ヒトラーの絞首人ハイドリヒ

  • 白水社
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  • Amazon.co.jp ・本 (524ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784560095218

作品紹介・あらすじ

ホロコーストの悪名高い主犯の生涯
 トーマス・マンに「絞首人」と呼ばれ、「ユダヤ人絶滅政策」を急進的に推し進めた、ラインハルト・ハイドリヒの素顔に迫る、初の本格的な評伝。戦間期と第二次大戦に至る欧州史の概観の中で、「絞首人」の軌跡を追い、ナチの人種政策、東欧占領政策の形成と展開、ナチ支配体制内部の陰湿な抗争、国防軍との競合も精細に描かれる。
 ハイドリヒは1942年、在英チェコ亡命政府と英国が送り込んだ工作チームによってプラハ郊外で暗殺される。ベルリンでの大々的な葬儀で、ヒトラーは故人を称えたが、チェコ全土には戒厳令が敷かれ、レジスタンスや民間人にも残忍な報復が行われた……。本書はその死から始め、誕生まで遡って、38年の短い人生と家族関係、政治警察を一手に掌握して行われた、工作、迫害、虐殺の実態を活写する。ハイドリヒは晩年、ベルリン郊外のヴァンゼーで会議を主催し、「ユダヤ人問題」への対応をいっそう激化させる。ヒムラーと共に、ホロコーストの悪名高い主犯ともいうべき存在なのだ。
 本書は最新研究を踏まえつつ、読みやすく描かれた、ドイツ現代史の俊才による大著。解説=増田好純。

感想・レビュー・書評

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  • 難しかった…!たまたま興味を持って読んでみたけど、本当に偶然、最近Twitterでは優生思想についての話題がホットだったので、その実態を垣間見た感じ。当時ドイツが行っていた施策、思想、全てが「いやこれ正気か?」と思ってしまったけれど、最近のわたしのTLに流れてくる話題を見ていると、大真面目にこれを行っていたのだと…ファンタジーじゃないんだと実感せざるを得ない。(こういう考えや実際行ったのはこの国だけではないけれど)。この時代にこの国に生きた人たちにとっては、何故こうなってしまったのかと考えると、完全な加害者、という言い方は簡単には出来なくて、こうならざるを得なかったのかもしれないけど、その中で、犠牲になっていった人たちの話は、読んでいて本当につらかった。私も家族も、この時代この場所に生まれていたら「劣勢」「不適切」で生きていけなかったのだろうな…でもこの先私の生きる時代にこれと同じことが起きる可能性はゼロじゃない。

  • 【漆黒を煮詰めて】「絞首人」,「金髪の野獣」と呼ばれ,ユダヤ人の絶滅計画を始めとするナチスの政策を積極的に推し進めたラインハルト・ハイドリヒの生涯を学究的に綴った作品。裕福な家庭に生まれた若者は,いかにして欧州を跨ぐ闇を体現する人物となったのか......。著者は,ドイツ人の歴史家であり,ユニヴァーシティ・カレッジ・ダブリンで現代史の教授を務めるロベルト・ゲルヴァルト。訳者は,慶應義塾大学文学部で学んだ宮下嶺夫。原題は,『Hitler's Hangman: The Life of Heydrich』。

    非常に精緻にハイドリヒの人生が描かれているのですが,個としてのハイドリヒと,歴史的環境に置かれた中でのハイドリヒという両側面を合わせてカバーしているところが素晴らしい。ナチス・ドイツに関するいくらかの前提知識がないと読み進めるのは少し難しいかもしれませんが,膨大な情報量の中に身を埋め,一人の男と社会の暗部をくぐり抜ける追体験ができる稀有な作品でした。

    〜いたって文化的で安定したブルジョア家庭に生まれた人物がやがて未曾有の巨大犯罪の立案者・実行者となりヨーロッパ史の最暗黒の瞬間の一つにおいて暴力的な死を遂げる。容易には理解しがたい生涯であったと言わざるを得ない。〜

    『HHhH』と合わせてぜひ☆5つ

  • ヒムラーとハイドリヒの前途にある任務の規模は史上空前のものだったかもしれないが、彼らが追及する政策自体は、史上類例のないものとは言えなかった。国外追放や殺害によって民族的あるいは宗教的純化を求める狂乱の嵐は、南東欧では、かつて巨大な規模で吹き荒れている。1870年代の東方危機では反オスマン暴力が猖獗を極めたし、第一次大戦直後には、オスマン帝国のイスラム教徒、キリスト教徒アルメニア人、正教徒ギリシャ人ら数十万人が追放され殺害されている。「信用ならない」少数民族の抑圧、追放、そしてしばしば殺害を通して、民族的に同質な国民国家を創出するという、純粋に近代的な発想は、決してナチスの発明ではなかった。それは社会ダーウィン主義と社会学的実証主義の論理、人間社会は、科学的数量化、民族的類別、必要ならば暴力的純化を通して、完全なものになるのだという思想、に基づくものであり、同様の論理はすでに、トルコ人によるアルメニア人大虐殺、階級敵へのボリシェヴィキの態度にも具現していた。これらの先例とナチスの社会的・民族的改変計画との主要な相違は、ナチスの場合、宗教や階級といった多少とも明確なカテゴリーに基づいてはいなかったという点にある。ナチスが依拠していたのは、人種という、様々な解釈の余地のある、つかみどころのない概念だった。ハイドリヒとSS指導部一般は、人種的区別のために客観的基準なるものの厳格な適用を主張していたのだが、占領ヨーロッパの民政当局の一部は、より緩やかなスタンスをとった

  • 「HHhH」ラインハルト・ハイドリヒの伝記。「HHhH」と比べるとまぁ人生をずっと追ってるだけに類人猿作戦の部分は物足らん気もするけど、それはそれとして「HHhH」と併読すると補完しあっておもしろい。逆に「HHhH」と比べてチェコ総督代理以外の部分がたっぷり。ナチスは元々ユダヤ人絶滅は目指してなかった、というのが意外。制海権がなくてマダガスカル移送ができず、東部戦線の膠着からシベリア送りもかなわず、どうしようもなくなってホロコーストに向かうってのは知らんかった。それと、シュペーアがハイドリヒを高く買ってたってところ。狂人と狂人に媚を売る人たちの集団の中で、数少ない正気かつ力があって生き延びたシュペーアってイメージやったんやけど、狂人ハイドリヒと気が合ったのね。狂人やけど仕事はできるってなおさらタチ悪いんかな。

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著者プロフィール

1976年ドイツ・ベルリン生まれ。ドイツ近現代史専攻。フンボルト大学、オックスフォード大学などで学び、現在アイルランド国立大学ダブリン校の現代史の教授。同大学の戦争研究センターのセンター長。これまでの著作に、『ビスマルクの神話』The Bismarck Myth (オックスフォード大学出版局、2005年。優れた近現代史研究に贈られるフランケル賞受賞) 、ドナルド・ブロクサムの共編『二十世紀ヨーロッパにおける政治的暴力』Political Violence in Twentieth-Century Europe (ケンブリッジ大学出版局、 2011年)などがある。欧米のナチズム研究者の中では主流に属し、2008年3月にはアイルランドのRTÉテレビでホロコースト否定論者として名高いデーヴィッド・アーヴィングと論戦を交わしている(その模様はYouTubeで視聴できる)。

「2016年 『ヒトラーの絞首人ハイドリヒ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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