ウォーターシップ・ダウンのウサギたち 下 (ファンタジー・クラシックス)

  • 評論社
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  • Amazon.co.jp ・本 (382ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784566015012

作品紹介・あらすじ

やっとたどりついた理想の地、ウォーターシップ・ダウン。しかし、おだやかな日々はつかのまだった。つぎつぎと襲いかかる困難に、知恵と勇気と友情で立ち向かうウサギたち。命を賭けた戦いがはじまる…世界中をとりこにした感動作、待望の改訳新版!。

感想・レビュー・書評

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  • 「ウサギ好きなブク友さんへ」

    さて、自分たちが築き上げた村に牝を呼び入れるためには、闘いは避けられない事態になった。友好的に交渉しても、軍事態勢のしかれた独裁国ではまるで通用しない。
    支配するのは、並外れて強く奸智にたけたラスボス・ウンドワート将軍。
    じゅうぶんに計画を練り、ビグウィグが村に潜入。
    将軍に不満を持つ牝たちの説得。逃亡、追跡。
    川を渡るためにかれらがとった策は、なんと停船した舟のもやい綱をかみ切ること。
    紆余曲折しながらも帰巣して平和な日々が戻ったかにみえたが、ウンドワート将軍の追手が忍び寄ってきた・・

    スリルとサスペンスにあふれた冒険談は、圧倒的な勢いで繰り広げられる。
    そして知恵と勇気の限り戦い抜くウサギさんたち。
    きっと切り抜けてくれると思いながらも、ハラハラどきどきは止まらない。
    あの小さな身体の目線で話が進むため、川の流れや犬猫、鉄道、橋、道路、車、特に人間が、心底恐ろしい。

    「ヘイズル」も「ビグウィグ」も、はじめから英雄だったわけではない。
    時に無鉄砲に行動し悩んだり嫉妬したり、そんな自分を反省したりしながら生きている。
    ただ、かれらは決して自分を捨てない。諦めない。誇りを失わない。
    その姿が群れの信頼を集め、群れもまた、かれらと成長していく。
    「あの人の言うことなら従おう。あの人のようになろう」
    成長期に、このような本に出会える子どもたちは幸せだ。
    どの登場ウサギが一番自分の心をとらえたか、どの場面の、どんなセリフが自分の心に響いたか。それはいつまでも胸の奥に棲みつくだろう。

    実在する場所が物語の舞台となっているらしい。
    豊かな自然描写の素晴らしさも際立ち、季節ごとの花や樹木の変化、野鳥や小さな生き物たちもたくさん、たくさん。
    「サンザシの枝先でアオジがさえずっている」なんて描写にいちいちうっとりした。
    日本の小説には久しく描かれなくなった部分で、聞きなれない植物の名前に神宮さんは苦労されたらしい。情景が浮かぶのでワタクシは大歓迎。
    読みどころのひとつなので、そこも味わってみてね。

    もうひとつは語り部の語る話。
    伝説上のウサギ族の王であり英雄でもある「エル・アライラー」の冒険談で、このレパートリーがいくつも語られる。
    そのときどきでかれらを力づけ励ます役割をおっているのだが、ラストで「ヘイズル」の前に現れるのが「エル・アライラー」だ。
    ここの一頁半の深い満足感も、皆さんに受け取っていただけるかと思う。

    各章のはじめに、必ず詩人や有名な作家の作品から引用した文章が載せられている。
    それが章の内容を暗示していて、想像力をふくらませる役を買っている。
    良い作品というのは、長い時間をかけて積み上げてきた知恵が土台となっているものだなと、つくづく思わせられる。
    「掃除婦のための手引書」と、今月は期せずして2冊の小説を読んだ。
    どちらも☆五つだがもちろんこちらをお勧め。生きる力がふつふつと湧いてくる。

    • nejidonさん
      猫丸さん。
      確かに地味かもしれませんね。
      表紙の訴求力に欠けます。かと言って「こうしたら?」という案もないのですが。
      子どもたちが思わ...
      猫丸さん。
      確かに地味かもしれませんね。
      表紙の訴求力に欠けます。かと言って「こうしたら?」という案もないのですが。
      子どもたちが思わず手に取るような魅力が、伝わってきません。惜しい、まことに惜しい。
      これから子どもたちにはどんどんお勧めしていきます(^^♪
      アニメ化は、今ならもっと良いものにできたのかもしれないのですね。
      ああ、どなたかチャレンジしてくれないかしら。
      2020/10/31
    • 猫丸(nyancomaru)さん
      nejidonさん
      良い本は必ず伝わっていきますよね。この本は厳しい時代にこそ読むのに相応しい気がします。。。

