- Amazon.co.jp ・本 (220ページ)
- / ISBN・EAN: 9784560098738
作品紹介・あらすじ
夜中に自分の名前を呼ぶ神聖な声を待ちわびる者たちの心のうちをたどる表題作など、奇想と魔法の職人芸で唯一無二の世界を紡ぐ8篇。
感想・レビュー・書評
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スティーヴン・ミルハウザーの作品(本作は短篇集)は、これが初めてなので、まず、訳者の柴田元幸さんのあとがきにある、彼の文学の特徴を少し書きますと、
ここではないどこかを希求しつづけるアメリカ的焦燥への共感と皮肉両方を含んだ視線
既存の物語や文学を素材に新たな文学作品を作り出すいわば「偽物の偽物」的手法
等で、後者は「ラプンツェル」があります。
一応、上記の感も同様に抱いた私ですが、更に、この作品に感じた事は、
「人間の頭の中で答えの出せないものに対する、人間の興味と不安」でした。
「私たちの町の幽霊」での幽霊、「マーメイド・フィーバー」での人魚のように、それが現実化している状況になり、人はここが重要な歴史的転換のように錯覚する過度な期待感や、自分自身がそれによって、別の更なる高みに行けるのではないかという希望というと、高尚にも聞こえるが、単に人間の心の内なる欲望が露わになっているとも捉えられないでしょうか。
それは、危険な熱情を持ち、滑稽であり、哀愁も漂わせながら、かつ、人間の持ちうる違った顔を表現しているようで、とても興味深く感じられました。
また、それとは別に、個人的に印象深かったのが、「妻と泥棒」で、妻のオロオロする気持ちに私は深く共感でき、その疑惑と確信を延々と繰り返す様は、まるで禅問答のようで、本来ならサスペンス風なのだが、ここまでくると落語や笑い話のようで、面白かった。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
語り口は静かで、でも急に風景が鮮やかに映し出され、緊迫感にどきどきするような。どきどきするけど夢のような。そんな場面の連続、という感じがした。
理解しきれた気はしない。でも著者の紡ぐ物語をもっと読みたいと思った。読みます。
というか、この夜の声自体もいくらか経ってから読み返したい。夜の声ってタイトルがもう好き。
あと表紙がとても好き。 -
奇妙な世界があたかも現実のように感じる作品群。淡々とした筆致が気に入りました。
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記録
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不思議な本だった。
わかるような内容と、周りくどくてよくわからない内容とある。使われる言葉のチョイスや、目線や、テーマが不思議な感じ。
翻訳者さんもすごい。
きっと原文で選ばれている言葉も、よく練られていてユーモアを感じると思うが、それを数ある日本語から選んだ言葉を使って表現するのも大変だと思う。
原作の不思議な魅力が、日本語にしても失われないのは翻訳者さんがこだわっているからだと思う。
途中、読み飛ばした短編もちらほら。
また読みたい作品。 -
ステイーヴン・ミルハウザーの短篇集。
正気とちょっとした狂気のあいだには、はっきりした境界線はないのかもしれない。
「近日開店」を読みながら、その町に自分もいるような気にさせられて、怖い。 -
光と絶望がいりまじる夜の声。眠れないということの息苦しさが、夜にとけてゆく。(わたしは朝日に溶かしてもらう) 微睡みのなかで呼鈴を聴いた(コーリング)。わたしは自分が迷子だと思いこんでいたんだ。もう疲れたよ、探すのは。
「じきに私たちはみな眠る」。
街が美しくそして便利になるほど、わたしたちは不自由になってゆくよう。惜しい想いも忘れ、チカチカぴかぴかする光に寄せられる虫みたいに。
塔の上ではいまだ夢が綴られ、自らを傷つけているものが孤独を叫んでいる。絶望を受けとめるものたちは再び出会い、緩やかで穏やかな行く末を慈しむ。そしてあの丘はきっと、こころの奥にだれもがもつ泉のようなところだから。ときおり潜っていって確かめる。波紋が見えるくらいには凪いでいることを。
月が闇に腰かけていたあの夜から、待つことはやめた。眠りを奪う泥棒はたしかにいて、だれかの独り言が可笑しいから、星といっしょに笑っちゃった。だけれどたとえもし人魚が居たとしても、わたしには秘密にしておいて。わたしたちは正体のわからないものに怯え興味に囚われ、それを捕らえようと、無限にひろがる宇宙や死や愛までも定義してしまおうとする。それはとてもつまらないしさびしいことだから。
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感想。なんといったらいいのかなぁ。とりあえず会話がまるで存在してない本だったな。ほぼ地の文しかない。勿論鉤括弧は存在しているし、発声させる言葉もあることはあるけどそれはシーンではないんだよな。わかってもらえるとは思わないが詩を読んでいるみたいだったよ。イメージを喚起し続ける文の連なりだったよ。somethingに出会った時に人がそれにどう対峙するのかを描き出している文が繋がり、やがて人の内側にあるものがもやのようにこちらを包み出す感じ。
人魚の死体が打ち上げられた街の人達の狂騒、名前のついてない丘の上の「場所」に訪れる人々の心のうち、幽霊が現れる街の人々が幽霊をどう扱い日常を送っているか。そんなことが何ということもない装いで描かれている。感情の起伏を劇場型に描かずに淡々と。静かだな。とても静かでだからこそ夜耳を澄ますと聞こえてくるように思える声に似ているのだろうと思う。とてもアメリカ文学だなとおもったよ。上手くは言えないけど