池内紀による清新な個人訳で贈る新校訂版全集。本巻は手稿の後半部分を収録。
木谷梨子ꕤさんの感想
2018年2月10日
<デッサンの段階で手離したものたちの魅力> カフカ小説全集の最終巻となる本書を目の前にして、ぎょっ! としました。「これで最後だ、どーんと行ってしまえ」とばかりに分厚くふくらみ、一巻で六三〇ページ近くあって、その気前の良さに一瞬言葉をなくしたのでした★ 気を取り直してめくり始めましたが、いつになく落ち着かない気分で読書を進めたのは、厚さのせいだけではなかったのです。気が気じゃなかった。たとえて言えば、画家のいなくなったアトリエに無断で足を踏み入れているよう。一ページ一ページ、そわそわしました。 信じられないほどよく書くひとだったのですね、フランツ・カフカは★ これだけの原稿を吐き出しておきながら、なぜ非公開を望んだかなぁ? あ、完成していないなら公表しないのは当然なのでしょうか。 しかし『失踪者』や『城』などは、永遠に結末を迎えないものだけが近づくことのかなう、鮮やかな未完成によって完成されたかたちをとっていますよね★ そして『掟の問題 ほか』には、膨大な量の小品、断片、書きかけて放置されたものものが収録されています。一つの小説としてのまとまりを備えたもののほうが珍しい★ 原稿はしばしば中断されて、次のスケッチへと移ってゆきます。時には新たなイメージが湧いてきたというように、時には力尽きて手離したというように。何なら、そのままで十分に面白い☆ 線や色を確定してきちんと描きこみ、塗りこめた作品よりも、デッサン段階の勢いに惹かれることってないでしょうか? カフカ作品はまさに、デッサンの魅力に満ちています。 終わらない物語がたくさん脈打っている様子に魅せられました。これから始まるところだったのかもしれないとさえ思いました。「何よりもカフカの明晰さを失わないことにつとめた」という池内紀の名訳に負うところも大きいのでしょう✧ もしも、もしもこの続きを探したら、この世界のどこかで見つかりそうに思えます☆
1883年プラハ生まれのユダヤ人。カフカとはチェコ語でカラスの意味。生涯を一役人としてすごし、一部を除きその作品は死後発表された。1924年没。 「2022年 『変身』 で使われていた紹介文から引用しています。」