      ちょっと気になって、...
      nejidonさん
      良い本は必ず伝わっていきますよね。この本は厳しい時代にこそ読むのに相応しい気がします。。。

      ちょっと気になって、アニメ映画について調べていたら、意外と評価が高い。
      映像作品の評価なのか、原作の良さからなのか判りませんが、、、

      此処からは個猫的な話題ですが、当初監督としてジョン・ハブリー(John Hubley)が関わっていたそうで、オープニングに残っているとのコト。観直さなきゃと急に思っている。
      ハブリーは猫が敬愛する映像作家で、妻フェイス(Faith Hubley)との共作「Moonbird」「Cockaboody」の自由闊達さは何とも言えない。絵本にでもならないかなぁ(音声が無いと魅力が減るなぁ)・・・独り言でした。
      2020/10/31
    • すずめさん
      nejidonさん、こんにちは!
      コメントいただき、ありがとうございます。
      ここのところ、なかなかブクログを開く時間を作れず、お返事が遅くな...
      nejidonさん、こんにちは!
      コメントいただき、ありがとうございます。
      ここのところ、なかなかブクログを開く時間を作れず、お返事が遅くなってしまってすみません…(- -;)
      本書、読まれたのですね!nejidonさんのレビューを拝読し、「ああ、そうだったそうだった!」と以前読んだときのことを思い出しました。
      自分のレビューを見てみたら、読んだのはもう7年前!本書を手元に置きたいと思いつつ、結局購入せずにきてしまっていたので、この機会に自分へのクリスマスプレゼントに買って、年末年始に読み返そうかな…なんて思っています。
      2020/11/23
  • この物語の感想は他の方々が沢山書いていて、それに尽きます。

    特徴的なのは、ウサギたちが自分たちの"神話"をもっていて、そこに登場する祖先神"アレイラ"を行動原理の原則としていること。これがどれもよくできている。
     曰く、
    "太陽の神フェリス様が生き物を創った。その中に、ウサギの王アレイラがいた。アレイラの子孫は増え、他の生き物たちを圧迫するほどだった。奢り高ぶったアレイラは、フェリス様の忠告も、聴こうとはしなかった。
    そこでフェリス様は、他の生き物たちに贈り物を与えた。イヌには鋭い牙を。タカには遠くを見通す目を。フクロウには音の出ない翼を。たちまち生き物たちは、アレイラの子孫たちに襲いかかった。
    フェリス様の力の恐ろしさに怯えるアレイラに、フェリス様は長い耳と強い後ろ脚を贈り物として与え、こう言った。
    "ウサギの王よ。誰よりも早く敵を聴きわけろ。そして誰よりも速く丘を駆け抜ける者になれ。そうする限り、おまえの一族は、滅びないだろう"

    …ファンタジー小説が好きな方には、特にお薦めです。

  • 上巻はこちら。
    https://booklog.jp/users/junsuido/archives/1/4566015009#comment

    ウォーターシップダウンで新しい村を作るうさぎたち。
    だがメスがいないので、どこからか子供を産めるメスを連れてこなければいけない。
    村の長のヘイゼルが目をつけたのは、川の向こうで群れを作るエフラファーの集団だった。
    ウンドワート将軍による恐怖独裁体制がひかれているエフラファーに、猪突猛進の戦士ピドウィクが潜入し、メスたちを連れて逃げ出す計画をたてる。
    物語のかなりの部分はこの潜入したピドウィクのお話。
    ピドウィクが連れて連れて逃げ出そうとしたのは、群れに不満を持つハイゼンスレイやセスシナングたち数匹のメスうさぎと、そしてかつて逃亡が失敗し酷いリンチを受けたオスうさぎのブラッカバーだった。
    ピドウィクたちがエフラファーを逃亡し、待機していたヘイゼルたちと合流する。
    このウンドワート将軍はとにかく怖くて強くてでも瞬時に状況を理解して部下たちに明確な指示を与えるという、戦時下の将軍としてはまさに有能。しかしこういうタイプって自分が年をとったらどうするつもりなんだろうと思うんだが。
    それに対してピドウィクは明るい勇敢さを持っている。
    ピドヴィクは本当に心身強いので、エフラファーのうさぎたちは当然彼がリーダーだと思っていたら、ピドヴィクが「村長から命令されたからおれはここを動かん!」と言うのを聞いて、「え、こいつより強いリーダーがいるの?」と焦ったりする。彼らがヘイゼルを見たらそんなに大きくないし、足も悪いヘイゼルを見くびるだろうけど、ヘイゼルの強さは臨機応変さや、弱いものも見捨てない、新しい考えを受け入れる、そしてなんかやたらに運がいいってことだからね。

