- Amazon.co.jp ・本 (327ページ)
- / ISBN・EAN: 9784560098486
作品紹介・あらすじ
語りえないものを語ろうとする主人公ワットの精神の破綻を、複雑な語りの構造を用いて示した現代文学の奇作。(書物復権)
感想・レビュー・書評
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原書が出版されたのは1953年だが、ベケットが1942年、ナチスドイツ占領下のパリにいてレジスタンスに参加したのち、危ういところを逃れて疎開、1945年まで田舎で農夫として生活していた、その間に書かれたようである。ベケットは何と言うこともなく書いた小説だったが、知人が戦後、強引に出版社に売り込んで、先に「ゴドーを待ちながら」で有名になったあとで刊行されたそうだ。
ベケットはどうやらカフカは読んでいて、その影響は確かにあったように思われるが、そんなに文学を研究した人物ではなかったのではないかというフシもある。
不可解な人物やできごとがつらなって行くが、そうした奇妙な対象を描いたのではなく、ベケットの「語り」「書くこと」自体が奇妙であるために、必然的にその内容も奇妙になったのではないかという気がした。つまり、これは「書く」ことそのものが注視される主題となっており、その点が素晴らしく「現代芸術」的なのである。最近はわりと気軽な、エンタメ寄りの小説本ばかり読んでいたので、こういう20世紀の前衛的な小説を久々に読んでみると、胸を衝かれるような感激を覚えた。
本作はおおむね「シュールな」笑劇として受け取ることができる。あまりにも奇妙であるがゆえにもはや笑うしかないのである。何となく、バスター・キートンの無表情さの笑いを思い出した。
ベケットというと過去に『モロイ』『ゴドーを待ちながら』を読んだことがあるが、本作は処女作。これの後で『モロイ』から始まる小説三部作が始まる。ベケットの他の小説も読んでみて、その「奇妙な<書く>」の様相も味わってみたくなった。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
最高に笑って泣ける小説、ずっと読んでいたい