    移植
    自由貿易の勝利と悲劇
    ヘンリー・ベッセマーが精錬したもの
    崩壊
    シアトルの戦い

  • 交易の歴史。人間はモノとモノを交換することにより生活を成立させ、そして豊かになってきた。個人の取引だったのが、国の取引になり、会社が成立し、貿易は変わってきている。初めは人が歩いて運んでいたのが、文明の進歩により、動物を使って運び、船を使い、飛行機を使い、あらゆるモノの移動の時間と距離の障壁が低くなっている。世界の交易は今後どうなるのだろう?と考えさせられる本だ。

  • ・貿易に焦点を絞った経済史の本。
    ・古代 →ローマ-中国、シルクロード、海の道。アラビア商人全盛の時代
    ・大航海時代 →バスコダ・ガマ、コロンブス、マゼラン。この時代の有名人は交易=略奪と考えていた? 悪逆非道な行い。
    ・近代 →産業革命。比較優位。グローバル貿易時代の幕開け。保護主義 vs 自由貿易主義
    ・前の時代の勝者は、次の時代では敗者になる。栄枯盛衰。

    【以下、興味深かった記述を抜粋】※「?付きの文章」は自分の感想
    ・産業革命の時代、英国では、輸入規制(保護貿易)により、穀物価格の高止まりを目論む地主階級と、安いパンを求めてデモを繰り返す民衆
    ・比較優位の考えでは、英国は他国より優位な工業製品を輸出し、他国より劣位な食料を輸入することで、自国、他国ともに最大のパフォーマンスを発揮する。しかし、輸入(=安い食料)によりダメージを受ける人達は自らの既得権益(=割高な食料価格)を守る為、保護貿易を主張する。

    ・オランダ東インド会社の職員に将来支払われる給与の一部を受け取る権利を債権化 →「交通証書」<P297>
      ・高い死亡率(往路の航海だけで、船員の4人に1人が死亡)を反映した割引率で投資家の間で流通
      ・証券の対象となる採用者を多様化(=分散)させることで収益性を高めた(=リスク低減)
      →この時代から証券化商品があった!!

    ・ボストン茶会事件は、保護貿易主義者の起こした暴動 <P305>
      ・当初、イギリス東インド会社はアメリカ現地の仲買人に紅茶を卸していた
      ・1773年イギリスで茶法が制定され、イギリス東インド会社は直接アメリカへ紅茶を販売可能に
        →紅茶の価格は半分に下がり、アメリカの消費者は恩恵を受ける
      ・地元の卸売業者、紅茶商人は、この「不当な国際競争」(言い掛かり!)に反発。
        →不都合な事実(茶法により地元住民はかなりの金額を節約可能)から目をそむけて、国益という保護貿易主義者の常套句を用いて、自らの愛国精神を訴えた(代表なき課税、アメリカ商業全体がイギリスに乗っ取られる)
     →アメリカ独立戦争の時代には、グローバリゼーションにともなうお馴染みの出来事が既に起こっていた

    ・重商主義の理論 →国際通商はゼロサムゲーム。自国の利益は、他国の損失によってのみ得られる。自国が豊かになる為には、輸入を上回る輸出を行って金銀を獲得する以外に無い。<P325>
      →なんか現在の日本っぽい?
    ・貿易はゼロサムゲームではない(プラスサム)。全ての商人は相互に依存し、1人の商人がもう1人を生み育て、1人を失えばしばしば残ったものの半分が失われる。
    ・保護貿易主義は不必要で不自然。公共の福祉になんら効力を発揮し得ない。その上、非効率な国内産業を人為的な高値で奨励することになる。<P326>

    ・南北戦争前のアメリカ。<P399>
      ・北部 …イギリスの製造業の脅威、経済不況、歳入を増やす必要性(20世紀に所得税が導入されるまで、アメリカの税収の90%は輸入関税だった) →保護貿易主義
      ・南部 …綿花、タバコなどを輸出。輸出品に関税は不要 →自由貿易主義

    ・古来、貿易量の増加はある者に恩恵を与え、ある者には損害を与えるのが常だった。<P419>
    ・必要なのは支援と資金であって、保護ではない。<P430>

    ・先進国では、自由貿易は低技能労働者に損害を与え、高技能労働者に恩恵を与える。更に、グローバリゼーションは富裕国では収入の不平等を高める。<P466>

    ・貿易政策において肝心なのは「どんなやり方をすれば、(大多数の)長期的利益と、(一部の)労働者などが背負うことになる短期的調整(損失)の両方を認識しつつ、先進工業国の経済において貿易を自由化できるか」(経済学者ダニエル・トフラー)<P471>
      →自由化、規制緩和による経済成長を主張に対しては、常にそれにより損失を受ける人々への補償を訴える必要がある(個人的見解) …損失を金で買え(敗者にゴールデンパラシュート)

    ・自由貿易のジレンマ。(サミュエルソン)<P475>
      ・外国の労働者との競争により、国内の労働者の報酬と福利厚生の低下が続く →全体としてアメリカは自由貿易のせいで国家としての豊かさを相対的に失っていく。
      ・政府が関税障壁を設けると産業は停滞する。従って、産業を保護するより労働者を保護する方が遥かに得策。
        →しかし、大多数の国民が貧困であえぐ国に「害をこうむった要素を買収する」力があると思うほど楽観的ではない
         企業が資本と工場を簡単に国外に持ち出す時代に、そうした社会保障制度を税金で賄うのは困難

    ・グローバリゼーションの進展に伴う既得権益層の抵抗は昔から見られた。日本の格差問題も、歴史上繰り返された来た現象の一つ。<P482>
    ・グローバリゼーションの痛みを感じる人々は、往々にして自由貿易そのものの規制を求めるが、規制の強化が社会に及ぼす損失は、これらの人々に直接補償する社会保障による損失を遥かに上回る
      →敗者に直接補償し、自由貿易を維持することが全体として得策
      →自由貿易と手厚いセーフティネットは互いに補強しあう


    【なんとなく考えたこと、思いつき】
    ・「他国が日本に食料を売ってくれなくなったらどうするんだ?」という理由で自給率UPを主張する人は、「発生確率の極めて低い不幸」をネタに相手を不安・恐怖に陥れて、不利な商品を買わせる詐欺師と同類な気がする。
    ・そもそも人には「発生確率が極めて低い不幸」を過大に恐れるバイアスがある。死ぬ確率が「限りなく0%に近い」場合、「0%で無い」→もしかしたら死ぬかもと連想してしまう。この不安心理を巧みにつく事で、相手が非合理的な行動をとるよう誘導する。


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