    そのヘイゼルや、弟で霊感うさぎのファイバー、頭脳派ブラックベリ、足の早い語り部ダンデライオン、そしてヘイゼルに助けられた恩返しをするユリカモメのキハールたちの勇敢さや機転や思慮深さで、エフラファー軍団の追撃を逃げ延びる。
    この逃走劇は、うさぎが船に乗ったり、鳥が空から偵察したり攻撃したり、たまたま降った大雨や雷を利用したりとかなりワクワクするし、百戦錬磨のエフラファー軍団にしてもこんな連中を相手にしたのは初めてだろう、さすが主人公集団。

    メスたちを無事にウォーターシップダウンに連れて帰り、子供も生まれてめでたし…かと思うんだが、まだ1/3くらい残ってるぞ?まだなにか起こるの?

    …はい、あの恐ろしい恐ろしいウンドワート将軍が、一隊を引き連れてウォーターシップダウン襲撃計画をたてていました。

    まともに戦ったら叶うわけのない相手に、ヘイゼルはとんでもない計画を思いつく。
    留守を任されたピドウィクと、ウンドワート将軍の最後の戦い。
    うさぎの知恵を超えたようなヘイゼルの計画とその後のこと。
    そして差し込まれるうさぎ神話もおもしろいんですよ。神代の時代に、うさぎになりうさぎのために戦ったりいたずらしたり神と知恵比べしたり。

    ラストは、戦いの終わった数年後。
    ウォーターシップダウンとエフラファーの新たな関係。
    そしてすでに老境に達していたヘイゼルのもとに、うさぎの神話の開祖であるエル・アライラーが迎えに来るのだった…。

  • 下巻に入ったら、途中で読み止めることができなくて一気読みでした。

    中心となって群れをまとめるヘイズルの、最後まであきらめない芯の強さに元気をもらいました。
    彼は万能の英雄ではありません。
    悩みもするし、時々は向こう見ずなこともします。
    時には運がよかったからピンチを切り抜けられたような場面もありました。
    それでも、次々と発生する問題から逃げることなく、悩みながらも正面から立ち向かっていく姿は、多くの読者にとって励ましとなったことでしょう。

    印象的だったのは仲間で集まって物語を聞く場面。
    群れで一番の語り手・ダンディライアンは、伝説のウサギの王・エル・アライアーの物語を語って聞かせます。
    同じ場所で同じ時間を過ごし、同じ物語を共有する。
    その一体感が仲間の絆をよりいっそう深めているように感じます。

