名著17冊の著者との往復書簡で読み解く 人事の成り立ち: 「誰もが階段を上れる社会」の希望と葛藤

  • 白桃書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (360ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784561227175

作品紹介・あらすじ

先日、関連法案が国会で承認された「働き方改革」。いろいろ議論はあるが、労働法制や雇用慣行をめぐり何らかの改革が必要なのは間違いないだろう。

その改革にあたり、新卒一括採用や年功序列に基づく賃金体系が合理的でない、あるいは欧米と比較し労働時間が長すぎるなどとして批判されることが多い。しかし、このような批判は「50年1日」と本書で著者は指摘する。このように長く続く日本型雇用には、欧米型と比較し欠点もある一方、「誰もが階段を上がる」、すなわち誰にも昇進の可能性が開かれていることによるメリットが労使双方にあるために改革が難しい。これが十分に理解されず、同じような議論が繰り返され続けてきた。

本書は、人事ジャーナリストとして最も著名と言ってよい海老原嗣生氏とそのパートナーの荻野進介氏が、良い面しか言及されないことが多い欧米型雇用の実態を示しつつ、日本型雇用をその成立過程から紐解き、この人事制度の強みはどこにあるのか、またバブルとその崩壊、グローバル化・少子高齢化などの経済・社会の激変の中で、どのような問題をはらむようになってきたのかを語る。

本書が特にユニークなのは、日本型雇用のさまざまな側面をテーマにする延べ17冊──歴史的名著から今日的な話題であるブラック企業や女性のキャリアの問題を扱った本まで──を、原著者への手紙形式で書評しながら論じ、さらにその手紙を読んだ著者たちの返信も掲載し、多様な見方を提示している点である。このような往復書簡という形式を取ることで、高度なテーマを扱っているパートでも、大変読みやすく、理解しやすい編集となっており、また、原著者らの日本の人事や社会への思いも伝わってくる。

2011年に発行された『日本人はどのように仕事をしてきたか』(中公新書ラクレ)を大幅増補改訂し、新たに4冊を取り上げた本書。海老原・荻野両氏の人事ジャーナリストとしての仕事の集大成であり、今、メディア等で頻繁に取り上げられるテーマも踏まえ日本型雇用のありようを理解し、変革への手がかりをつかむのに最適。

感想・レビュー・書評

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  • 人事にまつわる17冊の名著を紹介しながら、筆者と書簡をやり取りして考察を紹介するーという面白いアプローチの本。
    各時代に人事関連でどんな動きがあり、どう動いてきたのが、メリット・デメリットがよく分かる。紹介されていた本物読みたい。人事領域の変遷が非常に勉強になる本。

  • ジャーナリスティックな労働史観。
    名著と日本型雇用を恣意的にまとめた話。
    その論調は明快で著者自身の著作で占める。
    経済学視点だとミクロだが肌感が伝わり、戦略人事の潮流をパース的に把握できる。
    人事の歴史ともいえ、戦後からフォローされ思惑されている点が魅力的。
    非ホワイトカラーの非正規雇用が明快。

    なかでも知識創造の野中さんの話がが挟まるのが良い。
    人的資本経営が語られる昨今だが心理学経営も含めて昔から語られてきたこと。
    どの国も完璧なシステムはない。
    何を選ぶのか。その未来は本書で語られていないがHRTechが細分化の一つの解になりそうだ。

  • 日本型雇用の仕組み・流れについての解説とそれにまつわる本紹介の本
    本を紹介していく系の中ではかなりしっかりと書かれている。日本型雇用というものについて説明してそれに合うように本を選んでいる。

    メンバーシップ型による社内人事の流動性のメリット、教育のしやすさや採用のしやすさ、配分が容易となる
    中には優しいけど外には厳しい、レール外にも厳しい。
    評価ではメンバーシップ採用のほう能力の成長を見る

    人事活性化五大施策①採用②異動③教育④小集団⑤イベント

  • 日本型と欧米型の雇用を表層的でない独自の切り口で整理しながら、この分野の良著も俯瞰するという入門書として貴重な一冊。歴史を経て「誰でも階段を上れる社会」が案出され、その前提が崩れていく中で維持に苦心するもいよいよ限界、という時代認識に同意。

  • 日本の雇用問題・人事課題について、歴史の「縦軸」、国際比較の「横軸」、そしてさまざま学際学派の「奥行き」を3次元的にアプローチすることで、網羅的かつ立体的に浮かび上がらせた名著。これさえ読んでおけば、日本の雇用問題の全体像を概略的に理解することができると思う。経営や人事に関わる人はもちろんのこと、すべての労働者が教養として読んでおくとよさそうな一冊。

    あえて幾つか未解決の疑問をあげるとすれば…「欧米」としてフランスの例が度々引かれているけれど、例えばイギリスやドイツはどうなの?とか。よりミクロな目線、即ちキャリアに対する各国それぞれの労働者の価値観、その前提となる宗教観や社会通念はどうなの?とか。この辺りの「横軸」はやや弱含みなので、個人的宿題になりそうです。

  • 日本の人事の歴史を概観。

  • 難しいし、読みづらい!だが学びはとてつもなく多い。もっともっと学んだら又読みたい!

