ビザンツ帝国の最期

  • 白水社
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  • Amazon.co.jp ・本 (352ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784560082690

作品紹介・あらすじ

西の「ラテン人」諸国と東のオスマン・トルコのはざまで国際政治に翻弄されたその最期を、コンスタンティノープル陥落の百年前から帝国滅亡後まで、最新研究に基づいて描く。

感想・レビュー・書評

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  • コンスタンティノス11世の英雄的な最期、引いてはビザンツ帝国の最期自体を悲劇的英雄物語として彩ってきたエピソード、それらは事実とは異なるものだった――

    史料から丹念に実像を追い、ビザンツ帝国の最期の日々を復元する。そこには悲劇の登場人物などではない等身大の「人間」としての人々の姿、悲劇のクライマックスなどではない事態の推移が浮かび上がってくる。

    末期ビザンツを知るには不可欠の名著。訳者である井上先生の「歴史はロマンではない」との言葉は、ともすれば歴史に対して夢見がちな現代人へのかけがえのない警告のように思う。

  • 中世の重大事件でもある1453年のコンスタンティノープル陥落と、その前後100年間を含めて事態の推移を著述。感傷を排して史実を基に、ビザンツ帝国をオスマン帝国が滅ぼす因果関係をテンポ良く描いており、小説から関心をもった人でも充分に読み易い。根本にあるのは人間同士の勢力争いで、宗教や民族はそれに乗っかったものだという視点は、世界史を学ぶ上で大事なポイントで、単なるイスラム対キリスト、あるいはトルコ対ギリシア、といったステレオタイプな図式は、本書を一読すれば、いかに無理のあるものかが理解できる。大ローマ帝国を自認したビザンツ帝国の最期を見ることによって、その一端に触れる事が出来れば、それだけでも本書の価値があると思う。

  •  ビザンツ帝国と言えば、皆様ご存知、世界史に登場してくるローマ帝国の末裔でオスマン・トルコに攻め滅ぼされた国家です。
     本書はこの滅亡の前後、およそ150年間程の間に起きた出来事を時系列的に解説した歴史本で、著者はロンドン大学のビザンツ史専門の教授です。

     イスラームとキリスト教と言った宗教間の争いや国益追求に励むヴェネチアやジェノバと言ったイタリアの都市国家の存在と言ったことが注目されるこの滅亡ですが、しかし、本書では

    ・ビザンツ、トルコ、ラテン(西欧)の一体化した経済関係
    ・その一方での政治に起因する滅亡の可能性
    ・正教会とカトリックとの宗派間対立
    ・1204年の十字軍によるコンスタンティノープル襲撃に起因する激しいラテン人嫌悪
    ・カトリックとの教会統合推進・反トルコ路線と反教会統合・親トルコ路線に別れた、ビザンツ国内におけるエリート層の対立

    と言った二元論的な結論が出せない渾然一体とした状況であった事が明らかにされています。

    また、滅亡後のビザンツ人たちの運命(例えば王族が物乞いになる、トルコ兵に捕らえられた者達は奴隷に)等も詳細に解説されており、

    それらを読むにつれ、
    「二派に別れた路線対立にオスマントルコに対する危険な面従腹背路線を継続していた自らを、滅亡後はどのように受け止めていたのか」、
    「国が消滅すれば、高貴な血筋とやらも高い地位とやらも資産とやらも関係がない」と言った事が脳裏をよぎりました。

    経済的なつながりでは、戦争は防げない。
    昨日までの世界が今日以降も続くとは限らない。

    きっと他の歴史、例えば日本の歴史でもこれと同じ教訓を得られるケースがあるはずではないでしょうか。

  • ローマ帝国の東半分を継承したビザンツ帝国は、西の帝国が実体を失ってからも1000年近く存続し、その後継国家・・・と云うよりもローマ帝国そのものであり続けた。しかし第4回十字軍によって首都コンスタンティノープルを陥落させられたことで実質滅亡したと云って良い。その後、首都を回復した成立政権は、もはや地中海世界の片隅に存在する小国に過ぎず、帝国とは言えないものであった。その晩期ビザンツ国家の滅亡とその後を、当時の皇帝、貴族、民衆の生き残りをかけた醜くくも、ある意味現実的な選択を振り返りながら記述していく。栄光の帝国の残滓が如何に消尽して消え去っていったか、愚かしくも悲しい物語である。

  • 同時代史料だと思っていたスフランツェスが、一世紀後の史料だったとは、寡聞にして知らず、であった。1402年、バヤジット一世没後のビザンツ帝国は、帝国の態をなしていなかった。コンスタンティノープル、テッサロニキ周辺のわずかな領土、モレア周辺を治めるだけの、そして、そのわずかな領土すら皇帝が十分に治めているとは言えず。細々と生きながらえ、最後の時も、皇帝周辺以外は、本気の防衛など思いもよらず、といった、ロマンを排した筆致で淡々と描く。自称皇帝のアンドロニコスが、1502年に客死するまで、各地の君主を無心のために放浪した様など哀れを誘う。

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著者プロフィール

ロンドン大学ロイヤル・ホロウェイ校ヘレニック・インスティテュート教授(ビザンツ史専攻)。ビザンツと西欧の関係、とくに十字軍、イタリア・ルネサンス、1453年以降のギリシア人ディアスポラを専門とする。著書は他に『ビザンツ帝国 生存戦略の一千年』(白水社)など。

「2022年 『ビザンツ帝国の最期[新装版]』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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