    最後の一文を読んだときの充足感がすばらしかったです。
    きっとまた、本書を手に取る日がくるだろうと思います。

    • nejidonさん
      すずめさん、こんにちは。
      う~ん、とってもとっても読みたくなりました。
      最後の一文で素晴らしい充足感が得られるということは、それまでの流れが...
      すずめさん、こんにちは。
      う~ん、とってもとっても読みたくなりました。
      最後の一文で素晴らしい充足感が得られるということは、それまでの流れが素晴らしいということなんでしょうね。
      実はワタクシ、その一文を知っておりまする。
      野中柊さんが、若い人にお勧めする作品の、イチ押しなのですよ。
      その推薦文の中に、最初と最後の一文が載っていたのです。
      熱く、真摯なその推薦文で、すっかり読んだような気になったのですが(笑)
      すずめさんのレビューを読んで「読まねば!」になりました。
      この夏、チャレンジしてみますね。
      背中を押して下さった素敵なレビューに感謝です。
      2013/06/22
    • すずめさん
      nejidonさん、こんにちは!
      コメントありがとうございます(^^)
      そう、最初と最後の一文がすばらしいのですよね!
      野中柊さんもおすすめ...
      nejidonさん、こんにちは!
      コメントありがとうございます(^^)
      そう、最初と最後の一文がすばらしいのですよね!
      野中柊さんもおすすめされているのですね。
      私も何回かこの本の推薦文を目にする機会があり、nejidonさん同様すっかり読んだつもりになっていたのです。
      実際に読んでみると、なんでこんなにおすすめされているのかがよ~くわかりました!
      ぜひ、この夏のお楽しみにしてください☆
      2013/06/22
    • nejidonさん
      すずめさん、お久しぶりです。
      お勧めされてから苦節7年(笑)ようやく読むことが出来ました。
      言われた通り本当に良い作品で、こんなに読後の...
      すずめさん、お久しぶりです。
      お勧めされてから苦節7年(笑)ようやく読むことが出来ました。
      言われた通り本当に良い作品で、こんなに読後の充実した思いは久々です。
      どのウサギさんもカッコ良くてほれぼれ。
      あらためてお礼を申し上げます。ありがとうございました!
      2020/10/31
  • 新天地「ウォ-タ-シップ・ダウン(丘陵地)」で、生存をかけて孤軍奮闘するウサギたちの涙ぐましい努力、犠牲をいとわぬ友愛精神と寡黙な勇気、敵とも共存する包容力を目の当たりにして、敬愛の念を抱かざるを得ない愛と感動に包まれた物語でありました。慣れない《ウサギ語》には戸惑いますが、あきらめずに最終章まで読んで決して後悔のない、大人への最高の贈り物です。

  • ヘイズルたちの新しい村に牝を連れてくる計画。それは、村を永続させるためり必須課題だ。ヘイズルはキハールが見つけてきた大きなうさぎの村エフラファから牝うさぎを分けてもらおうと考え、使節団を派遣する。だが、そこは独裁者ウンドワート将軍が支配する恐怖の軍事独裁国家だった。さあ、どうするヘイズル?

    うさぎたちの勇敢で知略に富んだ冒険の後編。途中挿入される伝説のうさぎの王エル=アライラーの物語がこの冒険譚に緩急を添えている。狡猾で残忍なウンドウォート将軍をいかに出し抜くか。エル=アライラーの伝説がヘイズルたちを導く。
    英国ハンプシャー州の豊かな自然、土や風のにおいまで伝わってくるような詳細な自然描写、なによりうさぎたちの生態を活写したリチャード・アダムズの筆遣いに引き込まれる。後編は手に汗握る展開で、結末を知っていても一気読み。そして、エピローグで涙。いくつになっても大好きな作品です。

    おまけ。
    久しぶりに本作を読んでみようと思ったのは、うさぎたちを擬人化してみたいと思ったから(笑)。読みながらビグウィグがかっこよすぎて、諏訪部順一の声でせりふを読んでいました。

  • 大変面白かった。
    児童書だが、これは子供より大人が読んだ方が面白く、また学ぶことも多いかもしれない。

    友人ファイバーの破滅の予知を信じたヘイズルに率いられ、新天地を求め旅立ち、やがて安住の地を得て持ち上がる問題にもひるまず立ち向かって行くうさぎ達の、なんと生き生きしたこと!
    困難にぶつかり、頭を抱えることがあっても、仲間を、自身の心を信じ、生き抜いていく彼らの姿は本当にすがすがしく雄雄しい。
    結果的に敵となるうさぎ達も勿論いるが、彼らをただの「悪役」として留めておらず、生きていくための方法として「そういうあり方をとった」ということが解るスタンスは実に良かったと思う。
    最も手ごわい敵となるうさぎの1匹は、最後にはその猛々しさを持って、うさぎ達の守護者として伝説になった。

