熱帯雨林の彼方へ (ライターズX)

  • 白水社
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  • Amazon.co.jp ・本 (301ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784560045688

作品紹介・あらすじ

ブラジル熱帯雨林の聖地マタカンで奇跡が起こった。額に浮遊するボールをつけたカズマサ、三本腕のビジネスマンJ・B、乳房が三つある鳥類学者ミッシェルらが、運命に導かれてマタカンの究極の資源に惹きつけられる…。越境する日系作家がスラプスティックに描くエコロジー・ファンタジー。

感想・レビュー・書評

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  • 『本書で語られる物語は一種の〈ノヴェラ>――つまり、ブラジルでソープオペラと呼ばれるものであり、人気と成功の度合いによって二ヵ月から四ヶ月に渡って夜ごとプライム・タイムにテレビで放映され、ブラジル人たちの想像力と国民精神をとりこにしている類のものである。誇張して言ってるのではない』―『著者覚書』

    マジックリアリズムという表現が何を指向するのかよく判らないけれど、しばしば引き合いに出されるガルシア・マルケスの「百年の孤独」のような小説を念頭におくなら、確かにカレン・テイ・ヤマシタの「熱帯雨林の彼方へ」はマルケスの小説に似ていなくもない。しかし、この本はマルケスのように土着の信仰に根差したサーガのような物語ではないし、クロード・レヴィ=ストロースの「悲しき熱帯」のように進度の異なる文明の差異を描くルポルタージュでもない。著者覚書に記されるように、むしろどこか娯楽小説の趣が強く、手垢の付いた表現で敢えて言うなら、奇想天外な物語と呼ぶのが相応しい小説である。だが、確かに行き過ぎた文明への批判という心象も読後に残る。不思議な異物を頭に付けた日本人の青年が、ブラジルの熱帯雨林に埋もれた未知の宝とも言える物質を探がし、巨大企業がそれを利用して大量消費の製品を次々と生み出すという筋書きは、その物質を石油に置き換えて読んでみることもできるし、フロンやプラスチックのように夢の物質ともて囃された化学物質に擬えているようにも読める。だがそれが主題なのだときっぱりと言い切ることは難しい。

    子供の頃、童謡に歌われていたように、秋も深まれば其処彼処で落ち葉を集めてたき火をする人が居て、近所とは言え知らない者同士が一つ火を囲んで暖を取るのは珍しいことではなかった記憶がある。その風情のあった(と敢えて言うが)「たき火」が次第に煙突型の家庭用焼却炉になった頃、小学校の校庭のはずれには大型の焼却炉があって、その怪物は六年生の掃除係の担当の一つだった。そんな大小の焼却炉で燃やされていたのは家庭や教室で集められた紙屑のみならず、多少のビニール(この言葉も死語になりつつあるか、プラという言葉に名実共に取って代わられた感がある)のゴミもあって、それが燃えると独特の異臭がしたけれど、ダイオキシンという恐ろし気な言葉と共に焼却炉も姿を消し、あの異臭も滅多に嗅ぐことは無くなった。それに加えて環境保護とかポリティカル・コレクトネスとかいう概念が人々の間に広がり、今や家庭や学校で低温でゴミを燃やすことはほぼ御法度のようなことになった。とは言え、田圃が多く残り辻々には道祖神がきれいに祭られ保たれているこの界隈では、籾殻を刈り取りの終わった田で焼き、道端では多少のゴミも相変わらず燃やしている。籾殻の燃える匂いは風物詩とも言える匂いだが、道端の焦げた跡を通り過ぎると、あの懐かしい異臭がする。人家もまばらな場所柄か、その界隈に住む人々の常識のためか、誰も事を荒立てる風でもない。そんなことを読みながら考える。

    この娯楽小説に文明批判の要素を読むことは可能だけれど、訳者あとがきに再録されたインタビューの中で作家はこんなことを語る。「『熱帯雨林の彼方へ』で語られていることは日常的な出来事なんです。ブラジルのような国に住んでごらんなさい、北米にいるときとは百八十度ものの見方がかわりますよ」。言わずもがなではあるけれど、「日常」を形作るものの良し悪しをそこに棲まないものが判断するのは難しい。作家自身も自然保護の気持ちがあったとは認めつつ、この小説をそのような文脈では語っていない。

    煙草はニコチンの中毒性もあって今や百害あって一利なしという常識が規制するものとなったが、依存性や中毒性のあるアルコールは未だ嗜好品として認められており、酒は百薬の長など言われたりもする。要は、何事も過ぎたるは及ばざるが如し、ということに違いない。文明の功罪もまた程度の問題であるとも言えるだろうし、本当の因果関係など誰も知り得ないことのような気もする。もう三十年も前にそんなことをやんわりと指摘していた作家がいたというのに、今も世界は「選択と集中」という言葉に踊らされ「効率性」を求め続けている。その結果が過剰に結びつくものであることは容易に想像できる筈のことなのに。

  • おもしろい!
    頭のまわりをぐるぐるまわる球体をもつ男の子が主人公。
    めくるめく物語を、球体が一人称で語ってくれる。

  • 本当は、『サークルkサイクルズ』が読みたい。

  • 図書館で借りた本。

    ブラジル熱帯雨林の聖地マタカンで奇跡が起こった。額に浮遊す
    るボールをつけたカズマサ、三本腕のビジネスマンJ・B、乳房が
    三つある鳥類学者ミッシェルらが、運命に導かれてマタカンの究
    極の資源に惹きつけられる…。越境する日系作家がスラプスティ
    ックに描くエコロジー・ファンタジー。

    大満足。
    どことなくグロテスクなんだけど、おもしろかったぁ。

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