  • ・日本的雇用vs欧米的雇用の軸に沿って、どちらも一長一短だよ、日本的雇用の問題は要するに運用の問題だよということを歴史とデータから丁寧に解説していただき大変理解が深まる。
    ・ただ「年齢にかかわらずという能力主義」と「新卒一括採用の便利さ」という二律背反に対する解法の糸口が見いだせなかった。
    ・結局は、試行錯誤と葛藤という苦しみをいかに深ぼっていくかということか。
    ・戦後動乱の葛藤に比べて、現在はトレンドに右往左往で人事部に「思い」が足りないのではないか、華奢に薄っぺらになっていないかという疑念を覚えさせる。
    ・一方で現場は、ひーこら言うて人も時間も足りんという状況だとするなら、優先順位として何をあきらめるべきかという問題もあるような気もする。
    ・答えがあるような雰囲気を出しつつ、当たり前だけど答えはない。ならばもっと檄を飛ばすか励ますかしてほしい(甘えだけど)。
    ・青空が見える労務管理、誰もが階段を登れる、メタファーは大切。

  • この本は人事に関わる仕事をしている人には是非読んでもらいたいですね。できれば、経営者や管理職にも読んでもらいたい。多くの人が人事の成り立ち、元となる理論や考え方を知ると、きっと日本社会はもっと良くなると思います。時代が変われば人の生活や価値観も変わるので、人事制度のポリシーは押さえつつも、具体的な制度設計はより柔軟に変えていく必要がある。でも、それを実現することは難しい。何でだろう?税制や社会保障制度、退職金・退職所得控除・扶養控除・第3号被保険者・・・何だかんだ言っても行き着く先は、損得勘定かな?

  • 日本における人事制度の変遷を各々の時代背景を踏まえて考察し、日本型人事制度の本質的な強みと弱みを浮き彫りにした本。過去の人事系(人と企業のあり方を提起した)著書を紐解き、欧米と日本企業、それぞれの国、文化、歴史からの考察を行いながら、日本の強みと弱み(もっと言うと歴史背景などからくる構造的特徴)を理解した上での人事施策の導入を提唱している。

    働かない幹部社員問題や労働過多問題、女性や高齢者の参画問題、非正規雇用者の格差問題などに対し、終身雇用や年功序列などの日本的人事制度を否定し、ジョブ型や成果主義、コンピテンシー評価制度などの欧米型の人事制度を肯定するような安易な主張=点(うまくいってるように見える欧米の施策を導入しよう)ではなく、線(これまでの歴史や文化、社会情勢により構成された制度の変遷からみえる構造的な強みと弊害)と面(ファクトをもとにした諸外国企業の人事制度の比較からの洞察)による考察はとても興味深い。

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著者プロフィール

雇用ジャーナリスト、経済産業研究所コア研究員、人材・経営誌『HRmics』編集長、ニッチモ代表取締役、リクルートキャリア社フェロー(特別研究員)。
1964年、東京生まれ、大手メーカーを経て、リクルート人材センター(リクルートエージェント→リクルートキャリアに社名変更)入社。新規事業の企画・推進、人事制度設計などに携わる。その後、リクルートワークス研究所にて「Works」編集長に。2008年、人事コンサルティング会社「ニッチモ」を立ち上げる。『エンゼルバンク─ドラゴン桜外伝』(「モーニング」連載)の主人公、海老沢康生のモデル。
主な著書に、『「AIで仕事がなくなる」論のウソ』(イースト・プレス)、『雇用の常識「本当に見えるウソ」』(ちくま文庫)、『面接の10分前、1日前、1週間前にやるべきこと』(小学館文庫)、『仕事をしたつもり』(星海社新書)、『女子のキャリア』(ちくまプリマー新書)、『無理・無意味から職場を救うマネジメントの基礎理論』『経済ってこうなってるんだ教室』(ともにプレジデント社)など。

「2018年 『名著17冊の著者との往復書簡で読み解く 人事の成り立ち』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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