    作者はこの物語を、「人を楽しませるため」だけに書いたそうで、そこになんの暗示も寓意も隠喩も含ませたつもりはないそうだ。
    だから、この物語を読んで某かの暗示めいたものを感じたのなら、それは個々人が自身への戒めや教訓として、自主的に見出したものだということになる。
    私は、腕っ節がことさら強いわけでもずば抜けて賢かったわけでも特別に素早かったわけでも不思議な力を持っていたわけでもないヘイズルが、群のうさぎ達の信頼を一心に浴びる優れた長となりえたのはなぜなのかと疑問に思う。
    そしてヘイズルが、誰よりも諦めないうさぎであったことを思うのである。
    旅の途中、疲れきり怪我をした小さなピプキンの命を、絶対に諦めようとしなかったのはヘイズルだ。
    その諦めない態度が、賢いブラックベリに事態打破の妙案を思い浮かばせる時間を与えた。
    要所要所でヘイズルは様々な決断を迫られるが、決して逃げてはいけない問題において、彼が諦めを示したことは無い。
    諦めたくなるような土壇場でこそ、ヘイズルは諦めを嫌い、覚悟を決め誰より雄雄しく、危険に自ら飛び込む勇気を示すことの出来るうさぎだった。
    この絶対に諦めない心は、うさぎ達の伝説の王エル・アライラーが持っていたそれと良く似ていた。
    エル・アライラーは自身の一族であるうさぎ達のために、どのような困難にぶち当たっても絶対に諦めず、知恵をこらし、勇気を持って困難を打破した伝説を持つ。
    うさぎ達が「フリス様」と呼ぶ絶対神もが認めたその不屈の精神が、うさぎ達を救い続け、発展を促してきたのだ。
    ヘイズルはその諦めない心に更に加え、「自分は特別に優れたうさぎではない」という謙虚さを持っていたから、他者を侮ったり蔑んだりせずどんな意見でもきちんと聞き、他の動物まで救う寛容さを持ち合わせていた。
    だからこそ“千の敵を持つ王”エル・アライラーをして「君の村には千の敵すら好意を寄せる」と言わしめたのだろうと思うのだ。
    村の長としてヘイズル・ラーと呼ばれたその不屈のうさぎが、臨終の際にエル・アライラーの訪問を受けたのは当然ことだった。
    そしてエル・アライラーが、自身に仕える幹部としてヘイズルを迎えたいと思ったのも、当然のことだったのだと思う。
    エル・アライラーがそうであったように、ヘイズル・ラーも諦めを踏み越えて、様々な可能性を拓き、うさぎ達に素晴らしい恩恵を与えたのだから。

    ヘイズルが越えてきた冒険や危機は、いつかうさぎ達の伝説となるのだろう。
    その片鱗はもう物語の中に見えている。
    語られる伝説は、ヘイズル・ラーではなくエル・アライラーの伝説として語り継がれるかもしれないが、それはヘイズルがエル・アライラーに匹敵する程の優れた指導者であったことの証明でもある。
    ヘイズルに権力欲はなく、平穏と仲間をただ愛していたから、名前がすげ替わっても気になどしまい。
    むしろ、大袈裟に語られ過ぎだと謙虚に笑うかもしれない。

    人の世界に、ヘイズル程の優れた指導者はそうはいまいと、そんなことを思う。
    そして指導者の在り方を考えさせられた時点で、これはただの児童書を越えた「大人の童話」だと私は感じた。
    指導者とならずとも、諦めを踏み越えなければ成長が無いことを率直に示す物語に、学ぶことは少なくないのではないだろうか。
    ヘイズル達が命をかけて困難に挑み手に入れた、ウォーターシップ・ダウンの美しいうさぎ村。
    人がいまだ持たざる、ひとつの理想郷の姿かもしれない。

  • 凄かった。
    言葉では言い表せないけど、怖い、凄い、先が気になる、という三つの感覚で引っ張られて読んでいった。

    ピプキンがキーパーソンになる、という私の予想はあっさりハズレて笑、下巻では、ビグウィグのカルト軍事村の潜入から始まり、カルト軍事村との撤退戦、迎撃戦、その後の世界が描かれている。
    ビグウィグにだいたい持っていかれる。
    死守シーン、、、もう泣ける。やめて。かっこよすぎ。

    私のお気に入り、シルバーがキハールの存在を匂わせるシーン、かっこいいね。
    ダンディライアンも、一番の俊足キャラとわかってびっくり。

    ヒタヒタと敵が迫る迎撃シーンがすごく怖い。
    農場に行って、攻撃力を借りるシーンで、ようやく上巻の農場エピソードはこのための伏線だったのかーと理解した。
    なんでいきなりあんな話があるのか謎だったけど、これで納得できた。

    エンディングでふわっと体を離れていくヘイズル、無駄のない筆と、神宮さんの切れのよい日本語で、浄化作用に包まれる。
    ここまで随所に挟まれる、ウサギたちの伝承神話も効果的だった。
    この世界では、物語や、詩が大きな力を持っている。
    冬の穴ごもりなどで、ウサギたちのボードゲームを
    楽しむ(想像するとかわいい)ほか、みんなでひとつの歴史神話物語をきくことは大きな意味を持つ。
    団結し、魂の結び付きを強くし、過去の知恵を守り、種の保存に対して共通の歴史を持って当たっていこうとしているのだ。
    ラストでここにヘイズルが加わることになる、と読者にも自然に納得がいく。
    過不足ないストーリーに大満足。
    いい本に出会えた。

    訳者の後書きをみて、「上士」は本当に司馬遼太郎から来ていたとわかった。

    以下は追記。
    カルト集団、戦争と、残念ながら昨今の身近な話題がこの作品を通して目に入ってきて苦しい。民主主義とはなんだろう、とヘイズルの村の新設、運営シーンを見て、改めて考えさせられた。
    そして、本作は、戦争経験者が書いた作品だなあと思った。
    エルアライラーの言葉
    「先達のおくりものによって、ぶじに生きている現在をわきまえないうさぎというものは、自分ではそう思っていなくても、ナメクジよりあわれなものです」
    には深く考えさせられる。

    雌は、うさぎの社会を持続するために絶対に必要なんだけど、それをよそから強奪するのではなく、カルト軍事村から脱出を望んでいた雌たちをうまく連れ出して仲間にできた、というストーリーなので読みやすかった。
    雌を連れ出してきても、依然としてヘイズルの村では、雄の方が数が多いらしく、結婚のシーズンには、雌をめぐる戦いがいずれ起こるだろう、とみんなが心配しているシーンがあった。
    味方同士の戦いは見たくないな、と思っていたら、そのシーンは省略されており、ファイバーの妻や子供の話だけが出てきてホッとした。
    シルバーやビグウィグの子供は?と気になったけど、ビグウィグたちみんなで、みんなの子供を育てているシーンが代わりにあって、読んで優しい気持ちになった。
    全てのシーンで、自然の描写も素晴らしく、生き物が生きることを丁寧に描いている作品だった。
    うさぎは可愛い生き物、という日本でのイメージはここには微塵もなく、ピーターラビット同様、イギリスの身近な生き物の如才なさと激しい生存競争が、見事に物語となっている。

    (エフラファのカルト軍事村、なんだか既視感があるなと思ったのは、「墨攻」で墨家のカクリが作ろうとしていた城の様子に似ていたからだった。やっぱり怖かったけど)

  • ページを捲る手が止まらず、寝不足です。
    面白かった。。。

    下巻は、上巻をさらに上回る胸が熱くなる展開が待っていました。
    ほんわかした雰囲気の表紙やタイトルからは想像もできないほどの
    スリリングでドラマチックな物語でした。

    村の繁栄をかけて牝うさぎを連れてくるべく他の村に使者を送りますが
    そこはウンドワートが将軍率いる軍事力を誇る巨大な村でした。
    エフラファに野良うさぎを装い潜り込んで牝を連れての逃亡を試みたり
    死闘が繰り広げられたりと、最初から最後までドキドキしっぱなし。
    それにぐっとくるシーンの連続でした。

    特にビクウィグには泣かされました。。
    彼の男気や優しさは最初から最後まで本当にカッコよかった。
    うさぎに対してここまでの感情が湧くとは、読む前には想像もできませんでした。
    (なんなら、好きになりそうでした。
    「燃えよ剣」を読んで土方歳三に恋した感覚と全く同じです。)

    登場人物(登場うさぎ?)たちのキャラクターや、豊かな自然の描写、
    うさぎの生活の細かなルールなどで読者をどんどんうさぎの世界に引き込む
    素晴らしい本であることは間違いないのですが、
    単純にストーリーだけを見ても抜群に面白かったです。

    ラストも文句なしに素晴らしいです。

    私の本棚の永久保存版になりました。

    月うさぎさんのおかげでこの本と出会えました。
    心から感謝です!

  • 勇敢なウサギたちの冒険はやがて伝説になる。
    何度も読み返したいくらい美しい世界と勇敢で賢いウサギたちの物語。

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